Fate/Grand Order  凡夫なりし月の王   作:キングフロスト

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第十七節 キャスターとの交渉

 

 アルテラと別れ、三人と合流してからどれほどの時間が経っただろうか。既に一時間は経過した気がするし、まだ10分と経っていないような気さえする。

 まあ、つまり私は心配のあまり、まともな時間感覚を失っていたのだ。と言っても、この街の惨状やいつまでも暗い空を考慮しても、正確な時間なんて分かるはずもないのだが。

 

「……やっぱり心配。私だけでも様子を見に行くよ。みんなはここで待っていて?」

 

 いくらアルテラでも、弱体化した状態で怪物ならまだしも、彼女一人にサーヴァントの相手を任せきりにしたのは失敗だったかもしれない。

 せめて、私も残って戦線で指揮を執っていれば、まだこんな心配をせずに済んだだろうに。

 

 立ち上がり、玄関に向かおうとする私だったが、

 

「待ちなさい」

 

 オルガマリーに腕を掴まれ、歩みを止められる。普段からキツい表情の彼女だが、今はいつにも増して険しい顔をしていた。

 

「今あなたが行ってどうなるの? もし白野があなたのサーヴァントを助けに行ったとして、そして二人ともが倒されるなんて事になったら、それこそ無駄死によ」

 

「けど!」

 

「行かせない。わたしがあなたのマスター、だからこれはマスターとしての命令です。ここで待ちなさい、白野。もうしばらく待って、あなたのサーヴァントが戻って来ないようなら、戦力はマシュだけと考えて行動指針を決めるわ」

 

「…………」

 

 有無を言わせぬ迫力でオルガマリーは私の手を強く握った。

 ……分かっている。私が今から行ったところで、どうにかなる訳ではないことくらい。戦えない私が行けば、ただでさえ弱ったアルテラの戦いの邪魔になる事も。

 だけど、理屈じゃない。私が信じていても、アルテラ本人が自らの力に自信が無いと言っていたのだ。マスターとして、側に付いていてやりたいと思うのは、魔術師としては愚かであろうが、人として間違いではないはずだ。

 

 でも、オルガマリーの言い分が痛い程に理解出来る自分がいるのもまた事実。

 残されたマスターの気持ちが分からない私ではない。だって私もマスターだ。もし、オルガマリーと同じ立場に私がなった時、きっと私は彼女の言葉を否定出来ないだろう。

 

「お、おい……今は喧嘩してる場合じゃないって」

 

 私とオルガマリーが険悪になりかけていると、立香があたふたと仲裁に入ってくる。こんな非常時、仲間同士で不仲になるのはいただけないので、正しい判断ではある。

 まあ、慣れていないのは一目で分かるので、逆に微笑ましくさえ思えるのだが。

 

「先輩の仰る通りです。どのような事であれ、仲違いするのはこの冬木の街では命取りに成りかねないと推測します。所長、白野さん。妥協案として、わたしと白野さんで様子を見に行くというのは? それなら、わたしが攻撃をガードしながら行き来が可能です。ただし、リスクが伴いますが……」

 

「もし敵に見つかった場合、あなたたちがここに戻って来る事はイコール、敵をわたしたちの元まで引き連れて来てしまう……という事でしょう、マシュ?」

 

 オルガマリーの指摘に、マシュは黙って頷いた。私は、そのやりとりを聞き頭を殴られたような衝撃を受ける。

 私はアルテラへの心配ばかりで、後の事を何も考えていなかったのだ。もし、無事に戻って来られたとして、敵を撃退出来ているとは限らない。

 こちらが逃げ帰った場合、それは他の仲間たちを危険に晒してしまう可能性とてある。思考が浅くなっている事を初めて自覚させられ、自分の浅慮さが嫌になる。

 

「なら、やっぱり行く事は許可出来ない。わたしはカルデア所長として部下をみすみす死地に向かわせるなんてしないし、それによって非戦闘員にまで危害が及ぶ状況は極力回避します。……白野の気持ちが分からないワケではないけど、今はチームとしての動き方を優先するべきなのよ」

 

「……オルガマリー」

 

 正論、そして彼女の気持ち。私の行動を律する彼女も、そのために心を痛めている。

 ……私は自分の事ばかりで、みんなの事が頭に無かった。

 

「……ごめん。私が浅はかだった。アルテラも、きっと死ぬ覚悟で私の作戦に乗ってくれたはずだもの。それなのに、私が命を放り出すような真似をしちゃいけないよね」

 

「白野……。頼りないかもしれないけどさ、俺たちだって居る! いざとなったら、俺が囮役だってするさ!」

 

 うん。励まそうとしてくれてるのは分かるんだけど、一応キミは現在カルデアで唯一無事に生存しているマスターなんだからね?

 そんな貴重な人材に、危険な役目をさせるワケないからね!?

 

 

 

「おうおう! 一端(いっぱし)に言うじゃねえか! 気に入ったぜ、坊主!」

 

 

 

 唐突に響いた男の声に、私たちは一斉に身構える。まさか敵にこの場所を発見されたのか!?

 そう思ったが故に、自然と警戒態勢に入ったのだが、すぐに私はある事に気が付いた。

 今の声、どこかで聞いたような───。

 

 深く考える時間もなく、足音が近付いてくる。音の感じからして、数は二人。そして、

 

「戻ったぞ、マスター」

 

「アルテラ!!?」

 

 最初に姿が現れたのは、白き剣姫こと私のサーヴァント。アルテラその人だった。彼女の死を覚悟したばかりの私としては、たまらず嬉しさが爆発して飛び付く勢いで彼女へと抱き付いた。

 

「え、なに、え?」

 

 突然の事で、目を白黒させているオルガマリーと立香。マシュだけは、デミ・サーヴァントであるからか、アルテラがサーヴァントであると肌で感じ取っているのだろう、まだ警戒を完全には解除せず、様子を窺っているようだ。

 

「よーう嬢ちゃん。毎度毎度、厄介な事に巻き込まれてるみたいで、まあ息災で何よりだ」

 

 アルテラの後ろから、さっきも聞こえた男の声が。その声は、どうやら私に向けられているみたいだが……。

 アルテラの肩の横から顔を覗かせ、その人物を確認する。と、同時に私をまたも驚愕させられる事になった。

 

「あれ? もしかして、クー・フーリン?」

 

「おうとも。呪いの朱槍をご所望かい? ……と尋ねたいところだが、あいにく今回は持ち合わせてない。この成りで察しはつくと思うがね?」

 

 私の問いに肯定で返した彼。確かに、いつも手にしている朱槍ではなく、木製の杖を持っている。それに、格好もなんだか戦士というよりは魔術師、それかドルイドっぽい感じがしなくもない。

 

「そこは追々話すとして、だ。そんでアンタらの中での頭目は誰だ? ちょいと交渉でもしようじゃねぇの」

 

 未だ固まっているオルガマリーと立香。私はとりあえず話を進める為に、オルガマリーを指差す。

 クー・フーリンは値踏みするように彼女をマジマジと見つめると、難しい顔をして困ったように頭を掻いた。

 

「なるほどな。いやまあ、こんな所に介入しようって連中だ。魔術師の連中が関与してるっちゃ想像はついてたが、まさかこんな若い女が死地にまで来るとはな。よっぽど切迫してんのかね、オタクら?」

 

「……な!? わ、わたしを侮辱する発言と捉えて良いのかしら!? わたしは誉れ有るアニムスフィア家の家督を継ぐ者です。貶される云われなど無いわ!」

 

 残念そうに話すクー・フーリンに対し、ようやく再起動したオルガマリーが若干ビビりながらではあるが反論する。

 やはり魔術師(メイガス)。魔術師である事を馬鹿にされるのは琴線に触れたのだろう。あと、若さを指摘されたのも彼女の経歴から考えれば、大いに関係しているかも。

 

「おっと。別に馬鹿にはしてねぇって。(おんな)子どもを戦場に出さなきゃならない程に、アンタらの生きる時代は殺伐とはしてないはずだろう? だが、その様子じゃそちらさんの状況もあまり良いとは言えないようだし、互いに面倒なコトになってやがるってね?」

 

 オルガマリーが怒った事には焦った様子はなく、むしろ茶化す感じで彼女を宥めるように軽く笑ってみせるクー・フーリン。

 彼に悪気があった訳ではなかったと、オルガマリーも分かったのか、眉間にシワを寄せてまだ少しぷりぷりと怒ってはいるが、やっと話が先へと進む。

 

「それで、交渉とは? あなたは何を望むのです?」

 

「まあまあ。とりあえず、そこら辺で腰を落ち着けて話そうや。せっかくこの街では珍しく形がそのまま残った家だ。商談やら交渉なんざは立ち話よりも座って腰を据えてやった方がいい」

 

 そう言って、彼は遠慮なくズカズカと居間まで歩くと、勢いよく座り込んだ。確かに立って話すのも疲れるし、長くなりそうならそのほうが良い。

 彼の言葉に一理ある、という事で、全員が腰掛ける流れになるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 互いに軽く自己紹介を済ませ、早速本題に入るクー・フーリン。蛇足ではあるが、彼の真名はあまりに有名なため、改めて名乗られた際にはやはりみんなにも驚かれていた。

 私が彼の名を口にした時は、気の良い兄貴分的な彼の口調から、まさか本物だとは思われなかったのかも。

 名高い大英雄がフランク過ぎるとか、オルガマリーなんかは特に信じられなかっただろうし。

 

「さて、名乗りも済んだ。まずはオレが置かれている状況、そしてこの聖杯戦争についての説明だ」

 

「やはりこの街では聖杯戦争が行われたのですね」

 

「いんや。その表現は正確じゃないぜ、マシュの嬢ちゃん。聖杯戦争は()()()()()()()()。つまり、現在進行形で続いてんのさ」

 

 ……聖杯戦争がまだ終わっていない。そんな予感はどこかにあった。何故なら、メドゥーサやアーチャーが私たちを襲う理由が、他に思い当たらないからだ。

 

「クー・フーリン。あなたも聖杯戦争に参加するサーヴァントであるなら、あなたのマスターは今どこに? 聖杯戦争であるなら、サーヴァントには契約するマスターが存在するはずよ」

 

「クー・フーリンにも、オレとマシュみたいな関係の人が居るって事か」

 

 魔術師として素人である立香が居るのは、私としてもありがたい。聖杯戦争に参加した事がある私だが、サーヴァントとなった今でも魔術師としては未熟で、知識も圧倒的に不足している。

 話に付いていくのも、正直なところ必死だったので、同じく理解しようと言った事を確認する立香には、私も大助かりだったり。

 

「居たには居たな。でもま、さっさと死んじまったよ。いや、オレのマスターだけじゃないな。マスター含めこの街の人間は誰一人として生き残っちゃいない」

 

「じゃあ、住人は全滅した……?」

 

「そうなるな。ある時を境に、オレたちの聖杯戦争は完全に別物へとすり替わった。一夜にして街は燃え上がり、この惨状だ。それに他にも疑問はあるぜ。マスターが不在だってのにサーヴァントの現界も保たれているってのは気味が悪いにも程がある。アーチャーでもあるまいし、単独行動のスキルなんざオレは持ってないんだがね」

 

 悪態にも似た文句を口にするクー・フーリン。聖杯戦争において、サーヴァントはよっぽどの例外でもない限り、魔力供給の源であるマスターが居なければ遅かれ早かれ消滅する運命を辿るもの。

 しかし、クー・フーリンにそんな兆しはまるで見られない。何かがサーヴァントの自然消滅を妨げる要因となっているのだろうが、それが何かまでは全くの想像もつかない。

 

「さて、この話の本題はここからだ。聖杯戦争が狂った時点で、セイバーが先手を打って出た。奴は街の異変なんぞ気にも留めずに他のサーヴァントを次々と撃破していった。そいつらはアンタらも既に目にした筈だぜ?」

 

 ───ライダー。そして、アーチャー。あの大橋を守るようにして陣取っていた、二騎のサーヴァント。

 だが、セイバーに倒されたはずの彼らが、何故消滅せずにいるのだろうか?

 

 私の疑問は顔に出ていたのだろう。クー・フーリンは面白くなさそうにその答えを口にした。

 

「倒されたサーヴァントは、その全てが魂を汚染された。消滅はさせずに、強制的に自分の配下として従えてやがるのさ」

 

「……ちょっと待って。セイバーはあなた以外に何体のサーヴァントを下したの?」

 

 何かに気付いたように、オルガマリーは恐る恐るといった具合でクー・フーリンへと尋ねた。私も、彼女の質問の意味を理解し、途端に血の気が引いていくのを感じる。

 

 その問いへの返答は、やはり最悪とでも言うべき内容であった。

 

()()()()()()()がセイバーに討ち取られた。たったの一騎に、五騎の英霊がだぜ? 笑えない冗談ってのは、こういうのを言うんだろうな」

 

 彼の言葉に、その場の全員が絶句した。アルテラでさえも、苦々しい顔をして、唇を噛み締めている。

 立香も、マシュも、オルガマリーも。身を以て彼らの危険性を体験しているからこそ、今の私たちが置かれている状況が如何に絶望的なものかを理解しているだろう。

 

「んで、奴らはいつの間にか湧いて出た怪物共を使って何かを探してやがる。その探し物の中には厄介なコトにオレも入ってるみたいでよ。そこで、だ」

 

 と、クー・フーリンは少し身を乗り出すと、オルガマリーを真っ直ぐに、その真紅の瞳で見据えて、自身の目的を語る。

 

「オレはこのクソッタレな聖杯戦争を終わらせたいんだが、戦力がオレ一人じゃ心許ないんでね。どうだい? ここは一つ、手を組むってのは?」

 

「なるほど。だから交渉、ね……」

 

 クー・フーリンの申し出は、こちらとしては願ってもない事ではあるが、それは同時にメリットとデメリットが発生する。

 私たちの戦力面を鑑みて、サーヴァントが一騎増えるだけでもこれから先の探索を安定して行える。正直、これはかなりありがたい。

 だが反面で、敵に狙われているという彼を味方に引き入れる事で、セイバー陣営からより狙われるという危険性が大きく増してしまう。

 

 オルガマリーは目を閉じて、黙って考え込んでいる。クー・フーリンが持ち掛けてきた交渉を、受けるべきか。それとも断るべきか。慎重に判断しているのだろう。

 しばらくして、ようやく決心したのか、彼女は重い口を開いた。

 

「……分かりました。あなたの申し出、受けるとしましょう。おそらく、セイバーはこの特異点を生み出す何かと繋がっているか、原因そのものである可能性とも考えられるわ。今のところカルデアに帰る手立てもないし、セイバーを倒す事で特異点の消滅が叶うなら、戦力は少しでも欲しいもの」

 

「よっしゃ! なら交渉成立だな。よろしく頼むぜ、お嬢ちゃんがた! それとそこの坊主もな? お前さんは男としてなかなかに見所があると見た。オレは気に入ったぜ」

 

「え、俺? あ、ありがとう」

 

 オルガマリーが了承した事で、目に見えて機嫌が良くなったクー・フーリン。そして名指しでお気に入り宣言された立香は、どことなく困惑したように礼を述べた。

 そういえば、彼は開口一番で立香を褒めていたのを思い出す。こういう性格の御仁なので、男らしい若者は人間として好ましく捉えているのだろう。

 

「……話はまとまったようだが、それでどうセイバーを討伐するつもりだ? お前はキャスター。私はサーヴァントとしては型落ちのセイバーだ。真っ向からでは到底勝つなど不可能だぞ」

 

 ここで、事の成り行きを黙って見守っていたアルテラが意見を述べてくる。ライダーとアーチャーと戦った彼女だからこそ、敵と真正面からぶつかるのは悪手だと分かるが故の意見だ。

 

「そこがネックだなぁ……。まあ、一騎ずつ確実に仕留めていくのが無難かねぇ?」

 

「セイバーを倒せば、そいつが倒した他のサーヴァントも戦意喪失したりはしないか?」

 

「その可能性も無くはない。が、(やっこ)さんを相手取るにしても他の邪魔が入るのは面倒くせえ。やるなら、セイバーは最後に回すべきだろうぜ」

 

 ………、ん?

 ちょっと待って。いや、ちょっと待ってほしい。何か忘れているような……。

 みんなの意見の応酬を聞いていて、私は何か引っ掛かる事があった。それは、撤退する間際のライダーとのやりとりだ。

 あの時、彼女は何と言っていた?

 

 

『別に。私はマスターからの撤退命令に従うのみ』

 

 

 確か、そう言っていたような……?

 その言葉の意味が、何であるのか。それが非常に気になって仕方ない。

 

「ねえ、クー・フーリン。セイバーは倒したサーヴァントたちにとってはマスターになるの?」

 

「ん? あー……そうだな。まあ、そうなるんじゃないのかねぇ? セイバーが倒したからこそ、奴らは汚染されて従ってるワケだし」

 

「そう……」

 

 何だか煮え切らない。何か、重要な見落としがあるような気がしてならないのだ。

 けれど、それがはっきりとは分からない。とても気持ちが悪い感じがする……。

 

 

 

 この街で蠢くナニカ。その正体は一体……?

 

 

 




 
もうすぐFGOも第二部ですね。
第一部が過去との対決でしたが、第二部は平行世界、剪定事象が舞台であるのは、1.5章の内容から見ても、もう確定と見て良いでしょう。
顔芸学士殿、敵でもいいから来ないかな……?
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