Fate/Grand Order  凡夫なりし月の王   作:キングフロスト

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第二十五節 オルガマリーの決断

 

 

 

「取引、ですって……?」

 

 目の前の男は一体何を言っている?

 白野の命を助ける? それだけならまだしも、特異点の消滅にまで手を貸す?

 さっきまで互いに殺し合いをしていたのに、ここにきて取引を持ち掛けてくるこのサーヴァントの真意が、とてもではないがまるで読めない。

 

『所長! そのサーヴァントの言葉の裏を読むのは後回しにして下さい! 今はバーサーカーをどう対処するかを考えないと!』

 

 ロマニの言葉に、わたしの意識が再起動する。思考し過ぎてしまったが、言われてみれば今まさにピンチだった。

 取引云々はともかくとして、この窮地を脱しなければ、それどころの話ではないのだ。

 怯えてばかりもいられない。わたしはカルデアの所長。部下の前で、これ以上の恥を晒すワケにはいかない。

 

「……ふぅ」

 

 一息つき、精神を落ち着かせる。これまで、わたしは辛い道を歩んできた。どんなに厳しい魔術の訓練も血反吐を吐いてでもこなし。膨大な知識を修めんとあらゆる書籍や論文、魔道書の写しを四六時中読みふけり。昔からアニムスフィア家を煙たがっていた魔術協会の連中とだって、父が亡くなってからはカルデアの存続の為に必死で渡り合ってきた。

 

 確かに命の危険とは無縁ではあったけれど。わたしの人生は自分でも過酷なものだと思う。

 長い道程、今ようやく命の危険と隣り合わせになる時が来た。いずれ来るべきものがついに訪れたというだけの話だ。

 思い出せ、オルガマリー・アニムスフィア。屈辱も、苦痛も、困難も、全てを越えてわたしは今ここに立っている。

 世襲的にカルデアを受け継いだようなものだけど、わたしよりも父の後継者らしい弟子だって居たけれど、カルデアを引き継いだのがわたしだからこそ、父の跡を継いで所長という重大な責務を果たさねばならないのだから。

 

 アニムスフィアの系譜として、そして現在の当主として、覚悟を決めろ、オルガマリー!

 

「キャスター、ルーン魔術で可能な限りトラップを作って。出来れば落とし穴系統が好ましいわ。そしてその穴の中に爆発する二重トラップを設置して。出来るかしら?」

 

 わたしの言葉に、振り返る彼と目が合う。数秒足らずの僅かな時間ではあったが、険しかった顔付きはすぐさま破顔一笑へと移りゆく。

 

「ちょいとばかし面倒な仕事だが、出来ねぇコトはねぇ。なにより、イイ女からの頼みとあっちゃあ断れるかよ。んなコトしたらフェルグスの伯父貴に笑われちまう」

 

 言うより早く、彼は膨大な量のルーン文字を展開させ、近隣へと術式を設置していく。わたしを魔術師と敬遠していたように思ったが、今の視線の交差で、彼の中のわたしの評価が少しだけ、変わったような気がした。

 

 さて、次はアルテラだ。彼女は白野のサーヴァントだが、わたしの指示に従ってくれるだろうか。

 いや、迷う時間はない。これは生きる為、そして白野を救う為の行動。ならば、彼女も最善で最短の手段を良しとするに違いない。

 

「アルテラ、あなたは体力の消耗が激しいわ。なので攻撃には出ずに、わたしとそこのアーチャーを担いで一時撤退よ。アーチャーの言う取引とやらは落ち着いてから聞きます」

 

「……アーチャーもか。本当なら断りたいところではあるが──我が虜を交渉材料に選んだ以上、見過ごす手はない。よし、その指示に従おう」

 

「ありがとう。それと───」

 

 アルテラに抱えられながらも、わたしは指示を飛ばすのを途切れさせない。

 

「マシュ、それに藤丸の両名もわたしたちと一緒に退くわよ。キャスター、トラップを仕掛け終えたら、わたしたちを追走して。そしてトラップからまた少し距離が開けば同じトラップを仕掛けなさい。それの繰り返しよ」

 

「おう、アレだな。逃げつつも敵を足止めしろってこったろ? 殿ならそのやり口はお門違いだが、生き残る為ってんなら話は別だ。バーサーカー相手にどこまで通用するかは分からねえが、やってみる価値はあるな。なんなら、違う方向へ誘導だってしてやるぜ」

 

 よし、ひとまずの方針は定まった。今は確実に自分たちが生き延びる。白野の救出は、万全を期して臨むべきなのだから。

 

「ロマニ、逐一バーサーカーの位置を報告しなさい! バーサーカーがわたしたちの軌道から外れ、距離を離せれば逃走は成功とします」

 

『了解です。よし、じゃあキャスター。キミに直接通信を繋げられないから、仮とはいえ契約したマスターである藤丸くんを通じて、随時状況を把握してくれ。藤丸くん、精神感応(テレパス)は分かるかい?』

 

「え? えっと、いや……分かりません」

 

「心配すんな坊主。オレがルーンで経路(パス)を作っとく。それなら素人でも簡単に念話程度なら出来るさ」

 

 ホント、ルーン様々ね……。ちょっと万能すぎない?

 いや、助かるからありがたいのだけど。

 

「よし。では、一時撤退します! 皆、必ず生き延びるわよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アーチャーとの戦闘があった場所からどれだけ離れただろうか。どれくらいの時間が経過しただろうか。

 決死の逃走劇の末、わたしたちはどうにかバーサーカーを撒く事に成功した。今も遠くで家屋や瓦礫の粉砕される音が聞こえてくるが、音はどんどん遠ざかっている。

 キャスターが上手く誘導し、わたしたちとは逆の方向へと進路を変更させたようだ。

 

 現在、わたしたちが居るのは崩れかけた洋館。かつては栄華を極めたであろう屋敷も、今や見るも無残な姿へと成り果てている。

 前に潜伏していた武家屋敷とは(おもむき)が違うが、こちらは今にも崩落しそうなので残念だが拠点には出来そうにない。

 

 たまたま逃げた先にこの屋敷があったかというと、そういうワケではなかった。逃げる最中、ここへ向かうよう提案したのは、今そこで拘束されたまま胡座をかいているアーチャーだ。

 アルテラに抱えられている間も、拘束から脱け出そうという素振りはまるで見せず、本当にこちらと取引をするつもりなのだろうか?

 

「あとはキャスターが戻るのを待つだけ、ね。どう、藤丸? 彼の状況は?」

 

 気になったわたしは、藤丸に聞いてみる。現状、彼だけがキャスターと遠隔通信が可能なので、聞かない訳にはいかないのだ。……わたしと藤丸とは性格的に噛み合わないのは別として。

 

「ちょっと待って下さい。えー……」

 

 そう言って、手のひらを見つめて集中する藤丸。というのも、通信用のルーンをそこに刻んでもらったからだ。

 ちなみに、肌に直接刻んだとかいうワケではなく、緊急で用立てたので一時的なもの。印象的には少しの期間だけ効果のある不思議なシール、といった感じだ。

 

「……、状況を把握しました。ちょうど今こっちに向かってるそうです」

 

 と、藤丸が手のひらから視線をわたしに移し、キャスターの現状を報告する。まだキャスターがこっちに到着するまでは時間が掛かるようだ。

 

「………どうしたものかしらね」

 

 キャスターを待たず、先にアーチャーの取引とやらについて聞いてみようか。幸いルーンの拘束はキャスターが離れてもまだ活きている。それに消耗してはいるがアルテラも居る。

 アーチャーが無理に暴れようものなら、拘束が解ける前に倒してしまえばいいだけの話だ。しかし、それだけはなるべく避けたいところではある。

 

 この男は、白野の命運を握っていると言っても過言ではないからだ。殺してしまえば、白野の救出も絶望的なものに成りかねない。

 

「ロマニ、近くに敵の気配は?」

 

『えー……、問題ありません。サーヴァント反応、並びに敵性反応を持つ個体も付近には感知されませんでしたよ。アサシンは白野ちゃんを拉致したから、すぐにまたここへ戻るとも思えないし、しばらくはその一帯の安全を保証出来ます』

 

「そう……」

 

 ひとまずの安全を得られた。けれど、心が落ち着く事はない。白野の安否が不明な以上、安心なんて決して出来ないのだから。

 

「心配か?」

 

 と、わたしの心でも読んだかのように、的確に疑問を投げかけてくるアーチャー。あの時、この男は白野を攫うのが元々の目的だったと白状した。今思えば、アーチャーの計画通りに事が進んでいるようで、とても気に食わない。

 

「当たり前よ。あの子はわたしの大切なサーヴァントなのよ? 心配しないはずがないわ。本当なら、今にもあなたを殺してやりたい程に憎たらしいわ。でも、白野を救い、かつ特異点消去も同時に遂行出来る可能性をむざむざ潰すのは愚考よ」

 

「フッ……。なるほど、彼女と契約するのがサーヴァントであっても、それがマスターであっても、相棒が強情なのは変わらない、か。なんとも彼女らしいな」

 

「キャスターを待つか悩んだけど、もういいわ。取引とやらについて聞きましょう。あなたは、一体何を考えているのかしら?」

 

 取引。つまり、彼はわたしたちカルデアの陣営と仮初めの協力関係を築こうとしている。加えて、特異点の消去を持ち掛けてきた事から、彼はこの聖杯戦争が行われている時空が歪んでいると知っている。

 それらを考慮した上で、この取引が意味するのは、この特異点の歪みの中心であろうセイバーへのアーチャーの裏切りだ。

 

「何を考えているか、か。そうだな……元々は聖杯戦争に参加するサーヴァントでしかなかったが、本来なら私は少々特殊なサーヴァントでね。守護者と呼ばれる、霊長の未来を守る為の掃除屋だ。そして私自身この狂ってしまった聖杯戦争に未練はない。故に守護者としての役割を全うしようと思った。それだけの事だよ」

 

「霊長の守護者……。人類史を脅かす脅威を殺すとされる、世界の遣わした抑止力の具現ね」

 

 わたしも詳しくは知らないが、カルデアでの英霊召喚の研究の際、守護者についての文献も扱ったのだろうか、亡き父の書斎に有ったのを読んだ覚えがある。

 

 曰わく、人類を滅ぼしうる危険を孕む存在を排除する者。それが加害者であれ被害者であれ関係なく、関与した全ての人間を殺し、そこに善悪の一切は無く。

 人類史の未来を守る為ならば、害となる人間全てを躊躇なく殺す、そんなどこか矛盾した概念を持つ、冷徹なる執行人。

 それが、守護者と呼ばれる存在。

 

「なるほど、納得はしないけど、合点はいくわね。守護者として、人理の歪みを正す───それがあなたの言い分というワケかしら」

 

 だとしたら、やはり違和感がある。その違和感を口にしようとしたところで、黙って聞いていたマシュが先に口を開いた。

 

「待って下さい。アーチャーさん、あなたが守護者としての役割を果たすというのなら、何故キャスターさんやわたしたちを襲ったのですか? 協力して、歪みの元凶と推測されるセイバーを倒せば良かったはずです」

 

「そうね。わたしもそこが不可解だった。そもそもこの地の聖杯戦争は、わたしたちがこの時代に来る前に既に狂っていた。なら、何故最初からキャスターと協力しようとせず、あまつさえ彼を殺そうとしていたの?」

 

「セイバーに倒されて、狂ってしまったから?」

 

 藤丸、その予想は違うと思うのだけど……。それが理由なら、今こうして特異点消去という取引を持ち掛けてくるのはおかしい。もっと前に出来たはずなのに、今になって取引をしようと考えるのが不自然すぎる。

 それだと前後の問題が存在しなくなる。狂ってしまう前と後とでは関係ない結果になるからだ。

 

 立て続けの意見に、顔をしかめつつもアーチャーは答える。

 

「何点か訂正と補足が必要だな。一つ、何故キャスターの命を狙っていたか。これに関しては、その時点ではキャスターが私にとって不要だったからだ。それにキャスターの抹殺命令も下されていたし、下手にキャスターと協力するのは拙い。叛逆の意思有りとみなされれば、即座に私の霊基は砕かれていた」

 

 それは───一理ある。無為にキャスターと結託して、それが原因で殺されては元も子もない。

 

「二つ、今になって取引と称し協力を持ち掛けたのは、キャスター含め君たちが駒として有用だと判断したからだ。本来、私の押し進めたかった計画では、岸波白野とアルテラ、この両名の拿捕だった。他は切り捨てる───つまり殺しても問題なかった。だが、君たちは思いの外に強く、戦術も理に適っていたのでね。私が捕縛された以上、君たちと手を組むシナリオしかなかったという訳だ」

 

 アーチャーから語られた、彼の計画の真実の一端。それを聞いていた、本来狙われていたもう一人、その当の本人であるアルテラは、「そういう事か」と目を細めながら何やら納得しているようだった。

 ただ、自分だけで理解されても、わたしたちが置いてけぼりになって困る。

 

「何がそういう事なの?」

 

「我が虜の薬指に指輪が嵌められているのは知っているか?」

 

「……そういえば、そうだったわね」

 

 あまり装飾されすぎておらず、だというのに荘厳さと神秘の塊かと思わせるような、不思議な指輪。白野曰わく、何らかの礼装らしいが元々の機能を失っていると聞いた覚えがある。

 

 マシュと藤丸も、白野の指輪について詳しくはないものの、その存在は知っていたようで、うんうんと頷いている。

 しかし、その指輪が今どう関係しているのだろうか?

 

「あの指輪には、契約しているマスターとサーヴァント、そのどちらかを装着している一方が指輪へと収める事が可能だ。文字通り、指輪の内へと収納する」

 

「な……!?」

 

 驚きの事実に、わたしだけでなく、マシュと藤丸の二人も思わず声を上げた。

 礼装と言えども、人間やサーヴァントを物の如く、しかも縮小して収納出来るなんて、一体どんな魔術礼装だ。そんなもの、英霊が扱う宝具に等しい。

 

「猫型ロボット……!?」

 

「先輩……?」

 

 ……あえて突っ込まない。知っているし言いたい事は分かるけれども、藤丸のボケ(?)はスルー。

 

「詳細には触れないが、それはあの指輪───レガリアの持つ機能のほんの一つに過ぎない。私を目覚めさせた際に幾つかの機能が回復したようだが、それでも真の力には遠く及ばないがな」

 

 ……有る意味で、魔法の域だ。物ならともかく、人間のサイズを変えてしまうなんて。神代でならありふれた話かもしれないが、神秘の薄れたこの現代で、それほどの礼装は存在すら幻レベル。

 未開の地ではないジャングルで幻獣を探すようなものである。

 

「……あ!」

 

「! どうしましたか、先輩!?」

 

 さっきから漫才でもしているのかと二人に言いたくなるのを我慢する。というか藤丸、煩いわね。

 

「指輪にサーヴァントを収納出来るんだろ? なら、セイバーにも不意打ちするチャンスだって……!!」

 

「!!」

 

「た、確かに、話だけ聞いていたら可能かもしれません! それに、指輪に入っていればセイバーに気付かれる可能性も少なくなるかもしれませんね」

 

 盲点だった……! 指輪の機能のケタ違いな性能にばかり驚いていたが、言われみてればこれ以上にない、千載一遇の一手となりうる方法だ。

 まさか魔術の素人である藤丸に気付かされる事になろうとは。なんというか、少し屈辱だ……。

 

「そう。その少年の言う通り、それこそが岸波白野が切り札足り得るという証。確実性こそ保障出来ないが、君たちが現れるより前に元々考えていた策よりは、まだ希望が持てたのでね。使えるものは使わない手はないだろう?」

 

 

 

「だからって、テメェのやり方は遠回りしすぎなんだよ」

 

 

 

 そこへ、ようやく合流したキャスターが口を挟んできた。追っ手は居ないらしい。破壊音はさっきよりも遠退いている。

 

「おーい、遠見の貧弱男! コイツらの会話の記録は取ってるか? まあ、だいたいの察しは道すがらついたけどよ」

 

『貧弱……、コホン! 一応録音してるよ。取引内容はきっちりと押さえておかないとね。ご所望なら、後で録音データを藤丸くんに送っておくから、彼から聞かせてもらうといい』

 

「おう、それで頼むわ。んで、アーチャー。取引ふっかけてくるってコトァ、算段はついてるんだよな?」

 

「当然。そのためにバーサーカーを大聖杯から遠ざけた。出来るなら、事が終わるまでは奴に邪魔されても困る」

 

「ヘッ。だと思って、あの胸糞悪い教会まで誘導しといた。バーサーカーの野郎を遠ざけられた上に、アソコをぶっ壊せる。オレはそれだけで胸がスッとするね! ざまぁみろ、あの愉悦糞神父!!」

 

 仲が良いのか悪いのか、妙なところで気が合うような、合わないような。そんな二人の関係性を見ていると、わたしとAチームの関係のように思えてくる。

 ───取り分け、彼らの中でもヴォーダイムとわたし、と言ったほうが正しいのだが。

 

 それにしても教会を破壊させるとは、何とも罰当たりではある。よほど、その神父とやらが気に入らないのだろうか。それとも、何か酷い事でもされたとか?

 

「んで? 魔術師の姉ちゃんはどうする? アーチャーとの取引、受け入れんのか?」

 

 キャスターの真っ直ぐな視線が突き刺さる。この場を仕切るべきは、カルデアの所長であるわたし。方針も、可否も。わたしの一存と責任で決定される。

 

 アーチャーとの取引……。信用出来るかどうかで言えば、答えは否。そんなもの、当然信用なんて出来るはずもない。

 けれど、現状のわたしたちに白野を確実に救う術は無く、その方法をどうするべきか決めかねるのもまた事実。

 

 ───選択肢は、実は有るようで、ほぼ皆無に等しかった。

 わたしが選ぶべきは、アーチャーを利用するかどうかだけ。

 

 どうすればいい? 信用出来ないこの男の取引に応じるべきなのか……?

 

 

『はーい、ダ・ヴィンチちゃん参上! 悩めるオルガマリーに助言を与えにやってきたぜ☆』

 

 

 場違いなまでの明るく脳天気な声。普段は自分の研究室(ラボ)に籠もりっぱなしの彼女が、一体何を……。

 

『ちょっ、いきなり何だいレオナルド!? そこボクの席なんだけど!?』

 

『煩いなぁ。細かい事は気にしない気にしなーい! さて、オルガマリー。キミは今悩んでいる。白野ちゃんを救う為、この特異点を消し去る為に、先程まで敵対していたアーチャーと手を組むべきか否か』

 

「……ええ、そうよ。いつ裏切って背中を襲われるかも分からない相手を、信用するべきじゃないもの。けど、白野を救える可能性が最も高いなら、彼の力を借りるべきとも思う自分が居る。……カルデアを率いる者としてのわたしと、一人の人間としてのわたしの意見が、頭の中でせめぎ合っているわ」

 

 もどかしい。わたしがこの立場になければ、もっと簡単に選べたかもしれないというのに。

 

『そうかい。なら、先達としてのアドバイスだ。使えるモノは何でも使うと良い。今は火急の時なんだよ? 今ここでグダグダと時間を費やす間にも、白野ちゃんの身には危険が迫っている。白野ちゃんを拉致したのがアーチャーの策の内だとしても、敵方の黒幕がいつまでも見逃すとは思えない。それにバーサーカーの不在はまたとないチャンスでもある。作戦実行は今すぐにでもしないと、次の機会はもう巡って来ないと考えたほうが良いよ』

 

「……レオナルド・ダ・ヴィンチか。世紀の大天才が召喚されているとは、驚いた。天才であり変人、誰よりも優れていたが故に、誰一人として並び立てる者が居なかった、孤独な天才。そんなキミが、サーヴァントとして誰かに従うとは」

 

『別に? そういうキミだって守護者じゃないか。人理を守る担い手が聖杯戦争なんかに参加してて良いのかい? と言っても、もうその聖杯戦争は狂ってしまっているんだが。あ、だから守護者の本来の役目を果たそうとしてるんだっけ?』

 

 皮肉に皮肉で返す辺り、ダ・ヴィンチらしいと言えばらしいか。

 ……使えるモノは何でも使え、か。そうね、今のカルデアやわたしたちに、選り好みしている余裕なんて無い。

 なら、わたしが選ぶべきは───

 

 わたしは意を決し、アーチャーへと真正面から対峙する。この選択でどうなろうと、責任はわたしにある。

 

「決めました。アーチャー、あなたの申し出を───」

 

「………、」

 

 沈黙に包まれる。誰も彼もが、わたしの言葉を待っている。

 

 告げる。わたしは、

 

「───受けましょう。ただし、一つだけ条件付きよ」

 

「何だね?」

 

「キャスターのルーンと、わたしからの制約の刻印であなたを限定的に束縛します。それを容認しない限り、わたしはあなたを信用出来ない」

 

 彼を信用する唯一の妥協案。裏切りを事前に阻止出来るように、こちらが先手を打っておく。

 そうすれば、多少なりとも安心感を持って事に当たれるというもの。

 

「……ふむ。良いだろう。ただし、状況によっては君たちと敵対する演技を求められる事もあるかもしれないのでね。敵対行為=即死というような呪いは勘弁してもらいたい」

 

「いいでしょう。こちらとしても、それが原因で敵に警戒されて、本命の作戦が失敗なんて嫌だもの」

 

 取引は成立。わたしとキャスターとで、軽い服従の刻印をアーチャーへと刻む。わたしたちに危害を与えようとすれば、全身を一時的に麻痺させるといったものだ。

 わたしだけでは縛りは弱いだろうが、英霊の手助けもあれば、かなり強力な制約が期待出来る。

 

 さあ、これで心配だった要素は軽減された事だし、すぐにでも白野救出、及び特異点消去へと乗り出そう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふう。どうにか、オルガマリーは踏み切ってくれたみたいだね。なら、私はお役御免かな?」

 

 管制室にて、やりきったとばかりに息をつく彼女に、後ろから脳天目掛けてチョップが繰り出される。

 言わずもがな、Dr.ロマンによるものだ。

 

「急に来たかと思えば、所長に助言とか。お前は行動が突然すぎるよ!? と言うか何かな? さっきまでラボに引きこもってたんじゃないの? もしかして通信傍受してたのか!?」

 

「痛いなぁ、もう。レディの、それも大天才の頭を殴るとかキミは常識が無いのかなぁ? いいじゃん別に。通信傍受の一つや二つくらい。安いものさ」

 

「あのね、通信傍受するだけで無駄に電力消費するんだよ!? それなら最初からここで居たらいいだけだろ!?」

 

 コスト削減と怒鳴る彼に、ダ・ヴィンチは悪びれるでもなく、彼を無視して管制室の様子を見回す。事細かに、観察するかのように。

 

「…………ふむふむ。やっぱり、腑に落ちないな」

 

「まったく……って、どうしたんだい? 何か気になる事でも?」

 

「いやね、爆発の仕方というか爆発した箇所だ。機材ならともかく、爆発の可能性が無い所まで起爆した跡がある。これは事故ではなく、()()()()()()()()()可能性があるかもだ」

 

「な、にを……!?」

 

 Dr.ロマンが驚くのも無理はない。それが意味するのは、()()()()()()()()()()()()()()という事実の証左に他ならないからだ。

 

「だが、何のために……? カルデアに人類の未来が委ねられているようなものなのに、その邪魔をするなんて、一体どういう了見だ? これは少し調べる必要があるかな。ふふっ。こう見えて推理は得意さ。かの探偵顧問に適うべくもないが、私は天才だからね。というわけでワトソンくん、私はちょいとばかり、カルデアスタッフの私室を調査に向かうとしよう。なに、鍵なら心配ご無用さ。ピッキングなんてお茶の子さいさいだからね。それじゃ、あとは任せたよ、ロマニ?」

 

「ちょっと待て! ……って、行っちゃったか」

 

 鼻歌混じりに管制室を後にした彼女に、Dr.ロマンはうなだれてモニターに向き直る。というか、さっきの台詞からして、探偵というより泥棒がお似合いなのでは。

 

「それにしても、裏切り者……か。何だか嫌な予感がする。レイシフト中の皆も、それに白野ちゃんも、無事だと良いんだけど……」

 

 

 

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