私の偉大な食卓。   作:高任斎

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これが若さか。


8:悲しみの大根飯。

 少年は大人になる。

『立派な』という形容詞がつけられるかどうかは、不明だが。

 そして、馬鹿だって多少は知恵が付く。

 

 これ、大根飯じゃねええええええ!

 

 大学で知り合った知人とかに『大根飯作ってみたけどさ、普通にうまかったわ?なんだろな、あのドラマって?』などと、全力で馬鹿アピールしていたのだ。

 良かった、ネットのない時代で。

 今なら、全力でさらされてたわ、絶対。

 情報化社会、恐ろしい。

 

 

 

 と、いうわけで、馬鹿は馬鹿なりに反省するため、本当の大根飯を追求することにした。

 でも、それってベクトルの向きを変えただけの馬鹿ですよね?

 

 

 ダシとか醤油は使わない。

 大根と米を、米だけのようにそのまま炊く。

 炊飯器は許して欲しい。

 大根飯を上手く料理するのではなく、大根飯を知るためなんだ。

 

 炊き上がる。

 

 ああ、うん、うん……美味しくはないね。

 でも、そんなに不味いとは思わない。

 おかしい。

 あの時代。

 子供が泣いたのだ。

 腹を好かせた子供が食べて泣いたのが大根飯だ。

 

 そうか、米だ。

 米を使っちゃいかんだろ。

 だって、米は美味しいもの……品種改良とかツッコまないように。

 

 良し、オール大根だ。

 なるほど、これはもう大根飯と呼ぶしかない。

 説得力に溢れすぎている。

 大根は、ビタミンCなどを含む栄養に恵まれた食べ物だが、カロリーそのものには乏しい。

 食べてもすぐに腹が減る。

 泣くだろう、子供は泣くしかない。

 でも、不味さはそれほどじゃないんだ。

 大根の青臭さがちょっとな、とは思うが、言うほど不味くはないんだ。

 

 この大根飯は、本物じゃない。

 

 大根飯を追求する私の旅は、ここで行き詰まった。

 

 しかし、ある日私のもとに重要な情報が寄せられた。

 朝ドラヒロインが大根飯を食べているシーンの情報である。

 重要なポイントが2つ。

 1つは熱。

 つまり、冷めた大根飯。

 目の覚めるような思いだった。

 温かいというのは、それだけでありがたいのだ。

 私の母も父の家に嫁いできて、兄や私が生まれて、祖父や祖母と離れて暮らすようになるまで、皆が食べ終わったあと、冷めた食事を取っていたと聞く。

 そのせいか、母の作る味噌汁はいつも具が多い。

 そうしないと、みんなに具を取られて自分まで回ってこなかったらしい。

 そういう時代だと言ってしまえばそれまでだが。

 2つ目のポイント。

 ヒロインの口元にへばりつくもの。

 あれは大根ではなく、穀物ではないか?

 

 私は、いわゆる雑穀……稗や粟、麦などを手に入れることにした。

 

 この時既に、私の胸には成功の予感が宿っていた。

 やはり映像は素晴らしい。

 百聞は一見に如かずである。

 

 稗や粟は、時代と場所によっては、鳥の餌などと馬鹿にされた穀物だ。

 実際、手に入れるまでちょっと苦労した。

 

 そして、完成する。

 冷えるまで待つ。

 

 実際にそれが正しいかどうかはわからないが、『これこそは』と納得できる不味さ。

 これが、ヒロインに涙を流させた、悲しみの大根飯である。

 

 

 

 

 うん、何やってんだ、私。

 

 馬鹿がいた、ただ、馬鹿がいた。

 

 

 




ちゃんと全部食べました。
味付けは重要だと思いました。
現代日本、万歳。
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