Fate/Grand Order 凡夫なりし月の王 作:キングフロスト
※今回は転換点でもあるため短め。だけど……?
上手く言うことを聞かない足を半ば引きずるように、私も藤丸を追ってマシュの元まで駆け付ける。
そこで私が目にしたのは、遠くから見えていた以上の惨状だった。
「マシュ……!」
落石してきたのだろう大きな瓦礫は、うつ伏せに倒れる彼女の下半身を完全に覆い尽くし、隙間からは止めどなく血液が流れ出している。
マシュの体を引き抜こうにも、瓦礫が大きすぎる。二人掛かりでもおそらく不可能。人手と機材があっても、まだ助けられるか分からない……といったところだ。
いや。そもそも、流れた血があまりに多すぎる。マシュの周囲は彼女自身の血液によって、大きな血溜まりになっていた。このままでは、遠からず失血死してしまうだろう。
「せん…ぱい…」
「マシュ! 待ってろ、今助けるから!」
こんな絶望的な状況にあっても、まだ彼は諦めていなかった。マシュもまた、下半身を潰されているというのに、辛うじて意識を保っている。
だが。
「アヅッ!?」
金属混じりの瓦礫は、火災によって触れると火傷する程に熱を伴っており、素手で触れるのは危険だった。
現に、藤丸はあまりの熱さでたまらず手を離してしまっている。
「逃げ……て……くだ、さい。……先、輩」
死にたくないだろう。助けて欲しいだろう。それなのに、この少女は自身がこんな目に遭っていながら、微笑んで他人の心配をしている。
ああ……何がサーヴァントだ。何が英霊だ。こんなにも儚い笑顔を守れないなんて、自分の無力さが憎くて憎くて
「そんな……!? 出来るワケ、ないだろう!!」
若きマスター候補生はまだ諦めていない。彼はズボンのポケットから手袋を取り出すと、それを手に装着して再度、瓦礫へと手を伸ばした。
ここに来る時に家族から贈られたのだろう、彼の名前と思しきアルファベットで刺繍の入ったそれも、荒れた瓦礫と熱で毛糸が
手袋一つで、たいした熱の妨げにはならないはずだ。事実、彼の顔には熱による苦痛が表れている。
なのに、彼は諦めようとしない。
「……ああもう! 嘆いてる場合じゃないよ、私!!」
諦めずに少女を救おうと戦っている彼の隣で、いつまでも沈んでいる場合ではない。
私も、スカートの端を無理矢理に引きちぎると、手と瓦礫との間に挟む緩衝材代わりに、瓦礫に掴み掛かった。生足? そんなの構っていられるか!
今は恥よりも人命が何より最優先。下着なんて見えたのならこの際いくらでも見せてやる。
「……どう、して」
必死に自身を助けようする私たちの行動が理解出来ないのか、マシュの顔からは微笑みが消え、代わりに戸惑いが見えた。
そして、その問いに答えるのは私の役目ではない。それが分かっているのだろう、彼が、私の言いたい事もひっくるめて答えてくれる。
「君を置いて逃げるなんて、出来るはずがないだろう!! 何が何でも助ける、マシュ!!」
そう。理屈じゃないんだ。
助けたいと思ったから、助けようとする。そんな単純な思考が、私たちの行動理由であり、原動力だ。
体が勝手に動いた、というのがより正確かもしれない。
「岸波、さんも……どうして」
「今、彼が言ったのと同じだよ。助けたいんだ、マシュを。君はまだ生きている。だから、助ける。それだけ」
出来るだけ、マシュを励まそうと笑顔を心がける。こういう時、救助側が明るく振る舞ってくれると、受ける側も少しは安心出来るはず。
だから、私は苦しい顔を見せないよう努める。手が焼かれているように痛いけれど、マシュを不安にさせてはいけない。
二人して奮闘するが、瓦礫は一向に動かない。それどころか、火事を食い止める為の隔壁も既に閉まってしまい、ここからの脱出すらも不可能になってしまった。
助かるには、火から身を守る以外に手立てはなくなってしまったのだ。
なら、是が非でもマシュを瓦礫の下から助け出さなくてはならない。このままだと、火の手の餌食になってしまう。
「……隔壁、閉まっちゃい、ました。……もう、外に、は」
諦観の念にも似た、マシュの消え入りそうな声。私も、彼も、既に限界が来ていた。手は赤く焼けただれ、重度の火傷を負っている。
体力も底をついた。もう、瓦礫を動かそうとするだけの力も出ない。
「……なんとかなるさ、きっと」
「……うん、そうだね、一緒だね」
ぺたん、とそれぞれマシュの横に座り込む私たち。二人が共に、マシュの手を片方ずつ握りしめる。
一人じゃない。マシュに───自分に言い聞かせるように。
「…………」
マシュは、もう何も言わなかった。諦めた、というよりは、何か思案しているようにも見えるが……。
そんな時だった。
『コフィン内マスターのバイタル、基準値に達していません』
突如、アナウンスが管制室に鳴り響いたのだ。
「なに、が」
ワケも分からず混乱している私だったが、アナウンスは止まってはくれない。
『レイシフト定員に達していません。該当マスターを検索中……発見しました。適応番号48「藤丸立香」を、マスターとして再設定します』
「な……!?」
こんな状況であるのに、機械はまだ生きて、しかも起動しようとしている。
更にマズい事に、不測の事態のままに、彼──藤丸立香のみをマスターとしてレイシフトを実行に移そうとしている!
『アンサモンプログラム、スタート。霊子変換を開始します』
くっ……! 止めようにも、私ではどうにも出来ない。準備も何も出来ていない状態で、彼一人レイシフトするのはあまりに危険───いや、無謀にも程がある。
そんなの、みすみす命を投げ出しに行くようなものだ。
どうにか食い止める術はないか。そう思い、私は無理に立ち上がって操作パネルを探そうとする。
「………あの………せん、ぱい。きし、なみ、さん」
『レイシフト開始まで、あと3』
掠れる声を絞り出したマシュに、無情にもアナウンスはカウントを始める。感情の籠もらない機械の音声は、彼女の言葉を、待ってはくれない。
『2……1。……全工程、
マシュが何を伝えたかったのか。それを知る前に、私たちは視界も、音でさえも完全に奪われた。
眩く輝く蒼の光が、私たちの体を吸い込むように迫り来る。渦巻く中心に見える、真っ黒な穴へと、私たちは落ちていく────。
そして、やがて真っ白な光へと、私たちは引き込まれていった。
私たちが向かう先。設定されていたのは西暦2004年。日本の地方都市、冬木。
否応なく、拒否も許されず、強制的に、私たちは過去への時間旅行を余儀なくされた。
『人理定礎値C
特異点F AD.2004 炎上汚染都市 冬木』
私と彼の、初めての特異点探索は、こうして訳も分からぬままに始まったのである。
『特異点に揺らぎを確認。表記を最新のものに修正します。
人理定礎値C+
特異点F/S AD.2004 怨嗟汚染魔都 冬木』