私の偉大な食卓。   作:高任斎

7 / 54
分かっても、店の具体名は出さないようにお願いします。


6:悲しみの卵スープ。

 安くて量が多い。

 それは、学生たちの食事そのものであり、果てしないあこがれだ。

 

 え、昭和の学生と一緒にしないでって?

 学生の食事は、いつの時代も似たようなもんだと思うんだけどなあ。

 

 まあ、大学生で一人暮らしを経験した人なら、やはり行きつけの定食屋だったり、ラーメン屋の定食だったり、チェーン店の定食だったり、お気に入りがあったんじゃないですか?

 値段の割にボリュームが有って、『ああ、食ったなあ』と心の底から思える定番が。

 

 あ、すみません。

 女性と男性の感覚とは違ってきますね。

 男性の感覚は、とにかくどーんと一点豪華主義に陥りがちの、イメージとしては丼料理。

 女性の方は、色々なものを少量ずつの、バイキング料理と聞いています。

 なので、女性の方には共感が得られにくいかもしれません。

 

 まあ、風呂敷を広げましたが、これは私と知人が大学時代に通った店の……懐かしの味のおはなしです。

 

 

 

「最近なあ、あの卵スープが懐かしいんだよなあ、歳をとったってことかねえ」

 

 ああ、あのチェーン店、こっちじゃあんまりないもんな。(当時)

 ホント、どの定食にもついてきたよな、あの卵スープ。

 

「だよな!いろんな定食を食ったけどさ、結局あのスープが一番に頭に浮かぶのよ。オマケ扱いなのにな」

 

 つーか、まんぷく定食とか、ネーミングがそのまんますぎるだろ、あそこの支店。

 

「特に美味かったってイメージもないんだけどな……なんか飲みたくなってな」

 

 そうか。

 飲みたいか。

 お前も、大人の階段を登る時が来たようだな。

 仕方ないなあ、俺がお前を大人にしてやろう。

 

「な、何の話?」

 

 くっくっくっ、後悔すんなよ。

 

 

 

 用意するもの。

 某粉末スープの素。

 某ダシ粉末。

 塩、コショウ。

 卵(溶き卵)。

 

 

 さあ、お湯を沸かして……真実を知る時だ!

 

 

 

「え?あれ?あれ?これって?」

 

 

 まあ、所詮はチェーン店の、どの定食にも付いてくるスープだからな。

 大量生産の業務用スープ以外の何ものでもないのよ。

 ちなみに、卵の代わりに乾燥わかめを入れたスープはこうなる。

 

「ちょ、待てや、お前!このスープ、〇〇のスープじゃねえの!?」

 

 ……嫌なもんだぜ、だれかの美しい思い出が、真実の前に粉々に砕け散っていくのを見るのは。

 

「いや、お前、何他人事みたいに言ってんだよ……っていうか、作ったな?お前、自分でも懐かしくなって作ってみたんだろ!?」

 

 そう興奮すんなよ。

 俺はただ、お前より一足先に、大人の階段を登って、魔法が解けるガラスの靴がそのまま残ってててどうなってんだと疑問に思った子供心が、迷子になってて……。

 

「いや、ホントに何言ってんだお前!?」

 

 

 この日、友の思い出の卵スープに、涙という塩味が加わった……真実の苦味とともに。

 

 

 

 

 厳密に言うと、『似た』味ですけどね。

 それにしても、私の偉大な食卓って一体……。(白目)

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。