Fate/Grand Order  凡夫なりし月の王   作:キングフロスト

24 / 40
第二十三節 鶴翼三連

 

 

「! 嬢ちゃんからの合図か!」

 

 キャスター───クー・フーリンの視界に、岸波白野の姿が現れる。どうやら無事に反対側まで辿り着けたようだ。

 彼女がこちらへと手を振るのを確認すると、彼は待機しながら現在進行形で作用中とのものとは別に用意していたルーンを作用させる。追加として用意した術式は三つ。

 一つはここでアーチャーへの攻撃用に。もう一つは、彼自身と岸波白野の身体に。そして、最後の一つは───。

 

「坊主ゥ! あっちの嬢ちゃんの策の準備が整った! あとはお前さんが(おとこ)を見せるだけだぜ!!」

 

 意気揚々と、キャスターは藤丸立香を囃し立てる。もう彼を待つだけだと言わんばかりに。

 立香は、一瞬躊躇ったように顔を(こわ)ばらせるが、すぐに決意の意思を瞳に宿し返答する。

 

「分かった。キャスター、俺と───契約してくれ」

 

 ただの一般人だった彼は、この瞬間を以て、平凡な人間から逸脱する。英雄に価値を見出され、英霊から契約を持ち掛けられ、一時的とはいえ共に横に並ぶ者として立つ事を認められた。

 それが魔術師からすれば、どれほどの栄光であるのかは考えるまでもない。

 

 キャスターは彼の決意の言葉にニヤリと笑うと、握り拳を彼に向けて突き出した。

 

「よっしゃ! んじゃあ、よろしく頼むわ。マスター?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 アルテラとの戦闘が始まって5分が過ぎようとしている。だが、未だに他の者からのアクションが無い。何かを企んでいるだろう事は分かっているが、こうも動きが無いのは面倒だ。

 

「………、」

 

「ハア、ハア……!!」

 

 先程負わせたダメージが尾を引き、目に見えてアルテラの動きに鈍りが見え始めている。この分では、あと数分とせずして倒せるか。言わばこれは悪足掻きのようなものだ。倒されるのをただ待つだけで、アルテラがオレに勝つ未来は有り得ない。待っているのは敗北、消滅のみ。

 しかし、岸波白野がそれをさせる筈が無い。黙ってサーヴァントが倒されるのを見ている? 彼女がそんな薄情なら、月の王になど成りはしなかった。

 仲間想いの彼女に仲間を見捨てるという選択は考えられない。それが仲間からの頼みでもない限りは。

 

「そろそろ終わりにしよう。剣筋も容易く見切れる程に、お前は弱っている。いつまでも遊んでやるつもりは毛頭無いのでね」

 

「……、そう、だな。私もお役目御免だ」

 

「む……?」

 

 何だ? 今、オレの後ろを見て……、まさか。

 

 アルテラを蹴り飛ばし、無理やりに彼女との距離を離すと、急ぎ背後に目を向ける。

 そこには、やはりと言うか、()()が居た。

 

 距離にして数メートル程。キャスターよりは近いか? 彼女は腕を前に突き出し、手から光弾を撃ち出したところだった。

 

「コードキャストか!? ならば……!!」

 

 彼女の所有するコードキャストには、サーヴァントの動きを一瞬ではあるが完全に止めてしまうという強力なものがあったはず。

 一瞬、されどそれを可能とされるのは極めて危険。サーヴァント同士の戦いにおけるその僅かな隙は、命取りに成りかねない。

 

 だが、当たらなければ何の意味も無い。手にした剣を光弾目掛けて投擲する。あのコードキャストが想像通りのものであるならば、アレはサーヴァントの身体に作用するものであり、武器には発動しないはず。

 流石に贋作物である投影の剣は、あの光弾に被弾すれば消滅してしまうが、それこそ問題ない。また新しく投影すれば良いだけなのだから。

 

 しかし、

 

「何!?」

 

「そんなに簡単に行くと思ったか?」

 

 アルテラの得意気な戯れ言が背後から聞こえてくる。それもそのはず。光弾は投擲した剣をすり抜け、尚もオレに向けて飛来していたのだ。

 

「フェイク……幻影か!」

 

 なら本命は、このフェイクにより作った隙を不意打ちか?

 やはりアルテラから目を反らすべきではなかっ───

 

「残念。私でもないぞ」

 

 振り返り、彼女の攻撃に備えようとした刹那、しゃがんだ彼女の頭上を大きな火の玉が通過した。

 

「キャスター……!!」

 

 キャスターはただ様子見していたのではなく、これを待っていたのか……!

 回避は間に合うか……いや、既に不可能だ。避けられない間合いへと火球に入られている。時間にして僅かコンマ一秒。思考は回避を捨て、剣で受け止める事を選択する。

 新たに投影し、双剣で火球を受け止める。

 

「ぐ、く」

 

 魔力を蓄えていたのか、思った以上に威力が大きく、勢いを殺し切れない。しかし、このまま動きを封じられるのは危険だ。

 アルテラ、彼女が如何に弱っていようと、身動きの取れないオレを殺す事は容易いだろう。

 

 現時点で取れる選択肢は二つ。この火球が投擲物であると仮定し、熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)で防ぐ方法。

 もう一つは、手にしている双剣、干将・莫耶をオーバーエッジで強化して火球を切り裂く方法。

 

 どちらにするか。まだ確実性があるとするなら、オーバーエッジか。アイアスでは完全に防ぎ切れる保障は無し。オーバーエッジならば、攻撃力も上がりアルテラとの戦闘も幾分かは楽になる。

 

 魔力は使うが、躊躇している場合ではない。

 

「トレース・オーバーエッジ」

 

 発動すると同時、双剣が巨大化していき、火球に深く食い込んでいく。これならば、真っ二つにでも切断出来る。

 少し肝が冷える場面もあったが、こうして切り返せるのだ。詰めが甘かったようだな。

 

「フン!」

 

 全力を込めて、火球に食い込んだ剣を振り切る。クロスさせて受け止めていた双剣は、火球をXを描くように斬り裂いた。

 

 火球は分散した事で形状を保てず、小さな火の粉となって霧散していく。起死回生の策だったのだろうが、これで奴らも万策尽きたという訳だ。

 

「いい加減、こちらも貴様らには付き合っていられんのでね。それにまだ骨の折れる大仕事が残っている。そこのキャスターを除いた部外者は、そろそろ退場の頃合いだよ」

 

 そうだ。まだやらねばならない事がある。これ以上、奴らの悪足掻きに付き合うのは御免被りたい。

 

「退場、か。確かに、この狂った聖杯戦争の当事者である貴様らからすれば、キャスター以外は部外者だろう。サーヴァントである私であっても、この聖杯戦争には一切関わりは無い。だがな、こちらのマスターとて生存が掛かっている。故に退場などさせるつもりも無いし、するつもりも無い」

 

 ……なんだ?

 アルテラの勝利を確信したかのような口調。腹立たしくさえ思うその矜持は、何か根拠があるからこそ抱いたままでいられるというのか?

 

 何か、オレは見落としているとでもいうのか?

 

 

 

 

 

「───ッ!!!」

 

 

 

 

 

 瞬間、オレの思考が麻痺する。否、思考どころではない。

 

「ッッ!!!!」

 

 体が、動かない───ッ!!?

 

 背後から何か衝撃を受けたと感じた直後、全身を蝋で塗り固められたかのように、あらゆる筋肉に至るまでが硬直していた。

 この感覚、月の聖杯戦争で受けた覚えがある。いや、実際には違う形でならの話だが。

 ならば、この拘束はすぐに解けるはず。コードキャストを当てた絡繰りは不明だが、アルテラが踏み込んでくるまでには、体が自由を取り戻している事だろう。決定打には成り得ない。

 

 

 

「今だよ、オルガマリー!!」

 

 

 

 声が聞こえる。やはり、と言うべきか。その()()の声は、衝撃が来た背後、その遥か後方より聞こえてきた。

 声の感じからして、それなりの距離。先程見えていた彼女の位置よりも更に遠い。

 

 しかし、なるほど。まだ何か策を敷いていたか。そして、おそらくそれを回避する術は無く、オレに為す術も無い。

 

「ぐっ……!!」

 

 予想通り、体の拘束が解ける事を待たずとして、今度は真横からの衝撃を受ける。麻痺という拘束の上から、二重で縛るようにルーンがオレの体を捕縛し固定化させた。

 やったのは他ならぬ、魔術師の女。オレが脅威足り得る敵と見なさなかった人間。彼女は、単に囮でもなければ捨て駒でもなく、むしろ逆だった訳だ。

 

 既知にして未知でもあるキャスタークラスのクー・フーリンではなく、かつてのマスターとして既知である岸波白野でもなく、未知ではあるがサーヴァントとして未熟な盾の英霊でもなく。

 単に魔術師であるというだけの、臆病な人間だからこそ。

 オレに対し完全に不意を突ける存在と成り得た。

 

 あの若き少年(マスター)では無理だった。オレの殺害対象として認識されたが故に、分厚い盾に守られた彼では、この不意打ちは決して出来なかった。

 

「………、」

 

 仕上げはキャスターか。遠くで奴の宝具らしき巨大な炎が見える。人型……いや、アレは腕だろうか?

 まるで燃え盛る巨人の腕のようだ。

 

 それにしても。

 

 まさか、オレが敗れるとはな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 オルガマリーがキャスターから託されたルーンにより、見事にアーチャーを捕縛した直後、遠くで大きな炎の腕が現れるのを視認する。

 距離があるのに分かるくらいに巨大なソレは、他ならぬキャスターの切り札。宝具に他ならない。

 立香が彼のマスターとして仮契約をした事で、キャスターは魔力切れの心配無く宝具を発動する事が可能となったのだ。

 ただ、今回の場合は断片的な宝具の展開である。本来なら、腕だけではなく、炎に包まれた巨人そのものが現れるらしい。

 それをしない理由は一つ。今ここでアーチャーを倒し、消滅させてしまうのは勿体ないからである。

 

 言わば、彼は現状の私たちにとって、失うには惜しい貴重な情報源。動きを束縛し、更にルーンの効果による霊体化の阻止により、アーチャーは正真正銘、全くの身動きの取れない虜囚も同然なのだ。

 

「……アーチャー」

 

 私は、両膝をついて顔を伏せる彼の元へと歩み寄る。

 彼の人となりは知っている。けれど、それは遥か昔の事のように朧気で、彼をよく知っているはずなのに、何故か、ひどく他人事のように感じて仕方ない。

 自分ではない誰かの記憶を覗いているかのような、奇妙な感覚。

 

「……やはりキミは食えないな。巫女姿のキャスターやアルテラの元で過ごしたせいで、更に(さか)しくなったのではないか?」

 

 私の接近に、彼は皮肉を述べながら顔を上げた。その顔には、一切の後悔も未練も無く。淡々とニヒルに笑ってみせる彼。それが強がりからくるものではないと、何となく理解出来る。

 

「それにしても、キャスター、キミ、そして魔術師である彼女の三連撃と来たか。いや、三位一体と言うべきかな? 即席だったろうに、よくもまあ成功させたものだと感心するよ」

 

「それは違うよ、アーチャー。普段のあなたなら、もっと冷静に私たちの一挙手一投足の全てを見通せていたはず。あなたは汚染の影響を受け、好戦的で細かなところにまで目が及ばなくなっていた。だから、あなたは私たちに、この勝利を掴ませる隙を与えてしまったの」

 

「………。どうせ負けた身だ。オレをすぐに消滅させないのは、大方あの炎の巨腕を使って拷問でもする為なのだろう。なら、責め苦への餞別として、さっきのキミのコードキャストを当てたトリックを教えてもらっても?」

 

 私を見る彼の瞳に侮蔑は無く、ただただ率直な尊敬の念すら感じる。トリッキーな戦略を好む彼にとって、己を嵌めたこちらのやり口が気になったのだろうか。

 

「いいよ、教えてあげる。と言っても単純な話で、蜃気楼の応用ってだけ。最初にアーチャーが見た私とコードキャストは幻影(ミラージュ)。その後方で本物の私がコードキャストを放ったから、幻影もそれに同調していたんだよ」

 

 キャスターが得意とする魔術は、その宝具からして炎に関するものらしく、熱量の操作程度なら可能。蜃気楼も彼のルーンの応用だった。

 つまり、彼は私と自分に熱量操作のルーンを仕掛け、そのルーンが掛かっている事の隠匿と、オルガマリーに渡した射出式拘束ルーン術式の、計三つの異なるルーン魔術を同時に行使していたのである。

 

 ──そして、この三連撃はアーチャー。他ならぬ、あなたの得意とする技、『鶴翼三連』を参考に組み上げたものだ。

 

 私の説明に、アーチャーは一瞬目を見開くが、すぐに納得したようにその目を細める。

 

「そういう事か。あの男、細かな作業は不得手に見えたが、存外に器用だったという訳だ。そういえば、現世に馴染んで様々なアルバイトも掛け持っていたな。道理で……」

 

「ハッ。こちとら、()()スカサハにルーンの基礎を叩き込まれたんだ。それくらいこなさなけりゃ、槍で全身串刺しモンよ!」

 

 と、キャスターが炎の巨腕を後ろに従えて、こちらへと来た。そろそろアーチャーから情報を聞き出すのだろう。

 

「おう、嬢ちゃん。今は敵とは言え、お前さんにとっちゃ互いに情のある相手だろ。今からすんのは、ガキの目にゃあまりに酷だ。見たくなきゃ、坊主とマシュの所で待ってな。情報引き出すのはオレとアルテラ、それと所長さんでやっからよ」

 

 キャスターの提案は、心の底から私を案じてのものだ。

 私には、アーチャーとの記憶が霞が掛かったように、朧気にではあるが確かに存在している。あまつさえ、彼と月の聖杯戦争を駆け抜けた事があったようにさえ思える。

 そんな、浅からぬ縁を持つアーチャーの、苦痛に歪む顔を見たいと思うはずがない。

 

 けれど。

 

「……ううん。私も、立ち合う。私だけは、目を背けちゃいけないと思うから」

 

 いずれかの世界で、私はきちんと自覚出来ないけれど、私と彼はマスターとサーヴァントとしてパートナーになった事があるのかもしれない。だから、こんな曖昧な記憶が混在しているのかも。

 なら、もしその仮定が正しいとするなら、たとえその私は()じゃなかったとしても、岸波白野として彼の在り方を見届ける義務がある。

 

「いいんだな? なら、オレは止めねえ。キツくなったら離れたらいいだけだしな。遠慮しねぇで言えよ?」

 

 キャスターの気遣いに、礼として軽く頭を下げる。

 

 そうだ、私はこの道を避けてはならない。この特異点に来た時点で、弱音を吐くのは許されていない。たとえ知り合いが、友が、家族が敵になろうと、躊躇すれば死ぬのは私たちなのだから。

 

「さて、それじゃ始めるか───」

 

 

 

『ちょっと待った!!』

 

 

 

 

 キャスターが炎の巨腕でアーチャーを掴もうと動き出した直後、いきなり通信が入る。

 それは当然ながらカルデアからのもので、声の主であるDr.ロマンの大きな声が響く。相当慌てているように聞こえるが……?

 

「なに? 何かあったのロマニ!?」

 

『全員急いでそこを離れるんだ! とても巨大な魔力反応が、物凄い速度で君たちに接近してる!!』

 

「え───」

 

 彼の報告に驚く間もなく、私たちはすぐさま、その脅威の正体が何であるのかを知る事となる。

 

 

 

 

 

 

『■■■■■■■■■■───ッッ!!!!』

 

 

 

 

 

 

 咆哮が轟く。

 腹の底から震え上がってくるような、獰猛な獣の如き咆哮。

 

 それは、破壊の限りを撒き散らしながら、着実にこちらへと近付いて来ていた。崩れた家屋、積み重なった瓦礫の山を、まるで小石でも蹴るかのように、いとも容易く砕いて走るソレ。

 

 深く考えるまでもなく、私は理解した。こういった暴力の塊かのようなクラスを持つサーヴァントを、聖杯戦争では何と呼んだか。

 

 そう、そのクラスとはすなわち───

 

 

「バーサーカー……!!?」

 

 

 けたたましい破壊の音を引き連れ、こちらへとやってくる暴威に、私やオルガマリー、マシュに立香が唖然と恐怖に呑まれる中、サーヴァントたちはすぐに戦闘態勢へと戻る。

 

『な!? 戦うなんて無茶だ! アレは万全でも勝てる見込みが少ない! 一旦撤退して、対策を立てないと……!!』

 

「バカか! んなコト言ってる場合かよ!! 走って逃げ切れる相手じゃねぇ。誰かが足止めするっきゃねぇ!」

 

「そうだ。逃げろ、マスター。離れていても感じるこの濃い神の気配、流石は大英雄ヘラクレス、といったところか。アレは並みの人間が対峙して勝てるものではない。むしろ足手まといになるだけだ」

 

 キャスター、アルテラが私たちに逃げろと背を向ける。自分たちを置いて逃げろ、と。

 

「そん、な……こと、」

 

 

 

 

「そう。仲間を置いて逃げるなど、岸波白野に出来る筈がない」

 

 

 

 

 黙って私たちのやりとりを見ていたアーチャーが、急に口を開く。それは私への罵倒ではなく、確信を持って告げた、ある種の私への信頼でもある。

 

「アーチャー……?」

 

「かつて、仲間に後を託された事は有れど、自分から見捨てた事の無いキミに、アルテラやクー・フーリンを見捨てる選択肢は無い。故に、こうなる事は確定していた」

 

「何を言って……」

 

「バーサーカーの脅威を前に、即座に盾のサーヴァントの元まで退いていれば、話は少し違ったのかもしれないが。つまりは、こういうコトだよ」

 

 アーチャーが口角を釣り上げたのを確認した瞬間、私は体が宙を浮くのを感じた。

 否、何者かに抱えられている!!?

 

「なっ───!?」

 

「白野!!?」

 

 急激にオルガマリーやアルテラたちから遠ざかっていく視界。仲間たちもバーサーカーの襲来に加え、突然の不意打ちに、誰一人と反応出来なかった。

 私は急ぎ、自分を攫った何者かに目を向ける。真っ黒な布切れを纏い全身を覆い隠した誰か。おそらくはアサシンのサーヴァント。

 

「離して!!」

 

 必死に抵抗するも、それはまるで意味を為さない。同じサーヴァントであるはずなのに、非力すぎる私では、どんなにもがいても逃げられない。

 そうこうしているうちに、みんなの姿がどうにか視認するのがやっとになってしまう程に距離を離されてしまった。

 

「多少計画に狂いが生じたが、アーチャー殿の作戦、これにて完了ですかな?」

 

 低い声が耳に入ってくる。体格からして男だとは分かっていたが、その口調に違和感を感じた。

 いや、彼だけじゃない。ランサー、アーチャーも汚染されたという割に、そこまで狂気に駆られてはいなかった。

 もっと、バーサーカーみたく理性さえ失ってしまっているように思っていたのに。

 

「作戦……つまり、最初から狙いは私だった……?」

 

「それについては、まだお答えしかねる。本当に貴女が我らに有用な存在なのか、それを見極める必要があります故に……」

 

 私を即座に殺さなかった点から、今のところ命は保障されている、か。

 だが、向こうが心配だ。バーサーカー相手に、みんなどうか無事でいて……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マスターを奪われた。これは許し難い失態だ……!!」

 

「だからって、テメェが抜ければここの全員が死ぬ! 今はバーサーカーに集中しろ! ここですぐに殺さなかったってのは、裏があるに違いねぇ。生きてさえいりゃ、まだ希望が持てるだろうが!!」

 

 岸波白野を連れ去られ、今にも追いかけようとするアルテラを諫めるキャスター。やはり、この男は野蛮なようでキレる男のようだ。

 

「ロマニ! ロマニ!! どういうコト!? アサシンの反応を探っていたはずでしょう!?」

 

『やられた……! 敵はバーサーカーの出現を隠れ蓑にしたんです。だから、アサシンの接近にまで気が回らなかった。これは完全に僕らスタッフの失態です。巨大な脅威を前に、冷静さを欠いてしまった……!!』

 

「そんな……。白野が、私のサーヴァントが、たった一人の私の理解者になってくれるかもしれなかった彼女が……!!」

 

 悲嘆に暮れる魔術師の女は、膝から崩れ落ちた。心が折れてしまったか?

 それにしても驚きだ。まさか、あの岸波白野がサーヴァントであったとは。なるほど、だからアルテラも()()に違和感を覚えなかったのか。

 

「アーチャー、さっきの口振りからするに、貴様の狙いはコレだったのか。我が虜を拐かしてどうするつもりだ」

 

「おっと。そう怖い顔で睨まないでもらいたい。彼女は、我々にとっても想定外の切り札と成り得る存在だ。千載一遇の逆転を狙う上で、彼女ほどに都合の良い存在も居るまい」

 

 今にも射殺さんばかりの視線を向けてくるアルテラだが、こちらの言葉に疑念を持ったらしく、殺気はあれど、今にも飛び出しそうだった殺意が引っ込んでいく。

 

 よし。少し予定とは異なるが、これはこれで良い采配となった。

 

「そこの魔術師のキミ。少しいいかね?」

 

「…………何か」

 

 かなり意気消沈しているが、こうなってしまっては、いつまでもその調子でいられても困る。故に、ここは一つ、彼女の喜ぶような取引をするとしよう。

 

 

 

「提案だ。オレ───いや、私と、取引をしないか? こちらが取引の成功報酬として提示するのは、岸波白野の命。そして、

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()、だ」

 

 

 

 




 



最近ようやく異動場所での仕事に慣れてきました、私。
これで更新間隔が少しでも早くなればいいのに(それはそれとしてゼルダの伝説ブレスオブザワイルド楽しい)。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。