Fate/Grand Order 凡夫なりし月の王 作:キングフロスト
※ご指摘いただいた聖杯戦争に関しての件を修正、調整致しました。ご指摘どうもありがとうございました!
大橋を目指して歩き始めた私たち。途中、何度も骸骨の化け物と遭遇したが、10体以上の群れはやり過ごし、数体程度であればマシュとオルガマリーで撃破。
消耗はなるべく少なくして、どうにか大橋の所にまでたどり着く。
「そんな……嘘、でしょ?」
だが、そんな私たちの目に映ったのは、とある一つの人影だった。濃い殺気を放つ、人間よりも強い存在感の持ち主。
腰より長く伸びた髪は足元にまで届き、二つの杭を鎖で繋いだ武器を両手に、魅惑溢れた妖艶な肉付きを包むのは際どい黒の衣装。そして、両の目を覆い尽くすように付けられたバイザー。
私は、彼女を知っている。
「ライダー・メドゥーサ……!!」
月の実権を廻って行われた三つの陣営の争いに際し、青い導師服のキャスターの軍に所属したゴルゴン三姉妹の末妹。
世界的にも有名であり、知らぬ者などいないであろう蛇の髪を持つとそれる女怪。視界に入れたものは
そんな彼女が、巨大な殺気を振り撒きながら大橋の前に陣取っていたのである。
「ちょっと待って。ちょっと待ってよ!? この街に居るのは低級な怪物だけじゃなかったの? それなのに、まさかサーヴァントが居るなんて……!?」
取り乱し、恐怖に顔を引きつらせるオルガマリー。無理もない、初めて向けられるであろう英霊の濃い殺気。私だって、初めての英霊との戦いで、サーヴァント越しにも恐怖を覚えた。
臆病な彼女にすれば、死神が突然目の前に現れたようなものだろう。
幸い、メドゥーサはまだこちらに気付いている様子はなく、私たちはすぐに近くの瓦礫に身を隠した。
「何故、サーヴァントが……?」
「それより、何で白野はあのサーヴァントの事を知ってるんだ?」
率直な疑問を口にするマシュと立香。マシュはともかく、立香の質問に、私は少し困ったが答える。
「軽くだけど面識があって……。その、貞操を奪われかけた事が……」
彼女自身も相当に美人なのだが、バイセクシャルの気があるらしく、キャスター経由で好みはスタイルの良い処女と聞いていた。
……決して私はペタンコではない。人並みにはあるはずだ。オルガマリーやマシュには負けるけど。
こちらの異変を察知したらしく、カルデアからも通信が入る。
『……これは拙い事になっているね。まさかサーヴァントが現界しているなんて。白野ちゃんは戦闘能力に欠け、マシュはまだデミ・サーヴァントになったばかりで戦闘経験が浅い。はっきり言って、サーヴァントと戦うにはあまりにも時期尚早が過ぎる』
「でも、だからといって迂回なんて無理だ。あの大橋以外に向こう側へと渡る手段は無いんだし……。俺たちに一気に向こうまで行けるような移動手段があれば話は別だけど」
「はい。彼女を避けて向こう岸にまで移動するのは不可能かと。戦闘は避けられないと考えるべきです」
戦闘も避けられないという言葉とは裏腹に、マシュの体は少し震えていた。当然だ、もしメドゥーサと戦う事になった時、マシュがその役目を負わなければならない。
デミ・サーヴァントと言えど、元々はただの女の子。マスター候補だったとか、魔術師であるとかは関係ない。サーヴァントとの戦闘という、純粋なる恐怖は、そう簡単に拭えるものではないのだ。
『……そうか! 『聖杯戦争』だ! そこ冬木では、かつて一度だけ聖杯戦争が行われたという記録がある。それが確か2004年だったはずだ! 細かな記録は残されてはいないけど、正しい歴史ではそんな酷い事態にはなっていなかったはず。ならおそらく、その特異点での聖杯戦争は既に狂っている! だからこそ、本来聖杯戦争ではサーヴァント同士の戦いであっても神秘を秘匿すべきはずなのに、周りを気にしない結果がその街の惨状だ!』
ずっと考え込んでいたのだろう、Dr.ロマンは思考の末の結論を声を大にして述べた。
サーヴァント同士が形振り構わず戦い、暴れ回った結果が、この街の無惨な姿……。そう聞いて、どこか納得している私が居た。
サーヴァント一騎が持つ戦闘力は、私のような無力な者も居れば、たった一人で国を滅ぼしうる力を持つ者だって存在する。
そのサーヴァントが街や住人への被害を無視して、力任せに戦ったとしたら?
……そこは、生半可な戦争よりも恐ろしい戦場となるだろう。
『しかし、探索を進めるなら、向こうに渡る為にもこの大橋を通る必要がある、か。どうかな、あのサーヴァントはそこから動く気配はあるかい?』
「……いいえ。まるで門番でも務めるかのように、微動だにもしません。近寄る敵を警戒しているようです」
『近寄る敵……? となると、彼女にとって敵となる存在が居るという事になるが、それは一体……?』
マシュの言う通り、メドゥーサは全く動く気配がない。だらんと杭を持つ手をぶら下げ、獲物がいつ来ても良いように、常に臨戦態勢のまま。
あの分では、いつまで待っていても彼女がどこかに立ち去る事はないだろう。
「そんな事は今はどうだっていいわよ! それより、ずっとここに隠れているワケにもいかない! いつ他の怪物に見つかるかも分からないのよ!?」
若干の癇癪を起こしているオルガマリーに、私は落ち着かせようと彼女の背中を優しく撫でる。泣き喚きたくなるのも分かるが、それで敵に気付かれては元も子もない。
「とにかく、メドゥーサをどう対処するかを考えないといけな───」
言いかけた、その時だった。
「!! 皆さん、伏せて!!」
マシュがいきなり叫ぶように声を張り上げて、立香を押し倒すようにして地面へと倒れ込む。
私もとっさに、オルガマリーの手を引いて、二人して倒れ込んだ。
その刹那──
ズゴガガッ!!
と、けたたましい削岩音が私たちの頭上で轟いたのである。
「な、何が……!!?」
まさかメドゥーサにバレて、攻撃されたのか?
しかし、まるでそんな気配はなかったが……。そしてその答えを、私たちはすぐに知る事になる。
「サーヴァントによる攻撃です! 敵はあのサーヴァント一騎だけではありません!!」
マシュが指差した先は、大橋の遥か鉄柱の頂き。曲線になっているそこに、微かに光る何かが見えるが、距離がありすぎて判別は困難。
だが、そこにサーヴァントが居たとするなら、超長距離狙撃が行われ、しかも正確に狙いが定められていたという事になる。アーチャー、か?
「でも、なんでここが分かったんだ!? 瓦礫に隠れてたのに!」
「……おそらく、ですが。わたしたちが大橋を塞ぐサーヴァントに気取られずに先に発見したように、あの狙撃をしてきたサーヴァントもまた、わたしたちに気付かれない位置からわたしたちを視認したのだと思われます」
盾を構え、続く二撃目に備えるマシュが推測を語る。それが合っているとすれば、どれだけ視力が良いのだと文句を言いたいところだ。
しかも、隠れた瓦礫ごと撃ち抜こうとしたとか。乱暴にも程がある。
『しまった……! 大変だ、今のでサーヴァントがそこに接近してきている!!』
そして、ここで新たに問題が発生した。Dr.ロマンの言うように、今の狙撃によって、メドゥーサにも私たちの存在がバレてしまったのだ。
見れば、彼女は大橋から一直線にこちらへと既に走り出していた。
「いや、イヤァ!!? 敵がこっちに来たわよ!? 戦いなさいマシュ!! もうこうなったら、あなたが戦うしかないじゃない!!」
もはや半狂乱となってマシュへと縋るオルガマリー。しかし、こうなっては戦うしか道はないか。今からでは逃げ切れないし、背中を狙撃手に見せるのは、それこそ愚行。
………もう、覚悟を決めるしかない。いざとなれば、私を犠牲にしてでもこの三人を逃がす。
私程度では、全く時間稼ぎにもならないのは分かっている。
「行こう。メドゥーサは私がどうにか引き付ける。マシュは狙撃からオルガマリーと立香を守りながら橋を渡りきって」
でも、それしかないのなら、私は三人を守る道を選ぶ。単なるサーヴァントである私が、今を生きる者たちの為に盾となれるのなら、それに越した事はない。
「な、にを……馬鹿な事を言ってるの!? あなたは、自分のクラスも知らなければ、戦闘能力だって無いじゃない! それなのに、あのサーヴァントを足止め出来るハズが……!!」
さっきまで泣き叫ぶ勢いで喚いていたオルガマリーが、少し正気に戻って私へと詰め寄ってくる。
「一応、策ならあるよ。限りなく負けに近い賭けだけどね。でも、それで成功して生きているあなたたちを死なせずに済むのなら、役立たずの私にとっては万々歳の成果と言える。それに、もう時間もない。メドゥーサはすぐそこまで迫ってる」
「で、でも……!!」
「オルガマリー。あなたは、僅かに生き残ったカルデアのスタッフたちをまとめなきゃならない立場にあるの。立香だって、この特異点での調査にマスターとして必要不可欠。マシュも戦力としては絶対に欠けてはいけない。なら、私がこの役目を負うのが適任。そうでしょう、カルデアの所長、オルガマリー・アニムスフィア」
有無を言わせている余裕はない。私は、強い語気でオルガマリーに決断を無理やりにでも強いた。
許可など得る暇もなく、勝手に了承を得たとして、瓦礫の外へと出る。
幸い、まだ彼女に姿は見せていなかったので、メドゥーサは狙撃があった場所に敵が居るという認識しかないはず。というかそもそもバイザーで見えないはずだ。こちらの人数までは把握していないに違いない。
ここで飛び出して私に意識を集中させれば、マシュたちが一気に動きやすくなる。さっきのマシュの反応速度からして、狙撃にもどうにか対処出来るはずだ。
「いい? 私が敵を引き付ける間はここで狙撃に備えて待機。私とメドゥーサがここから離れた頃合いを見て大橋を渡って!!」
「ま、待て、白野!!」
制止する声を無視し、私は視界の開けた場所へと躍り出る。無論、いきなり出てきた私に、メドゥーサは注目を向けてきた。
さあ、やるぞ……!!
「活きのイイ処女がここに居るぞーーー!!! 私の純潔、散らせるもんなら散らせてみろーーー!!!」
我ながら、恥ずかしい台詞を口走っているが、この狂った聖杯戦争。そして狂っているであろうサーヴァントも、本能の赴くままに行動をする可能性だってある。
月で彼女から守った純潔を餌に、メドゥーサをおびき寄せる。それが私の賭けだった。少しだけど自信ならある。だって彼女、私をガチで性的な意味で食べようとしていたし。
「来た!!」
そして、恐ろしいくらいに見事にメドゥーサが私目掛けて突っ込んでくる。到着される前に走り出し、三人が居る場所からなるべく距離を取る。
全力で走り、しかしメドゥーサは確実に距離を詰めてくる。私への狙撃がないのは、マシュが二人を守りながら橋を進んでいるから、狙撃手はその進行を止めようとしているのかもしれない。
「あっ……!!」
向こうの方へと気を取られてしまったからだろうか、私は小石に躓いて転んでしまう。そもそも召喚された時からずっと裸足だったのがいけなかった。
そのために、荒れ果てたこの街を痛みに我慢しながら進まねばならず、もはや私の足はボロボロになっていたのだ。
裸足に慣れてしまっていたとはいえ、横着せずにきちんとカルデアで靴を履いて生活すれば良かったと、過去に遡って自分を殴りたくなる。
まあ、ここも過去の世界ではあるのだが。
転倒したせいで、一気に距離を詰められてしまい、振り返れば美しい顔をニタリと歪ませ、欲情した美女の姿があった。
「フフフ……よく私が処女愛好家だと知っていましたね。どこかの聖杯戦争で縁でもあったのでしょうか。それに貴女もサーヴァント、ですがその様子では戦闘能力も無いようですね。なら、じっくりたっぷりと可愛がってあげた後に、優しく殺してあげましょう」
ゆったりと、獲物を痛めつけて楽しむように、私へとじりじり距離を詰めてくるメドゥーサ。
蛇のように舌をチロチロと覗かせて、私をどうやって陵辱しようかと、まさに舌なめずりをして笑っている。
彼女のバイザーの下に隠された目には、私がよがる姿が映っているのかもしれない。
「こ、怖くなんかない! これでも多くの修羅場を潜り抜けてきたんだもの! もっと酷い目に遭った事だってあるし! 全身を穴だらけに抉られたりとか!」
「あら、よく吠える口ですね。すぐに私が塞いであげますからね? ふふ、分かりますよ……見えなくとも。勝てない敵にでも果敢に立ち向かってみせるその勇気と、鈴のような透き通るその可憐な声。さぞ、愛らしくも美しい容姿をしているのでしょうね……。ああ、激しく鳴かせてあげますとも……!!」
……もう、逃げ切れない。万事休す、ここまでか。でも、三人が無事に橋を渡りきってくれたのなら、それで満足だ。
フォウも、無事だといいんだけどな。
───いや。まだ終わってなどいない。
……………この、声は。
───呼べ、我が名を。
声が、聞こえた気がした。
ひどく懐かしく、そして大切な人の声を。
───我が剣で、立ち塞がる敵を断ち切ろう。
ああ……やっぱり、気のせいなどではない。
忘れるものか。果たされた奇跡と犠牲の末に救われた、その儚くも美しい存在を。
なら、私がするべき事は決まっている。これまでと同じ。共に歩いたその名を、共に戦った私のサーヴァントの名を、口にするだけだ!
「来て──────
「───応えよう、私の
※アルテラが召喚された理由は、次回かその次にでも明かします。