私の偉大な食卓。   作:高任斎

49 / 54
48:めんつゆを『かえし』から作ろう。

「高任さんは、麺に偏りすぎていると思う」

 

 そば好きの知人に、そんなことを言われた。

 

「年越しそばの話でもさ、あの自作タイプのめんつゆじゃあ、美味いツユにはならないと思う」

 

 取りあえず黙っておく。

 たぶん、そうめんの話の、『高いものを食え』という部分も気に入らなかったのだろう。

 

 大まかな傾向として、男性は料理に対して『無頓着タイプ』か『こだわりタイプ』に分かれる事が多い。

 もちろん、料理を『現実のひとつ』と割りきって、さらりと流す人もいるのだが……料理を現実としてとらえるタイプの割合は、女性のほうが多いように私は思う。

 

 あくまでも独断と偏見だが、女性は『ほかにもやることがあるんだから、毎日の料理にそんな手間隙かけられません』という割りきり方をするイメージ。

 それに対して男性は、『料理に手間隙をかけていられないのは同感だ。だから、この料理以外はどうでもいい』という割り切り方をするイメージ。

 

 表現が正しいかどうか疑問ではあるが、1週間で料理に割り振ることが可能な労力が100だとすると、女性は1日14~15と、平均的に労力を割り振るタイプが多く、男性は特定の1日に全振りするタイプが多い感じ。

 

 

 

 ……まあ、私もわりと『こだわり』タイプではあるわけで。

 普段の料理で、自分が手を抜いているというか、楽をしている自覚はあります。

 というか、昔に比べて間違いなく料理の腕は落ちたと思ってます。

 

 めんつゆか。

 美味い、ツユか。

 

「つまり……手抜きせずに、ちゃんと『本かえし』からつくれと?」

「当然だろう。美味いそばを食べたいなら、そのぐらいの手間はかけるべきだ」

 

 せっかくの年越しそばだから、『ちょっと手をかけて』美味しく食べようという私に対し、『そばを美味しく食べたいなら、手間暇かけて当然だろう、おらぁ!』な知人。

 

 このすれ違いをなんと表現すればいいのか。

 

 しかしまあ……料理でめんつゆをお手軽に使いまわしていると、料理の腕が落ちるのは間違いない。

 めんつゆに含まれるダシというか、旨み成分は、料理の出来をごまかしてくれます。

 ごまかしてくれると言うことは、そこに甘えが出てしまう。

 

 

 まあ、もうすぐ夏も終わる。

 そうめんを、美味く食べるための手間隙をかけるのも悪くはないか。

 

 

 さて、本かえしというか『かえし』。

 料理漫画というか、『そば』の店がネタになると出てくるので、そば好き、麺好きの人間は、聞いたことぐらいはあると思います。

 

『かえし』にも、『本かえし』『生かえし』、あとこの二つを混ぜる『半生かえし』などの種類があります。

 

 基本的には、しょうゆ、みりん(酒)、砂糖を混ぜたもの。

 一斗一升一貫目という言葉がありますが、これは古くから親しまれてきた『かえし』の分量を指すといわれていて、それぞれ醤油が一斗、みりんが一升、砂糖が一貫なんですが、現代日本にはあまり合わないと思います。

 というか、醤油もみりんも、そして砂糖も……当時と現代とでは品質が変化してますし。

 少なくとも、一般家庭で普通に手に入れられるモノは、昔どおりの品質ではないでしょう。

 

 つーか、一般家庭で作るにはまず単位が違う。

 

 独断と偏見ですが、醤油1リットルに対し、砂糖は150~200グラム、みりんが200~300ミリリットルぐらいでしょうか。

 この場合、みりんは、本みりんで。

 ちなみに、店によっては、『食塩』を使うこともあるそうな。

 

 本かえしは加熱しますが、生かえしは加熱しません……ので、生かえしではみりん(酒)を使わないと私は教えられましたが、これは当然店によって違います。

 ただ、加熱しないと砂糖が十分に溶けないため、お湯に砂糖を溶かし、それを静かにしょうゆと混ぜる……など、保管、保存方法、そして製作で細かな技術を必要とするため、一般家庭で作るなら、本かえしでしょう。

 

 

 さて、本かえし。

 これも店によってレシピが違う感じですが、共通するのは『しょうゆを沸騰させないこと』です。

 

 とすると、みりん(酒)を沸騰させてアルコールを飛ばすために……最初はみりん。(いわゆる煮切り)

 火力を調整してから、砂糖と醤油を投入。

 

 ただ、これも店によって順番が違ったりします。

 全部一緒に入れたりもしますし。

 

 とにかく、『醤油を投入した後は』沸騰させてはいけません。

 ここで沸騰させると醤油の香りが飛んで、こう、エグイというかキッツイ口当たりが残ると言うか、やらないほうが無難だと思います。

 

 ただ、『それ、醤油が安もんやろ』と指摘されたことがあるので、醤油の品質も関係するのかもしれませんが。

 

 

 加熱を続けていると、かえしの色が薄いというか、茶色っぽくなってきます。

 鍋のふちがあわ立ち始めたら、火を止めます。

 

 

 荒熱をとれたら、容器に入れて寝かせてください。

 

 

 ……3日ほど。(目逸らし)

 

 

 

 普段から作って常備してないと、思いついたその日に使えるものじゃないんだよなあ。(遠い目)

 店によっては、10日ほど寝かすらしいし。

 砂糖が少ない店ほど、寝かす日にちが長い気がしますが……法則性があるかどうかはわかりません。

 

 めんつゆとして使いたいなら、これをダシで適度に割ってください。

 そばつゆ、うどんのつゆとして使いたいなら、ダシを2、かえしを1ぐらいの分量で。

 

 さて、市販のめんつゆとどこか違うかというと……市販のめんつゆは『最初にダシの風味』を感じるのに対し、本かえしを使って作ると、『醤油』の風味を感じます。

 

 好みはあるでしょうが、まあ……好き好きで。

 ただ、店の『醤油風味のそばつゆ』が好きな人には、間違いなくこっちのほうが合うとは思います。

 

 なお、この本かえしですが、寝かせた後は冷蔵庫にでも。

 数ヶ月単位で保存ができますし、冷奴のたれになんかも使えます。

 普通に醤油として使ってもいいです。

 風味の深くなった醤油と思っていただければ。

 

 

 

 余談ですが、手打ちうどんを作るときに塩水を使います。

 この塩水、某名人さんが言ってましたが、『水に塩を溶かしてから、3日ほど冷蔵庫で寝かせてから使う』のがコツなんだとか。

 塩っ気というか、いわゆる塩角をとるためには、3日ほど寝かせるのが必須なのかもしれません。

 

 

 

 と、いうわけで……本かえしをダシで割ってめんつゆを。

 そして、そうめんを。

 

 うん。

 

 基本的に、手間隙をかけたほうが美味しいのはわかっているんだけどなぁ。

 

 

 ……人生も、3日ほど寝かせたら、塩角がとれてまろやかになるんだろうか。

 人生そのものが、オジャンになりそうな気もするが。

 




もうすぐ夏も終わるはず。(願望)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。