Fate/GrandOrder Mistake Gift 作:人類悪出入
「あ、お疲れ様です」
訓練が終わり、シャワーを浴びてカルデアの制服に着替えた俺をまるで待ち構えていたかのように少女ーーーマシュは俺に腰を曲げた。
「おっす」
「訓練はもう終わったのですか?」
「ああ。今日も仮想の敵にコテンパンにされてきたよ」
なんだろう、筋は良いらしいのだが、やけに勝てないんだよ。いや、そもそもマスターなんだから、自分が戦うことは殆どないし、あったとしてもサーヴァントを呼び出すための時間稼ぎ程度なのだから、勝つのが目的というわけでもないわけだが。その証拠に訓練のほとんどは体力づくりと肉体づくり、それとサポート系魔術の特訓だ。
特に俺はつい最近まで一般人だったので、結構みっちりと詰まっている。端的にいうと辛い。
まあ、流石に女の子の前でそんな疲れた様子は見せないけどね。
「そうですか…あの」
「ん?」
「すみません、どうお呼びすれば良いか分からなくて。何度かお話しした仲だというのに、お名前を聞くのを失念していました」
ああ、と俺は頭をかいた。そう言えばしてなかったっけ自己紹介。相手のことを一方的に知ってたもんで、すっかり忘れていた。
目の前にいる少女ーーーマシュ・キリエライトと初めて出会ったのは、先程とほぼ同じ流れで話しかけられたのがきっかけだ。
それからはこうして顔を付き合わせるたびに会話とも言えない規模の言葉の交わし合いをするようになった。
ぐだーずがくれば少しは和らぐはずの顔も、物語の始まる前の今はまだ色は付いていない。
「俺は天野空太。よろしく」
「私はマシュ・キリエライトと言います。よろしくお願いします。えっと、では天野さん、とお呼びしても良いでしょうか?」
「ああ、構わないよ、キリエライトさん」
え?名前で呼ばないのかって?前世と今世で童貞貫いてきた俺が、女子を名前で呼ぶなどという高等技術、さらりとできるわけがないだろう。
ちょっと前の俺だったら平気で呼んでたけどね。更に告白かまして振られるまである。
「すみません、天野さん。キリエライトの方は呼びなれないので、私を呼ぶときは是非マシュとお呼びください」
「あっはい。わかった…マシュさん」
このあとめちゃくちゃ語り合った。
ごめん、今のは嘘だ。本当はすぐに別れた。お互いまだやる事あったしね。
か
「やあ、天野空太君。今日も早速やっていこうか」
「はい」
夜中、俺はカルデアで唯一召喚が成功したダヴィンチさんーーー師匠にワンツーマンでレッスンを受ける。
概念礼装で武装したとは言え、現状はナイフ持ったただの一般人だ。爆発とか極光が反転カリバーとか受けたら、多分一瞬で蒸発する自信がある。
そういう訳で次は防御面だ。カルデアでは魔術礼装ーー名前がカルデアという安直な名前のやつーーが一人一つ配備されるので、それを弄れれば少しはマシになるだろうと思い立ち、カルデアの中で最もそういう事で優れた人であるだろうダヴィンチちゃんに相談してみたところ、なんか気に入られて弟子にさせられていた。
今では魔術礼装の改造だけじゃなくて、魔術を組み込んだ武器の開発や発明を手伝…もとい教授されている。
かの有名なレオナルド・ダ・ヴィンチに弟子にとってもらえるのはかなり光栄だし、習う事も決して無駄じゃ無い。むしろ新しい武器や魔術の使い方、考え方、技術、様々なものを得られるのは僥倖だ。
しかし疑問だ。俺は自分のことをただの一般人だと自負している。だというのに、なぜ俺なんかを弟子に?
ある時、一体凡人である俺のどこがいいのか聞いたところ、「凡人だから弟子にとったんだ」と笑われて、首をひねっていると、
「天才の考えは凡人にはわからないものさ」
と頭を撫でられた。優しい目で。
なんかいい感じの雰囲気を作り出そうとしているっぽいけど、それすごい嫌味に聞こえるし中身男な美女に頭撫でられても凄い困るというかドギマギしたくないというか、なまじ英霊に召し上げられる程の天才である彼はそんな俺の様子を一目見てすぐに察してくるので恥ずいやらなんやら。
ええい、もういいや!さっさと作業の続きやりましょうよ師匠!
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天野空太。彼は凡人でありながら天才なのだと、私はすぐに理解した。
確かに彼の才能は地に埋もれやすいだろう。しかしこの天才、レオナルド・ダ・ヴィンチはすぐに理解できた。
私がカルデアに召喚されて、下らない魔術師どもや下らない実験なんかを見て辟易していた頃、彼は私の元に訪れた。
なんでも魔術礼装の改造をしたいから、相談に乗って欲しくて来たらしい。そういう要件で私の元にくるのはとても効率的で効果的だ。私は軽くオーケーを出して、息抜きがてら手伝ってやる事にした。
それに、少しだけ興味も湧いた。天野空太は生粋の一般人、ここに来るまで魔術のまの字も知らない人間だったはずだ。それが、カルデアから支給された魔術礼装を改造したいと言い出したのだ。
彼の構想を聞くに、生存確率をより高めるのが目的だったらしい。私は魔術礼装にダメージカットや防御力アップなどのパッシブバフを付けたり、スキルの使い勝手を改良したりしながら、彼に色々と教えてやった。
凡人にしては理解が早く物覚えもいいので、私はその内魔術礼装の改造に必要な知識以外のものも教え始めた。
打てば響く…とまでは行かないものの、しっかりと私の教えたことを理解し、自分のものとして吸収し続けた。
そうしているうちに気付く、彼の異常。
天野空太は、凡人だ。物覚えも記憶力も人よりはいいが、それでも凡人止まり。よくて秀才と言ったところ。
しかし彼は一つだけ違った。彼は全てにおいて凡才だったのだ。
運動も、戦闘技術も、魔術も。そのほかあらゆる分野において。
そして彼はそう言ったあらゆる知識をつなぎ合わせ、新たなものを作り出す事にも秀でていた。
言うなれば万能の凡人、という感じだろう。簡単に言えば私の劣化版だ。
万能である事は、それだけで武器なり得る。万能である私は何よりもその事を知っている。
そして彼はただ万能ではなく、そう言った膨大な知識を掛け合わせ、新しいものを作るセンスも持っていると来た。
私は彼を弟子に取る事にした。腐らせておいておくには惜しいし、何より彼も助かるそうだったからね。
空太は、ロマンと同じだ。どこか違う場所を見ている、あの変人と。
二人が何を見ているのかは、天才たる私でもわからない。何が目的なのかも。
ただ、空太に関しては…うん、きっとロマンとはまた違った、恐らく凡人並みのありふれた悩みなんだろう。ただの勘だけど、見てればわかる。
まあ、私の大切な弟子だ。どんな悩みでも、味方にくらいはなってやろうじゃ無いか。