Fate/Grand Order 凡夫なりし月の王 作:キングフロスト
クー・フーリンとの交渉が成立したので、ひとまず現状報告のためにカルデアと連絡を取る事になった。
元々想定外のレイシフトであった事と、これまた予定外のオルガマリーのレイシフトへの巻き込まれ事故などもあり、まともにカルデアと通信出来るのは立香が所持している端末からのみ。
召喚サークルを設置すれば端末に関係なく連絡も取れるのだが、残念ながらこの武家屋敷には霊脈は通っていないようだった。
いや、元々はあったのだろうが、何らかの要因でこの一帯は枯渇してしまったらしい。キャスターが召喚された当初はまだここにも霊脈の流れを感知出来たとの事なので、おそらくは間違いないのだろう。
『あっ、やっと繋がった! そっちは大丈夫なのかい!? サーヴァントの襲撃を受けたみたいだけど、急に通信が途切れちゃうし! それから全く音沙汰が無かったからすごく心配したよ!?』
うぅ……。耳が痛いよ、Dr.ロマン。
よほど心配していたのだろう、通信が繋がった瞬間にDr.ロマンの大声が武家屋敷中へと響き渡る。その騒音に顔をしかめていたのは、私だけではなかったようで、サーヴァントたち以外は耳を押さえていた。
「Dr.ロマン、声量をもう少し落として下さい。所長が人払いの魔術を掛けてくれてはいますが、魔物に通用するとも限りません。敵から発見される危険は極力抑えないといけません」
『ああ、マシュも無事そうで何よりだ。それで所長や白野ちゃんも大丈夫なんだろうね? 通信が出来ているって事は藤丸くんは無事なんだろうけど。白野ちゃんはともかく、所長は小心者のチキンだから心配で心配で』
あっ。そんなこと言うから、オルガマリーが顔をすごく赤くして、鬼のような形相になってるじゃないか。
「誰がチキンですって、ロマニ!? あなたに心配されるほど、わたしは落ちぶれたつもりはないわよ!」
『うわぁ!? やっぱり無事でしたか、所長! どういう事か、映像がこっちに来ていないもので、皆の安否も音声でしか確認出来ないもので、つい……』
確かに向こうの映像もこちらには届いていないが、見えずともDr.ロマンのシュンとした顔が瞼の裏側に思い浮かんでくるようだ。
と、ここで通信の様子を観察するように眺めていたクー・フーリンが口を挟んでくる。
「魔術による交信か? いや、こりゃ礼装も使ってるな。それも現代の機械ってのを媒介にしてるだろ。魔術師の連中も神秘だ何だと言っちゃいるが、時代に合わせて進化してんのな?」
『ん? 聞き慣れない声だけど、一体……?』
ここでようやくDr.ロマンへと、クー・フーリンとアルテラについての説明をする私。当然と言うべきか、彼は私の説明が進む毎に逐一驚きのリアクションを返してくる。
何となく、説明の甲斐があるというか、話していて楽しいな。
『───つまり、白野ちゃんのサーヴァントとしてアルテラという英霊が現界し、そしてキミたちはキャスターことクー・フーリンと現地で遭遇して、彼と協力関係を結んだ。それで間違いないのかな?』
「うん。それで合ってるよ」
「そういうワケだ。ま、ここは一つよろしく頼むわ。つっても、通信越しの軟弱野郎にどうこう出来るとも思わんがね」
『うぅ……通信越しで顔を合わせてもいないのに、軟弱野郎呼ばわり!? ちょっと酷くないかい!?』
拗ねてるな、これは。でも、現状本当にそうなので、私ではフォローのしようが無いのだ。諦めてくれ、Dr.ロマン……。
「フォフォウ、フォウフォウ」
『……励ましてくれるのはフォウだけだなんて、悲しいなぁ』
「いいえ。フォウさんも、『まったくその通りだ』とクー・フーリンさんの言葉を肯定しているようです」
『…………ねぇ、僕は泣いてもいいのかな?』
おぉう……まさにマシュとフォウのダブルブローによる追い討ちとは。本気で彼が不憫に思えてきた。
「さて、与太話は置いといて。オレが知り得る敵サーヴァントの情報───つまりは真名だ。それを言っておく。とは言ってもだ、アサシンとランサーに関してはオレも正体までは掴めてないんだけどな。ま、四騎も敵の正体が分かってるってのは大きいと思うぜ」
「真名───ってのを知ってると、どう有利なんだ?」
そしてお馴染みの立香によるクエスチョンタイム。これに関しては私でも答えられる。
「英霊にもそれぞれの伝承や神話、伝説があるんだけど、それらに基づいて英霊はサーヴァントとしてクラスを割り当てられるの。それで、そういった基となるものには、彼らにとっての特徴や弱点、どんな武器や宝具を持っているのかも予測出来るから、真名を探るのは聖杯戦争では重要になってくるんだよ、立香」
「ああ、なるほど! ゲームで例えるなら、『効果は抜群だ!』みたいな弱点がサーヴァントにも有るんだな!」
「……?」
いや、その通りではあるんだけども。サーヴァントはともかくとして、現代を生きるオルガマリーやマシュですらも「何その例え?」みたいな顔になってるんだけど。ゲームはあまりしないのかしら?
まあ、私は分かるけどね?
私もその某ポケットの中の友達を集めて育てるゲームは暇な時にプレイしたもん。
ちなみにお気に入りはオレンジ色を基調とした犬のモンスター。可愛いし、“赤原猟犬”って単語がしっくり来たもの。
……おっと。少し思考が斜めに逸れてしまったようだ。
話を戻すために、クー・フーリンに敵の情報について催促をする。
「それで、敵サーヴァントの真名は?」
「まずはライダー。コイツはお嬢ちゃんもアルテラも遭遇したって話だったか? 真名は『メドゥーサ』だ。ゴルゴン三姉妹が末妹の蛇の怪物女だな」
「ああ。私が戦闘し、奴の片腕を斬り落としている。確実に戦闘へも支障は出るだろう。……奴の傷が元通りになっていなければ、だがな」
何かを懸念するように、難しい顔をして目を細めるアルテラ。いくらサーヴァントとはいえ、腕が再生するなんて宝具でも無ければ難しいと思うが……。
「次、バーサーカーだ。コイツが今のところセイバーの次に厄介だな。真名は『ヘラクレス』。言わずと知れた大英雄。英雄の中の英雄。正真正銘の怪物だぜ、コイツぁよ?」
『ヘラクレスだって!? 半神半人でギリシャ神話の主神ゼウスの子とされ、数々の伝説的偉業を成し遂げた大英雄と言われる、あのヘラクレス!?』
「そのヘラクレスだ。そんな傑物が狂化したときたもんだから、面倒なコトになってんのさ」
ヘラクレス……。おそらく、世界で最も有名な英雄の一人に数えられる存在と言えるだろう。誰もが一度はその名を聞いた事がある、英雄の中の英雄。
そんな大英雄が敵として立ちはだかるなんて、最悪だ。それは私だけが抱いた感想ではなかったようで、オルガマリーやマシュも同じく、顔を真っ青にして息を呑んでいた。
戦うにしても、倒すにしても。その名はあまりに重すぎる。英霊とは、その名が世界に轟くほどに強いものだ。強くなるものだ。英霊とはそういうものであるのだから、仕方ない事ではあるが、それが敵として現れた時の絶望感は計り知れないものがある。
「おうおう? 絶望的になるのはまだ早いんじゃないのかい? さて次だが、アーチャー。コイツは真名に関しちゃハッキリ言って知らねえ。が、腐れ縁のある奴でね。お嬢ちゃんも知ってるんじゃないのか?
「赤い外套の、アーチャー……」
知っている。私は彼を、知っている。月の聖杯大戦においては赤いセイバーの陣営に属し、彼女の副官を務めていた無銘の英霊。
しかし、朧気で微かな記憶の中に、彼との何か大切な想いがあるように感じるのは、何故だろうか?
「彼も、ここに……?」
「だが、奴はお前の知るアーチャーとは既に別物に成り果てている。セイバーの仕業ではあるだろうが、アレはもはや堕ちた英霊だ。見知った顔、知らぬ仲ではないとしても、気を許すなよ、我が虜」
──そうだった。アルテラは、彼と交戦したのだ。そしてクー・フーリンに助けられた。アーチャーと戦い、そして彼が狂ってしまった事を誰より知っているのは、他でもないこの二人。
ならば、あの無銘の英霊が、狂気に堕ちてしまったといつのは、真実なのだろう。
「……それで、肝心のセイバーの真名は何かしら?」
オルガマリーが早く言えとばかりに、クー・フーリンをまくしたてる。
それに対して、彼はやれやれとあまり困った風でもなく、淡々と答えた。
「締めはラスボス、セイバーだ。コイツに関しては、真名を口にするよりかは、その宝具が何かを語ったほうが早いかもな。それこそ、ヘラクレス以上に有名と言ってもいいほどの、聖剣の中の聖剣。黄金に輝ける栄光の剣───聖剣エクスカリバー。無論、その使い手とてお前さんたちも知らんはずがないだろ?」
「───円卓の騎士の一人であり、その彼らを束ねるブリテンの王。聖剣エクスカリバーの担い手であり、最後の騎士の物語とされる、『アーサー王伝説』の主人公その人……騎士王アーサー・ペンドラゴン」
流れるように、マシュの口からセイバーの正体、その素性が語られる。
アーサー王。
その事実は、ヘラクレスが敵に回ったと聞いた時の比ではない衝撃を私たち全員へと与えた。エクスカリバーは世界一有名であると断言出来る聖剣だ。
ヘラクレスと比べれば、英雄としての実力は一歩譲るかもしれない。だが、そのヘラクレスをも倒したというのなら、セイバーの力はホンモノ以上。
この冬木の地では最強である事は疑いようがない。
「アーサー王、か。まさかここでも
アルテラの感慨深そうな声音が、嫌に耳に響く。
と言っても、アルテラが私たちの味方になった事で、彼女は聖剣を巨神へと振るう事はなかったのだが。
驚愕は恐怖へと変わり、希望は絶望に押し潰される。オルガマリーはもちろんだが、立香もその名を知っていたのだろう、悲壮に満ちた表情からはその心の内が読み取れる。
「最悪よ……ヘラクレスにアーサー王が敵? それって何かの冗談? メドゥーサだってそう。神話の怪物まで現界し、その牙を剥くなんて……どうしてわたしばかり、こんな目に……!?」
「アーサー王は流石に魔術に素人の俺でも知ってるよ。エクスカリバーなんて、色んなゲームやアニメでも登場する最強クラスの武器だ。それが、現実の敵として現れるのは想定外すぎるけどさ」
「所長、先輩……」
二人の心配をするマシュでさえも、敵の強大さを耳にして、恐怖心から震えていた。
……今この場でまともに英霊と対峙した事があるのは、カルデアからレイシフトしてきた中では私だけだ。
私が、しっかりみんなを引っ張ってあげないと。
「クー・フーリン。アーチャーとライダーはあの橋を守るようにして配置されているようだった。それぞれに役目が与えられているの?」
「そうさな、アイツらはオレを通さないように見張り役をしていた。要は門番だな。実のところ、お前さんらの騒動のおかげでオレもこっちに渡れたワケだし?」
えっ。
……えっ。
という事は何か。私がメドゥーサに陵辱されかけていた時に、近くに居たと?
それについて問いただしてみると、
「いやぁ、あん時はオレもオタクらが敵か分からなかったし、邪魔なヤツらが消えて通れるじゃんラッキー! ……程度に考えてたからな。それにまさかお嬢ちゃんだとは思わねえだろ? まあ、なんだ、悪い悪い!」
軽いノリで謝ってくる始末。それを私の隣で聞いていたアルテラは、冷たい視線をクー・フーリンに送っていた。
こういうのを静かな怒りと言うのだろう。あからさまに怒っているより遥かに恐ろしいので、隣で黙って怒気を放つのはやめてホント。
「見張り──という事は、他にも役目を与えられたサーヴァントが?」
ここでマシュが軌道修正してくれた事により、幾分かアルテラの怒気が収まっていく。怒りが他へと集中を逸らした事で和らいだみたいだ。正直、かなりありがたい。マシュに感謝だな。
「おう。ランサー、アサシンはオレを探して仕留める役割を持っていた。言っちまえば、向こう岸はオレを閉じ込め殺す為の檻みたいなもんさ。あそこでヤツらに遭遇しなかったのは、お前さんたちも運が良いぜ。アサシンはともかく、ランサーは放てば確実に敵を仕留められるだけの宝具を持ってるからな」
「では、バーサーカーは?」
「バーサーカーは
そして、そこに新たに私たちという不確定要素が現れた、と。なら、更にセイバーの警戒は強まるはずだ。
離れていてもメドゥーサに指示を出せた事から、ランサーとアサシンもこちら側に帰還命令を出されていると考えてまず間違いないだろう。
「最後にセイバーだが、ヤツは細かく説明するまでもなく、単純に言えば司令塔だな。だが、手下なんざ使わずとも、あの野郎が出れば早い話だってのに、山奥の洞窟ん中に引き籠もってるのは、ちょいとばかし気になるな」
『洞窟に……? むむむ、とても怪しいよ、それは。クー・フーリン、その洞窟はどの辺りに有るか分かるかい?』
「あん? 街の西側も西側。寺の近くの山中だぜ」
『今の修復段階だと少しキツいけど、どうにか街全体のモニターを展開しよう』
と、Dr.ロマンはその点が気になったらしく、クー・フーリンから伝え聞いたポイントを確認するや、少し通信が切断される。
そして5分と経たずして、再び通信が接続されるが、
『良くない報告だ。確かに山中に妙な反応がある。というか、巨大な魔力反応が認められたんだけど……。どう考えても一サーヴァントが発していい魔力の大きさじゃないよ!?』
Dr.ロマンの慌てぶりからして、おそらく想像以上なのだろうが、もしかするとそれがセイバーが動かない───いや、
「なら、やっぱそこに聖杯が有るな。その魔力反応は十中八九、この聖杯戦争での景品たる聖杯だろう。なるほど、
「聖杯か。セイバーはそれがよほど大事らしい。ならば、セイバー、バーサーカーはこちらから仕掛けない限りは無視出来る範囲内か。他のサーヴァントを相手取る邪魔はしないし、出来ないだろうからな」
怒気はどこへやら、アルテラは淡々と敵の内情を分析していく。さてと、少ない情報からでも予想より良い考察が出来ているところで、弱腰の二人に喝を入れておくかな。
「オルガマリー、それに立香。確かに敵はとんでもなく強大だけど、勝たなきゃ世界が終わるし、私たちも帰れない。こうなったらもうやるしかないよ」
「……前向きね、あなたは。よくもまあ、こんな絶望的状況で上を向いていられるものだわ」
「それが、私の取り柄だし数少ない武器だからね」
フフン、と自信を込めて笑ってみせる。そうとも、私はこれまで何度だって危機的状況に陥ったけれど、諦めなければ何とかなるという事を知っている。
場合にもよるだろうが、何もしないうちから諦めるのだけは間違っている。それだけは断言しよう。
「……。そう、だよな。こうなったらヤケだ! いや、無様に足掻いてでも勝ってやろうぜ!」
どうやら、立香は吹っ切れたらしい。あとはオルガマリーだけだが……、ふふっ。あまり心配は要らないみたい。
「分かった、分かったわよ。やってやるわよ!! どうせここで勝たなきゃ未来は無いもの。なら、どうせ死ぬなら、死に物狂いで戦うだけだわ!」
立ち上がり、ガッツポーズでやる気を見せるチキン所長さん。勢いあまってスカートがすごく翻ったが、興奮気味なので気付いていないっぽい。
あ。立香が猛スピードで目を逸らしてる。
「おっしゃ! その意気だぜ若人ども!」
クー・フーリンは、そんな二人の姿を見てカラカラと笑っていた。……が、その彼をアルテラがまた見つめている。何というか、今度のは怒りからのものではなく、何かを疑っているかのような……?
「キャスター。お前、本当にランサーの正体について心当たりが無いのか?」
「ほう? そりゃまたどうして、そんな事を聞くのかね?」
「ランサーの宝具について、それなりに詳しいようだったからな。まるで宝具の真名解放を見ているかのように……」
クー・フーリンへの疑惑の念が、彼女の内で渦巻いているのか、彼を見るアルテラの目が険しくなりつつある。
せっかく良い感じになってきているのに、一触即発とか勘弁───、
『!! みんな、サーヴァント反応だ! すごい速さで近付いて来ている!』
敵の襲来をDr.ロマンが叫んで知らせてくる。この武家屋敷は他の場所と比べて損壊が少ないというだけで、絶対の安全圏という訳ではない。
ならばこそ、敵だってここに入って来られる。戦闘を行うには些か狭すぎるが、逆に色々と仕込みやすいか……?
敵の接近の報せから間もなく、急にオルガマリーが血相を変えた。そういえば人払いの魔術を掛けていたと言っていたが、もしかするとそれが強引に破られた事を察知したのかも。
そして敵は現れる。中庭に降り立ったその人影に、私は思わず掠れた声が出た。
「……………ぁ」
その顔を、私は知らない。だけどそこには、とある人物の面影があった。
少し厚めの鎧を纏い、青い髪に、獣のように獰猛な眼光、手にした槍は血のような真紅に染め上げられている───。
「さーて、一応聞いとくが、どいつから死んどく?」
───槍を向け、凶暴な笑みを浮かべて立つのは、
「クー・フーリン……!?」