Fate/GrandOrder Mistake Gift 作:人類悪出入
「どうしたーーーもう終わりか、カルデアのマスター」
アーサー王が無表情で問いかけた。その美しい表情は、キャスニキを切ったとて一切色は付いていない。
「終わりならばーーーこの地と共に沈め」
絶望が歩みを進めた。まるで処刑人のように、剣を握りしめて。
剣が振り上げられるのを、俺はただ黙って見上げる。
ここで諦めるのかーーー?
ここで俺が死ぬと、立花とマシュが挟撃を受ける。マシュ一人でアーサー王とヘラクレスを打倒できるなどーーー
そもそも、俺がいなければ、立花はキャスニキと協力して、普通に倒せていたんじゃなかったのか…?
「俺はーーー」
また、何もできずに人生を終えるのか?
「…では死ね」
聖剣が、振り下ろされたーーーー
その、直前。
「ーーー師匠直伝秘奥義いいい!」
「!?」
「猿でもできる掌底波ーーーー!」
ウィズ・ダウィンチちゃん!
「なにっ…!ぐふっ!?」
俺の掌底は、強化の魔術と俺自身の魔力放出で、アーサー王の腹を微かにだがかき回した。
「緊急回避!」
一瞬で俺は距離をとって、そして自分の喉に応急手当を当てた。
「…はっ。どうした、アーサー王…!何でもう勝った気でいやがるよ…!?」
「ーーー」
「俺は!まだ負けてねえ!俺はーーーあんたをぶっ倒し!人理を守る!」
俺は自分の胸に手をどんと当てた。
「ビビってんじゃねえぞ…!それとも小娘には荷が重いか!?この俺の相手はよ!?」
一気にまくし立て、俺は笑みをーーーいや、犬歯を見せた。
ーーー静寂が支配する。否、これはーーー。
世界が、悲鳴を上げた。
「ーーーふっ…まったく、見事な道化ぶりだな。折角だ、冥土の土産に応えてやろう」
聖剣が光り輝き、闇を纏う。三度目の宝具の開帳ーーーしかも、今回に限っては、中断させることも防ぐこともできない。
「さあ、どうする?カルデアのマスターよーーー卑王鉄槌、旭光は反転するーー光を飲め!」
魔力が嵐のような暴風を作り出し、剣から放たれる。今からアレが全て俺に来るのかと考えると足が笑いそうになる。
「『エクスカリバーーーーーーー」
負けてたまるかよッッ!
主人公になるのは諦めた。この世界は物語みたいに良くできちゃいない。英雄に至るまでの筋書きも用意されちゃいないし、テンプレートなど存在する訳がない。
それなのに、俺は転生しただけで主人公になれると思っていた。良くウェブ小説で読むような、あんな主人公たちのように。
勝手に周りが勘違いして、ヒロイン達が勝手に集まり出して、いつのまにか英雄になっているような、そんな冒険譚が始まると思っていた。
生憎そんな事、一切…いっっっっさいなかったけれど。
だけど、いやだからこそ、俺は目を覚ました時に思った。
今世はきちんと生きよう、と。気づくのに遅すぎてスタートダッシュは決めれなかったが、それでも、前世よりもずっと幸せになる為に努力をしてみよう、と。
だから、俺はーーー
「ここで終わるわけには、いかないんだ…!何よりーーーー童貞まだ卒業してねえからよーーー!」
二度と生まれて、二度と道程のまま死ねと!?
ご め ん だ ね !
ーーー魔術礼装に魔力を回した。その瞬間、中で眠っていた概念が形を持って出現する。
見せてやるよ、俺の切り札!師匠から譲り受けた、現存する数少ない宝具の一つーーーその概念礼装を!
「『後より出で先に断つ者(アンサラー)』ーーー!」
帯電するそれは、今はただの金属球だった。
「ーーーモルガン』!!!」
魔力が黒い帯となり俺に向かって放たれる。物凄い圧迫感に、胸がギリギリと潰される感覚を抱く。
だがーーー出したな?
お前にとっての切り札ーーー宝具を!
「ーーーー『斬り抉る戦神の剣(フラガラック)』!!!」
ーーーー次の瞬間、因果が逆転した。
「これ…は…!?」
逆光剣、フラガラック。後攻による絶対必中の先攻!
相手の切り札を受ける直前、フラガラックは発動する。効果は因果の逆転。『切り札を先に切った』という因果を、俺の攻撃を『先に出したもの』として因果を逆転させ、『先に俺の攻撃が当たったのだから、切り札を切ったいう因果を消滅させる』というジャイアニズムも真っ青な後出しジャンケン理論!
時が遡り、フラガラックの剣より放たれたビームが宝具を打つ直前のアーサー王の胸に吸い込まれる。
この戦い、貰ったぞ、セイバー!
「っ、甘い!」
「…なぁっ!?」
セイバーは、それを避けた。
アーサー王の直感(A)!人知を超えた直感は、未来視に迫る!因果を超えた攻撃など、避けるのは容易いという事か!なんだそれ無茶苦茶すぎるだろ!
俺は令呪二画、さらに身体中の魔力を使い切った為に、身体中から力が抜けて地面に倒れ臥す。
「ふっ…」
アーサー王が、口角を釣り上げた。
ーーーーだが、まだだ!
「令呪をもって命ずるーーーー敵を殺せ、キャスター!」
「なんだと…!?ぐっ!?」
突如として地面に土が盛り上がり、そこから巨大な拳が飛び出してアーサー王を掴み持ち上げた。
いや、それだけじゃない、腕、肩、そして身体ーーー途轍もなく巨大なその体躯は、ビル一つ分軽々と超えるだろう。
「ーーー我が魔術は炎の檻、茨の如き緑の巨人。因果応報、人事の厄を清める社ーーー倒壊するはウィッカー・マン! 」
「貴様!キャスター…!?」
アーサー王は胸の籠を開いたウィッカーマンによって囚われながら、殺したはずのキャスニキの登場に目を剥いていた。
「坊主、良く気付いてたぜーーー後は俺に任せな!」
キャスニキの杖に魔力がこもり、振りかざされた。
「善悪問わず燃え尽きな!」
「くっ…ぐああああああああ!」
ウィッカーマンはそれだけで一気に燃え上がり、倒壊し爆炎を巻き上げる。
って、炎がこっちにまで向かってきてね?むしろもう前髪が焦げ始めたんですが!?
「おっと!へへ、わりいわりい。ついやり過ぎちまった」
キャスニキに拾い上げられて、俺はなんとか事なきをえた。
もっさり戦闘ですまない…
多分次で冬木攻略。
ーー追記ーー
フラガラックの使用に批判っていうか設定の不備のご報告が相次いだので説明させていただきます。
『先に殺した敵に反撃する機会はない』とする必中必殺のフラガラックですが、魔術師的に初心者な主人公が概念礼装から抽出して使用している結果、宝具としてのランクが低下して、更に聖杯によりステータスが色々と向上しているセイバーの直感がクリティカルした結果、今回のような『先に攻撃を当て、それを避けた者の反撃の機会を限定的に減らす』という結果に落ち着いた、という処理にしています。
更に細かく説明させていただくと、通常攻撃に使ったフラガラックは『威力は低下し、効果は発揮されない』とのことだったので、今回は素人主人公が使ったので、『威力は低下するが、効果はぎりぎり発揮される』という感じにしています。
説明不足、設定の練りが甘く、多数の方の気分を害してしまったこと、またお目を汚してしまった事をお詫びさせていただきます。まことに申し訳ございませんでした。
また、誤字脱字、ご指摘、心よりお待ちしております。これからも時間が空けばちょくちょくと書いていくつもりなので、よろしくお願いします。