Fate/Grand Order  凡夫なりし月の王   作:キングフロスト

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第十九節 暗き太陽の御子

 

 青い槍兵は、猛々しくも凛々しい顔付きでありながら、その双眸に狂気を覗かせ、その口元を邪悪に歪ませていた。彼の様相から見て、もはや正常な精神を保てていない事は明白。

 

 さながら闘争心を剥き出しにした獣の如く、彼は獲物である私たちへと順々に鋭利な視線を向けていく。

 と、その中で、キャスターのクー・フーリンを視認するや、彼は意地の悪い笑みを浮かべて、槍の切っ先をそちらに向けて掲げた。

 

「ヘッ! なんだアンタもこっちに来てたのかい。なら探す手間も省けたってもんよ。なあ、クー・フーリン(もう一人のオレ)?」

 

「チッ。こちとらテメェにだけは見つかりたくなかったんだがな。出来るなら失せてくんないかね? 未熟な自分とか恥ずかしくて見れたモンじゃねぇしよ」

 

 あちらのクー・フーリンが喧嘩腰なのに対して、こちらのクー・フーリンはとても面倒くさそうに彼を邪険にあしらう。

 同じクー・フーリンではあるが、二人の違いは明確にはっきりと分かれている。

 クラスの違い故に装備がまず全く異なっており、キャスターのクー・フーリンが落ち着いた熟練の風格を醸し出しているのに対し、ランサーのクー・フーリンは若さと荒々しさが前面に出て来ている。

 

 だが、見た目に差異はあれど、同じ英雄がサーヴァントとして召喚されているのは、一体どういう事なのだろうか。

 

 当事者たち以外が困惑を見せる中、アルテラだけは唯一得心したというように、納得の声を上げる。

 

「ああ、なるほど。そういう事だったか。何故ランサーについてはぐらかしたのかが分かった。本人が未熟だと感じている頃の自分が召喚されているんだ。確かに、自らの恥部を人に言いふらすのは気が引ける、という事か?」

 

「ハッ! 言ってくれるじゃねえか。オレにしてみりゃ、魔術師なんざに身を堕とした自分なんざ見たかねぇけどな」

 

「誰が好んでキャスターなんかで喚ばれるかっての。テメェが先に召喚されてたせいで、こうなってんだろうが」

 

 三騎の英霊が、互いに牽制しあうように言葉の応酬を繰り広げる。ただ一つ言えるのは、こちらの二騎に比べて、ランサーは非常に好戦的な性格を、言葉の端々から漂わせていた。

 具体的には、その声音全てがやたらと挑発的なものであるのだ。

 

 ……だが、これはある意味で好機なのでは?

 自身の過去の姿であるランサーが相手なら、キャスターはその手の内を把握しているはず。細かな癖、身のこなし、過去の己の実力……など。

 それらを覚えているのなら、アルテラが弱体化したとはいえ、こちらは二騎。戦力としては劣勢でも、戦術面においては優勢に立てるはず。

 

「アルテラ、クー・フーリン……は紛らわしいな。じゃあキャスター。彼が過去のクー・フーリンの姿なら、それより先を進んだクー・フーリンの居るこちらに分がある。ここでランサーを仕留めよう」

 

「……ああ、なるほど。そう考えちまうか。ま、普通の人間なら、それで(まか)り通るだろうがよ」

 

 私の発言に対し、ランサーは憐れむように、見下すように、面白いとばかりに嗤い声を上げる。

 何がそんなに面白いのか。私が分からないでいると、キャスターが彼とは正反対に、とても面白くなさそうに解説した。

 

「嬢ちゃん。英霊ってのは幾つか側面を持ってる奴もいる。オレがランサー、キャスター、はたまたバーサーカーとして召喚されるように、昔の自分がこうして召喚される事だってあるんだ。んで、厄介なのはどのクラス、年代であれ召喚された英霊ってのは()()()()()()()()()()()()()()()()現界する」

 

 ……それは。

 

「……理解したくなかったけど、理解したわ。つまり、ランサーがキャスターにとっての過去の自身であっても、そのランサーは未来の自分であるキャスターとしての記憶も有している。だから、相互に手の内が全て読める状況というワケね?」

 

 オルガマリーがキャスターの説明から、知りたくなかった真実を語った。

 そんなの、互いに手札を見せ合いながらババ抜きをしているようなものじゃないか。勝負がつかない───いや、違う。この聖杯戦争においては、例外的にそれは成り立たない。

 

 キャスターが通常の霊基であるのに対して、ランサーは汚染された上に仲間が居る。ランサーは敵を見つけさえすれば仲間を呼ぶだけで良いのだ。

 多対一。それがキャスターがこれまで逃げ隠れしていた理由に他ならない。それを失念していた……!!

 

「そういうこった。つっても? オレは根っからの戦好きだからな。特に一騎打ちは戦争とは比べものにならんほど格別でね。増援を呼ぶなんざ野暮な真似はしねぇから安心しな」

 

 こちらの思考を読んだかのように、獰猛に歪んだ笑みを私へと向けてくるランサー。ふと、私を見るその目つきが変わりつつあるように思えたが、気のせいだろうか。

 

「だがまあ、まだこっちが少し優勢なのは確かだな。何せこちとら敵さんにとってはダークホースなセイバーが居るんだ。コイツとは互いに手の内はバレバレだが、奴らに知られてない戦力があるのは大きいぜ?」

 

 キャスターがニヤリと、私とアルテラへと一瞬だけだが軽く視線を送る。どうやら、彼にしてみてもランサーを倒すまたとない機会であると考えているようだ。

 

「それだ。唯一不可解なのはそれなんだよな。オタクらは何なんだ? この聖杯戦争には居なかったはずのサーヴァントがひぃ、ふぅ……三騎か。どこの誰かは知らんが、アンタたちの存在だけはウチのマスターも計算外らしいからな。不確定要素は排除しろってよ」

 

 と、ランサーが槍を構える。ここに彼が来たそもそもの目的を果たす為に。

 

 キャスター、アルテラが私たちを守るように前に出ると、二人も自らの得物を手に出現させ、戦闘の構えに入った。

 今からではもう逃げられない。オルガマリーたちだけでもこの場から遠ざけるべきかとも考えたが、離れている間に他の敵に襲われないとも限らない。

 なら、二人の戦いの邪魔にならないように後方に控えたほうが賢明だろう。

 

「オルガマリー、立香は下がって。マシュはもしもに備えて後方二人の護衛。私は出来るだけ戦闘を近くで見て、ランサーの動きを観察するから」

 

「了解。ですが、それでは岸波さんの身が危険では……」

 

「心配ありがと、マシュ。でも私はそういうのに慣れてるから大丈夫」

 

 何も無意味に我が身を危険に晒すのではない。危険を伴うが、だからこそ得られるものもある。

 その私の意図を汲んでくれたのだろう、オルガマリーは何も言わず、黙って私の言葉に頷いた。立香も同じように、親指を立てて励ましの笑顔を向けてくる。

 

 言葉が無くとも、伝わるものがある。仲間とは素晴らしいものだな……。

 

「ケッ。オレは一騎打ちが好きなんだがな。ま、仕方ないっちゃ仕方ねぇ。そも、オレとて性能(スペック)は召喚時よりも上がってるんだ。そんくらいのハンデが無くちゃ───なァ!!!」

 

 言い切るよりも早く、ランサーは駆け出していた。一息、一足跳びで一気に距離を詰めるや、キャスターへとその魔槍を突き立てる。

 が、やはり若い頃と言っても己自身。思考パターンが読めているとばかりに、彼は音速の槍の一突きを杖で打ち上げた。

 

「やっぱ若い時のが血気盛んだな、オレ……!」

 

「そういうアンタ(オレ)も、ドルイドの真似事やってる時は幾分か冷静じゃねぇの!!」

 

 槍を大きく反らされて、腕もその反動で釣られて動く──かと思いきや、瞬時に槍を片手に持ち替えており、槍と共に浮かされたのは片腕のみ。空いた左手はそんな事はお構い無しに、指で空中に何かを描く素振りを見せる。

 

「斬る!!」

 

「甘いねぇ!!」

 

 隙有り、とアルテラが踏み込み剣を振り抜かんとするが、その一閃は途中で何かに阻まれ、ランサーには届かない。まるで、見えない壁にでもぶつかったような……?

 思い切り斬り込もうとしたが故に、今度はアルテラがその反動で大きくのけぞり、すかさずランサーの蹴りが腹へと食い込み、彼女を軽く押し飛ばす。

 

「余所見してんじゃねぇよ」

 

 そこへ、今度こそ隙だらけのランサーに、キャスターは杖を振り下ろす。しかし、ランサーは上体をズラし鎧へと杖の一撃を受ける事で、ダメージを受け流した。

 木製の杖であるばかりに、鎧が衝撃を弾いてしまいランサーにはダメージが全く通過していかない。

 

「チッ。やっぱ面倒くせぇな、自分と戦うってのはよ」

 

「コッチの台詞だぜ! オラァ!!」

 

 ランサーは肩で受け止めた杖を、勢いを付けた肩の上下運動によってはねのけると、反動が収まっていた槍を持っていた方の腕をそのまま振り下ろした。

 

 槍は切っ先にこそ殺傷力があるが、その柄とて十分な凶器と成り得る。刺さずとも、打つ事は出来るのだ。

 このまま行けば、無視出来ないダメージをキャスターは負ってしまう。

 

「くっ……させん!!」

 

 そこへ、即座に体勢を立て直したアルテラが、離れた位置から剣先より光線を発してランサーへと射出した。

 星の光にも見紛うそれは、光速でありながら緩やかな曲線を描いてランサーの元へ吸い込まれるように飛来する。

 彼がキャスターへ槍を振り下ろすよりも早く、光線はランサーに接近すると判断したのだろう。彼はキャスターへの攻撃を中断し、そのままの振り下ろす勢いで、アルテラの放った光線を全てはねのける。

 

「そら、がら空きだよ若造!」

 

「ガッ!?」

 

 キャスターもその僅かな隙を逃さない。アルテラがどうにか作った一瞬の隙、ランサーが彼女の攻撃を防いだところを、キャスターはランサーの腹目掛けて杖を突き出したのだ。

 流石にコンマ単位で繰り広げられる攻防に、ランサーもガードしきれず、まともに攻撃を受ける。更に、今の一撃だけでは終わらず、杖の側面に小さなルーン文字が浮かび上がると、次の瞬間には小規模な爆発と共にランサーの体が勢いよく吹き飛ばされた。

 

「キャスターってのは元々オレの性には合わないんだが、槍の時とは違って小細工がし易い。一発一発に何かしらの細工が仕込めるってのはよ、それはそれで厄介なもんだろうさ」

 

「チィッ!! ドルイドの真似事風情で、やってくれるじゃねぇか!!」

 

 得意気に語るキャスターだったが、今のを喰らってもランサーはすぐに態勢を立て直す。私から見ても、今の一撃はそれなりに良いダメージが入ったように見えたのだが……。

 どうにも、小さいとはいえ爆発を受けたにしてはピンピンしてないか、このランサー?

 

「ちょいとばかし頭にキたんで、そろそろトばして行くかねぇ!!」

 

 獰猛な笑みは、更に醜悪で凶暴な笑みへと変貌を遂げる。犬歯を剥き出しにし、目に見えてランサーの全身の筋肉が膨れ上がるのが分かる。体の内から湧き出るように、黒い魔力がオーラのように立ち昇り、空気に触れるや蒸発していく。

 明らかに、通常のサーヴァントからは常軌を逸している身体能力の強化───いいや、むしろこれは狂化だ。

 あれが単なる強化だとは思えないし、そうでないと断言する。これも、セイバーに敗れ霊基を汚染されたが故の結果なのだろうか。

 

「あん? 一騎打ちが好きだのとほざいた割には、他人から与えられたモン使ってんのな。情けないねぇ、汚染されて変わっちまったってか?」

 

 キャスターも、あれが単なる強化ではないと見抜いたのだろう。そもそもランサーは彼自身でもあるのだから、あのような自己強化を彼は出来ないという事か。

 それにしても、だ。キャスターはランサーを未熟な頃の自分と評したが、私からすれば英霊として彼を召喚出来る時点で、未熟も何もないと思うのだが。

 

「確かに他人からの貰い物だが、制御しちまえばオレの物だ。頭ん中をグチャグチャにかき混ぜようしてくるが、それを耐えるに見合った力をオレは得られる! アンタもこっちに下れば、この力の凄さが分かるだろうぜ。もっとも、アンタさえ消せばこの聖杯戦争も終結しちまうがよ!!」

 

 ランサーが咆哮する。獣にも似たその唸りは、空気を振動させる程に轟き、ピリピリとした空気が、私の肌を通して伝わってくる。

 

「シッ!!」

 

 それは何気ない動作。軽く跳んだだけの事だ。

 だけど。気付いた時には、ランサーの姿は視界から掻き消えていた。

 

「なっ、グハ!?」

 

 いつの間にかキャスターの眼前へと移動していたランサーの膝蹴りが、キャスターの体を大きく浮かせる。続けざまにもう一発、クルリとその場で回転しながら放たれた回し蹴りが、キャスターへと襲いかかった。

 

「ぐっ、ガッ!?」

 

「そうら、テメェの槍だ! 受け取りなぁ!!」

 

 とてつもない勢いで転がっていったキャスターに、トドメとばかりに追い討ちで朱槍を投擲しようとするランサー。

 

「ハァッ!!」

 

 と、そこへ槍が投げられる直前で、アルテラが割って入る。振りかぶられた槍を叩き落とす勢いで、ランサーの頭上から斬り掛かるが、

 

「さっきから邪魔だっての!! オラァ!」

 

 狙いをキャスターからアルテラへと変更するや、ランサーはそのまま槍をアルテラへと投擲した。投げ放たれた魔の朱槍を、軍神の剣で受け止めるが、力負けしているために体ごと押し返されてしまう。

 どうにか槍に貫かれぬよう、軌道を反らしたので、ダメージは負わずに済んだが、今の攻防だけで分かってしまった。

 

 今のランサーは、アルテラとキャスターの二人掛かりでも勝てないかもしれない。それだけの力量の差が、彼らには存在しているのだと。

 

「くっ……能力の全てが向上しているか。私が弱体化してさえいなければ、ここまで苦戦を強いられる事もなかっただろうが……」

 

 着地し、剣を構え直すアルテラ。しかし、その顔には焦りが見られる。圧倒的なまでの力の差を、彼女も実感したのかもしれない。

 

「ゲホッ、ゴホッ……。無い物ねだりしたって変わらねーよ。今ある手駒でどうにか切り抜けるしかねぇんだ。にしてもイッテェなぁ、おい!!」

 

 血反吐を吐いて立ち上がるキャスター。腹と脇腹に一発ずつ重いのをもらったのだ。そのダメージは無視出来るものではないはず。

 

「キャスターになってもしぶといのだけは健在ってか? 我ながら呆れたもんだ」

 

「しぶとさには定評があるもんで。メイヴの時とか、一人で何千って兵を相手にしたからな。持久力、耐久力はキャスターになっても自慢だぜ?」

 

 強がって見せてはいるが、体にふらつきが見て取れる。これ以上のダメージは命の危険もあるが、ここは退いて良い局面ではない。

 それこそ、命懸けで勝ちに行かねば、万に一つも生き残る可能性は無いに等しい。

 

「まあいいさ。オレもそう長くはこの力を維持出来ないからな。速攻で片を付けてやるとしますか!」

 

 更にランサーの魔力が膨れ上がっていく。拙い、これは本当にヤバい。言葉の通り、彼は必殺の一撃を繰り出そうとしているに違いない。

 あんな狂化のような強化を施した状態で、宝具の真名解放なんてされた日には、待っているのは絶命のみ。

 当たらない槍と評判のクー・フーリンの槍だが、流石に今の彼にその言葉は当てはめられないだろう。

 どうにか打開策は無いか……? 私にも、何か出来ないのか……? サーヴァントとして、二人の助けになれないのか……!?

 

「…………、」

 

 自然と、私は緊張から両手を堅く握り締める。指に触れる、硬く細い小さな何か。サーヴァントとなってからは、まるで役に立たない指輪。

 

 月の王権たるレガリア。

 

「…………もう、これしかない」

 

 一か八か。とっさに浮かんだのは、成功するかも分からない案だったが、今やこれに賭けるしかない。

 私が何か出来るとするなら、今この瞬間のはず。

 

 さあ今こそ、役立たずの汚名を返上し、その輝ける月の王権の象徴たる名誉を挽回する時だ、レガリアよ。

 ここにムーンセルからの恩恵は存在しない。ならば、令呪を代用として使うまで!

 

「レガリアよ、この令呪が一画を捧げましょう。そして今こそ、その力を解放する時! 行くよ、アルテラ───

 

 

 

 

 

───『ムーンドライブ』!!!」

 

 

 

 

 




 
プロトニキ、FGOの本筋シナリオやイベントですらほとんど登場しないので、ここで登場させてみました。

もしかしたら、第二部でプーサーが活躍するかもですから、プロトニキやプロのギルもそちらで活躍するのかも……?
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