Fate/Grand Order  凡夫なりし月の王   作:キングフロスト

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終節 人理修復への旅立ち / 岸波白野、ソラを飛ぶ

 

「えっ、白野は!?」

 

 オルガマリーを助ける為に、アルテラの助力のもと単身でカルデアス付近にまで投げ飛ばされていった白野だったが、灼熱の球体によもや直撃する寸前で、眩い光に包まれた。

 目が眩み、次に立香が目を開いた時には、彼女の姿はどこにもなく、痕跡すら消えていた。それに伴い、オルガマリーの安否も不明のままとなる。

 

「ドクター!? 二人の反応はどうなっていますか!?」

 

『ちょ……待って…れ。通信…度……るい』

 

 ここにきて、映像のみならず、音声まで不透明となったカルデアとの通信。もしくは、これすらもレフによる妨害工作の一つなのかもしれない。

 

「……ふむ。これは本当に想定外だ。まさか自ら死へと飛び込んで来る──かと思いきや、そのままどこかへ飛んでしまうとは。しかし、一体幾つの隠し玉を持っているのやら。……アレもサーヴァント、ならば如何様にもこちらへと引き込む手立てはある。殺してしまうには惜しい人材だなぁ、彼女は」

 

 ニヤリと厭らしく笑ってみせる彼に、アルテラは怒りを隠そうとしない。

 

「貴様、我が虜に手は出させん。出そうものなら、我が剣で一刀のうちに貴様を両断する」

 

 己へと剣を向けるアルテラに、しかしレフはまるで恐れる素振りを見せる事なく、ただただ彼女を見つめていた。

 

「おお、怖い怖い。か弱い人間相手に英霊が刃を向けるか」

 

「冗談は程々にするがいい、外道。貴様、もはや真っ当な人間ではあるまい。その体、それのどこがか弱い人間のものであるとほざく?」

 

 鋭い眼孔がレフの全身を捉え、彼の正体を暴き立てんとするが、彼は躊躇いなくアルテラの言葉を肯定した。

 

「さすがは英霊。同じ超上の存在として、匂いを嗅ぎつけたかな? では、改めて自己紹介をしようか。私はレフ・ライノール・フラウロス。貴様たち人類を処理するために遣わされた、2015年担当者だ」

 

『………い、何を……てる…だ!?』

 

 理解が追いつかないのは、立香たちだけではない。管制室で辛うじて音声を拾っているであろうDr.ロマンの、ノイズに埋もれながらも戸惑いの感情が現場にまで伝わっていた。

 

「聞いているなDr.ロマニ? 共に魔道を研究した学友として、最後の忠告をしてやろう。カルデアは用済みになった。お前たち人類は、この時点で滅んでいる」

 

「な……!!?」

 

 レフの言葉に、誰も彼もが耳を疑った。既に人類が滅んだ? なら、ここに来たのは何の為に……。

 いや、そもそも本当の事なのかも疑わしい。だというのに、立香もマシュも、レフの自信に満ちた言葉を受け、本能的にそれが真実であるのだと直感していた。

 

「未来が消失した? まこと、おめでたい話だ。まさかその程度の異変だとでも思っていたのかね? 2016年より先の未来が消えただけなら、まだ君たちには救いがあったかもしれないが……未来は消失したのではないのだよ。焼却、されたのだ。カルデアスが深紅に染まった時点でな」

 

 嗤いながら、男は狂ったように両腕を広げて宣言する。その有り様は、まさしく狂人のもの。

 

「結末は確定した。貴様たちの時代はもう存在しない! カルデアスの磁場でカルデアは守られているだろうが、外はこの冬木と同じ末路を迎えているだろう。いいや、もはや世界は消え失せているのだよ!!」

 

 立香の顔から色が急激に失われていく。いや、それは彼に限った話ではなく、マシュとてそうだ。人類史の存続の為に、命を懸けてまで戦ったというのに、そもそも手遅れだったなんて。

 到底、容易に受け入れられる話ではない。

 

「フフフ。そして、カルデアとて安全なままなのも時間の問題である。そこカルデア内の時間が2016年を過ぎれば、そこもこの宇宙から消滅する。何しろ、人類の未来は2017年以降から失われるのだからね。ならばこそ、存在しないはずのものが存在するなど、この宇宙が許すはずもない。もはや、誰にもこの結末を変えられない! 何故ならこれは人類史による人類の否定だからだ!」

 

 声高々に、彼は饒舌に語ってみせる。人類史の終わりを。人類の、滅亡を。

 

「お前たちは進化の行き止まりで衰退するのでも、異種族との交戦の末に滅びるのでもない。自らの無意味さに! 自らの無能さ故に! 我らが王の寵愛を失ったが故に! 何の価値もない紙クズのように、跡形もなく燃え尽きるのさ!!」

 

 人類史をゴミと称したレフ。その僅か後に、今度はもっと大規模な異変が、立香たちを襲った。

 地震、いや、それどころか大空洞の崩落……?

 

 だが、それらの可能性はレフの口から否定される。

 

「おっと、この特異点もそろそろ限界か。……セイバーめ、おとなしく従っていれば生き残らせてやったものを。聖杯を与えられながら、この時代を維持しようなどと、余計な手間を取らせてくれた」

 

 苛立ちは、既に消え去ったセイバーへと向けられる。自らの意のままに動かなかった彼女もまた、レフにとっての想定外だったのだろう。

 

 と、そんな彼の前に、一人の少女の亡骸が転がってくる。地殻変動にも等しい大きな振動だったために、そこまで揺さぶられてきたのだろう。

 レフは、その少女を見下ろした。恐ろしいまでに冷たい視線で、彼女の死を悼む事もせず。

 

「この娘か……。せっかく聖杯を用いて死体を再利用したというのに、最後の最後でしくじるようでは、出来損ないとしか言えないな。でも、それも仕方ないかな? 死体故に、本来の彼女の能力の再現までには及ばなかった。……だがまあ、この娘の行った虐殺や破壊行動こそが、人間が奥底にひた隠しにする()()であったのかもしれないな。……今更、どうでも良い事だがね」

 

 言って、彼は思い切り彼女の亡骸を蹴り飛ばした。地震により生まれた大きなひび割れへと、その体は吸い込まれるように落ちていく。

 運命に翻弄され続けた少女。願いの為に全てを殺してみせた少女。その末路は、あまりにも悲しいものだった。

 

「では、さらばだロマニ。そしてマシュ、48人目の適性者。こう見えても私には次の仕事があるのでね。君たちの末路を愉しむのはここまでにしておこう」

 

 地響きは治まるどころか、より激しさを増していく。だというのに、レフは平気な顔で立って───否。浮いている。彼は宙に浮いて、悠々と立香たちを見下ろしていたのだ。

 

「このまま時空の歪みに呑み込まれるがいい。私も鬼じゃあない。最後の祈りぐらいは許容しよう」

 

 それだけ言うと、レフ・ライノールは霞のようにその姿を消してしまった。空間が歪んだために見えていた深紅のカルデアスも、彼の消失と共に消え失せる。

 残ったのは、未だに大地に揺られる立香、マシュ、アルテラの三人だけ。

 

「地下空洞が崩れます……! いえ、それ以前に空間が安定していません! ドクター! 至急レイシフトを実行してください! このままではわたしはともかく、先輩やアルテラさんまで……!」

 

『よし! レフが居なくなってやっと通信が正常化した! 分かってる、もう実行しているとも! でもゴメン、そっちの崩壊の方が早いかもだ! その時は諦めてそっちで何とかしてほしい! ほら、宇宙空間でも数十秒なら生身でも平気らしいし!』

 

「いやいやいや! それは流石に無茶振りすぎますって!?」

 

「おい、宇宙空間をあまり馬鹿にするなよ。宇宙は真空だ。そんな中に生身で飛び出そうものなら、数十秒と持たずに血管が破裂するぞ」

 

「すみません、皆さん黙ってください! 怒りで冷静さを失いそうです!」

 

 それぞれが冷静なようで、まるで冷静ではない。一見マトモそうなアルテラも、真面目な顔でロマニに反論している。

 マシュだけは冷静さを保とうと努めるが、それでも落ち着いてはいられなかった。

 

「とにかく意識だけは強く持ってくれ! 意味消失さえしなければサルベージは───」

 

 通信が途切れる。完全に大地は崩落し、立香とマシュ、アルテラも、地割れへと落ちていく。

 アルテラは、剣を壁面に突き刺してどうにか落下を防ぐが、二人は為す術もなく、落ちていくのに逆らえない。

 

「マシュ、手を───!!」

 

「先輩……!!」

 

 落ちる最中、二人は互いに手を伸ばし合った。このまま落ちていこうとも、決して離れないように。

 

 そして、二人の視界は真っ暗になる。

 最後に、チラリと白い小さな獣の姿が見えた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 不意に、眩しいものが瞼を照らす。

 

 何だろう、地割れに落ちたはずだから、もしやマグマでは……!?

 そう思ったの束の間、彼が急いで目を開けると、そこには思いもしない光景が待っていた。

 

 

 

「よーし、キミはずいぶん良い子でちゅねー。何か食べる? 木の実? それとも魚? んー、ネコなのかリスなのかイマイチ不明だね。でもいっか、可愛いから!」

 

「フォーウ……ンキュ、キュウゥ……」

 

 

 

 ………。目を見張る程の美人が、フォウと戯れている。

 と、その絶世の美女は立香が起きた事に気付いたらしく、フォウと遊んでいたのを切り上げ、彼に向き直る。

 

「おっと、本命のお目覚めだ。よしよし、それでこそ主人公というヤツだ。おはよう、こんにちは、藤丸くん。いいや、ここは敢えて友情の構築の為にも、立香くん、と名前で呼ぼうかな? それでどうだい、意識はしっかりしているかい?」

 

「……ここ、は?」

 

 辺りを見渡す。どうやら、どこかの部屋のベッドに寝かされているらしい。というか、何故フォウが?

 

「んー、まだ思考能力が戻っていないのか。こうして直接話をするのは、確かキミとは初めてだったよね。なに? 目が覚めたら絶世の美女が居て驚いた? わかるわかる。でも慣れて」

 

 コホン、と佇まいを整えると、彼女は改めて自己紹介を始めた。

 

「私はダ・ヴィンチちゃん。カルデアの協力者だ。というか召喚英霊第三号、みたいな? もっと分かりやすく言えば、白野ちゃんの先輩サーヴァントさ」

 

 あ、と立香は合点がいく。確かに、これほどの美人はそうそう現代においてはお目にかかれないだろう。サーヴァントであるなら納得だ。

 

「とにかく話は後あと。キミを待ってる人がいるんだから、管制室に行きなさい」

 

「待ってる人……? それってDr.ロマン?」

 

「ロマン? ロマンも待ってるには待ってるけど、あんなのどうでもいいでしょ」

 

 ダ・ヴィンチちゃん。呆れた風に、ごく自然にロマンを貶していた。何というか、凄いなぁ~……と、立香は思わざるを得ない。

 

「まったく、他にもいるだろうに、大事な娘が。まだまだ主人公勘ってヤツがなってないなぁ」

 

「フォウ、フォウ!」

 

 同調するようにフォウが鳴く。立香は困ったとばかりに、頭を掻いていた。

 

「ほら、この子だってそう言ってる。いいかげん、立ち上がる時だよ立香君。ここからはキミが中心になる物語だ。キミの判断が我々を救うだろう。人類を救いながら歴史に残らなかった数多無数の勇者たちと同じように。英雄ではなく、ただの人間として星の行く末を定める戦いが、キミに与えられた役割だ」

 

 

 

 

 

 

 

 半ば追い立てられるように部屋を追い出された立香は、生きて帰ってきたんだなぁ……と実感しながら、生を噛み締めていた。

 

 少し迷いながらも管制室に到着する。早速中に入ると、やはり彼女はそこに居た。というか、居ると聞いていたのだから、当然か。

 

 彼女も、立香が入室してきた事に気付いたらしく、駆け寄ってくる。デミ・サーヴァントとしての姿のままに。

 

「おはようございます先輩。無事で何よりです」

 

「おはよう、マシュ。それと……ありがとう」

 

「お礼を言うのはわたしの方です。先輩が居てくれたので意識を保っていられました」

 

 しばしの間、見つめ合う二人。しかし、そんな仲睦まじい男女の空気に割って入る者が居た。

 

「コホン。再会を喜ぶのは結構。でも今は、こちらに注目してほしいかな?」

 

 Dr.ロマン。彼もまた、先程のダ・ヴィンチちゃんのように、呆れた風に立香たちを見つめていた。

 

「まずは生還おめでとう立香くん。そしてミッション達成、お疲れ様。なし崩し的に全てを押し付けてしまったけど、君は勇敢にも事態に挑み、乗り越えてくれた。その功績を讃え、心からの尊敬と感謝を君に。君のおかげでマシュとカルデアは救われた」

 

 真心のこもった謝辞に、立香は照れくささに見舞われる。だが、成し遂げた事の大きさを考えると、それだけでは足りないのが、ロマンの本音でもあった。

 

「ところで、白野や所長は? アルテラも無事だったんですか?」

 

 照れ隠しに、何気なく聞いただけだった。なのに、その言葉で、ロマンもマシュも、表情を曇らせる。

 

「アルテラさんはわたしたちと共に無事帰還しました。今は度重なる戦闘で傷付いた霊基の回復に努めています」

 

「白野ちゃんと所長なんだけどね……。二人の消息は、こちらでもまだ掴めていないんだ。何しろ、白野ちゃんが消える直前に何かをしたんだろうけど、それが何かが全く以て不明でね。同じ時代の空間のどこかに転移したか、それとも時空の歪みに囚われたままになったのか……それすら分からないんだよ」

 

「そんな……」

 

 その事実に、立香は絶句する。オルガマリーを助けるために、そして自分も助かるために、白野は行動したはずだ。

 なのに、その二人の安否すらも確かめられないなんて……。

 

 落ち込む立香。ロマンは彼の気持ちを理解しているが、敢えて続けた。

 

「二人の安否は分からない。だけど、我々に止まっている猶予はない。マシュから報告を受けているよ。君たちが確認したという聖杯、そしてレフの発言───。見てくれ、このカルデアスの変容を」

 

 彼は指差した。背後に浮かぶ赤く染まった天体を。あの時、大空洞で見たものと全く同じ、深紅のカルデアス。

 幻でも嘘でもなかったのだ。

 

「カルデアスの状況から見るに、レフの言葉は真実だ。外部との連絡は取れない。カルデアから外に出たスタッフも戻って来ない。……おそらく、既に人類は滅びている」

 

 多大な悔しさを滲ませて、ロマンは語る。レフの語った人類の滅亡が、紛れもない真実であるのだと。

 

「このカルデアだけが通常の時間軸に無い状態だ。崩壊直前の歴史に辛うじて踏みとどまっている……というのかな。つまり、外は完全なる死の世界と化している。一歩でもカルデアから出ようものなら、本来の時間軸に絡め取られて───外と同じ運命を辿るだろう。この状況を打破するまでは、だけどね」

 

「打破、出来るんですか?」

 

 立香の問いかけに、ロマンは確固とした自信を持って答える。

 

「もちろん。まずはこれを見てほしい。復興させたシバで地球の状態をスキャンしてみた。未来じゃなくて過去の地球のね。冬木の特異点は君たちの活躍で消滅した。だというのに、未来に一切の変化が表れる様子がない……だから、他にも原因があるとボクらは仮定したんだ。その結果が───」

 

 カルデアスに、地球儀のような世界地図が浮き出てくる。しかし、それは立香が知るものとは、およそ遠く離れた代物だった。

 

「分かるかい? この狂った世界地図。新たに発見された、冬木とは比べ物にならない時空の乱れだ。よく過去を変えれば未来が変わる、というけど、ちょっとやそっとの過去改竄じゃ未来は変革できない。人理定礎───霊子固定記録帯(クォンタム・タイムロック)という、世界の行く末を一本道に固定化させる働きがあるんだけど、それと同じく歴史にも修復力というものがあってね。確かに人間の一人や二人を救う事は出来ても、その時代が迎える結末───決定的な結果だけは変わらないようになっているのさ」

 

「ですが、これらの特異点は違います。これは、人類のターニングポイント。“この戦争が終わらなかったら”。“この航海が成功しなかったら”“この発明が間違っていたら”。“この国が独立出来ていなかったら”……。そういった、現在の人類を決定付けた究極の選択点です。そのようなifが、本来なら起こりうるはずがないように歴史は固定されるのですが……」

 

「そう。それが崩されるという事は、人類史の土台が崩れる事に等しい。これまで培ってきた歴史の否定に他ならない。そして、この()()()特異点はまさにそれだ。この特異点が出来た時点で、我々人類の未来は確定してしまった。レフの言う通り、人類に2016年より先は訪れない」

 

 だけど、それでもロマンは希望はまだ残されているのだと、声を大にして主張するのだ。

 

「───けど、ボクらだけは違う。その理屈には当てはまらない。だって、カルデアはまだその未来に到達していないからね。分かるかい? ボクらだけが、この間違いを認識し、その上で修復だって行える。今こうして崩れている特異点を元に戻すチャンスがある」

 

 そして、ロマンは語るうちに高ぶる感情と興奮を抑え、打破する手段を立香へと伝えた。

 

「この七つの特異点にレイシフトし、歴史を正しいカタチに戻す。それが人類を救う唯一の手段だ。これはボクらにしか出来ない使命でもある。けれど、ボクらにはあまりにも力がない。マスター適性者は君を除いて凍結。所持するサーヴァントはマシュ、そして白野ちゃんのサーヴァントであるアルテラだけだ。その白野ちゃんもオルガマリー所長と共に行方知れず……。この状況でこれを君に話すのは、強制に近いと理解している。それでもボクはこう言うしかない」

 

 自然と、立香は体を真っ直ぐに伸ばし、姿勢を正して、ロマンの言葉を待っていた。彼が何を言おうとしているのかを、何となく察した上で。

 

「マスター適性者48番、藤丸立香。君が人類を救いたいのなら、2016年より先の未来を取り戻したいのなら、君はこれからマスターとしてたった一人で、この七つの狂った人類史と戦わなくてはならない。その覚悟はあるか? 君にカルデアの、人類の未来を背負う力はあるか?」

 

「………もちろん。だって、こっちはあの騎士王からのお墨付きをもらってます。自分に出来る事なら、全力を尽くすと約束します」

 

 立香は答えた。人類を救う。困難に立ち向かう。世界へ、未来を取り戻すのだと。

 

 その返答に、ロマンは安心したように笑って返す。

 

「───ありがとう。その言葉、君の決意で、ボクたちの運命は決した。これよりカルデアは所長オルガマリー・アニムスフィアが予定した通り、人理継続の尊命を全うする。……本当なら、この役目は所長に任せたいところだけど、事態は急を要するからね。コホン、目的は人類史の保護、および奪還。探索対象は各年代と、原因の核になっていると思わしき聖遺物・聖杯。我々が戦うべき相手は歴史そのものだ。君の前に立ちはだかるのは先の戦いからも分かるように、多くの英霊、伝説になる。それは挑戦であると同時に、過去に弓引く冒涜に他ならない。我々は人類を守るために人類史に立ち向かうのだから」

 

「けれど、生き残るにはそれしかありません。いいえ、未来を取り戻すには、これしかないのです」

 

 ───たとえ、どのような結末が待っていようとも。

 

「以上の決意を以て、作戦名はファーストオーダーから改める。これはカルデア最後にして最初の使命。人理守護指定・G.O(グランドオーダー)。魔術世界における最高位の使命の発令を以て、我々は未来を取り戻す!」

 

 ここに、大いなる使命が発令された。これより先は、幾たびの出会いと別れ、そして命懸けの戦いの数々が待ち受ける事だろう。

 だというのに、その重すぎる使命を背負う事になった当の本人である立香は、前向きに考えていた。

 

 この戦いは、未来を取り戻すためのもの。そして、きっと行方知れずとなった白野や所長も、戦いを巡る中で再会出来る、そんな予感が、彼には有ったのだ───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 特異点F/S 怨嗟汚染魔都 冬木

 

 

 定礎復元 完了

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カルデアにおいて冠位指定(グランドオーダー)が発令されたのとほぼ同じ頃。岸波白野はとある平原を全力疾走していた。

 なだらかな草原、点在するように立つ木々。風にそよぐ草花。

 およそ平和な風景が広がるのに、何故、彼女は全力で走っているのだろうか。

 

 その答えは、彼女の後ろにあった。

 

『ギイィィィ!!!』

 

 竜のような翼、コンドルよりも鋭い鈎爪、ワニのごとく硬い鱗───それは伝承に聞く、紛れもない竜種の末端、空を往く翼竜。その名はワイバーン。

 世界からは消え、世界の裏側へと住処を移して久しいはずの存在。本来なら、人間が簡単に目にする事など不可能なはずの、伝説上だけの生物。

 それが岸波白野───私を追って飛来していたのである。

 

「なんで……なんでワイバーン!? というか、なに!? 私、食べられちゃうの!!?」

 

 止まれば捕まる。そして捕まれば、恐らくは捕食される。

 冗談じゃない。訳も分からないまま、怪物に喰われて命を終えるとか、笑い話にすらならない。

 

 頼れるサーヴァントはここには居ない。アルテラとは離れてしまった。

 そも、ここがどこなのかも分からない。助けを求めようにも、地理に明るくないのに何処に行けばいいのかも分からない。

 

 だから、とりあえず全力で走って逃げ続けるしかない。とにかく生きること。それさえ諦めなければ、道は開けるはずだと信じて。

 

 

 

 

 

 

「おやぁ? これは異な事もあったものよ」

 

 

 

 

 

 

 ふと、前を通りかかった木の上から、声が聞こえた。

 鋭く、物腰の柔らかいようで隙を一切窺わせない男の声。どことなく渋いものを感じさせる。

 

 自然と、私は足を止めてそちらを見ていた。ワイバーンが追ってきている事も忘れて。

 

「その顔立ち、日の本の国の者と見た。ここいらでは西洋人しか見かけぬので、些か新鮮なものよ。いやな、拙者も慣れぬ土地故、下手に動かずにここで昼寝でもしていたのだが、まさかこのような異郷の地、しかも辺鄙な土地で同郷の者に出逢う事になろうとは思わなんだ。ふむ……これもまた一興か。どれ……」

 

 男は木から飛び降りると、私とワイバーンの中間に降り立った。

 

 和装、そして青みがかった長髪を頭の上でまとめた、細身の男。手には、彼の身の丈よりも遥かに長い刀───日本刀が握られていた。

 

 そうだ。日本刀。彼は十中八九、日本人───侍である。

 

「何やら、羽根のある蜥蜴(もど)きに追われている様子。嫌がる女子(おなご)を追い回すなど、度し難い不届き者よな」

 

 男は、不敵に笑いながら刀を構える。見据えるは、私を追っていたワイバーン───その、首。

 

「斬り捨て御免……!!」

 

 男が呟いた瞬間、私は何が起こったのか理解出来なかった。

 一瞬、男の姿が消えたかと思ったら、いつの間にか再度現れて、そして瞬きの間にワイバーンの首が血飛沫を上げながら吹っ飛んでいたのだ。

 ……ワイバーンの血って、緑色じゃないんだなー。とか、そんな事を呑気に思う間もなく、この逃走劇は終幕となったのである。

 

 今の御業(みわざ)は、明らかに人間のソレではない。恐らくは───英霊。彼もまた、サーヴァントなのだろう。

 

「失敬。ご婦人に流血沙汰を見せるのは憚られたのだが、このような野蛮な動物が居ては、ゆるりと茶も飲めまいと思ってな。つい、手が滑った」

 

 手が滑った、で済ませられる話じゃない。いとも簡単にワイバーンを葬る技量は、ただごとではなかった。

 そもそも、ワイバーンは全身を硬い鱗に覆われ、その上、首とて筋肉の引き締まった太さをしているというのに、それを一息で切断するのは、相当の達人でも至難の業。

 彼が達人どころか、それ以上の腕を有していなければ、納得の出来ない現象としか言いようがなかった。

 

「……あなた、は」

 

 いつまでも呆けてはいられない。ひとまずの危機は去った。そして、目の前の侍はこちらに敵意は無いようだ。

 ならば、仲間になってもらえないか交渉の余地はある。

 

「む? おっと、これは失礼した。まずは名を名乗るべきであった。……ふむ、だがまあ、良いか。この名を名乗るは、拙者としてはあまり気分が乗らんのだが、そのようにこの名という殻を割り当てられたのであれば仕方なし」

 

 男は刀を仕舞う。名乗りたくないというより、自身の名を名乗るべきであるのか悩んでいたようだが、結局は自身で納得したようだった。

 

「では、改めて……。アサシンのサーヴァント───佐々木小次郎。ここに見参(つかまつ)った」

 

 

 

 

 これが、私がここに飛ばされてきて初めての、自分以外のヒトとの邂逅となったのである。

 

 

 

 

 

 第一章 第零節 岸波白野、時空(ソラ)を飛ぶ  ~終~

 

 




 

序章、これにて終幕。
そして一章へ。

告知していた通り、通常投稿はこれで終わりとします。以降は、とりあえず土曜日辺りからチラシの裏へと移ろうと思います。

読者の皆様におきましては、長らくのお付き合いいただき、ありがとうございました。
非公開という訳ではありませんので、続きが気になるという方は引き続き、チラ裏でよろしくお願いいたします……。
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