Fate/Grand Order 凡夫なりし月の王 作:キングフロスト
「それで? 一体何が起きているのか、説明してもらえるんでしょうね?」
「話せば長くなるんだけどな~……」
ジトッとした目で見つめてくるオルガマリーさん。さっきは感涙の涙を流しながら抱きついてきたくせに。
一旦落ち着いたらこれだ。いや、説明するけども。
私たちはあの場を離れ、今はとある家屋に身を隠していた。なんというか、武家屋敷っぽい。こうなる前はさぞ裕福な暮らしを送られていたのだろうが、今や見る影もない。
それでも、他の建築物に比べればまだ破損も少ないほうで、生活の痕が読み取れるだけこの街では凄いと言えるか。
「不思議です。白野さんが無事なのは確かに嬉しいですし喜ばしいのですが、どうやって敵サーヴァントから逃れられたのかが唯一不可解です。それに、急にさっきまで続いていた敵の攻撃も止みました。一体何が……?」
「もしかして、実は白野も戦えるサーヴァントだったとか? 攻撃手段が無いって言ってたけど、実は隠し持ってたのか?」
オルガマリーだけでなく、各々が疑問や意見を口にする。二人が推測を語る必要はない。答えなら、私が持っているのだから。
「そうだね……マシュと立香、二人の疑問を一度に解消出来るように答えるなら、“私ではなく、協力者が助けてくれたから”かな?」
「ちょっと待って。協力者って何? カルデアからの支援や救助は現状絶望的だという話ではなかったの?」
と、私の胸元を掴んで揺すってくるオルガマリー。いや、割と本気で頭が痛くなるから辞めて下さいホント。
ジェスチャーで放すように促し、解放された私は咳き込みをして続ける。
「コホン。えっと、私ってサーヴァントだけど、こうなる前はマスターだったの。それで、その時に契約していたサーヴァントが色々あってこの指輪の中で眠ってたんだ。そのサーヴァントが、メドゥーサを撃退してくれて、今はオルガマリーたちを襲っていたサーヴァント──多分アーチャーかな? そのアーチャーと戦ってくれてる」
「サーヴァントというか、まるでマスターそのものだな、白野」
うん。立香の言葉に私も概ね賛成というか同意見だ。まずサーヴァントとしての自覚が薄いし、元々マスターとしてこれまでやってきたから、やっぱりマスターのほうがしっくりくる。
「私自身、まだ分からない事が多いけど、ひとまず納得してくれたかな、オルガマリー? それにマシュ?」
強く疑問を抱いていた二人に声を掛ける。どちらかと言えば、立香はあまり深く考えていない───というよりも、気にしていないようだった。
なんとも、立香と比べて二人は考えすぎるところがあるのだ。心配性というかなんというか……。
「サーヴァントがマスター経験者というのは驚きです。では、白野さんのクラスはキャスターという事になるのでしょうか?」
ふむ、確かに私のクラスとして妥当なのはキャスターだろうが、やはり何かが違うような気がしてならない。
そもそも、私は魔術師として素人。魔術に関する逸話なんて存在する筈もなく、魔術だってコードキャストしか使えない。ガンドみたいな自前で使える魔術すら出来ない私がキャスター?
うーん、やっぱりしっくりと来ない。
「……この際、白野のクラスが何だって構わないわ。重要なのはマシュ以外の戦力を得られたという事実。それで白野、そのあなたのサーヴァントは敵サーヴァントをアーチャーと仮定するけど、勝てそうなの?」
やっと真剣な表情に戻ったね、オルガマリー。さて、その質問にどう答えるべきか。
下手に隠し立てしても意味はない。どうせだ、この際はっきりと嘘偽りなく答えてしまおう。
「分からない。前より弱体化してるって言ってたし、勝ってほしいけど正直なところ、かなり厳しいと思う。深追いだけはしないで、危なくなったら撤退するようにだけは言ってあるけど……」
勝利までは望んでいない。もちろん、勝てるならそれに越した事はないけれど、無理をする必要なんてないし、無理をして勝ちにいくべきでもないのだ。
この地獄のような街を生き延びるためにも、確実性と安全性を何より重視しなければならない。
「そう……。状況はあまりよろしくはない、か。アーチャーが相手だとすれば、撤退もそう簡単にはさせてくれないでしょう。遠距離攻撃が得意な彼らにしてみれば、逃げる敵の背ほど格好の的はないでしょうし」
オルガマリーの言う通り。私も、そこだけが心配で、不安でならなかった。上手く逃げきってくれれば良いのだが……。
「………」
「どうした、破壊の大王とはこの程度のものだったのか? だとすれば、拍子抜けにも程がある」
つまらない、そう言わんばかりに、剣の切っ先をアルテラへと向けるアーチャー。アルテラは地に膝をつき、剣を杖にするようにして体を支えるのがやっとだった。
幾度となく、二人は刃を交え、重ね、激しく打ち合った。その度に大量の火花が散り、けたたましい金属音が鳴り響き、空気さえもが振動する。
アルテラの剣を、アーチャーは彼女のものより小さな双剣であるというのに、ものの見事に受け止める。
双剣の欠点は一撃の威力の低下だ。片手ずつで剣を振るうのと、両手で剣を振るうのでは全く重みが違ってくる。
しかし、その欠点を補う為の利点が、手数の増加と柔軟な対応性にある。衝撃を受け流し、片方が塞がっていようと、すぐもう片方が敵を襲う。
威力重視ではなく、技巧にこそ重視を置いた戦法こそが、このアーチャーの得意とする戦い方なのである。
「まだだ。まだ、終わっていない」
どうにか立ち上がり、再び剣を構えるアルテラ。本調子でないが故に攻撃のことごとくを軽くいなされ、自分の二倍で襲い来る剣戟の数々を防ぐ事で、彼女の体力も魔力も、既に枯渇しそうになっていた。
それでも、彼をマスターの元へは行かせまいとする心こそが、今アルテラを突き動かしている原動力に他ならない。
「弱体化の理由は知らんが、今のお前に私は倒せない。いさぎよく諦めて殺される事をお勧めするがね?」
「フッ。あいにく、私は諦めが悪くてな。どこかの誰かの影響でも受けたのだろう。それが誰かは貴様とて知っているだろう?」
苦し紛れではあるだろう。アルテラは無理に不敵な笑みを作って、アーチャーへと対峙する。
アーチャーも、彼女が誰を指して言っているのかは理解しているようで、つまらなそうに笑ってみせた。
「ああ、そうだった。
否定こそしないが、彼はその在り方を見下している。今の自分には程遠い事象であると、過去を切り捨てるような嘲笑。
「この私は、もはや本来の霊基から変質している。故に、かつてのマスターへの想いも薄れ、未練もさらさら無い。だからこそ、お前をここで討つ事さえも迷いはない。彼女が救おうとしたお前を、な」
その眼差しに慈悲は無く。冷たい眼光は冷酷かつ獰猛に、白い剣姫を見据えていた。
今からその命を奪わんとばかりに、彼は一息に彼女との距離を詰める。双剣が交差するように大きく振りかぶり、獲物の首を跳ねんがために───
「くっ!」
アルテラは反応出来ない。そもそもが無理に立っているような状況なのだ。とっさに剣を構えようするも、足から力が抜け、また地に膝をついてしまう。
「万事休す、か」
「すぐにマスターもそちらに送ってやるさ」
今にも、アルテラの首に左右の両側から凶刃が襲おうとし───
「『───燃え盛るは原初の炎なり』ってな?」
「!!?」
双剣がアルテラの首を跳ねようとした刹那、刀身を弾くように小さな爆炎が立ち上る。双剣は砕け、爆風はアーチャーとアルテラさえも軽く吹き飛ばし、さっきまで二人が居た場所では炎が黒煙を上げて立ち上っていた。
「何が……!?」
寸でのところで助かったアルテラだが、彼女にも何が起きたのか把握しきれていない。一つ分かっているのは、あの一瞬、何者かの詠唱らしきものが聞こえたという事だが……。
後方に押し出されたアーチャーも、すぐに体勢を立て直し、アルテラを見据える。否、その視線の先に居るのは彼女ではなく───
「なるほど、誰かと思えば貴様だったか。クラスが変われど横槍を入れるのは得意なのかね、キャスター?」
「ああ? 横槍なんざ決闘に入れたりなんざしねぇっての。だいたいこの聖杯戦争は狂ってやがるんだ。決闘もクソもありゃしねぇよ」
男の声に、アルテラも驚き振り返る。彼女より5メートルほど後方に、あからさまに術士の衣装を着込んだ一人の男が、身の丈ほどもある杖を構えて立っていた。
「つーかよ? この姉ちゃんが戦ってたのは、何かを守る為だ。なら、まだ味方になりそうなのを助太刀するのは当然だろうが。テメェと違ってまだ真っ当なサーヴァントっぽいしな」
「戦力増強の為に自ら出向いたという訳か。こちら側に来れたという事は、ライダーは橋から撤退したらしい。なるほど、それをやったのがお前という事か、破壊の大王。どうやら私はあの三人を仕留める事に掛かりきりになりすぎたようだな」
砕けたはずの双剣を、どういう理屈か、元通りの形で再度出現させたアーチャー。警戒心は先程までよりも強く、動きの鈍ったアルテラだけでなく、万全で現れた術士の男──キャスターに最大の注意を払って構えを取る。
「おっと。ここで
「逃がすと思うか?」
どう動いても対応出来るように、アーチャーは集中力を最大まで高めて、全身の筋肉へと魔力を通す。
だが、キャスターは得意気に笑ったままで、焦る様子もない。その理由は、明白だった。
「仕込みは上々。オレが何も策を練らずにノコノコ出張るとでも思ったか? このヤサグレ野郎」
「チィッ……!!」
アーチャーが何かに気付いたように、すぐさまキャスターへと向けて走り出そうとするが、それよりも早くキャスターは杖の尻を地面へと叩き付ける。
「『火と火を繋ぐは大地の裂け目。それすなわち火の山の唸り!』……つまりは大炎上しろってコトだ!!」
瞬間、杖と地面の接する地点から、校舎の屋上全面に広がるようにひび割れが発生し、節々から炎柱が出現し始める。
上手い具合にアルテラとキャスターから、アーチャーを阻むように炎柱が湧き起こり、やがて炎の壁が完全に彼らを分断隔離した。
「おい、ボーッとしてねぇで逃げるぞ! こんなんは即興の足止めだ。そのうち
「あ、ああ。すまない、助かった」
「礼は後だ! とっととトンズラすんぜ! 走れねぇってんなら肩を貸す。行くぞ!」
キャスターはアルテラが走る余力も無いと見るや、強引に腕を取り、自らの肩へと掛けさせる。
炎の向こうでは、アーチャーが怒号の叫びを上げているが、無視してキャスターはアルテラ毎に屋上から飛び降りる。サーヴァントならこれくらいで傷も負わないし死にもしない。
着地し、すぐさま瓦礫から瓦礫へと隠れるように後方を警戒して逃げる二人。
しばらくしても、アーチャーが追跡してくる様子はなく、どうやら上手く難を逃れられたらしい。
「ふう~。なんとか逃げきれたか?」
アルテラを下ろし、一息つくキャスター。術士のサーヴァントである割に、肉体労働はさほどキツくないようだ。
「重ねて礼を言わせてくれ。キャスター……だったか? お前の助太刀が無ければ、私はきっとあそこで消滅していた」
「よせよせ。だいたい知らん顔同士でもない。前は敵だったが、今のアンタはあの冷徹な遊星の化身じゃないだろ? だから助けた、そんだけだ。それに、あのお嬢ちゃんとは縁がある。二度ならず三度、そんで今回で四度目だ。アンタを見殺しにしちゃ、あのヒヨコマスターに合わせる顔もないからな」
面倒、そうバッサリとアルテラの礼を受け取らず、私情で助けたと語るキャスター。ならば、とアルテラもそれ以上は追及しなかった。
「まあ、なんだ。今はランサーじゃなく、森の賢者さんとしてキャスターのクラスで現界しちゃいるが、そのぶん使える駒が必要なワケよ。んで、アンタのマスターと合流しときたいんだが、どこに居るのかは分かってんのかね?」
「それなら問題ない。落ち合う場所は決めてある。ここから少し離れているが、大きな武家屋敷とやらで合流する手筈となっている」
作戦決行前に、予め決めていた避難所の目安。それが、現在白野たちが腰を落ち着けている武家屋敷であった。
「……あ~、あそこか。んじゃま、行きますかねぇ」
目的地が決まり、二人は敵に注意しながら進行を開始する。狂った聖杯戦争に、同じく狂ったサーヴァントたち。
この特異点での真の異常が何か。それを突き止める為にも、当事者の情報は必須。アルテラは、それを理解しているからこそ、信用しきれなくとも彼をマスターの元へと招く。
賭けであろうとも、現状では最も有効な手段であると考えた末に。
そして、キャスターと白野たちは邂逅する───。
「あれ? もしかしてクー・フーリン?」
そういえば、ビーストってそれぞれマークに違いが僅かに有るの、知ってました?
気になる方は見比べてみてね。