Fate/Grand Order  凡夫なりし月の王   作:キングフロスト

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あけおめ、からの、ことよろ~。(by ケモミミJK)

では、本編どうぞ。




 


第二十節 覚醒、白野ちゃん!!

 

 私の左手の甲から消えゆく令呪。膨大な魔力の渦へと変換されていくそれは、真っ直ぐにレガリアへと流れ込んでいき、レガリアを通してアルテラへと注ぎ込まれていく。

 

 令呪とは、英霊を縛る枷であり、強化をも施す事が可能なドーピング剤でもある。回数や効力に限度こそあるが、一画ごとに莫大な魔力が詰め込まれており、その魔力量は馬鹿に出来ない程だ。ともすれば、下手な魔術師の持ち得る総魔力量を上回る事だってあり得る程に。

 

 レガリアから送られていく魔力は、アルテラの体を浸透し、全身にエネルギーとして循環していく。令呪の魔力を単純に力として変換したのだ。そのエネルギーはムーンセルからの補助には遠く及ばずとも、並みのサーヴァントを凌駕するには十分に足るはず。

 

「これは……レガリアの? ……行ける、今なら元の霊基と同じ出力で戦える……!!」

 

 全身から、収まり切らない魔力の奔流を溢れさせて、アルテラは剣を構える。令呪とレガリアによる一時的な超強化により、ランサーとの力の差は確かに縮まった。

 だが、それだけでは彼には届かない。通常と同じくらいに力を取り戻したとはいえ、ランサーも通常の状態から強化されているのだ。ここであともう一押し。

 ランサーに一矢報いる決定的な何かが必要だ。

 

「運が回って来たかね? よっしゃ、ならオレはアルテラの援護に専念するぜ。月で見せた猛威、そこの若造にも教えてやんな!」

 

「言われずとも分かっている。私は破壊の王だ、我が道を阻む者、我が虜を害する者は容赦しない。完膚なきまでに破壊してやる」

 

 キャスターが少し後方に下がり、アルテラがランサーの前へと足を踏み出す。

 ランサーは不敵に、その様子を眺めていた。

 

「パワーアップとは、面白いじゃねぇの。これでやっとまともに打ち合えるかね?」

 

「甘く見られたものだ。貴様の減らず口がいつまで続くか、見物だな」

 

 宝具を放とうとしていたらしきランサーだったが、アルテラが強化されたと見るや、構えを解き、さっきまでの戦闘態勢へと戻る。

 たとえ汚染されようと、腐ってもアルスターの戦士。彼は正面から己の実力でアルテラを倒し伏せようと考えたのかもしれない。

 

「ハンデはそのまま付けておいてやるよ。どうせ()()のやるコトだ、大概は動きも読めるからな」

 

 ランサーはキャスターの存在は特に気にならないとの事。なるほど、今、彼が真に警戒しているのはアルテラのみ、と。

 これは、大いに付け入る隙となる。アルテラの強化を終えた私など警戒すべきではないと見なされたのか、ランサーの目に私はもはや映っておらず、頭の片隅でキャスターと共に置いている程度か。

 

 ……それを後悔させてやろう。

 

「アルテラ! 行くよ!!」

 

「ふっ。お前の指示を受けて戦うか。なんだか懐かしいな……フッ!!」

 

 私の掛け声で、アルテラは僅かに穏やかな微笑みを浮かべ、瞬きの間に超スピードでランサーへと走り出す。

 弱体化してはいたが、元々のアルテラの身体能力は高い性能を誇る。彼女の持つ固有スキル、『天性の肉体』によるものだ。ランクは低いが、戦いにおけるセンスの良さと、彼女の戦士として培われた経験も相まって、ランク以上の能力を引き出している。

 

 アルテラの速度が段違いで上昇した事に、ランサーも驚愕するが、すぐに鋭い目つきでアルテラの動きに対応する。

 高速の突進から繰り出される、軍神の剣による突き。ランサーは横合いへとステップで回避する。そしてそのまま、カウンターで彼もまた突きを放ってくる()()だ。

 

「アルテラ、すぐに反撃が来る! それより先に仕掛けて!」

 

「ああ!」

 

 私の言葉に、アルテラは突きの態勢から体を捻り、ランサーへと無理矢理に方向転換すると、文字通り剣を鞭のように(しな)らせて、カウンターよりも早くランサーに仕掛ける。

 

「ッ!!? クッ!」

 

 まさか動きが読まれたばかりか、自分の攻撃すらも潰された上に、思いもよらない剣の異常な軌道。ランサーは頭部を狙ったその鞭の軌道を、首を後ろに反らし寸でのところで回避する。

 

「あ……っぶねぇ!! っと、まだか!」

 

 休む暇は与えない。息もつかせぬ鞭の乱舞を、ランサーはこれまた見事な槍捌きを以て全て受け止め、弾き、押し返す。

 元々リーチの長い槍でも、伸縮自在な剣の鞭、しかもかなりの使い手を前にしては、そう簡単には隙を見出せない。延々と続く槍と鞭の押収も、ずっと終わらない事などなく、

 

「キャスター、アルテラが足止めしてる今がチャンスだよ!」

 

「分かってんよ! もう準備は終わってるぜ!」

 

 続けて、私はキャスターへ攻撃の指示を出した。私が言うより早く、既にルーン魔術の用意は済ませてあったようで、キャスターが指を鳴らして魔術を発動する。

 

 キャスターの合図と共に大きなルーン文字が彼の前に浮かび上がって、その中央からボーリング程の大きさを持った火球が連続して射出されていく。

 数にして10発。大砲さながらの勢いで撃ち出された暴威は、一直線にランサーへと飛んでいく。

 

「クソがっ!! そう簡単に、やられるかよ!!」

 

 背後からのアルテラへの火力支援に対し、ランサーは一度大きく鞭を弾くと、バックステップで自ら火球に突っ込むと、反転して全ての火球を打ち落としていく。

 

「オラオラオラオラァァァ!!!」

 

 大きな火球をその身に一切受ける事なく、それら全てを打ち払っていく姿はさながら鬼神の如く。はたまた荒ぶる修羅のようにも映る。

 それにしても、不意打ちをものの見事に対応してくる辺り、やはり同じクー・フーリンの扱う魔術では決め手にはならないか。

 

()()の技がオレに通用するかよ!」

 

 全ての火球を弾いたランサーは、それと同時に即刻アルテラへと向き直る。振り返った彼の目前には、既にアルテラがランサーへと肉迫していた。

 

「斬る…!!」

 

「ぬぅ……!!?」

 

 振り向き際に、自身へと襲い来る凶刃。百戦錬磨の大英雄は、やはり流石と言うべきか、際どいがギリギリのところで剣戟を受け止めて見せた。

 

 あと一歩。その一歩が届かない。レガリアでアルテラを一時的とはいえ、元の霊基と同等までに強化を施したというのに。なおも及ばない。

 音に聞こえし光の御子は、そう容易くは落とせないという事か。

 

「……なら、あと一歩を。私が埋める」

 

 足りない一手。アルテラ、キャスターと二人の英霊が並んでも打ち倒せない、何らかの要因で堕ちたる光の御子、若かりし頃のクー・フーリン。

 彼が予想だにもしない、想定外の手札を、今の私は手にしている。

 

 勝利への布石を。

 

「キャスター、もう一度火力支援お願い!」

 

「別に良いが、通用しないと思うけどな。……何か策が有るんだろ? いいぜ、乗ってやる。使えるモンは何でも使ってやろうや。オレも、お嬢ちゃんもな」

 

 皆まで聞かずとも、キャスターは再びルーン魔術の準備に入る。その間も、アルテラとランサーによる剣と槍での打ち合いは熾烈を極めていた。

 切り払い、刺し穿ち、凪払い───。そのどれもが、簡単に相手の命を奪える必殺の威力を秘めている。だが、互いがそれらをことごとく防ぎ、そしてまた攻撃に転ずるといった攻防の連続。

 今まで何度も見てきた、英霊同士の戦い。人間の域を超越したその戦闘も、徐々にアルテラが押され始めてきているのが、私には分かった。

 それは微妙な変化だ。僅かばかりだが、攻守がランサー優勢での連撃に転じ始めている。

 ブーストではあるが、アルテラが通常の霊基の能力であるのに対し、ランサーは元の霊基からも強化された状態。当然と言えば当然の結果ではある。

 

「どうしたどうしたぁ!? そんなもんかよ!!」

 

「っ……!」

 

 状況が目に見えて変遷する。ランサーの攻勢は増す一方だが、アルテラが徐々に防戦一方へと追い詰められ始めたのだ。

 ムーンドライブの効力が切れかけてきているのかもしれない。ムーンドライブとは元々、ムーンセルから引き出した莫大な魔力をサーヴァントへと譲渡し、その能力を強化させるといった代物だが、令呪で代用するには無理があったのだ。

 効果は同じでも、その持続時間もそうとはいかない。

 

 時間がない。それはもう、誰の目から見ても明らかだった。

 

「アルテラ……ッ!!」

 

 逸る気持ちをどうにか抑え込む。ランサーは今、アルテラにのみ気を取られている。多少はキャスターや私にも警戒しているだろうが、彼女程とまでには及ばないはず。

 それこそがランサーを突き崩す唯一の光明であるのに、私が今でしゃばって台無しにするワケにはいかない。

 チャンスは一度きり。それを逃せば、私たちに勝機はない。後ろで控えているオルガマリーも、立香も、マシュも。ランサーの手によって、皆等しく殺されるだろう。

 

「よっしゃ! 準備完了だ、いつでも行けるぜ!」

 

 と、ようやくキャスターからの合図に、私は待ってましたとばかりに指示を飛ばした。

 

「うん! お願い、キャスター!」

 

 私の掛け声の後に放たれる火球の群れ。数にして計10発の火球がランサー目掛けて飛んでいく。

 無論、ランサーとてそれに気付かない訳がない。アルテラを蹴り飛ばして、即座に反転するや、一発一発、確実に火球を打ち落としていく。

 

「バカの一つ覚えか? んなもん通用するかよ!」

 

 1発、2発、3発───そして7発目。焦らず、困った様子もなくランサーは次々と火球を弾き返す。

 

「ハッ。くだらね──ガ、ァ……!?」

 

 7発目を弾き返したと同時、ランサーの体がピタリとその動きを止めた。まるで麻痺してしまったかのように、硬直しながらも体は震えている。

 

「ぐ、ゴォアァァ!!?」

 

 当然、そんな状態の彼に火球をどうにか出来る筈もなく、連続してその身にまだ残っていた火球を受けてしまう。

 物質としての質量も帯びた火球を受けて、ランサーは自身が蹴り飛ばしたアルテラの居る方へと己もまた吹き飛ばされる。

 

 無論、そこには既に態勢を立て直し、剣を構えて立つ彼女の姿があった。

 

「アルテラ!!」

 

 私は、()()()()()()()()()()()に、声を大にして彼女の名を叫んだ。もはや命令を全て口にするまでもなく、アルテラならばこれだけで私の言いたい事が伝わるだろう。

 

「……これで終わりだ。その穢れた霊基、破壊する!!」

 

 そして、アルテラは残った魔力の全てを、軍神の剣を握り締めた手に込めた。ガス切れ寸前のムーンドライブでの最後の、渾身の一撃を。

 

 迫るランサーへと向けて、力強く振り抜いた。

 

 

 

「ゴ、ガ……」

 

 

 

 一閃。輝く軍神の剣が通った軌跡には、三色の光の筋が残る。それもやがて薄れ、消え行き───同時にランサーの命の灯火をも表現しているかのようだ。

 

 アルテラの剣戟は、ランサーの体ごと、空間そのものさえも切り裂いた。首筋から腰にまで掛けて刻まれた深い斬撃の跡。その傷口からは、大量の血飛沫が周囲へと飛び散る。

 やがて裂けた空間も、自動的に修復されるように戻っていく。後に残るのは、鮮血の中で地面に倒れ伏すランサーと、その彼の返り血を一身に受けた白の剣姫のみ。

 

「ゴブ……ッ。へへ、やる、じゃねえの」

 

 力無くうつ伏せに倒れたまま、ランサーはもはや細々とした声量でアルテラを称えた。いや、私たちを。

 死に体でなおも強気な態度を崩さないのは、彼の性分が故か。

 

 私は、ゆっくりと彼の元にまで歩いていく。キャスターは、哀れむようにランサーを見るばかりで、こちらには来ようとしない。

 彼なりに、汚染されてしまった若い頃の自分に思うところがあるのだろう。

 

 もはや、立ち上がる事も無理なようで、ランサーはどうにか体を動かせて仰向けになる。傷の痛みが酷いのは明白で、顔に尋常ではない苦痛が表れている。

 

「よう……最後、アンタが……何かした、んだろ……?」

 

 私の顔を見るなり、笑って自身を打ち負かした一手が何かを聞いてくるランサー。既に消滅が始まり、彼は足元から光の粒子となって溶けていっている。なのに、その顔は何故か穏やかなように見えた。

 

「コードキャストだよ。あなたは知らないかもしれないけど、月の聖杯戦争に参加したマスターたちが扱う、礼装に宿った簡易魔術の行使。あっちのクー・フーリンなら知ってるかな。だって、彼はランサーとして聖杯戦争に参加していたから」

 

「んだよ、それ……。そりゃ知らねえ、っての。ははっ……でも、まあ……負けたが、清々しい……かね?」

 

 首に切り傷を受けたのだ、彼の言葉の端々からヒュー、という渇いた音がノイズのように混じる。既にその体は腹まで消滅が進んでいた。

 

 コードキャスト。かつて私がセラフで用いた、私でも扱う事の出来た魔術礼装による魔術。

 目覚めてから今の今まで、全く使えなかったというのに、ムーンドライブを実行に移した途端、レガリアから一気に様々なデータが溢れ出したのである。

 

 レガリアによるマスターの収納方法、私が契約しているサーヴァントのステータス、所持し保有しているアイテムなどなど……。

 コードキャストも、その内の一つだった。かなり魔力を消費するが、代わりに効果は大きいコードキャスト、shock(64)。このコードキャストは、サーヴァントの動きを僅かだが止める事が出来るのだ。

 それを、私はキャスターの火球の7発目がランサーに着弾するのと同時に当たるくらいのタイミングで、こっそりと発動させていた。火球には遠く及ばないサイズの光弾だったが故に、うまく火球がカモフラージュとなってくれた訳だ。

 

 それにしても、土壇場で開示されたからこそ、最初からランサーに気取られずに済んだとも言えるが……。

 何もこんなピンチでなくとも良かったのにとも思うけど。

 

「ランサー……いや、クー・フーリン。若き日のクランの猛犬よ、今度が有れば、その時は真っ当な英霊として戦おう」

 

「……その時に、備えて……テメェも、さっさと力ぁ……取り戻す、こったな……」

 

 そして、ランサーの体は完全に消滅した。光の粒子は、天に昇るように、霧散していった。

 なんというか……最期まで、彼らしかったな、と私は思う。また、彼に逢う事もあるのだろうか……。

 

 

 

 ここに、私たちはまず敵の一騎。ランサーを倒したのだった───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ランサーさんが倒された……? …………、こちらが考えていたより、敵はなかなかにやるみたいです。それなら、こちらも次の駒を差し向けるだけですけどね。さあ、行きなさい──

 

 

 

 

 

 アーチャーさん?」

 

 

 

 

 

 

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