Fate/Grand Order 凡夫なりし月の王 作:キングフロスト
仕事終わりに見てみると、UAがけっこうな勢いで伸びていて驚いていたり。(22時の時点で)
では、本編どうぞ。
「……はあ~」
マスター候補生の群を追って行くうちに、中央管制室へと辿り着いた私。
管制室のおよそ中心に位置するように浮かんでいる、一際大きな地球を模したと思われるホログラムに、私は感嘆の息を漏らす。
「驚いた? これがわたしの『カルデアス』よ」
掛けられた声に振り向くと、もはや見慣れたオルガマリーの姿があった。私が管制室に入ってきたので、スタッフとの打ち合わせを切り上げて、こちらへとやってきたらしい。
「言っておくけど、これは単なるホログラムではないの。カルデアスが何であるか、それは前も言ったけど、我々カルデアは惑星には魂があるとの定義に基づき、その魂を複写する事により作り出された小型の疑似天体こそがこのカルデアス。いわば小さな地球のコピーです。地球環境のモデルを投影し、星の状態を過去や未来に設定し観測する事が出来、現実の地球の様々な時代を正確に再現可能なのよ。まあ、シバを使わなければ観測は出来ないけれど」
得意気に語るオルガマリー。そういえば、ちょくちょく部屋にオルガマリーが会いに来てくれた時に、そんな話をしていた気がする。
「それと、これ自体が『高密度霊子の集合体』かつ“次元が異なる領域”でもあるために太陽やブラックホールと変わりなく、人間が直接触れてしまえば分子レベルにまで分解されて消滅してしまうという事を覚えておきなさい? 無論、サーヴァントとてカルデアスに触れれば無事では済まないでしょう。人間と同じく、たちまち分解されてしまうから」
「肝に銘じておきます」
分解、すなわち触れれば死ぬのなら、間違っても自分から触ったりしない。まあ、宙に浮かんでいる時点で、触れようとするのがまず私には身長的にも困難なので、そこまで注意しなくても大丈夫だろう。
「さて、マスター候補生もそぞろ集まってきているから、もう少しで説明会を始めるけれど、あなたにはわたしのサーヴァントとして、壇上で立つわたしの隣に控えていてもらう事になっているから。別に何か話せなんて言わないし、安心なさい?」
「あ、やっぱりそんな感じになる? なら、出来れば私にもカルデアの職員と同じような制服を貰えると助かるんだけど。なんというか、私のこの格好ってここだと浮いてるみたいで……」
サーヴァントとはいえ、私とて花も恥じらう、年相応のうら若き乙女だ。アイドルでもあるまいし、衆目の好奇の視線に晒されるのは、かなり……いや、相当にキツい。
「……そうね。手配はしておくけど、今は我慢なさい。せっかくのマスター候補生とサーヴァントとの顔合わせ、もといカルデア全スタッフへの公的な初お披露目でもあるのだから。それなのにスタッフと同じ衣装では、紛らわしいし雰囲気がぶち壊しでしょう?」
うぐぐ……。ダメ元で頼んでみたが、こうも直球ど真ん中な正論で返されては、反論の余地はないか。
今日だけの我慢なら、本当は嫌だけど耐えるとしよう。それに、制服を支給してくれるのは確定のようだし。
まあ、かつての衣装を再現出来るかも試してみるつもりではあるけれど。
「所長。確認をお願いしたい事項が……」
「ええ。今行きます。じゃあ、私はまだ手が離せないから、白野は少しの間ここで待機。何なら霊体化していても構わないわ」
オルガマリーの確認が必要であるらしく、彼女はスタッフと共に話し合いの輪に戻っていった。
さて、待機ときたか。霊体化してもいいと言われたが、あいにく私にはその方法が分からない。何と言っても、これが初のサーヴァント経験なのだ。
英霊としての自覚すら皆無に等しいのに、サーヴァント初心者の私にそんな高等な知識や技術があるはずもなく、諦めて大人しく近くの席に腰掛けて待つ事にした。
その間、手持ち無沙汰になった私は、思考を放棄してぼんやりとカルデアスを眺める。
「地球の環境モデルを投影、か……」
なんとなく、月の裏側に建っていた旧校舎でかつて見た世界地図のグラフィックを思い出す。国や大陸の形、文化の違いは私の世界とほとんど大差無いだろう。
けれど、やはり異なっている。こちらには西欧財閥も、それに対抗するレジスタンスも存在しない。
地図やグラフでは読み取れない二つの世界の相違点は、けれど確かに存在している。
……おっと。思考を放棄したはずなのに、何故か考え事をしてしまっていた。今回の境遇が特殊なだけに、ついセンチメンタルな気分になりがちである。
「………っ」
「ん?」
隣で息を呑むような音が聞こえたので、そちらに視線を送ると、若い男が若干ながら頬を染めて私を見ていた。
そういえば、マスター候補生は基本的に白い上着に、黒いズボンまたはスカートで統一されているらしく、彼もまた同様の姿をしている。
ならば、この若い男もマスター候補生であるのだろう。
目が合うと、彼は刀を思い切り振り抜くが如く、勢いよく私から顔を背ける。理由は分からないが、もしかしたら怒らせたのかもしれない。何か気に障る事でもしたのだろうか、私?
(うっわ何だよあの憂い顔ヤバすぎマジで超美しいというか可愛い彼女もマスター候補生かな今度食事に誘ってみようマジでツイてるぜ俺ェェェェ!!!!)
しばらくして、説明会の定刻となったのか、オルガマリーが壇上へと上がる。それに倣い、私も彼女の少し斜め後ろで控えるように待機する。
壇上から見渡せば、扇形のようにズラリと並んで席につくマスター候補生たちが視界に映った。計48人と聞いていたが、こうして見ると少ないと思っていた人数も壮観なものがあるな。
「…………」
いつ始まるのかと、視線をのんびりと泳がせて待っていた私だったが、何故か。何故だか一向に説明会が始まる気配がない。
どうしたのかと思い、オルガマリーの様子を背後から観察していると、彼女の視線が真っ直ぐ彼女自らの正面より少し下に向いているのが分かる。
オルガマリーの視線の先。もちろん、そこはマスター候補生が席について然るべき座席だ。それが二つ、まだ空席となっていた。
「………………」
何故、説明会が始まらないのか。なんとなくその理由に察しがついてしまい、この沈黙が嫌に重く感じてくる。背中越しでも分かる、オルガマリーの怒りのボルテージ上昇が、余計にいたたまれない。
ああ、もう我慢出来ない。もはや酌量の余地などない。庇うのも無理。この際、ぶっちゃけてしまえ。
つまりは、まさかの、遅刻である。
あ、なんか理由をはっきりと思い浮かべると、少しだけ息苦しくなくなった。
ダメだよね、溜め込むのは。こういうのはしっかり発散しないと。
まあ、オルガマリーはそれが出来ていないのだが……。早く来てくれ、遅刻したマスター候補生くんおよび候補生ちゃん……!!
そして、待つ事10分。ようやくほとんどのマスター候補生が揃ってから、久方振りに管制室の扉が開かれた。
入ってきたのは、コートに身を包みマフラーみたいに髪の伸びた男性と、黒いツンツン頭の少年と、薄紫の髪を持った少女。
「……マシュ?」
遅刻していた一人が予想外のマシュであり、思わず口を突いて言葉が出る。
コートの男性は悠々とスタッフの方に歩いて行き、残った二人、というかマシュが少年を連れて慌てて空いた席を捜すが、無論空いた席とはオルガマリーの真正面のみ。
おそらく、恐ろしく仏頂面となっているであろう彼女に睨まれながら、説明会を受けなければならないという、有る意味では試練というか、自業自得の罰ゲームというか……。
あの真面目そうなマシュが遅刻したのは、隣のあの彼が理由なのだろうか?
……、それにしても彼は何故あんなにも眠そうにしているのだろう。寝不足が原因で寝坊でもしたのか。
マシュと少年が席につき、やっと座席が全て埋まったところで、ついに沈黙は破られる。
その沈黙を破ったのは他でもない、この説明会を取り仕切る彼女、オルガマリーだ。
「時間通りとはいきませんでしたが、全員揃ったようですね。特務機関カルデアにようこそ。所長のオルガマリー・アニムスフィアです。あなたたちは各国から選抜、あるいは発見された稀有な──」
気高くあろうと努めるオルガマリーの前振りであったが、そこで早々にちょっとした事件が発生する。
「──稀有な才能の持ち主です。そんなあなたたちをこうして迎え入れられた事を、わたしは喜ばしく……、思い、……………」
途中でオルガマリーの言葉が途切れる。それもそのはず。遅れてきた少年は、何とオルガマリーの目の前。それも目と鼻の先で居眠りをしてしまっていたのである。
「……………」
ち、沈黙がさっきよりも重い。というよりも殺伐としている……!
とうとう怒りの頂点に達してしまったのだろう、オルガマリーはスッと壇上から降りると、彼の正面に立つ。そして、振り上げた手を勢いよく彼の頬へとぶちかましたのだった。
バチーン!!
と、聞いていて気持ちよくなる程に心地良い快音が管制室に鳴り響く。
流石に今の一撃は重すぎたのか、その少年は目を白黒させて、机に突っ伏す形で伸びてしまった。
恐るべし、オルガマリーの本気の平手打ち……。そして大丈夫だろうか、あの少年……。
こうして説明会は、なんとも幸先が不安なスタートを切ったのであった。