Fate/Grand Order  凡夫なりし月の王   作:キングフロスト

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第十二節 変異した特異点F/Sの探索者たち

 

 マシュのクラス名称をシールダーと仮定した後、次の指針として私たちは探索の起点となるベースキャンプの設立を試みる事にした。

 

「まずは起点となる霊脈を探すわよ。魔力が無尽蔵とも言っても過言ではない霊脈の上でなら、十分に備えが出来るようになるはず。それに、何かよほどの事でも起こらない限りは、カルデアとも恒久的な通信が行えるでしょう」

 

 オルガマリーのによる霊脈探しの利点とは何かとの解説で、私たちのやる気も俄然高まる。

 特異点の外と声が繋がるというのは、それだけで安心出来そうな気がするからだ。

 

 出来るだけ骸骨から身を隠して霊脈の捜索をする私たち。分散して探した方が効率的ではあるのだが、現状、まともに戦う力があるのはマシュだけ。次点でオルガマリーか。

 非常に残念ながら、私と立香には敵と戦い、倒すだけの力は備わっていない。よって、万が一を考えて全員で一塊(ひとかたまり)となって行動を共にしていた。

 

 ちなみに、私は藤丸の事を立香と呼ぶ事になった。意気投合したのもあり、彼本人からそう呼んでくれと言われたからだ。

 なので、私も白野で良いと返し、私たちは名前で呼び合う友達になった。

 

「……ポイント発見。一点集中でちょうど所長の足下から魔力の渦が吹き出る形となっています」

 

 何十分と時間を掛けて歩いていた時に、いきなりマシュがオルガマリーの足下を指差した。

 言われてみれば、何だか魔力が体に流れ込んでくるような感覚がある。私がサーヴァントだから、より感じやすくなっているのだろうか。

 

「うぇ!? あ……そ、そうね、そうみたい。あと、いきなり言わないで、マシュ。敵が出たのかと思ったじゃない……」

 

 ……本気で怯えていたな、今。まったく……、意外とチキンハートなんだから、オルガマリーは。

 コホンと咳払いを一つ、オルガマリーは立っていた場所から退くと、マシュに指示を出していく。

 

「マシュ。あなたの盾を地面に置きなさい。宝具を触媒にして召喚サークルを設置するから」

 

「……だ、そうです。構いませんか、先輩?」

 

 と、マシュはオルガマリーの指示に対し、デミ・サーヴァントとなった彼女のマスターである立香に是非を問う。

 サーヴァントにはマスターが必要だ。でなければ、魔力の供給が途絶え消滅してしまう。それはデミ・サーヴァントとなったマシュにも変わりない。

 まあ、彼女の場合は消滅ではなく、サーヴァントとしての能力が発揮出来なくなるといった風になるのだろうが。

 

「ああ。武器を構えられないっていうのは、少し怖いけどね」

 

「……了解しました。それでは始めます」

 

 マスターからの了解も得た事で、マシュは盾を地面に対し水平に設置する。

 やがて、光の粒子が盾から溢れ始め、そして私たちを包むようにこの周囲一帯にドーム状の召還陣が展開された。

 ドームの内側は青い背景の上に、機械的な紋様が浮かび上がっている。

 

「これは……カルデアにあった召喚実験場と同じ……」

 

 これにはマシュも驚いたように、目を丸くして呆然とこの光景を見つめていた。

 そこに、ジジジというノイズ音が発生した。なんとなく、ラジオの周波数を合わせている時に似ている気がする。

 

『シーキュー、シーキュー。誰か、返答を求む!』

 

 その声は……!!

 

「Dr.ロマン!」

 

『やった、通じた……って、やっぱり白野ちゃんもそっちに飛ばされてるのか』

 

 たまらず声を出したが、すぐに私の声であると気付いたという事は、どうやら向こうもある程度はこちらの状況を把握しているようだ。

 

『良かった……誰か───いや、藤丸くんとマシュがそちらにレイシフトされてしまったのは、こちらでも確認が出来ていたからね。ただ、サーヴァントの君はまだカルデアのシステムに完全には登録しきれていなかったから、足取りが掴めていなかったんだ。どちらにせよ、おそらく藤丸くんたちと行動を共にしているだろうとは予測していたけどね』

 

 なんだろう……その声を最後に聞いてからまだそんなに経っていないはずなのに、なんだかひどく懐かしく思え、しかも、想像以上に落ち着ける。

 認定しよう。Dr.ロマンは私にとっての癒やしであると! サボリ癖はあまり褒められたものではないけれど……。

 

「Dr.ロマン、レイシフトされたメンバーは全員無事だよ。今のところは、だけど」

 

『そうか。ともかく、三人ともご苦労様。これで空間固定に成功した。通信も出来るようになったし、補給物資だって───』

 

 しかし、そんな私にとっての癒やしボイスを途中で遮る者が。パクパクと唖然としたように口を動かしていた彼女が、今になって動き出したのである。

 

「はあ!? いや、ちょっと待って! なんであなたが仕切っているのロマニ!? レフは? レフはどこ!? レフを出しなさい!!」

 

『うひゃあぁあ!?』

 

 映像がなく、声だけではあるが、Dr.ロマンの驚く顔をが目に浮かぶ。

 

『しょ、所長、生きていらしたんですか!? あの爆発の中で!? しかもすごく元気そう!? どんだけ!?』

 

 Dr.ロマン、それはもう時代遅れだよ。

 ……それにしても、そうか。レフの疑惑を知っているのは、この中では私だけだ。Dr.ロマンには伝える余裕もなかったし、オルガマリーにはまだ話す気はない。もちろん、立香とマシュにも伝えていない。

 どっちにしても、レフもあの爆発の場に居たのだ。もはやテロリストのような犯行だが、彼も無事ではないだろう。

 

「オルガマリー、レフはあの爆発で……」

 

 幾度となく心の傷付いたオルガマリーに、真実を告げるのはまだだ。せめて、伝えるのはこの特異点を脱出してから。カルデアと通信が繋がったといえども、まだ先の見えない状況であるのには変わりない。

 そんな中で、下手に士気を下げるような事は伝えない方が、彼女の、そして私たちの為にもなる。

 

「あ……。そう、よね。爆発が起きた時、レフもあそこに居たものね……。……ロマニ、改めて問います。医療セクションのトップが何故、その場を仕切っているの?」

 

 ショックは隠し切れてはいないが、オルガマリーは所長としての責務を忘れてなどいない。

 それをDr.ロマンも分かっているからこそ、さっきとは違い、落ち着いて返答した。

 

『……何故、と言われると僕も困る。自分でもこんな役目は向いていないと自覚してるし。でも他に人材が居ないんですよ、オルガマリー。現在、生き残ったカルデアの正規スタッフは、僕を入れて二十人に満たない。僕が作戦指揮を任されているのは、僕より上の階級の生存者が居ないためです』

 

「……な」

 

 その絶句は、誰のものであったのか。おそらく、その場の全員のものだ。爆発の規模がどれほどだったのか、その全貌を私は知らない。

 けれど。あの爆発により、カルデアの人員はそのほとんどが命を落とした事になる。だが、それもよく考えてみれば当然だったのかもしれない。

 管制室には、マスター候補をはじめとして、カルデアのスタッフも大半以上の人数が詰めていた。

 説明会、その後のコフィンへのマスター候補たちの登録、整備───多くの仕事があったからだ。

 

『レフ教授は管制室でレイシフトの指揮を執っていた。あの爆発の中心に居た以上、生存は絶望的だ。白野ちゃんも、それを分かっていたようだしね』

 

「……生き残ったのが、二十人に満たない? 待って、待ちなさい。じゃあマスター適性者は? コフィンはどうなったの!?」

 

『……47人、全員が危篤状態です。医療器具も足りません。何名かは助ける事が出来ても、全員は───』

 

 ───。Dr.ロマンの言葉に、私は声を失う。それは、マスター適性を持っていた藤丸も同じだった。

 彼以外のマスター候補は、誰一人として無事ではないという。それが意味するのは、彼がカルデアでただ一人、特異点を探索するために残された唯一のマスターという事である。

 

「なら、すぐに凍結保存に移行しなさい! 蘇生方法は後回し、死なせないのが最優先よ!」

 

『ああ! そうか、コフィンにはその機能がありました! 至急手配します!』

 

 即刻、Dr.ロマンが言い切るよりも前に、オルガマリーが命令を下す。凍結保存、言い換えればコールドスリープ。

 これも、因果なのだろうか……?

 

 オルガマリーが下した決定は、マスターの命を救うものではある。が、それと同時に、とある問題も並行して発生する。

 それはマシュが、少しの驚嘆と共に口にした。

 

「……驚きました、凍結保存を本人の承諾なく行う事は犯罪行為です。なのに即座に英断するとは、所長として責任を負う事より、人命を優先したのですね」

 

「……わたしが、そんな崇高な人間に見える? 違います。死んでさえいなければ後でいくらでも弁明出来るからよ。だいたい47人分の命なんて、わたしに背負えるはずがないじゃない……!」

 

 まごうことなき、オルガマリーの本音だった。所長としてではなく、一人の人間として、47人もの命を背負う覚悟など持てないという宣言。

 彼女の若さから考えれば、それは決して責められるものではないだろう。人道に反していようと、少しでも責任から逃れたいという、人間の本能的な感情。

 それは誰しもが持つものだ。故に、彼女を責める者など、誰も居ないし、出来ない。

 

「……俺だけが、唯一健常で残ったマスター、か。ハハハ……笑えないぞ、まったく」

 

 そしてここにもまた、とてつもなく重い荷を否応なく任されてしまった、若きマスターが居た。

 この特異点を脱出するまでは、カルデアからの他マスターによる救援もなければ、支援すらない。現場で全ての問題を、マスターである彼がただ一人責任を負わされるのだ。

 人類の未来さえも懸かった、少年には重すぎる使命。そのプレッシャーは、きっと計り知れないものだろう。

 

 片や、若くして家督とカルデアを継がねばならず、早々に人生の選択肢を選ばされた者。

 片や、自ら選んでカルデアに来たとはいえ、自身にとって想定外にも程がある過酷な運命を突きつけられた者。

 

 オルガマリーと藤丸立香。全く似ていないこの二人ではあるが、しかし共に苦悩と死への恐怖、その背に負うには重すぎる使命を強いられている。

 なんとも、皮肉なものである。どんな過程、理由があったにしろ、選んだ者と選ばされた者、そんな二人がこうして特異点の破壊という、同じ境遇に立っているのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 しばらくして、一度通信から外れていたDr.ロマンだったが、再び戻ってくる。諸々の作業が済んだのだろう。

 マスター候補たちの冷凍保存についての詳細を述べ、現状を伝えて報告が終了する。

 

『……報告は以上です。現在、カルデアはその機能の八割を失っています。残されたスタッフでは、出来る事に限りがあります。なので、こちらの判断で人材はレイシフトの修理、カルデアス、シバの現状維持に割いています。外部との通信が回復次第、補給を要請してカルデア全体の立て直し……というところですね』

 

「結構よ。わたしがそちらに居ても同じ方針をとったでしょう」

 

 と、いう事は。Dr.ロマンもやはり優秀な人物であると考えられる。医療部門におけるトップなのだから、優秀なのは当たり前か。

 

「……はあ。ロマニ・アーキマン。納得はいかないし不本意ではあるけれど、わたしが戻るまでカルデアを任せます。レイシフトの修理を最優先で行いなさい。わたしたちはこちらでこの街……特異点Fの調査を続けます」

 

『うぇ!? 所長、モニターでも分かりますが、そんな爆心地みたいな現場、怖くないんですか!? チキンのクセに!?』

 

「う、うるさいわね!? 怖いわよ、それが何か!? レイシフト装置が修理中なら、どのみち帰れないし、ここに居る彼を除いた他のマスター候補が全員使えないなら、今ここに居るわたしたちで調査、その解決に当たる為の手立てを見つけておいた方が良いわ。実行こそ後回しにするけれど」

 

 チキンなのは周知なのね、オルガマリーさん。それと、そのチキンなりに色々と考えていたようだ。

 

「この街に居るのは低級な怪物だけだと分かったし、デミ・サーヴァント化したマシュが居れば安全よ」

 

『え!? マシュ、デミ・サーヴァント化って事は、今になって成功したってコトなのかい!?』

 

「はい、Dr.ロマン。レイシフトする直前で、英霊から契約の申し込みを受けたのです。ですが、彼は力をわたしに託して消滅してしまいました。真名も宝具も判らないままに……」

 

「ちなみに、マシュのマスターは俺だそうです」

 

『……そうか。そんな危険だらけそうな街で生き延びれたんだ。それはマシュのデミ・サーヴァント化あっての事なんだね』

 

「ともかく。事故というトラブルはどうあれ、与えられた状況で最善を尽くすのがアニムスフィアの誇りです。これより藤丸立香、マシュ・キリエライト、岸波白野とわたしの四名を探索員として特異点Fの調査を開始します」

 

 指名され、自ずと私たち全員の顔が引き締まる。いよいよ本格的に、この特異点の調査が始まろうとしているのだ。

 

「とはいえ、現場のスタッフが未熟なのでミッションはこの異常事態の原因、その発見に留めます。解析・排除はカルデア復興後、第二陣を送り込んでからの話になります。キミもそれでいいわね?」

 

 と、オルガマリーが立香へと確認を行う。だが、彼の顔を見ればその答えは一目瞭然か。

 

「了解。なんなら、別にこのまま解決までしてしまっても構わないのだろう?」

 

「構うわよ、このバカ! 訓練も無しにどこからその自信が来るのよ、ホント……」

 

『アハハ……でも、彼の言う事も一理ありますよ、所長。そもそも、今回レイシフトを急いだのはレフ教授が特異点の拡大という危険性を訴えた事からと聞いています。もしかしたら、第二陣を送る前に取り返しのつかない事態に陥る可能性だって十分にある。それに……』

 

 そこで、Dr.ロマンの声音が急に真剣味を増した。あまり伝えたくないが、仕方ないと言わんばかりに、それを口にした。

 

『こちらでも特異点に変異を認めました。特異点F改め、現在の名称は特異点F/S。人理定礎値もCからC+へと少しですが上昇している。何が起こるか、全く予測が出来ません。それこそ、不測の事態がいつ起きてもおかしくない』

 

 ……特異点の拡大。そういえば、レフは一刻を争うと言っていた。あの男の言葉を信じていいか分からないが、Dr.ロマンも同じ事を言っているのだ。やはりそれは真実なのだろう。

 

「特異点の変異……!? なんでわたしばかり、こんな目に……。ええ、分かりました。なら、解決出来そうなら、その場で解決に踏み切ります。ですが無理だと判断した時は、おとなしく引き下がる事。いいわね、藤丸くん? そしてあなたたちも」

 

「俺はそれでいいかな?」

 

「わたしも、異存はありません。先輩に従います」

 

「だってさ。私はオルガマリーのサーヴァントだもの。マスターの判断がよっぽどでもない限りは異論なんてないよ」

 

「……という事よ、ロマニ」

 

『了解です。健闘を祈ります、所長。これからは短時間ですが通信も可能ですよ。緊急事態になったら遠慮なく連絡を』

 

「………ふん。SOSを送ったところで、誰も助けてくれないクセに」

 

 もう、ひねくれてるなぁ。私なんかはDr.ロマンの声が聞けるだけでも安心するのに。

 別に恋とかではないよ? なんというか、家に居る安心感が持てる的な?

 

 短い時間ではあったが、こうして通信は終了となった。今後、必要に応じて通信を行っていくだろう───

 

「フォーーーウ!!!!」

 

「ひにゃ!?」

 

 そして私を襲う謎の物体。というか、この鳴き声は……。

 

「あ、フォウさん。帰ってきたんですね、良かった」

 

「いやいやいや! 何事もなかったかのように言ってるけどね? なんでフォウくんまで居るの!?」

 

 私の死角から胸へとダイブを試みたのは、あの可愛い小動物ことフォウだった。何故、この子までここに?

 

「どうやら、レイシフトの際にフォウさんも管制室に紛れ込んでいたようでして。あの事故現場でよく無事だったという事の方が疑問ではありますが」

 

「フォウは俺とDr.ロマンが管制室に駆け付けた時に一緒に居たんだ。多分、だからだと思う」

 

 それで、さっきまでこんなおかしな世界の散歩に行っていたと。なんというか、えらく肝の据わった子だよね、君。

 

「話を戻すわよ。……当面の目標として、街の反対側へと向かいましょう。霊脈を探している時に分かったのだけど、ここは都市部。大橋を渡った先に、こちらよりも酷い状況の市街地が見えたわ。おそらく、そちらが住人の主な生活の場でしょう。もしかしたら、生き残りや何か情報が得られるかもしれないから」

 

 オルガマリーの提案に誰も異を唱える事はなかった。よって、私たちは向こう側へと渡る事に決定したのだった。

 

 




 
ようやく落ち着いたでしょうか?
何度も言いますが、最初の方で述べたように所詮は自己満足ですので、ケチや文句をつけられましても、作品内での対応はしかねますので、ご容赦を……。(多分、今後もナニソレみたいな展開があるかもですから)

誤字や設定確認漏れなどに関してはありがたく参考にさせていただきますので。
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