Fate/GrandOrder Mistake Gift 作:人類悪出入
「アンサズ!」
キャスニキから放たれた火の玉がアーサー王を包み込むが、魔力放出にて一瞬でかき消される。
「無尽蔵の魔力ってな厄介この上ないな!」
キャスニキの言う通り、今のアーサー王は聖杯を所持している。それこそ宝具を連発する事など訳はないだろう。
だが、それでもサーヴァント。致命傷を与えれば死は免れない。
キャスニキが杖に炎を纏って、ルーンを使い一気に加速し再度突撃をする。アーサー王はそれを顔色変えずに受け止めた。
「何度やっても…何!?」
背中がガラ空きだ!俺は瞬間強化を使い、アゾット剣を背中に突き立てーーーようとして、キャスニキごと杖を弾き飛ばしたアーサー王はそのまま剣を後ろに振り抜いた。
その豪腕にて放たれる聖剣の威力は推して知るべし、俺の上半身を蒸発させても余りある。その速度は到底人の目に映るレベルではなく、無論、アーサー王も俺を殺したつもりだったのだろう。
「…!?」
アーサー王が、しゃがんで斬撃を躱した俺を見て驚愕の表情を浮かべーーーそしてまた一刃。
「うおっ!?」
俺はそれをまた紙一重に避けて、アゾット剣をアーサー王に突き立てる。だが聖剣によって防がれた。
「ーーー貴様、サーヴァントの攻撃を人の身で避けるか…!」
「はっ、あんたの剣が緩いだけじゃねえ…の!」
がきいぃん!と、キャスニキによって施された硬化のルーンによって強化されたアゾット剣が、聖剣と刃を交わし火花を散らす。
ーーー瞬間強化。これを目を重点的に強化するように調整した。人の身では見ることができなかった剣戟も、これで辛うじて反応はできるようになった。
後はカルデアでの戦闘訓練の経験や、先ほどのキャスニキとの特訓を元に避け続けるのみである。
「言うな、カルデアのマスターよーーーではもっと本気で行くーーー」
「おう、させねえよ?」
聖剣を振りかざそうとして、それを木の根が引き止めた。
「キャス、ター…!」
ーーーー間に合え!
俺は動きを一瞬止めたアーサー王に、アゾット剣の切っ先を振りかざす。
「ぐっ…!?」
肩。胸に刺そうとしたアゾット剣はアーサー王の肩に突き刺さる。
「まだだ!」
アゾット剣は杖のような物。中に魔力を貯める事で、突き刺した時、敵に追加ダメージを与えることが出来る!
「ーーーどけ!」
「な…!?」
「おっと!?」
アーサー王が剣を振り抜き木の根諸共俺に切りかかるーーーが、それをキャスニキが杖で食い止めた。
俺とキャスニキは後ろに下がる。
「すまん、ありがとうキャスター…!」
「おう。それよりも良くやったぜマスター。まさか騎士王相手に斬りかかって傷与えるたあな!」
確かに傷はつけた。だが、突き立てたその感触はまるでタイヤのように固かった。
「…中々やるな…だが…」
ーーーその瞬間、空気が軋んだ。
「ちっ…!」
「これ…は…!」
魔力が爆発的に高まる。何かをしてくるーーーー俺の頭の中で警報が鳴り響いた。
ーーーー来る!
「っ…!」
『緊急回避:Lv5』!俺の身体の速度が数倍に跳ね上がるーーーが、それでも避けきれない…!
ギイイィン!
突貫してきたアーサー王の剣をアゾット剣が辛うじて防ぎきりーーーそして砕け散る。
防ぎきった…!そう思った次の瞬間だった。
「がっ!?」
アーサー王は速度を殺さず、片手で俺の首を掴み、十数mカッ飛んで立ち止まる。
「マスター!?くそっ、目に追えねえ…!?」
口から血が吹き出す。喉が潰れたのだろうか、掴まれ持ち上げられた喉が熱を帯びて激痛を引き起こす。
そんな…まだ、本気じゃ…!?
「てめえ、離しやがれ!」
ジャスニキが走り出すーーーその瞬間、俺の視界がぶれた。
「うおっ!?」
「放してやったぞ。そら、もう手放すなよ…!」
「…やべえ!?」
走り出したキャスニキに俺がぶん投げられた。キャスニキは慌てて俺を受け止めるが、すぐに俺を後ろに放り出す。何故ならーーーアーサー王の黒き斬撃が、すぐそこまで迫っていたからだ。
「か…はっ…」
キャスニキの胸が、俺の目の前で痛々しく切り裂かれた。
血が、空に吹き出しーーー
ーーーーーーーーーーーーーーー
オルガマリーは肩で息をしながら、少年ーー天野空太の事を思い出していた。
あの時、オルガマリーの心は折れかけていたーーー否、壊れかけていた。レフが消え、人類の滅亡が始まり、騎士王は難敵で、さらにバーサーカーまで現れてーーー普通の人間だと、恐らく全てを諦めて楽に死ぬ方法を探し始めるような、絶望の連続。
だがーーーオルガマリーは自分の何倍もの体躯を持ったバーサーカーに、たった一人で立ち向かう少女を見て。
更に、大丈夫と自信満々に笑顔と共に言って、自分の力が必要なんだと手を差し伸べてくれた強き少女を見て。
そして何よりーーー自分との同じように、恐怖に苛まれながら、手を、足を震わせながらーーーそれでも、果敢に戦いに挑んだ少年を見て。
(私の力を必要としてくれてる…だったら!)
マシュの堅牢な盾がバーサーカーの巨大な石斧を撃ち抜いた。マシュはデミ・サーヴァントだ。いくら人外の力を持っていたとしても、サーヴァント以上に疲労は溜まる。
「この…!」
オルガマリーはバーサーカーに指を向けた。黒い弾丸がいくつも放たれ、バーサーカーの動きを多少鈍くする。
「マシュ!」
「はい、マスター!」
盾の切っ先で攻撃ーーーだが。
「なんて機敏な動きなの…!?」
その巨体に似合わぬ素早さで、マシュの攻撃をひらりとかわしカウンターに拳を突き立てる。
「くぅ…!」
マシュが耐えるが、それも辛そうだった。
「マシュ…!『応急手当』!」
「ありがとうございます…!」
3人で立ち向かう。その敵は、あまりにも強大で、あまりにも絶望的だった。
「これが…大英雄ヘラクレス…!」
オルガマリーは再びくじけそうになる心を、奥歯を噛み締めて踏ん張った。
(私は、所長なんだもの…!天野になんか、負けてられないわ!)
隣の立花を見た。立花は、不敵に笑って親指を立てた。
ーーーなんて頼もしい。そして無駄に男らしい。
何故、という思いはあった。何故笑っていられるのか、何故立ち向かえるのかーーー何故、恐怖に足を止めないのか。
分からない。分からないけれど、オルガマリーにとってはそれが何よりも美しく、強く光り輝く星に見えた。
「私だって…!」
オルガマリーは、自分を奮い立たせた。
ーーーーーーーーーーーーー
「キャス…!?」
叫ぼうとして、血が吹き出してできなかった。
「どうした、カルデアのマスター。これで終わりか…?」
どうするーーーー?
どうする、どうする?キャスニキが死んだ…?何故俺を守った。矢除けの加護は何故使わなかった?
ーーーー俺の掌の甲で、真っ赤な令呪が、強く揺らめいた。
書きながら思った。
凡人ってなんだっけ…?