「高任さんは、麺に偏りすぎていると思う」
そば好きの知人に、そんなことを言われた。
「年越しそばの話でもさ、あの自作タイプのめんつゆじゃあ、美味いツユにはならないと思う」
取りあえず黙っておく。
たぶん、そうめんの話の、『高いものを食え』という部分も気に入らなかったのだろう。
大まかな傾向として、男性は料理に対して『無頓着タイプ』か『こだわりタイプ』に分かれる事が多い。
もちろん、料理を『現実のひとつ』と割りきって、さらりと流す人もいるのだが……料理を現実としてとらえるタイプの割合は、女性のほうが多いように私は思う。
あくまでも独断と偏見だが、女性は『ほかにもやることがあるんだから、毎日の料理にそんな手間隙かけられません』という割りきり方をするイメージ。
それに対して男性は、『料理に手間隙をかけていられないのは同感だ。だから、この料理以外はどうでもいい』という割り切り方をするイメージ。
表現が正しいかどうか疑問ではあるが、1週間で料理に割り振ることが可能な労力が100だとすると、女性は1日14~15と、平均的に労力を割り振るタイプが多く、男性は特定の1日に全振りするタイプが多い感じ。
……まあ、私もわりと『こだわり』タイプではあるわけで。
普段の料理で、自分が手を抜いているというか、楽をしている自覚はあります。
というか、昔に比べて間違いなく料理の腕は落ちたと思ってます。
めんつゆか。
美味い、ツユか。
「つまり……手抜きせずに、ちゃんと『本かえし』からつくれと?」
「当然だろう。美味いそばを食べたいなら、そのぐらいの手間はかけるべきだ」
せっかくの年越しそばだから、『ちょっと手をかけて』美味しく食べようという私に対し、『そばを美味しく食べたいなら、手間暇かけて当然だろう、おらぁ!』な知人。
このすれ違いをなんと表現すればいいのか。
しかしまあ……料理でめんつゆをお手軽に使いまわしていると、料理の腕が落ちるのは間違いない。
めんつゆに含まれるダシというか、旨み成分は、料理の出来をごまかしてくれます。
ごまかしてくれると言うことは、そこに甘えが出てしまう。
まあ、もうすぐ夏も終わる。
そうめんを、美味く食べるための手間隙をかけるのも悪くはないか。
さて、本かえしというか『かえし』。
料理漫画というか、『そば』の店がネタになると出てくるので、そば好き、麺好きの人間は、聞いたことぐらいはあると思います。
『かえし』にも、『本かえし』『生かえし』、あとこの二つを混ぜる『半生かえし』などの種類があります。
基本的には、しょうゆ、みりん(酒)、砂糖を混ぜたもの。
一斗一升一貫目という言葉がありますが、これは古くから親しまれてきた『かえし』の分量を指すといわれていて、それぞれ醤油が一斗、みりんが一升、砂糖が一貫なんですが、現代日本にはあまり合わないと思います。
というか、醤油もみりんも、そして砂糖も……当時と現代とでは品質が変化してますし。
少なくとも、一般家庭で普通に手に入れられるモノは、昔どおりの品質ではないでしょう。
つーか、一般家庭で作るにはまず単位が違う。
独断と偏見ですが、醤油1リットルに対し、砂糖は150~200グラム、みりんが200~300ミリリットルぐらいでしょうか。
この場合、みりんは、本みりんで。
ちなみに、店によっては、『食塩』を使うこともあるそうな。
本かえしは加熱しますが、生かえしは加熱しません……ので、生かえしではみりん(酒)を使わないと私は教えられましたが、これは当然店によって違います。
ただ、加熱しないと砂糖が十分に溶けないため、お湯に砂糖を溶かし、それを静かにしょうゆと混ぜる……など、保管、保存方法、そして製作で細かな技術を必要とするため、一般家庭で作るなら、本かえしでしょう。
さて、本かえし。
これも店によってレシピが違う感じですが、共通するのは『しょうゆを沸騰させないこと』です。
とすると、みりん(酒)を沸騰させてアルコールを飛ばすために……最初はみりん。(いわゆる煮切り)
火力を調整してから、砂糖と醤油を投入。
ただ、これも店によって順番が違ったりします。
全部一緒に入れたりもしますし。
とにかく、『醤油を投入した後は』沸騰させてはいけません。
ここで沸騰させると醤油の香りが飛んで、こう、エグイというかキッツイ口当たりが残ると言うか、やらないほうが無難だと思います。
ただ、『それ、醤油が安もんやろ』と指摘されたことがあるので、醤油の品質も関係するのかもしれませんが。
加熱を続けていると、かえしの色が薄いというか、茶色っぽくなってきます。
鍋のふちがあわ立ち始めたら、火を止めます。
荒熱をとれたら、容器に入れて寝かせてください。
……3日ほど。(目逸らし)
普段から作って常備してないと、思いついたその日に使えるものじゃないんだよなあ。(遠い目)
店によっては、10日ほど寝かすらしいし。
砂糖が少ない店ほど、寝かす日にちが長い気がしますが……法則性があるかどうかはわかりません。
めんつゆとして使いたいなら、これをダシで適度に割ってください。
そばつゆ、うどんのつゆとして使いたいなら、ダシを2、かえしを1ぐらいの分量で。
さて、市販のめんつゆとどこか違うかというと……市販のめんつゆは『最初にダシの風味』を感じるのに対し、本かえしを使って作ると、『醤油』の風味を感じます。
好みはあるでしょうが、まあ……好き好きで。
ただ、店の『醤油風味のそばつゆ』が好きな人には、間違いなくこっちのほうが合うとは思います。
なお、この本かえしですが、寝かせた後は冷蔵庫にでも。
数ヶ月単位で保存ができますし、冷奴のたれになんかも使えます。
普通に醤油として使ってもいいです。
風味の深くなった醤油と思っていただければ。
余談ですが、手打ちうどんを作るときに塩水を使います。
この塩水、某名人さんが言ってましたが、『水に塩を溶かしてから、3日ほど冷蔵庫で寝かせてから使う』のがコツなんだとか。
塩っ気というか、いわゆる塩角をとるためには、3日ほど寝かせるのが必須なのかもしれません。
と、いうわけで……本かえしをダシで割ってめんつゆを。
そして、そうめんを。
うん。
基本的に、手間隙をかけたほうが美味しいのはわかっているんだけどなぁ。
……人生も、3日ほど寝かせたら、塩角がとれてまろやかになるんだろうか。
人生そのものが、オジャンになりそうな気もするが。
もうすぐ夏も終わるはず。(願望)