Fate/Grand Order 凡夫なりし月の王 作:キングフロスト
号令が発されてから間もなく、管制室に備え付けられていた大きな筒状のコフィンを前に、マスター候補生の列が作られる。
コフィンは一人一台で割り当てられているが、調整や確認、個人登録などややこしい手続きが有るため、スタッフを介して手続きが済んでやっと、コフィンに搭乗するといった流れだ。
私は、どうせマスター候補生の準備が済み次第、共にレイシフトする予定なので、てきとうにその辺で彼らの様子を眺めていた。
「なにこれ、配属が違うじゃない! 一般協力者の、しかも実戦経験も仮想訓練もなし!?」
ぼんやりしている私の耳に、若干のヒステリックな叫び声が届けられる。
何だ何だとそちらを見れば、オルガマリーが一人のマスター候補生を捕まえて怒鳴っているようだった。
「……って、またあの遅刻くん、オルガマリーに絡まれてる。今度は何をやらかしたのかな……?」
流石に彼には大きな前科があるため(オルガマリーの眼前で居眠りした事)、助け舟を出しに行くのは気が引ける。
私まで怒られる羽目になりかねないし。
そんな事を考えている間にも、やりとりはまだ続いていた。
「わたしのカルデアを馬鹿にしないで! あなたみたいな素人を入れる枠なんてどこにもないわ! レフ! レフ・ライノール!」
怒り心頭といった具合で、オルガマリーはあのコートの男性を呼びつける。……レフ・ライノール、か。互いに自己紹介もないままに彼の名前を知ったが、彼も先程の、不本意ながらスベった私の名乗りを聞いていたはずだ。なら、別に問題ないか。
オルガマリーに大きな声で呼ばれた彼はといえば、やれやれといった風に、しぶしぶやってくる。
「ここにいますよ所長。どうしました、そんな声高に。何か問題でも?」
「問題だらけよ、いつも! いいからこの新人を一秒でも早くわたしの前から叩き出して!」
む。これはあまり良い流れではないようだ。けれど、あのレフというオルガマリーが信頼しているらしき人物が向かったのだ。私の出る幕ではないだろう。
レフも、オルガマリーが何故怒っているのか察したらしく、宥めるように彼の弁論を述べる。
「あー……なるほど。いえ、お気持ちは理解しますが、ですがね所長。彼もまた選ばれたマスター候補。確かに他の者と比べれば、経験は少ないでしょうが、だからといってそこまで邪険に扱う必要はないでしょう。というよりも、それ自体が問題というか……」
「そうだとしても、なんの経験もない素人を投入するコト自体が問題よ! 貴重なマスター適性を持つからといって、もしもわたしのカルデアスに何かあったらどうするの!?」
これまた負けじと、オルガマリーも正論をぶつけてレフに対抗する。いや、これに関しては私もオルガマリーを否定はしない。
人類の存続が懸かった作戦に、他にも彼より良く使えるマスター候補生が居るのなら、下手に博打に打って出る必要もないだろう。
ほら、私の時は他に人材も居なかったし、流れで仕方なくだったけど。自分より優れていたであろうレオに「お前が行けよ(注釈)」と進言しても却下されたくらいだし。
なんだかんだと揉めているうちに、決着がついたらしい。
「いいからロマニにでも預けてきて! マスター候補生から外すと言っている訳ではないわ。せめて最低限の訓練を済ませてくる事!」
プンスカとひとしきり怒った後、オルガマリーは再び作業へと戻っていった。
あとに残されたレフと
「やれやれ、これはまた随分と嫌われたものだ。第一印象が悪かった、としか言えないかな? 仕方ない、とりあえず命令には従うか」
「………やらかした、かも?」
……………。
あれだけ暴言を前に、驚く事に彼はケロッとしており、あまり
何というか、彼……思った以上に図太い性格をしているのかも?
今度はレフがマシュを呼びつけたようで、二言、三言話すと、マシュが少年と連れ立って管制室から退室していった。
うん、その、ご愁傷様……。
少年とマシュが出て行ってしばらくした頃、マシュだけが再び管制室へと戻ってきた。
おそらく、彼を個室なりへと連れて行ったのだろう。俗に言うマイルームというやつだ。
カルデアの規模からして、ここに居るマスター候補生全員分のマイルームすら容易に用意出来るはず。あ、今のは別にギャグでも何でもないので。別に魂がオヤジ呼ばわりされていても、オヤジギャグが好きとかそんなんじゃない。断じてない。
「……そろそろ、終わるかな?」
ずっと眺めているだけだったが、どうやらあとはマシュを残すのみで、全てのマスター候補生はコフィンへと搭乗したようだ。
あの少年に関しては、オルガマリーに怒りを買ってしまったので、また今度にお預けかな?
「ふう……ようやく、あの素人マスター候補生を除いて全員の登録が完了したわね」
疲れた、と一息ついて壇上から降りたオルガマリー。すぐ近くの、ちょうどあの少年が座っていた席へと腰掛ける。多分、彼が座っていたのを忘れているな、これは。
「お疲れ様、オルガマリー所長。これで、ようやく準備が整ったワケだ」
そこに、レフが紙コップを持ってやってくる。湯気が立っているので、中身はコーヒーか紅茶だろうか。
差し出されたそれを、オルガマリーは軽くお礼を述べて受け取る。
「ええ。予想よりも早まったけど、作戦はついに実行段階へと移行するわ。これもそれも、全てあなたのおかげです、レフ。これまであなたがわたしを、このカルデアを支えてくれたからこそ、今この時がある。これでわたしも、きっと父に認めてもらえる……」
……別に盗み聞きするつもりではなかったのだが、彼女の言葉からは何か、とても思い詰めたものを感じるのだが、私の気のせいだろうか。
それに、父に認めてもらえる、とは……?
気にはなるが、込み入った話であろう事は容易に想像がついたので、聞きたくなるのをグッと堪える。
そんな私の心など知る由もない二人であったが、ここでレフがオルガマリーに壇上を指し示した。
「オルガマリー。君はこれまでよく頑張ってきた。三年前、まだ魔術協会で学生であった君は、その年若さで亡きお父上の跡を継ぎ、今日という日までカルデアに貢献し、職員一同をよくまとめあげた。その功績を、きっとお父上もお認めになるだろう。さあ、今一度、君が成し遂げた成果を壇上から見渡してごらん」
彼の言葉に、オルガマリーは頷くと、その言葉通りに彼女は立ち上がり、壇上にまで歩を進める。
「…………?」
だけど、この時。何故だか私は言い知れぬ不安に襲われた。何か良からぬ事が起きようとしている───そんな漠然とした、予感というか、直感のようなものが頭に過ぎったのだ。
ふと、何気なくレフに視線を送る。特におかしなところは見当たらない。オルガマリーを見つめるその視線は、暖かいものさえも感じる。
だけど。
私はその一瞬を見逃さなかった。
コンマ一秒にも満たないであろう刹那。彼の顔が醜悪な笑みでオルガマリーを見つめていた事を。
「オルガマリー!!」
咄嗟に私は叫んでいた。何かが彼女の身を襲おうとしている。命を脅かそうとしている。
オルガマリーを、
だけど、彼女を助けようと伸ばした手は、届かない。
気付いた時には───
視界の端で、爆炎が立ち上っていた。
「う……」
ふと目を覚ます。喉が熱い。息が苦しい。肺が痛い。
全身が熱を帯び、まるで焼かれているような熱さを感じる。その表現は、決して間違っているとは言い難いものだった。
視界を覆い尽くすように、辺り一面が火の海と化し、瓦礫が至る所に積み重なっている。さっきまでの管制室の姿はもはやなく、見る影すらも消え失せていた。
ここにあるのは、地獄。ただただ凄惨な光景が広がっており、ひたすらに燃え盛る炎が、生者を食い殺さんと暴れているのみ。
なんだ、やっぱり地獄じゃないか。
「なんて……バカ言って、られない……つぅッ!」
どうにか起き上がろうと全身に力を入れる。すると、突然額に痛みが走った。どうにも額を切ってしまっているらしい。
傷口から溢れ出た血液が目に入り、余分な痛みと視界不良を引き起こす。
頭部の痛みを無視し、どうにか立ち上がる。その際に分かったが、足を痛めたらしく、上手く歩けないようだ。心なしか、レガリアの嵌められた中指がひどく熱を持っている。金属が熱に当てられたのかもしれない。
どうにかその場から移動し、火の海から身を守りながら、他に生存者が居ないかを確認する。
管制室の端の方でスタッフの何人かが壁を背に倒れているのが分かるが、おそらくもう息はない。そのほとんどが首や胸を瓦礫で抉られており、奇跡的にまだ息があったとしても、きっと助からない。
オルガマリー。彼女はどうなった?
最後に見た時、彼女は爆炎に今にも包まれようとしているところだった。あまりにも眩い閃光で、その姿を最後まで確認する事なく、また私も爆風に押し出されてしまったので、その彼女の安否がまったく分からない。
さまようように、私はオルガマリーを探しながら管制室を歩き回る。が、瓦礫に押し潰された死体や、炎に焼かれている死体、果ては爆発により体が吹き飛んでしまっている死体と、誰も彼も区別の付けようがない。
幸い、まだ彼女とハッキリ識別出来るような死体は発見出来ていないが、この分では望みは薄いだろう。
「……いや。まだ、可能性はあるはず……!!」
痛みを堪え、私は引き続き、火の海の中をオルガマリーを探して回る。緊急事態における館内放送が流れているようだが、この地獄のような世界を前に、私の耳には入ってこない。
と、その時だった。
「なんという、事だ……!!」
「酷い……! 誰か、誰か居ないか!!」
久方振りに聞いた気さえする、他人の声。私は自然とそちらを見やると、今や懐かしくさえ感じるDr.ロマンと、あの少年の姿がそこにあった。
「!! 大丈夫か!?」
少年は、佇む私を見つけると、Dr.ロマンの制止を無視してこちらに走ってくる。そんな彼に、Dr.ロマンも諦めたように追走した。
「! 白野ちゃん!? よくこの惨状で生きていてくれた……!!」
Dr.ロマンも、私が誰であるかに気付くと、血相を変えて肩に手を置いてくる。今は他人の手がこんなにも恋しく思えるなんて、いつ以来だろう。
「多分、私がサーヴァントだったから……だと、思います」
「無理はしなくていい。とにかく、避難を優先するんだ。他に君以外の生き残りは……?」
「………、」
その問いかけに、私は黙って首を横に振った。それを見て、Dr.ロマンの顔が苦痛と悲壮に歪むのが嫌という程に分かった。
「そんな……、いや、そうか。白野ちゃん、藤丸くん。君たちは今すぐここを離れるんだ。外に出れば、きっと救助がやってくるはずだ。そして、僕は少しでもこの事態を収集するために地下へ行く。誰かがこの火を食い止めなきゃいけないのなら、それは僕の役目だ。まだここに来て日の浅い君たちよりは、まだ上手く立ち回れるだろうからね」
有無を言わさず、Dr.は覚悟を決めた男の顔で、地下に向かって管制室から居なくなってしまう。残されたのは、私と、藤丸と呼ばれた若きマスター候補生のみ。
だけど、私は───。
「……、あれは……!?」
と、マスター候補生──藤丸は、何かを見つけたのか、そちらへと勢いよく駆け出す。
「どう、したの……!?」
「まだ生存者が居たんだ! 俺はいいから、君だけでも先にここを脱出してくれ!!」
私は、彼の走る先に視線を向けた。すると、そこには、
瓦礫に下半身を押し潰された、薄紫の少女───マシュの姿があったのだった。
気まぐれと息抜きで書いた作品が、まさかランキング4位にまで上がるとは、流石に私も想定外。
なるほどUAとお気に入りが伸びている訳ですね。
あと、感想頂ける方はありがたい事なので、大事にするスタンスでやっております。(別に催促しているワケではないので、思った事や気になった事があれば気軽に書いてもらえればと)