Fate/Grand Order  凡夫なりし月の王   作:キングフロスト

38 / 40
 
問題)人理で一番強い猿とは?

答えはあとがきで!


第七節 囚われのハクノ姫

 

 ジャンヌ・ダルクへの降伏を余儀無くされた私たちは、黒竜に運ばれて彼女らの本拠地、オルレアンの城へと移送された。

 不幸中の幸いだったのは、私たち全員を捕らえた時点で、ジャンヌによる街への侵攻がストップした事か。

 目的を達成した事で、街の住民になど興味が失せてしまったのか、彼女はワイバーンの全てを黒竜と共に自陣へと引き上げさせたのだ。

 理由はどうあれ、街がこれ以上襲われないのなら、それに越したことはない。だって無益な殺生がもう行われずに済んだのだから。

 

 うん。良い結果だったかどうかは別として、罪のない人たちが襲われる事がなくなったのは、喜ぶべきことだろう。

 だけど……、

 

「イヤァ! 牢獄なんてもう嫌よぉ!? ここから出して! 助けて子リスゥ!!」

 

 隣でピーピーギャーギャーとわめき散らすエリザベートに、これでもかという程に肩を揺らされている。ぐわんぐわんと揺らされるせいで、視界が常に左右を行ったり来たりの繰り返し。

 ……うっぷ。少し吐き気を催してきた。

 

「牢獄……まさか、わたくしがこのような所に入れられる日が来るなんて、まるで思いもしませんでした」

 

 エリザベートとは対照的に、清姫は興味深そうに石造りの牢獄の壁を眺めている。

 まあ、お嬢様だったワケだし? その気持ちは分からないでもないけれど。それにしたって肝が据わっていると感心する程である。

 

 二人と違い、小次郎は静かに胡座をかいて座り、目を閉じていた。眠っているとか、そういう訳ではないようで、物音で時折眉がピクリと動いているので、牢の外に対して意識を集中している感じ。

 そういえば、彼だけはここに連れて行かれると聞かされた際も、一切の抵抗なく即座に応じていた。

 清姫でさえ、私とエリザベートが人質でなければ、すぐにでもジャンヌに飛びかかるのではないかと思えるくらい、怨念のこもった視線を彼女に向けていたというのに。

 

「そろそろ白野さんを放して差し上げては如何です? いい加減、トカゲに振り回されるのは疲れてきているでしょうし」

 

 牢獄観察に飽きたのか、じっとりとした目つきでエリザベートを睨み付ける清姫。エリザベートは未だパニック状態のため、まるで聞く耳を持っていないので、必然的に無視する形となるのだが……。

 

「暗いしジメジメしてるし狭いし!! アタシは自由を謳歌しちゃいけないって言うの!? そんなの嫌!! 子リスぅ!!」

 

 大きな目にたくさんの涙を溢れさせ、子どものように泣きじゃくるエリザベート。でも、それも仕方ない事なのだ。

 エリザベート・バートリーの最期は、日の光どころか一切の明かりが差し込まない、完全な暗闇に支配された牢獄の中での餓死だったとされている。

 孤独と飢え。暗闇の恐怖に包まれて死んでいく。硬く冷たい床で、たった独りで静かに息絶えた彼女の最期を思うと、哀れでならない。

 彼女の犯した罪の重さを許しこそしないが、それでも同情はする。

 エリザベートが牢獄をトラウマとするのも頷けるというものだ。なので、私は彼女を止めるでもなく、甘んじてこの責め苦を享受していたのである。

 でも、そろそろ本当にリバースしかねないので、早く落ち着いてくれないかなぁ……なんて、思ってたりして。

 

「……む」

 

 と、ここまで沈黙を貫いていた小次郎が、小さく声を発した。片目だけ開けて、扉──その窓部分の鉄格子の外に視線を向ける。

 何かあったのかと思っていると、次第に私にも足音らしきものが聞こえてきた。

 その足音は、私たちの牢の前でピタリと止まると、少しして扉の鍵の開く音が鳴り響く。

 

 重い扉が開かれ、そこから姿を現したのは、一人の騎士らしき人物。可憐としか言いようのない美貌は、まるで白百合が如しで、男性には到底見えない。

 けれど、何となく既視感があるというか、月でもそんな感じの性別不明っぽいゆるふわ十二勇士と知り合いだったような……そんな妙な感覚。

 

 ───などと思っていると、

 

「竜の魔女がお呼びだ。私と共に来てもらおうか」

 

 容姿に似合った凛々しくも可愛らしい声で、私に同行を求める騎士。

 騎士は私から順に他の三人にも視線を巡らせると、立つように促してくる。

 

「どうやら向こうの支度も整ったようだ。では、ここは一つ潔く参るとしよう」

 

 拒否も抵抗もなく、小次郎はすんなりと騎士の言葉を受け入れ、牢の外へと出て行く。私もそれに倣い、小次郎に続くようにして牢獄から出ると、すぐの所でもう一人、見慣れない人物が待ち構えていた。

 真っ黒な大きめのコートに身を包んだ青年。どこか憂鬱そうに松明の火を見つめる横顔は、陰のある印象を受ける。

 牢から出てきた私を一瞥だけしたが、特に表情の変化はなかった。

 

「デオン。何故、連行するのに僕まで一緒である必要が? もし彼女らが反抗したとして、君だけでも問題なく対処できるように思うけどね」

 

 黒コートの青年が声を掛けた騎士───デオンと呼ばれた騎士は、不服を隠さずに返答する。

 

「マスターとは令呪を有する存在だ。それはサーヴァントを律するだけではなく、それそのものが巨大な魔力の塊でもある。もしブーストとして使用されでもしたら、私だけで対処できたとしても、何人かは取り逃がす可能性がある。だから念のために必要な措置だ」

 

「……そうか。白百合の騎士殿が言うんだ、間違いないんだろうさ」

 

 青年は騎士からの正論を受け、つまらなさそうに顔を背けた。何というか、心此処に在らず、といった風に見受けられる。まるで私たちに全く興味が無いとでも言うかのように。

 そんな彼の様子を見て、騎士は咎めるように警告する。

 

「君が王妃を探しに行きたいのは分かる。私だって同じ想いだ。だが、役目は果たさなければならない。そうでなければ、自我の保持を許されず、意識さえ奪われ人形に成り下がるしかない」

 

「分かってる。分かっているさ。だが、彼女は僕の手で命を奪うべきなんだ。何故なら、そのように運命付けられているんだからね。だからこそ他の連中に殺させるなんて許せない。ほら、焦るのも仕方のない話だろう?」

 

 なんだか物騒な話をしているが、王妃……? フランスの王妃といえば、まず真っ先に名前を挙げるとするならマリー・アントワネットだが、まさか……。

 デオンと呼ばれた騎士は、これ以上あの青年に何を言っても無駄だと思ったのか、諦めたようにため息を吐くと、私たちに向き直る。

 

「さて、そろそろ向かわないと、竜の魔女の機嫌を損ねてしまう。彼女の機嫌次第では虜囚の精神が壊されないとも限らないからね。彼女らは心の自由を許されたんだ、それくらい守ってやらないと私も気持ちが悪い」

 

 騎士は自虐的に小さく笑って、私へと手を差し出す。まさしく、清純たる騎士が無垢なる姫君の手を引こうとするかの如き様である。

 

 彼、もしくは彼女? が、悪い人物には到底見えない。だけど、この騎士がジャンヌの支配下にある以上、下手な真似はできない。

 差し出された手をとる。細く色白い指、されど決して柔らかいという訳ではなく、少しばかりガッシリとした手つきをしていた。

 騎士ゆえに剣を手に取るからだろうか。華奢な見た目とは裏腹に、とても戦士然とした手であった事に少しばかり驚いてしまう。

 

「……牢屋から出られたのは嬉しいけど、状況が状況なだけに喜べないわ……」

 

 エリザベートも牢の外へと出られた事で、ようやく平静さを取り戻したようだが、逆に我に帰った事により先程までとは違う方向へのネガティブ思考に陥っているらしかった。

 

 相手はサーヴァント二騎、比べてこちらは、戦闘力がほぼ皆無な私を除くと三騎。

 数の有利はある。しかし、今は逆らうべきではないだろう。ここは敵の本拠地だ。もしここで戦闘となり、早期に敵を仕留めきれなければ増援はきっと凌げない。

 まだこの二人以外にどんな未知のサーヴァントが敵側に居るのかも不明。敵戦力を把握していない現状、敵の懐で反抗しても呆気なく鎮圧されて終わりとなるのは明白だった。

 

 私一人の命ではない。私の手には、オルガマリーの命運も握られている。オルガマリーを無事カルデアに帰すまで、私は死ぬわけにはいかない。

 

 

 しばらく騎士の誘導で、城の中を進む私たち。かつては煌びやかであっただろう内装も、そこかしこが黒く焼け焦げ、煤で汚れている。

 城内を攻め落とす際、炎でも使ったのかもしれない。

 

「……っ!」

 

 ふと、通路の一角に目を向けた際、私は何かが壁にもたれるように寄りかかっているのに気が付く。そしてすぐに、それが人間の死体であるのだとも理解した。

 中世ヨーロッパを彷彿とさせる甲冑を身に纏い、左腕と頭部が丸ごと消え失せている。切断面がある事から、その箇所は何者かによって斬り落とされたのは明らかだ。

 単なる戦争で、このような惨い殺され方があるだろうか。この亡骸からは、憎悪や憤怒といった、強烈な負の感情が感じられた。

 

「子リス、あんなもの、あんまり無理して見ないでね」

 

「……うん。心配してくれてありがとう」

 

 エリザベートが気を遣って、私の背中を撫でてくれている。

 多少の荒事には慣れたつもりだったが、さすがに気分が悪くなり、少し吐き気を催した。なんとか我慢したが、当分は今の光景が頭から離れる事はないだろう。

 それにしても、流石は英霊といったところか。拷問でグロい光景に慣れているエリザベートや、侍の小次郎はともかくとして、生前はお嬢様だったはずの清姫でさえも、ケロッとした顔であの亡骸を横目で見ていた。

 清姫ってばすごいなぁ……と、感心していると、

 

「……結婚の祝いには、達磨も良いかもしれませんわね」

 

 ──などという呟きが聞こえた。あの死体からダルマを連想とかホントやめて。あと、ダルマって結婚とかより政治とかの印象が強いんだけど。

 清姫はいつどこであっても、ブレない強い女の子なのだと、私は再認識したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 連れられてきたのは、たいそう立派──だったであろう大きな扉の前。ゲームやマンガなどでよく見る、いわゆる“王の間”へと通じる感じの扉だ。

 ただ、やはりこの扉も少し焦げており、多量の血痕が付着していた。戦闘はここまで及んだのかもしれない。そしておそらくは、この先でこそ決着がついたのだろう。

 

 騎士は私たちを止めて、扉の前に立つと声を張り上げる。

 

「竜の魔女よ、虜囚を連行してまいりました! 中に通しても?」

 

「…………通しなさい」

 

 騎士の問いかけに、少し遅れて返事がくる。声の主はもちろん、他でもないジャンヌのものだった。

 聖女ではなく、竜の魔女として立つジャンヌとの対面に、自然と全身の筋肉が強張る。私の知る顔、だけど中身はまるで別物となっているジャンヌ・ダルク。

 凄惨に過ぎる殺戮、蹂躙を敢行した当事者の前に立つのだ。緊張しないはずがない。

 

 重い扉が音を立てて開かれる。扉の先は広い空間で、そして正面奥には玉座があり、そこに座するは黒き聖女。玉座から左右に広がるように並び立つ、サーヴァントらしき者たち。そのほとんどを私は知らなかった。

 けれど、彼女の傍らには、ただ一人見た記憶のある顔があった。

 

「ジル元帥……!!」

 

 青髭と呼ばれるフランスに悪名高き狂気の殺人鬼。子どもたちを誘拐しては惨殺した精神異常者。

 そのギョロリとした眼が私に向けられる。飛び出た魚のような眼孔は、いつ見ても恐ろしく感じる。

 

「おや、(わたくし)の事をご存知で? それは光栄にございますなぁ、マスター殿」

 

 何が楽しいのか、愉快そうに笑うジル・ド・レェ。彼まで存在しているのは驚いたが、どこか納得する部分もあった。ジャンヌがこうして悪の側に立つのなら、彼女を慕うジルが居ないはずがない。

 いや、むしろ喜んで彼女と共に、彼女を処刑したフランスに復讐するだろう事は容易に想像できる。

 

 ジル元帥の名を最初に呼んだ事が癪だったのか、ジャンヌがこちらを睨みながら口を開いた。

 

「無礼ね。私よりもまずはジルに声を掛けるなんて。この城、そしてコイツらの主であるこの私に真っ先に(こうべ)を垂れて機嫌を窺うのが礼儀ってもんでしょう?」

 

 ジャンヌが発する威圧に、私は思わず気圧されかける。だが、決して膝を屈する程ではない。英雄王に比べれば、竜の魔女からのプレッシャーなんて可愛いものだ。

 私が素直に従わなかった事に腹を立てる───かと思いきや、彼女の顔には何故か不敵な笑みが浮かんでいた。

 

「いい度胸じゃない? 私に隷従しないのは気に食わないけど、その叛逆の精神だけは褒めてあげる。それでこそ、私のマスターに相応しいというもの。せっかくのマスターだし、意識を奪って傀儡にするのは勿体ないのよ」

 

 どうやら私は、逆に気に入られたようだ。すぐに殺される心配がなくなっただけ、喜ぶべきなのだろうけど、素直に喜んで良いものか……。

 

 そんな私を尻目に、小次郎は至って冷静に、ジャンヌへと要件を尋ねる。

 

「して、我ら全員を呼び寄せたのは如何に? 白野殿に用があるならば、何故我々まで共をさせたのかな?」

 

「極東のサムライ───だったかしら? 人斬りの割に頭が回るのね。まあ、答えとしては、貴方たちに早速仕事をしてもらうためよ」

 

 仕事……?

 まさか、私たちに人を殺せと言うの?

 

 警戒する私を余所に、ジャンヌはその仕事とやらについて説明し始める。

 

「この地に召喚されたサーヴァント……。私が喚んだもの以外にも存在しているのは、そこのサムライや竜の娘たちを見れば分かるでしょう。……マスターである貴女も、純然たる人間ではないようですし」

 

 確かに、小次郎もエリザベートも、清姫も。私が召喚した訳でではない。召喚者の存在しない、はぐれサーヴァント。

 

 もしかすると、小次郎たち以外にも同様に、マスターの居ないサーヴァントが召喚されていても、何らおかしくはない。

 

「そのはぐれサーヴァントの捕獲、もしくは討伐を任せる……と?」

 

「そうです。マスターの性能、私の役に立つか否か。それらを測るには十分でしょう? 無論、私の召喚したサーヴァントの監視下での話だけど」

 

 やはり、そうなるか。私たちだけで野に放つはずもない。私たちは捕らえたサーヴァントであって、彼女の召喚したサーヴァントではない。最初から信頼も何もない。反乱を起こして当然の状況で、見張りは必然だろう。

 

「貴女に拒否権はないの。私がやれと言ったらやる。拒むならこの場で殺す。それだけの話よ」

 

 私が逆らえないように、改めて釘を刺すジャンヌ。そんな事、言われずとも分かっている。

 

「それで、そのはぐれサーヴァントには見当はついてるの?」

 

「それでございましたら、幾人かのクラスと真名を幾つか把握しております」

 

 ジャンヌに聞いたつもりだったのだが、彼女の隣に立つジルが代わりに答えた。

 

「こちらで把握しているのは、ライダーのマリー・アントワネット。キャスターのヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト。セイバーのジークフリート。そして───ルーラーのジャンヌ・ダルク」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジャンヌ・ダルク。竜の魔女とは別に、もう一人。

 それこそ救国の聖女と謳われる、私も知っている本来のジャンヌ。

 それが討伐対象として名前を挙げられ、私が驚かないワケがなかった。

 なら、目の前のジャンヌは何なのか。もちろん疑問を口にしたが、彼女は真実について語る事はなく、一方的に自分こそが本物であり、あちらが偽物なのだとしか言わなかった。

 話もそれで切り上げられてしまい、私たちは揃って城から放り出されたのである。

 

「ジャンヌがもう一人、か……」

 

 どう考えても、竜の魔女のほうが偽物だと思うが、一概には断言できない。一体どうなっているのか、それを探る必要があるだろう。

 

「あまり無闇に詮索しない事ね。あの女、その話題は執拗に避けているから」

 

 と、私のお目付け役に抜擢されたジャンヌの配下であるサーヴァントの一人、マルタが忠告してくる。

 

 私たちに付けられた見張りのサーヴァントは二人。その一人が彼女だった。

 マルタと言えば、リヴァイアサンの子孫であるとされる竜、タラスクを静めたとされる聖女だ。今はライダーとして現界しているらしい。

 彼女を一目見た率直な感想としては、エロいの一言に尽きる。

 

 何なんだ。聖女の癖にスタイル抜群で、その上美人。しかもチラリズムが半端ないエロい服装って。私への当て付けか!!

 

「あまり胸を睨まないでくださる? 同じ女のはずなのに、貞操の危機を覚えるのですけど」

 

「当然じゃない。子リスは前科持ちだもの。オッサンみたいな目をして、あの子の胸を揉みしだいてたもガガ!?」

 

 何故それを!?

 私が月の裏側で犯した黒歴史の一つを、何故エリザベートが知っている……!?

 

 急いでエリザの口を塞ぎ、誤魔化す私。変態のレッテルを貼られるのだけは勘弁願いたい。

 

「いやぁ、何を言ってるんでしょうね、この子は! あははー!!」

 

「? まあ、貞節さえ守ってくれたらいいのですけど。とにかく、竜の魔女はもう一人のジャンヌ・ダルクの存在を抹消したがっています。下手に藪を突けば、蛇ではなく邪竜に喰われると思っておきなさい」

 

 敵側であるはずのマルタだが、妙に気を回してくれているような……。気のせい、なのだろうか? だが彼女は、ジャンヌに対しての言葉と表情から、ジャンヌに敵愾心を抱いているようには見える。

 

「不思議そうな顔ですね。どうして私が貴女に忠告なんてするのか。それが疑問なんでしょう?」

 

 考えが顔に出ていたのか、ズバリ私の心を言い当てるマルタ。驚く私を尻目に、彼女は自嘲の笑みを浮かべて語る。

 

「竜の魔女に召喚された私たちサーヴァントには、全員に狂化の属性を付与されています。それも強制的にね。だからこそ、誰も心から彼女に忠誠を誓ってなどない。それに私だって反抗心でいっぱい。貴女への忠告も言わば、せめてもの反逆ってところかしら?」

 

 儚く笑いながら言いのけたマルタ。しかし、それが誰にでも出来る芸当ではないと、私には理解出来ていた。

 

 かつて、自分の意思とは関係なく認識を書き換えられ、その通りに動いてしまった後輩を、私は知っている。

 

 世界を敵に回してでも、大切な人を守ろうとした後輩。そんな強い心の持ち主だった彼女も、狂わされた自我から逃れる事は不可能だった。最終的には打ち克ったけれど、それは決して容易ではなかったはずだ。

 

 だからこそ、私には分かるのだ。マルタは、その尋常ならざる強い意思で、ジャンヌの支配から抗っているのだと。

 

 とは言え、だ。それでも支配を完全にはね除けた訳ではない。マルタは敵。その認識だけは捨ててはいけないだろう。馴れ合いも、すべきではない。情を抱けば、いざという時に戦えなくなってしまうから。

 

「その目……そうです。私をあまり信用しすぎないで。抗っているとは言っても、それも所詮は小さな悪あがき。この胸に渦巻く狂気は容易く抑えきれるものではありませんから」

 

「クリスティーヌ、クリスティーヌ……。ああ、そうだとも。この身を焼き尽くすが如く我が内で燻るは、まさしく炎。かの竜の魔女が抱きし憎悪の一端……絶望し、憤った末に狂いし彼女の心の一部。一度植え付けられてしまえば、死以外に逃れる術は有りはしない……。おお……だからこそ。だからこそ、お前こそが私を殺しておくれ。クリスティーヌ……!!」

 

 顔半分を仮面で覆い隠した男が謳う。怪物のように鋭い爪をした手を天に掲げ、そこには居ない誰かに死を乞う姿は、まさに狂気的であった。

 そう。彼こそがマルタともう一人、私たちの監視役として選ばれたアサシンのサーヴァント。その名をファントム・オブ・ジ・オペラ。

 あの『オペラ座の怪人』のモデルとなった人物である。

 

「歌うま系サーヴァント……ハッ!? もしかしてラ、ライバル登場、かも……!? あだっ!?」

 

「そこ。別に張り合わなくて結構ですので」

 

 ファントムの存在に違う意味で驚異を感じるエリザベートに、着物の裾を捲って的確で優雅なツッコミを決める清姫。どうやら、私や小次郎と合流する前に一度だけ、エリザベートとの初対面時に被害に遭ったらしく、やたら恨みが込められたツッコミだった。

 

 と、このように一見和やかに見える雰囲気も、全てはジャンヌの手の平の上での事である以上、決して受け入れるべきではない事を忘れてはいけないのだ。

 

「白野殿」

 

 エリザベートと清姫のやり取りにマルタとファントムが気を取られている隙を見て、小次郎がさりげなく距離を詰め、小声で話しかけてくる。

 

「どうしたの?」

 

「よもや、我らを野に放つとは思わなんだが……これは好機であろうよ。今はまだ従っている振りをすべきだが、もう一人のジャンヌとやらを見つけ次第、白野殿だけでもその者と共にお逃げ召されよ」

 

「でも、それじゃ小次郎たちが……」

 

 彼の申し出は、自己犠牲に他ならない。そして恐らく、他の二人も同じ意思だろう事は容易に想像できる。

 けど、私が納得できるかと言えば、また別の話だ。

 

「良いのだ。我らサーヴァントとは、所詮は肉を持たぬ虚ろな影法師。ならばこそ、今を生きる者の活路を切り開く事に意味に見出だせるというものよ。白野殿。その手に、守るべき者が居るという事を忘れるな」

 

 ……それを言われては、返す言葉も出てこない。オルガマリーを生きて帰す。それは今の私にとって、何より優先しなければならない事なのだから。

 

「納得はしてない。けど、分かったよ」

 

「うむ。それでこそ魔術師という奴だ。そなたは魔術師とやらにしては優しすぎるからな。人としては美徳なのだが、それだけではこの先、生き残り難くなるのは必須。……とまあ、つまるところ人斬りの戯れ言ではあったのだが。いざとなれば、先程の私の言葉を思い出してもらえれるならば幸いよ」

 

 それだけ言って、彼は私から意識を離した。

 

 自らを犠牲にして他者の為に道を作る。極限状態を生き抜くためなら、それも致し方ないと言えるかもしれない。実際、そういった男たちが居た事を私は忘れてはいない。

 

 でも、やっぱり。

 そうだとしても、生きてほしいと願う事は、絶対に間違いではないはずだ。

 

 どうにか、上手くこの状況から全員で脱け出す方法はないものか、私は無い知恵を振り絞りながら、歩みを進めるのだった。

 

 

 

 

「……………、」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オルレアンの城、その城壁にて、遠ざかっていく白野たちの姿を見つめる影が一つ。

 それは紛れもなく、現在この城の主であるジャンヌ・ダルクその人だ。

 

 せっかく捕らえたマスター。それをわざわざ手元から自ら離したジャンヌ。どんどん小さくなる彼女の姿に、竜の魔女は何を思う───。

 

「ここでございましたか、ジャンヌ」

 

「……ああ、ジル。何か用?」

 

 急に現れたジル元帥に、別段驚く素振りもなく、淡々と返事をするジャンヌであったが、ジルのほうはと言えば、内心不明な事ばかりで首を傾げていた。

 今も、ジャンヌが何を眺めているのかと思い、そちらにギョロリと飛び出たその目を向けてみれば、まさしく疑問の種であるマスターの少女の姿が。

 

「何故、あの娘をサーヴァント討伐として遣わせたので? マスターとしての資質が有るならば、洗脳なり意識を奪うなりして、我々に魔力を供給するためだけの魔力機関にでもすればよろしかったと思いますが……」

 

「そうね。それでも良かった。でも、それじゃツマラナイ。魔力機関にしたとして、この城から動かせなくなるし、使える足は有効に使ってもらわないとね」

 

 くっく、と笑うジャンヌ。彼女が意図して白野を遣わせたのは理解したが、やはりその真意までは読み取れず困惑を隠せないジル元帥に、ジャンヌは見下したように微笑みかける。

 

「私に付き従い、役目を全うするならそれで良し。逆に刃向かうとしても別に構わないわ。アイツが私の偽物に会ってくれさえすれば、それでイイのよ。仮とはいえ、私とマスターは契約で繋がった。口約束であっても、それは今の私に掛かれば簡単に呪いとなる。呪いはどこであろうと、何時だろうとマスターの居所を指し示す。それこそ、正常かつ清浄な力を持つ者でもなければ、拭い去りなどできはしないわ」

 

 言って、彼女は再び白野たちを見つめる。既に視認するのも難しくなっているけれど、それでも彼女は岸波白野というマスターの存在を確かに認識していた。

 

「あえて、謎のサーヴァントとそのマスターの存在を伏せたのも、貴女の思惑の内、という事ですかな?」

 

「ええ。奴らが何者か、そんな事はどうでもいいけれど。邪魔なら消す、それだけの話。何も知らずに合流したなら……まとめて消せるのだもの」

 

 白野は知らない。自身に掛けられた呪いを。敵に居場所が丸分かりな状態で、仲間と合流しようものなら、ジャンヌからすれば一網打尽にするだけなのだ。

 あえて不明なサーヴァントとマスターについて伏せたのは、完全に情報をシャットアウトして妙に勘繰られる事を防ぐため。

 

「おぉぉぉ……!! 流石はジャンヌ! やはり貴女こそ、我らを導く御旗の担い手! 否!! 貴女をおいて他に居ない!!!」

 

 全身で彼女を讃えるジル元帥に、竜の魔女は不敵に笑う。その手には、獲物へと己を導いてくれる地図(かみきれ)が強く握りしめられていた───。

 

 

 

 

 

 




 


答え)三匹の魔猿……見猿、言わ猿、聞か猿

私の答え)ラーマ……不正解



以下、実話です。

私「ふむ。ボス鯖は恐らくセイバークラス……人理で一番強い猿。それすなわち、ラーマに違いない! ならば神性特効宝具のナポレオンで行こう!」

戦闘開始。三匹の魔猿登場。

私「やはりアイコン的に配下の猿を従えていたか。お山の大将なのかなラーマくん? よし、だったら引きずり出してやるぜ!」

猿の一匹が退場。

私「来るか、ラーマ……!!」

そして現れる──

雀「頑張るでち!」

───でち公。

私「え? え? なんで女将さん?! ラーマは!?」

まさかの女将登場に混乱する私。(少ししてイベントのストーリー的に妥当な登場だと気付く)

私「女将……神性ないやん。ナポレオン意味ないやん。どうしたものか……」

撤退して編成練り直すかとも思ったが、ひとまずそのまま続行する事に。

私「無敵散布のジャンヌとマーリンが居る! 行けるところまで行くぜ!」


初見でしたがどうにかクリア出来ましたとさ。
ちゃんちゃん。


というわけで、バレンタインでのラーマのバナナ押しで、てっきりラーマ来るかと思って編成したら全然違ったという失敗談でした。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。