Fate/Grand Order 凡夫なりし月の王 作:キングフロスト
第一節 次元跳躍系少女はくのちゃん
時は遡る───。
オルガマリーを救うために、決死の覚悟で死地へと飛び込んだ私は、偶然レガリアの内部データで発見したリターンクリスタルによって、どうにか難を逃れた。
しかし、そこからの記憶が途絶え、自分に何が起きたのかも分かっていない。
分かっているのは、次に私が目を覚ました時、そこが、廃墟と化したはずの冬木ではなく、目の前いっぱいに広がった平和そうな世界であったという事。
窮地を脱する為に使ったリターンクリスタル。本来なら、月面世界ムーンセルに存在する電脳空間セラフ、そしてその内部に構成されたダンジョン───アリーナから一瞬で学園へと帰還するためのアイテムだ。
だけど、アレは使った事があるから分かるのだが、
だって、月においては校舎は私の拠点という訳ではなく、真に私の拠点とするならそれはマイルームのはず。けれど、マイルームに直接転送された事は一度たりとて無い。
“リターン”と“カムバック”では意味が違う……という事なのだろうか?
もし、リターンクリスタルが自分の拠点へと帰るものだと仮定しても、あの時、あの空間はレフが強制的にカルデアと時空を繋げたがために、空間に非常に強い歪みが生じていた。
もしかしたら、その歪みが影響して、リターンクリスタルが変に作用してしまったのかもしれない。
帰るはずが、座標がズレて違う所に出た、みたいな。
だとしても、ここはどこなのか。その疑問が解決される事は決してないのだが……。
考えても何も変わらない。なら、まずはカルデアにオルガマリーを連れて帰る。それが私が第一にすべき優先事項だろう。
冬木ではないようだが、ここが特異点でないという保証はないのだ。あの特異点でどこかの時空に飛ばされ、そのまま現代に帰れていたのなら、別にそれで構わない。けれど、何故か私はそうとは思えなかった。長年の勘、というやつかもしれない。
オルガマリーは……まだショックから立ち直れていない。相当キツかったのだろう、レガリアから出しても、歩く気力が出ないようで、結局はレガリアに戻ってもらった。
レガリア内に居ても、彼女のバイタルやステータスはレガリアを通じてチェック出来るので、何かあってもすぐに対応出来る。
オルガマリーが立ち直るまでは、仕方なく私が彼女の足となるワケだ。
あてもなく歩く。どこまでも続く平原。遠くには山が見え、時折ではあるが小川も目に付く。
だが、歩けども歩けども、人っ子一人見当たらない。集落、村、街───とにかく、人が居そうな所が見つけられたら、少しは心に余裕が持てるというのに。
いい加減、歩き続けるのもウンザリしてきたし、足も疲れてきた。
というか、私はカルデアから冬木にレイシフトしてからずっと同じ格好なのだ。つまり、ボロボロになったワンピースに裸足のまま。一体どこの浮浪者だと自分で自分に言いたくなる。
……言ってて悲しくなってきた。私だって、女の子なんだもの。いつまでもみすぼらしい姿でいるのは嫌だ。
誰だ。今、「お前、女だけど鋼メンタルじゃん」とか思ったの。あとでガンドね?
とまあ、とりあえず落ち着いて休める場所に、着替えの服を調達出来る店───のある人里を探しているのだが……。
───……ッサ
「……ん?」
何か聞こえたような……?
───ッサ、バッサ
「……羽ばたきの、音?」
いや、それにしては、音が大きすぎるような───振り向いて、私は意識が凍り付く。だって、その飛んでいたものとは、
「ギィイイイヤァァアアア!!!!」
まるで小さな小さなドラゴンだったのだ。
そして、時は戻り現在。
白野は、侍───佐々木小次郎に助けてもらった礼を言う。
「ありがとう。私の名前は岸波白野。もう少しで、ワイバーンの胃袋に収まるところだったよ」
「礼は結構。当たり前の事をしたまでよ。拙者、刀を振るだけの人斬り故に、斬る事しか能がない。あの羽根蜥蜴はこれまでにも何度か斬ったが、些か人を斬るのとは趣が違ってな。それもまた乙なものがある」
侍って、みんなこうなのだろうか?
如何せん、様々な国、時代の英霊と出会いはしたものの、侍は初めてなのだ。私のオリジナルも日本人だが、やはり時代錯誤感は否めない。
小次郎は刀を拭う事もせずに刀を収めた。あまりに早すぎる太刀筋は、刀にワイバーンの血液が付着する事すら許さなかったのだろう。
長すぎる刀であるためか、その鞘も通常では考えられない程に長い。よく出し入れできるものだ、と半ば感心さえする。慣れていたとしても、ここまで手際良く収納する自信は、私ならない。
「さて、岸波殿。このような所で旅をしていたという訳でもあるまい。そうさな……もしや、そなたも英霊とやらか? 見たところ、この時代を生きる者でも無し。それにだ、人間が異界に単身乗り込んで来れるとも思えぬからなぁ」
小次郎はしたり顔で、私を問い詰める。その様子では、彼はここがどういった世界であるのかは分かっているようだ。
「異界……。もしかして、まさかだけど、ここって特異点だったりしない、よね……?」
希望的観測を口にする。特異点は冬木だけだったはずだ。……だが、レフの存在が希望に濃い陰を落とす。もしかすると、あり得るかもしれない……特異点が他にも勃発している可能性が。
そして、やはり小次郎は、私の希望を打ち砕く答えを口にした。
「ほう。知っておったか。いかにも、ここは特異点とかいう妙な異界であろう。いやな、拙者も詳しい事は知らぬのだ。聖杯に召喚された英霊は、その時代の知識や情報を与えられるらしいが、拙者はそうではない。いわゆる“はぐれ”。野良の影法師という奴だ。その点では、お主と同じ根無し草という訳だな」
サーヴァントが独りでに召喚された……?
いや、もしくは世界が召喚したのだろうか。人類史を守るために人理そのものが遣わした英霊……?
考えても、情報が少なすぎて考えがまとまらない。とりあえず特異点に迷い込んでしまった、という事実だけは頭に置いておこう。
特異点に居るとして、ここはどの時代のどこの国なのだろうか。
小次郎に何か手掛かりが無いか聞いてみる。
「はて? それは拙者にも計り知れぬところ。そうさな……一つ言えるとするならば、南蛮人……いや違う。確か西洋人だったな。金の髪に高き鼻筋、見慣れぬ衣を纏った者共が住まう国であるようだ。そして、先程のような羽根蜥蜴が跋扈する世界でもある」
西洋人、か。なら、アメリカ大陸かヨーロッパ辺りにでも飛ばされたか。
しかし、ワイバーンがうじゃうじゃと飛び回っているなんて、この世界の住人は恐ろしくて外も出歩けないんじゃなかろうか?
「集落を探しているならば、ここを西に進んで行けば、街らしきものがあった。宿場町かは分からなんだが、人恋しくなったのであれば向かうが良かろうて。なに、歩いて半日ほどで着く距離なのだ。先程の逃避行に比べれば、どうという事もあるまいよ」
半日……!? 半日も無防備な状態で歩くとか、それこそワイバーンに食べてくださいと言っているようなものじゃないか。
ここはやはり、小次郎に同行してもらえないか頼んでみるほかない。
「恥を偲んでお願いがあるの。……確かに、小次郎の推測通り私も一応サーヴァントなんだけど、戦闘能力はほぼゼロに近くて。だから私と一緒に街まで行ってくれる?」
私のお願いに、少し考え込む小次郎。それも当たり前か。私に同行しても、彼に何のメリットもない。英霊とて損得勘定はする。それこそ、アーサー王やジャンヌのような高潔な英霊は見返りも無く人を助ける事を是とするだろうが、全ての英霊がそうではないのが現実だ。
ヒトがヒトの数だけ個性を持つように、英霊とて同じ事が言えるのだから。
「……」
決して長くはない沈黙。けれど、断られる可能性が高い事を思うと、胃が痛む思いで待つこの時間が、とても長いものであるとさえ錯覚する。
時間にして、僅か1分。永遠とも思える程のその短い時間で、小次郎は答えを切り出した。
「ふうむ……。都市部にはあまり近付きたくはないのだが、手前の街程度ならば構わぬかな? 何より、美しい
「……! ありがとう!」
これは本当に嬉しい。道中の危険がグッと抑えられるし、オルガマリーは塞ぎ込んでいるので、ある意味では一人旅に等しかったのだ。
話し相手がいるだけでも、心が幾分軽くなるというもの。
「では、露払いは任されよ。竜に似たモノであれど、所詮は獣と同じ。拙者の敵ではない」
おお、なんとも頼もしい……!!
道すがらでは特に問題もなく歩を進める私たち。このまま何事もなく終わる……かと言えば、そう簡単な話では済まないのが世の常である。
ようやく街が見えたかと思ったのも束の間。まだ何キロか先であるというのに、騒がしい喧騒が耳に届く。
目に見えた異変。黒煙が上がり、街の上空をワイバーンの大群が飛び回っていた。
ワイバーンの群による襲撃───!
「これは───いかんな」
「……急ごう! 助けないと!」
居ても立ってもいられなくなった私は、小次郎の了承も得ないで走り出す。小次郎は止めるでもなく、黙って私に追従していた。
あの襲撃はいつから始まったのか。もうかなりの時間が経ってしまっているのか。だとしたら、もう手遅れなのであろうか。
であったとしても、まだ助けられる命があるのかも知れないなら、私はどうあっても助けたいと思ってしまった。
力が無くとも、願ってしまったが故に、足が勝手に動いていたのだ。
そして、私は街へと辿り着く。
そこは───地獄だった。
冬木とは違う意味で、地獄のような光景が目の前に広がっている。あちらが完全なる死の街であったのなら、こちらは死を撒き散らされたばかりの
そこら中に血がこびりつき、あちこちを咬み千切られた死体の数々。ワイバーンの死骸も数える程は見受けられるが、それでも住人の歪な亡骸の方が圧倒的に多かった。
とにかく惨いの一言。子どもの遺体が少ない事から、運びやすい軽さに目を付けられ、奴らの巣へと連れ去られたのかもしれない。
まさに見境無し。まさしく獣の所業としか思えない。
「一足遅かったようだな。自警団が居たと聞いていたが、大群相手ではひとたまりもなかったと見える」
小次郎が言う。視界の先には、槍を手に、肩を抉り取られて死んでいる人の姿があった。
槍と言っても、騎士が持つような立派なものではなく、簡単に作られた急拵えの安物。着ているものも、鎧なんて呼べる代物ではなく、薄い鉄板を紐で繋ぎ合わせただけのものだった。
「この分では、数刻も前に襲撃が始まったのだろう」
私たちが辿り着くよりも早く、街の上空を旋回していたワイバーンたちは何処かへと飛び去ってしまった後。
追いかけようにも、山を越えられてはどこが住処なんて分かりはしない。本当に、何もかもが手遅れだった。
「誰か……誰か、息のある人は……!?」
この惨状だ。もはや生きている人など居らず、それを探す事など無意味だと理解していた。
でも、探さずにはいられなかった。希望を、捨ててしまいたくなかった。
……街中を隈無く練り歩く。僅かでもいい、微かにでもいい。とにかく、まだ息のある人を……。
そう思いながら探して探して、必死に探して。
そして、一人だけ、見つけた。
「あ───ぅ」
崩れた家屋の瓦礫の下。そこから微かに呻き声が聞こえたのだ。積み重なって出来た陰が有り、それがワイバーンから身を隠す一助となったのだろう。
「大丈夫ですか!? 今、助け───っ!!」
近寄って気付く。この人は、先端が鋭利となっている瓦礫に、腹を貫かれていた。恐らくは、もう……助からない。
血が流れすぎている。今は刺さった瓦礫が栓をしているから、まだ死なずに済んでいるが、抜こうものなら一斉に大量の出血によって、治療を待たずして失血死するだろう。
「が、ふ……」
息絶え絶え、喀血を繰り返し、間もなくこの人は死に至る。だけど、必死で何かを伝えようとしている。
そう思った私は、せめてその意思を尊重しようと、町人の口元に耳を近付けた。
か細い声が、途切れ途切れにではあるが、私の耳へと届けられる。
「りゅ……うの、ま……じょ……だ。あ、のま……じょが……よみ……がえ……たん、だ……。ふく、しゅうの……ため、に」
そこまで言って、その人は息絶えた。絶望のままに、血走った目を見開いて。
結局、生き残りは一人も居なかった。倒れる人は皆、既に死に絶えていた。
看取る事の出来たあの人は、まだ運が良かった方だと言えるだろう。
「……この特異点は、何なの」
本来この時代で存在が確認されないはずのワイバーン。それが特異点の直接的な異常とは思えない。
あのワイバーンは、何かしらの要因から現れたのだと考えるべきだ。世界の裏側へと消えたものが、表側へと自然発生的に出現するなんて考えられないのだ。
その要因こそが、この特異点の元凶……。そう考えると、思い出されるのは冬木の特異点で出会った少女───桜。
彼女が原因で、本来の聖杯戦争が狂った事により特異点が発生する事となった。
それと同じだ。ここでも、冬木での桜と同じと言える存在が居る、もしくは有るのかもしれない。
となると……またもレフが絡んでいるか?
「……復讐、か」
目の前で死んだあの人の最期の言葉を思い出す。途切れ途切れだったが、しっかりと意味があったはず。たしか───
『竜の魔女だ。あの魔女が甦ったんだ。復讐の為に』
魔女。歴史に名高い魔女と言えば、ブリテンの王アーサーの姉であり、敵対者であったモルガン。
だが、別に彼女に“竜の魔女”などという称号はなかったはずだ。
魔女、魔女、魔女……。有名どころで言えばキルケーとか、メディアとか?
他にも居るには居るが、やはり当てはまりそうな魔女に心当たりはない。
「竜の魔女……、それがこの特異点の元凶? でも、だとしたら一体誰なんだろう……?」
「む? 竜の魔女とな?」
と、街からまだ使えそうな物が無いか探して回っていた小次郎が戻ってくる。
何やら、表情を険しくしているが、それは私に、というよりも『竜の魔女』というワードへのようだった。
「何か知ってるの?」
「知っているという程ではない。この街以前にも、違う集落や村を訪れた事があるのだが、それぞれでそのような言葉を聞いた覚えがあってな。そうだったそうだった、よくもまあ言葉が通じたものだと感心した覚えがある」
そこは、まあ、何らかの補正でもあったのだろう。だが、その話が本当なら、竜の魔女がこの世界で広く知られているというのは、ありそうな話だ。
「……竜の魔女。もし通り名にあるように、竜種を従える力を持つとするなら、ワイバーンを操っているのは、その魔女ってこと……?」
ならば偶然の襲撃だったのか、必然の襲撃であったのか。どちらにしても、その魔女が原因でこの街が襲われたというのなら、到底許せない。
「話では、首都へ近付く程に羽根蜥蜴が蔓延るらしい。となれば……そこが魔女とやらの根城であろうなぁ。いやはや、呪術や
だから、小次郎は都市部に行くのを避けていたのか。
だが、特異点を消し去るならば、そこを目指すほかないだろう……が、何分、私だけでは荷が重い。相手の戦力も分からないのに、こちらは私に、いつ別れるかも分からない小次郎だけ。
戦力に乏しいのは、紛れもない事実だ。
やはり、まずはカルデアと連絡を取らないと……。
またリターンクリスタルを使って、次元跳躍出来ないかな……。まあ、やる勇気は無いのだけど。もし下手をしてもっと変な所に飛ばされでもしたら、目も当てられない。
「そうさな……もし、挑むというのであれば、戦力増強を試みてみるのは如何かな?」
意味ありげな微笑みとウインクをしてくる小次郎。何か心当たりか、宛てがあるのだろうかと思って聞いてみる。
「これもまた、立ち寄った街で聞いた話なのだが、これまた拙者のような、この世界では歌舞いた格好の者がおるそうなのだ。確か、二人……。その特徴は、両者共に見目麗しい少女であり、頭には異形の角を生やしていたそうな───」
白野ではないが、次元を跳躍して現代───カルデアにて。
現在、カルデアでは第一特異点の攻略準備で誰もが忙しくしており、立香、マシュ、アルテラを除いた面々は休む暇なく動き回っていた。
立香とマシュは第一特異点へ赴く前の小休止。過酷な戦いに備えて、心身をリフレッシュしてもらおうという、Dr.ロマンの計らいだ。
そしてアルテラ。彼女は、元々不完全な霊基でありながら、それをおして無理な戦闘を行っていたため、霊基の損耗が著しく、実は機能停止寸前まで追い込まれていた。
彼女は岸波白野の仲間であり、サーヴァント。消滅させる訳にはいくまいと、現在は特製サーヴァント医療ポッドで傷を癒やしている。
「アルテラ……アルテラねぇ。聞き覚えが無いなぁ」
そんな彼女を見つめるのは、同じくサーヴァントであるレオナルド・ダ・ヴィンチことダ・ヴィンチちゃん。
彼女もまた、レフの私室の調査に奔走しており、今は休憩がてらアルテラの様子を見にきていたのだ。
「ん? 何故かって? それはもちろん、このマシーンを作ったのは私だからさ! 我が子がきちんと稼働しているのか、親としては見る義務があるからね」
一体誰に言っているのやら。独り言のようで独り言ではない、しかしやはり独り言を盛大にぶちまける、不振な美女。
見る人が見れば「あ、関わっちゃダメなタイプの人だ」と感じるのは、仕方ない事だろう。
結論から言って、レフの私室からは何も成果を上げられてはいない。
それどころか、彼が研究に使っていた部屋からも、何も手掛かりらしいものは出て来なかったのだ。
厭らしいのは、彼の裏切りが発覚した後で、管制室に仕掛けられたであろう爆弾の材料や設計図が出て来た事か。
おそらく、バレても問題ない、あるいはわざとバレるように放置したか。それだけ、もはやレフにとってカルデアは敵には成り得ないという自信の表れなのかもしれない。
「まったく、骨折り損のくたびれもうけだよね。レフの野郎、今度顔を見せたらただじゃおかないよ」
コーヒー片手に愚痴るダ・ヴィンチちゃん。それだけで、一枚の絵になってしまうのだから、流石はモナリザを手掛けた芸術家である。
「……レフも謎が多いが、白野ちゃんも謎だらけだよね~。何だい、人体の完全なる霊子変換を可能とする宝具って? カルデアからすれば反則級の代物じゃん」
それが出来るのなら、レイシフト適性なんて調べる必要も無ければ、そもそも適性が必要無くなる。唯一求められるのは、マスターとしての素質があるかだけで良いという事になる。
加えて、あのレガリアという礼装───宝具を解析出来れば、カルデアが誇る数々の装置を改良だって可能かもしれない。
「ま、解析出来ればの話なんだけど」
実はダ・ヴィンチちゃん、白野が寝ている時にこっそりレガリアを解析しようと試みた事がある。
あれはまだ、彼女が召喚されて間もない時期の、リハビリしている頃だったか。
白野の就寝中、バイタルチェックの際にふとレガリアが目に付いたダ・ヴィンチは、それが単なる指輪ではないと直感した。
故に、調べようとした。したのだ。
だけど、解析出来なかった。
万能の天才。叡智の申し子。そのレオナルド・ダ・ヴィンチを以てしても、完全に解析する事は適わなかったのである。
だが、僅かながらでも解析には成功していた。やはり天才の名に間違いはない。
「はあ~……まさかオーバーテクノロジーとはね。しかも、現代の遥か先を行くときた。むしろオーパーツじゃない?」
彼女が知る由もないが、レガリアとは月の王権が形を為したもの。人類ではない知的生命体、いわゆる宇宙人が作りし異星のテクノロジーの結晶だ。
その全運営権を集結したものがレガリア。とは言え、ダ・ヴィンチが解析したのは、そのレプリカではあるのだが、レプリカとてレガリア。構造、能力、材質……全てがこの世界とは異なる。
故に、そう簡単に紐解けるものではないのである。
「さて、そろそろ戻るとしますか。いつまでも休んでるとロマニに愚痴を言われかねないし。というワケで、キミはしっかり休んでくれたまえ。狸寝入りなんて趣味が悪いゾ?」
ひらひらと、手を振って部屋を出て行くダ・ヴィンチ。残されたアルテラは、パチリと目を開く。
(……悪趣味なのはお互い様だろう。我が虜のレガリアを隠れて調べたクセに)
白野が姿を消して、その行方はまだ掴めていないとアルテラはロマンから聞いていた。
岸波白野とは、彼女にとって唯一無二のマスターであり、何よりも、誰よりも大切なヒト。
居なくなって心配じゃないはずがない。本当なら今すぐにでも探しに行きたい。
けれど、無理をして自身の消滅という事態を招けば、白野を悲しませてしまう───そう、ロマンに説得されたからこそ、アルテラは休息に甘んじていた。
(いつまでも、この欠落した霊基ではロクに戦えない。何か欠落を埋められるものがあれば───補填が出来れば……)
そんなものがどこにも無い事は、彼女自身がよく理解している。己の霊基を補填するとしたら、近しい者による力の譲渡か、同一存在の霊基を吸収するか……。
自分と同じ存在。オルタではいけない。純粋に同じ霊基でありながら、かつ違う個体として成立した霊基の共鳴。
同じ霊基を有し、同じ名を冠したサーヴァントの同時存在……。普通に考えて、そうそう容易く実現しない状況である。
(マスター。我が虜。今、どこで何をしている……?)
白の剣姫は瞼を下ろす。サーヴァントは眠る必要が無いけれど、夢を見る事も無いと言われているけれど。
それでも、眠れば夢を通じて白野の精神とリンク出来るかもしれないと淡い期待を抱いて。
アルテラは微睡みへと落ちていくのであった。