Fate/Grand Order 凡夫なりし月の王 作:キングフロスト
オルガマリーの平手打ちで伸びた彼を置いて、説明会は続行されていた。
彼女がカルデアの所長としてマスター候補生へと語るのは、彼らの使命とここでの在り方について。
それを聞いたマスター候補生の大半……いや、魔術協会から派遣されてきたという者たちが主だって、オルガマリーの言葉にブーイングを鳴らした。
お前たちマスター候補生は人理を守る為に馬車馬の如く働け、魔術協会での功績や成績、優れた血筋や名門の出であるかなどはここにおいては一切無視する。このカルデアにおいてオルガマリーの命令、指示は絶対である───と、彼女は堂々きっぱりと言い放ったのだ。
「横暴にも程がある!! 何のためにわざわざこんな雪山の奥地にまで足を運んだと思ってるんだ!!」
「そうだ! だいたい、魔術師にとって家柄や血筋は何より誇りに掲げるべき象徴。最重視されてしかるべき事柄だ! なのに、それを無視など有り得ないだろ!!」
「そうよ! わたしたちは選ばれた存在。言わばエリートなのよ!? 一般の公募から来たとかいう連中ならともかく、そのわたしたちが軽視されるなんてあって良いはずがないわ!!」
当然、オルガマリーの言葉に反論や意見を述べる者も出てくる。そしてそれを皮切りに、ガヤガヤと管制室が騒然となるが、
「黙りなさい!」
オルガマリーの一喝により、騒いでいたマスター候補生たちは一斉に静まり返った。
彼女の声音からでも分かる。今オルガマリーがどんな顔をしているのか。きっと、冷たくも凛々しい、毅然とした表情で、彼ら彼女らを睨み付けているのだろう。
「魔術協会から派遣されてきた魔術師はいつまでも学生意識が抜けきっていないようですね。この際、それをすぐに改めるように。ここカルデアはわたしの管轄です。外でのあなたたちがどんな功績を持とうと、どんな優れた家の出であろうと、カルデアに属する時点で重要視はしません。あなたたちは人類史を守るためだけの、道具に過ぎない事を自覚するように」
不満はある。だが、マスター候補生たちは高圧的な彼女の態度に、どうにも反論出来ないようだ。
そして畳み掛けるように、オルガマリーはトドメの一撃を口にした。
「これらの処遇に耐えられないと言うのなら、即刻ここを退去して下さって結構です。ただし、帰りの便はありません。ここに来た時からあなたたちには退路など存在しないのです。それだけ、人類史を守るという使命が大きいのだという事を早急に肝に銘じておきなさい。それでも嫌だというのなら、わたしは止めません。その脚で、雪山を自力で降りてもらうだけですので。遭難してもこちらは一切の責任を負いませんので、そのつもりで」
ついに、完全なる沈黙がマスター候補生たちを支配した。この辺境の地にあるという雪山を、自らの脚のみで下山するなど自殺行為にも等しい──というオルガマリーの明確な脅しは、彼らには効果抜群だったようだ。
「……ようやく静かになったわね。あなたたちも、こちらの彼を少しは見習ったら? 黙って意見も反論も述べず、わたしの言葉に従順。わたしが求めている人材は、わたしの計画に無駄が無く動ける人間です。まあ、遅刻は許して良いとは言い難いのだけど」
と、自らの前方を指差して、机に突っ伏した彼に顔を向けるオルガマリー。
いや、それはあなたが張り倒して昏倒気味になっているだけだからね!?
というか、わざと言ってるよね、それ。
たぶん、オルガマリーなりの皮肉のつもりなのだろう。自分の意に添わなければ、彼のように力づくで無理やりにでも従わせる、といった具合に。
うーん、ちょっとオルガマリーの困ったところだな。この性格は、人にとっつき難いタイプだろう。
年齢的には彼女が私よりも上だが、彼女のサーヴァントとしてせめて人当たりくらいは良くなってもらいたいので、ダ・ヴィンチちゃんやDr.ロマンにも相談してみよう。
彼女にとって念願だったサーヴァントたっての
「……では話を続けます。いいですか、今日という──」
そして再び始まるオルガマリーの演説。
机に倒れ伏す彼ではないが、私も少し飽きてきたので眠気が表れ始めた。
ここで私まで寝てしまえば、それこそオルガマリーの立つ瀬がないので、ここはグッと堪える。
どれくらい時間が経ったのか、長かったオルガマリーの演説もようやく終わりが近づいてきており、特異点修復の説明が一通り終わったところで、ようやく英霊とはどんなものかという話題になり、カルデアに召喚されたサーヴァントの紹介として、私が指名された。
「では、カルデアが保有するサーヴァントを見てもらいましょう。彼女が英霊召喚第四号。さあ、名乗りなさい」
オルガマリーに促され、彼女に譲られて壇上へと私は立つ。
さて、名乗れ、と言われると、やはりここは
「えー、ご紹介に預かりました。オルガマリー所長のサーヴァントにして、カルデアで四番目に召喚された英霊です。真名を、『フランシスコ・ザビエル』。親愛を込めてザビ子って呼んでね☆」
ペロリと舌を出し、可愛く決めポーズをとる私。
……決まった。
……と、思ったのだが、何故か場がシーンと静まり返っている。おかしい。上手く出来たと思ったのだが。手応えもそれなりに感じたのに。
「…………えー、訂正します。この子は悪ふざけが好きで、今回はおそらく冗談を言って場を和ませようとしたのだと。彼女の真名は『岸波白野』。あいにくとクラス、ステータスが謎に包まれていますが、
深い溜め息の後、速やかに私の自己紹介を訂正したオルガマリー。えっ? これってもしかして失敗してたの……!?
まさか失敗していようとは夢にも思わなかった私は、ショックのあまり膝から崩れ落ちたのだった。
「では、これで説明会を終了し──」
さて、粗方の説明も終わり、今日のところは明日に備えてひとまず解散───となるかと思いきや、想定外の事が起きた。
それも、私の嫌な予感がおよそ的中する形となって。
「すまない。一つ、訂正を必要とする事項を告げねばならなくてね」
挙手にて発言したのは、コートの男性。マシュやあの少年と共に入室してきた、あの彼だ。
彼はこちらまでやってくると、オルガマリー、並びにマスター候補生に話し掛けるような位置に立ち、それを告げた。
「特異点へのレイシフト実行は明日……となっていたが、急遽変更となった。レイシフト実行は、これより数刻の後に、ね」
……!!
男の言葉に、管制室は驚愕に包まれる。それも当然だ。明日と言われていたはずが、今日、しかも猶予は残り僅かなのだから。
一部スタッフは、覚悟を決めたような顔をしており、どうやら予め聞かされていた者とそうでない者が居たらしい。
そして、オルガマリーはその後者であるらしかった。
「レフ! わたしはそんな話を聞いていないわ!? 一体どういう事なのか説明して!」
レフ、と呼ばれたその男は、オルガマリーに問い詰められると、申し訳なさそうに謝罪を述べる。
「本当にすまないと思っているよ。所長である君に何の連絡もしなかったんだからね。だが、これは緊急でもあった。私が遅れて説明会に参加したのもそのためだ」
緊急。つまり、特異点に何らかの変化が見られた、という事なのだろうか?
「説明会が始まる少し前、シバを用いた観測スタッフより報告があってね。特異点が徐々に広がり始め、他の年代さえも侵蝕する兆しを見せ始めた、と。私は技術班の元に向かい、この目で確認をしてきたから間違いない。数値が異常に大きく変動を始めている。もはや、一刻の猶予すらない状態だ」
「なら、わたしに連絡くらいしてくれても良かったじゃない……!?」
取り乱すようにレフにすがりつくオルガマリー。だが、
「事は深刻だ。説明会を控えていたマスター候補生たちに、細かな説明も無いままいきなりレイシフトを実行しろというのは酷だろう? だから、事前に君には知らせなかった。知らせていれば、君はすぐにでもレイシフトを実行に移していただろうからね」
「そ、それは……」
彼の言葉に、言い淀むオルガマリー。確かに、短い付き合いではあるが、彼女の性格は少し把握している私からしても、彼女にそれを伝えていれば即刻、作戦は始動していただろう。
オルガマリーは、事を急ごうとするきらいがある。
「とにかく、明日まで待つ余裕はない。幸い、ここに居る半数のマスターにサーヴァントを召喚するだけのリソースは貯蓄が完了している。今すぐにでも第一陣を出発させる為にも、コフィンへの個人登録を開始した方が良い」
「そう、ね……。あなたの判断がこれまで間違っていた事なんてなかったもの。ええ……、そうしましょう」
僅かに落ち込んでいたオルガマリーだったが、すぐに毅然と顔を上げると、瞬く間に表情を引き締め、その場の全員に号令を発した。
「聞きなさい! カルデアの所長として、ここに、人類史を守る為の戦い───特異点の探索並びに修復を宣言します! マスター候補生たちよ、あなたたちの使命を今こそ果たす時! 人類の未来をこの先も切り開いて行くために、時間旅行による歴史修正を発令します!! 命を懸けて、わたしたちの、あなたたちの未来をその手に掴みなさい!!」
場の全員が、緊張に包まれる。
今この時を以て、私の初のレイシフト決行が、数時間後の実行と相成ったのであった。
レイシフト実行までの間が少し本来のストーリーと変更になっていますが、そこはそれ。オリジナリティという事で。
フランシスコ・ザビエルの擬似英霊としてザビ来ないかな……。この際、ザビ男でもザビ子でも構わないから来てお願い(懇願)