生物が最も油断をする瞬間はいくつかある。
就寝する時、食事をしている時…そして、用を足している時だ。
始まりは、昭和ライダーから叩きつけられた挑戦状。
勝てば賞品として願いが叶うとされる何ともご都合主義なアイテム『ライダーカップ』が与えられる。
その激しい戦闘の最中、『仮面ライダーブレイド/剣立カズマ』は平成ライダーと共に昭和ライダーの戦闘で、突然の激しい腹痛に襲われトイレに駆け込んだ。
そして、用を足した後ある重要なことに気づいてしまったのだ。
(か、か、紙がぁぁぁ…!)
個室のトイレの紙が切れてしまったことに……。
その時の衝撃は到底口では語れぬことであり、あまりのショックで絶句するほどである。
(最悪だ…尻丸出しで動けないっ!!)
絶体絶命の危機に思わず頭を抱えながらも、カズマは必死に思考を巡らす。
外で待機していたであろう晴人やタクミの気配がないところを見るに、既に何処かへ行ってしまったのだろう。
(待てよ…ここのトイレには個室が後三つあったはず…その全てで紙が切れる確率なんて、天文学的数値に等しい)
冷静にそこまで考えたその時、ガラガラと紙を取る音がした。
その音を聞いた彼は確信する。
(いる…!俺以外に、用を足してる奴がいる!)
それは今の状況に置かれている彼にとって絶好のチャンスだった。
「助けてくださあああああああああああああああいっっ!!!」
カズマはトイレ中に響き渡るぐらいの大きさの声を出す。
これでも会社では社長の座に収まっているのだが、トイレから出られない状況ではこの際気にしてはいられない。
「紙が切れてしまったんです…お願いします!紙を、紙を恵んでくださいっ!!」
だが、その物乞いに返すように軽い金属音がする。
「……紙も仏もねぇよ…」
そして、青年の沈んだ声が聞こえた。
彼の放った言葉にカズマは反応する。
「えっ!?今ないって言いました?嘘でしょ、嘘だよね!?」
「うるさいアホ、少し黙ってろアホ、この腐れオンドゥル野郎…」
「いや、それは剣崎の方…ってちょっと待て…その声はまさか、お前士かっ!?」
その声は、彼にとって非常に聞き覚えのあるものだった。
声の主は仲間であり、自身が所属する平成ライダーのリーダー『仮面ライダーディケイド/門矢士』…。
だが、その声はいつもの自信に満ちたものではなく死地に立たされたような絶望の声色である。
「士っ!何でここにいるんだよ!?」
「こんなところにいるんだ…目的は同じだろ」
「お前も…!?最悪だ、よりによって平成ライダーが二人とも腹を下すなんて……」
「今朝食べた食事がまずかったみたいだな……」
「冗談じゃないぞっ!絶対どっかの個室にあるはずだっ」
カズマがトイレの壁をよじ登り、他の個室を確認しようとする。
同じ明るさのはずなのにやけに暗い雰囲気のする個室であり、そこに『何か』がいるのを見つける。
その『何か』はカズマに気付いたのかゆっくりと顔を上げ……。
「紙をよこせええええええええええええ!!!」
「ぎゃあああああああああああああっっ!!?」
顔の影を濃くし、目を見開いたまま紙を要求してきた…アンデッドやそこらの怪人よりも恐ろしいものを見てしまい、カズマは絶叫する。
「どうしたー?」
「よ、妖怪がいた。何かすごい強面の……!」
悲鳴を聞いた士が問いかけると、カズマは呼吸をし高鳴る動悸を抑えながら先ほど見たものを掻い摘んで説明する。
「それは恐らく、『妖怪 便所爺三四郎』だ」
「便所爺三四郎っ!?」
冷静に『何か』の正体を分析した士、そして、聞いたこともない名前にカズマはそれに驚愕を露にする。
ちなみ言うまでもないが、便所爺の正体は昭和ライダーのリーダー『仮面ライダー1号/本郷猛』である。
「戦闘中、トイレから出られなくなった哀れな者の末路だよ」
「マジかよ!?おい、このままだと俺たちも妖怪便所爺になっちまうぞっ!!」
「ぬおおおおおおおおっ!!け、今朝の漬物が腐っていたとはああああああ!!」
時々本郷の断末魔が聞こえるが、二人はそれを無視し紙を取りに行く作戦を立てる。
「大体分かった。カズマ、紙取ってこい」
「下半身丸出しで行けって言うのかよ、お前は!」
とんでもないことを要求してきた士に流石のカズマも拒否をするが、その声は自信が満ち溢れている。
「全部脱いだ方が良いな、『通りすがりのビックフットだけど何か』的な」
「これ以上醜態を晒すなんて…」
「所詮ギャグ次元だ。ライダーカップの設定もすぐに消え…」
「やっと見つけたぜ」
そこで二人の会話に割り込む声が突然聞こえてきた。
突然来た来訪者に二人は便座に跨ったまま構えを取る。
やって来たのは、昭和ライダーの副リーダーであり、本郷猛の相棒『仮面ライダー2号/一文字隼人』であった。
「仮面ライダー…2号……!」
「……っ!」
「まさか平成ライダーが二人もいるなんてな、ここ一帯は人が全く近づかないから、紙が切れるのは仕方がないとして…」
突然現れた一文字に士は冷や汗を流し、カズマは増々警戒を強める。
現在の状態ではまともに戦えるはずもなく、勝敗は一文字の言う通り火を見るよりも明らかだった。
「袋の鼠だな、さてどうやって…」
すると、トイレのドアがゆっくりと開く。
出てきたのは、服もズボンも何もかも脱ぎ去った全裸の本郷だった。
「あの、通りすがりのビックフットだが…何か紙を持ってないかな?」
「…何やってんだ、本郷?」
「……」
数分の沈黙の後、本郷は再び個室に戻っていった。
「どういうことだ!!全然通じんぞっ!?」
「馬鹿だろ。本当にやるか、馬鹿だろっ!!」
「本郷、そんなことをしていると勝てる勝負も勝て…!!?」
八つ当たりに近い言動を起こしている様子にため息をつき、一文字は自分の相棒に注意しようとするが…。
彼自身も猛烈な腹痛に襲われてしまい…。
「ぐおおおおおおおっっ!!!」
一文字もまた、トイレに駆け込んだ。
「まさかこんなとこで大将に会えるなんてな!決着をつけてやるっ!!」
カズマは、眼前の敵に向けて闘志を燃やす。
「お前らは俺たちに手も足もでない、断言しよう」
その闘志を本郷は軽く流し、不敵に笑う。
「分かってないようだな、1号。既にお前は袋の鼠だ」
本郷の余裕に士は、静かに闘志を燃やす。
「焦んなよ後輩、後でゆっくり相手してやるからよ…けどその前に、やることがあんだろ?」
静かに闘志を燃やす士を煽る一文字だったが、全員に話しかける。
そして…。
『誰かああああああああ!!紙くださあああああああああああああいっっ!!!』
四人の仮面ライダーは渾身の力を込めて叫んだ。
改めて状況を説明しよう……。
結局、後から現れた一文字もトイレの中に駆け込み体内の毒素を全て出したのだ、しかも最悪なことに彼の個室のトイレにもトイレットペーパーがなかったのだ。
踏んだり蹴ったりである。
「冗談じゃないぞ!!敵を目の前にして身動き一つ出来ないなんてっ!大体一文字さんて言ったっけ!?何してるんだよあんたっ、さっきまで物凄く優位に立ってなかったけ!?」
「が、我慢出来なかったんだよ。あ、楽になってきた気がする…あぁぁ、やっぱり駄目だぁ…」
カズマは今置かれている状況に頭を抱えると、優位な立場だったはずの一文字に話しかける。
ちなみに当の一文字は未だに腹痛が治まっていない状況である。
「腕が何で二本あるか知ってるか?それはな…」
「早まるな士っ!希望を捨てるなっ!!」
目が死んでいる士が呟いた言葉を聞き、カズマは慌てて士の精神状態を何とか元に戻す。
それを聞いた本郷は自らの手を黙って見ていた。
「……」
「本郷?何か喋らなくなったんだけど大丈夫か、絶対すんなよ!?敵の策略だからな!!?」
「まあ待て、敵だの何だの言ってる場合じゃないだろ?ここに閉じ込められたままでは、戦闘もくそも…」
「こんな時に『くそ』と言う言葉を使うなっ!」
急に言葉を発さなくなった本郷に一文字は冷や汗をかきながら「策略」という言葉を使って説得する。
何とか落ち着きを取り戻した士の言葉にカズマはピリピリしながら遮るも、彼はある提案をした。
「取り敢えず紙を手に入れることが先決だ、どうだ?尻を拭くまで協力しないか?」
「敵と組めと?そんな手に乗ると思ってるのか?」
その言葉に一文字は不敵な笑みを浮かべ平静を装うとしているが、その顔はまだ青くまだ体調が万全でないことを示している。
「…てか臭いんだけど!いつまでしてんだっ!」
「一文字、こうなっては仕方あるまい。ここは戦闘を忘れて尻を拭くことに専念しよう」
「だけど士、協力すると言っても手はあるのか?」
全員が士の案に乗っかるが、カズマが最もな質問をする。
そう、いくら誰かと協力しようとしてもその手段や方法がなければ烏合の衆と成り下がってしまうからだ。
だが、そんなカズマの不安を打ち消すように士は自信に満ちた言葉を発する。
「紙はなくても知恵はある。大人四人の頭を振り絞れば、なんとかなるだろ」
「大人四人と言っても、ケツにウ○コがある大人四人だぞ?そんな大人に何が出来るんだ?…ていうか俺たちは大人なのか?」
「自分を卑下するのは止せ、こういう時ほど精神を高潔に保て。人間どんなになっても品性だけは失ってはいけないぞ」
「良いこと言ってるけど、それ言ってる奴も糞味噌付けてるからな、これ」
少しだけ脱線しつつある話題に一文字が咳払いをすると、話すべき議題を元に戻す。
「取りあえず状況を整理するぞ。今このトイレにトイレットペーパーはない、しかも個室全てにだ。俺たちの仲間は戦闘中だろうから頼むことも出来ない」
そして現在彼らがいる場所は人が集まらないため誰かが来ることも考えづらい上に、尻を拭いていない状態ではズボンすら履けない。
つまり助けを呼びに行くことも難しい状況である。
「自分たちで何とかするしかないってことだ…取り敢えず全員、持ってる物を出せ」
「うぐおおおおおおっっ!!!」
士の言葉を聞いた一文字が力み始める。
「誰がそんな物を出せって言った…!」
そんなこんなしながらも全員が全員、用意しておいたバックやズボンのポケットの中を探り始めた。
(紙なんてあるわけがない。そんな物があればとっくに尻を拭き、全員叩きのめしているはず…他の奴らもそうだ。そんなことは全員分かっているはず…なのに何故こんな話を切り出したか……士、俺には分かる)
(この極限状態において共通の目的のため同じ行動を取ることは、強い仲間意識を生む。あいつらは同じ行動を取ることで、自分たちが敵ではないことを俺たちに印象付けようとしている。隙を作り、そこを突くために…)
探しながらも、カズマと一文字は士の案に隠された意図を読み取っていた。
流石は仮面ライダー……この状況下にあっても四人は冷静そのものであり、油断は存在していない。
(おそらくこの中に、協力しようとしている者は誰一人としていない。それだけじゃない。敵を出し抜き、誰よりも早く尻を拭かねば…後手に回れば間違いなくやられる!)
そう、彼らは協力して紙を探そうとしているのではない。
相手より優位に立つためにこのような提案をし、なおかつそれに賛同しているのだ。
(紙…)
(紙…)
(紙…)
(紙…)
((((誰よりも早く紙を手に入れた者が、この戦闘に勝つ!!!))))
するとこの膠着状態に変化が訪れた。
「…おい、なんか良い物があったか?」
(さて…どう出る?)
今まで黙っていた士が切り出し、一文字は様子を探る。
「ないな」
「俺もない(奴らの作戦に俺も乗るべきか?隙を見せ、食いついてきたところを…)」
「おい、これなら使えるんじゃないか?」
カズマと同じ答えを出しながらも作戦を考えていた一文字の思考を本郷が遮った。
どうやら何か見つけた様子だ。
「これ…紙やすり、あった」
((か、紙やすりだとっ!?ふざけるな!肛門が血だらけになるわっ!!))
本郷が見つけた物『紙やすり』にカズマと一文字は心の中でシャウトをする。
だが…。
(…と言いたい。普段なら…)
(しかし、この状態での紙やすりは、高級材と保湿成分を配合した高級ローションティッシュ・スコッチに匹敵する代物に見える!)
((超欲しいいいいいいいいいっ!!))
この状況下では求めている物それなのであり、尻を拭くのにはこれ以上にない代物なのである。
「ふざけんな、腐れバッタ男。そんな物で拭いたら、血だらけになるだろうが」
(待て、士!!惑わされるな!『やすり』という言葉に惑わされるなっ!やすりと言えども『紙』という言葉が付いてたぞ、俺達が喉から手が出る程欲しい紙だぞっ!)
(いや、違う…!)
士は本郷の出した紙やすりに異議を唱え、カズマはそれを制止させようとする。
しかし、そこで一文字はあることに気付く。
(こいつ…紙やすりを欲しているのを俺たちに感づかれないように芝居を打ってる)
(そうか!あれはまだ敵の手中…これを欲すれば弱みにつけこまれる。奴はそれを巧妙に隠し敢えて拒絶することで、1号の紙やすりへの興味に削ぎ、その上で手に入れるつもりなのか)
一文字がそう考えたのと同時に彼も士の考えていることに気付く。
(士…俺たちの数手先までも見据えてやがる…これほど頼れる味方はいない。そうと決まれば俺も加勢だ…!)
士の戦略に驚愕するカズマ。
そんな彼の援護をすべく、準備を始めた。
「うぉっほん…ふざけんなよバッタ擬き!紙やすり?お前はまずそのやすりで脳味噌磨け!」
「(させるか!)本郷、俺たちの探しているのは紙だ。そんな物はくその役にも立たん、さっさと便所に流せ。ついでにお前も流れろ」
「何だとっ!?この状況で紙やすりは保湿成分を配合したローションティッシュ・スコッチに匹敵する代物だろう!」
罵詈雑言を聞いた一文字は、相手のペースにさせないよう本郷に文句をぶつける。
当の本人は紙やすりの有効性を説明しようとするが、二人は反論する。
「スコッチィ…はっ、思い上がりも甚だしいぞ本郷」
「『紙』という言葉に惑わされるな!後ろに『やすり』って付いてんだろっ!!」
「……」
「おいおい、言い過ぎだろ」
敵からも味方からも文句を言われ意気消沈する本郷。
すると、そんな彼を見かねたのか士がそう切り出してきた。
「……まあ、何か使い道があるかもしれないし。1号、ちょっと見せてみろよ」
(…っ!!ツツツツ、ツンデレだとおおおおおおっっ!!?)
彼の放ったその言葉に、一文字の全身に電撃が走った。
(これまでのツンから一転してのデレ!打ちのめされた所にこの優しい言葉を掛けられたのでは、物静かでクールな文学系少女でも墜ちる!バ、バカな!?ここに来てそんな技が…まさか、この男!)
トイレでなおかつ今まで下痢だったという極限状態のせいか、一文字はいつもと違うテンションとなっていたため冷静さを欠いてしまっていたのだ。
だから気付けなかったのだ。
『門矢士』という男の恐ろしさに、その悪魔のような狡猾さに…。
(その通り、こいつは全て計算していたんだよ!俺たちが奴の作戦を読み取り、それを真似し、1号を責め立てるまで全て先読みし、それを利用したんだ!!)
(バ、バカなあああああああああああ!!!!じゃあ、俺はあの男の掌で弄ばれていたと言うのかっっ!!!)
カズマの心の声が聞こえたのか、一文字は彼らに出し抜かれたことに憤りを感じていた。
まさか後輩にここまで追い込まれるとは思ってもいなかったからだ。
(あいつにとって俺は、俺たちは釈迦の掌で足掻く孫悟空の如く…な、何というやつだ!格が違いすぎる!!)
一文字にはもう士が巨大な釈迦に見えてしまっており、そこまで至った瞬間そのまま俯いてしまった。
(負けた…俺たちの完敗…)
頭を抱えていた時、下の隙間からある物が届く。
(…やすり?)
(やすりだ!)
何故か紙やすりが全員に分けられたのだ。
これには流石の二人も驚くことしか出来ない。
(何?どういうつもりだ…!?)
(士、本郷さん。本当に協力する気が…)
そう思いながら、カズマは送られてきたやすりを見る。
(やすりが思っていたより三倍荒い、しかも両面っ!?こんな物で拭いたら本当に尻の皮が擦り剥けるぞ!!)
「いよいよとなれば、これで拭くしかあるまい。まあ、薦めはしないが」
本郷の言葉と同時に個室からジョリジョリ、と音が聞こえてきた。
それにカズマは反応する。
(この音…嘘っ、嘘だよね…まさか…拭いている!?間違いない!このやすりで拭いている!!バ、バカなあああああああああああっっ!!!)
あまりにショッキングな出来事に思わず取り乱してしまう。
(『仙人』…遥か東方の地で、焼けた砂に尻を着けては放し…着けては放しを繰り返してきた…『ケツ毛仙人』だとでも言うのかああああああああああっっ!!!)
妙なヴィジョンと共に驚愕するカズマを余所に一文字は、今までの不敵な笑みを見せる。
(ふっ…本郷、考えたな。これらは全て、敵に心理的圧迫を与えるための策。紙も何もない状況でこれを見せれば、自然に拭くか否か自らを追い込む…冷静な判断を失えば、こちらの思うつ……)
次の瞬間だった。
士の個室から聞こえたジョリジョリ、という音が一文字の思考を遮る。
「おーい、1号」
(…あれ?)
「すごいな、物すごく荒いじゃないか」
(え…嘘だよね?)
「効くぅ…」
(まさか…拭いている!?え…拭いてないよね、吹くわけないよっ!……や、やっぱ拭いてるよ!これ吹いちゃってるってっ!!バ、バカなああああああああっっ!!!)
あまりにもショッキングな出来事に彼もかなり動揺すると同時に、カズマと同じような変なヴィジョンが浮かび上がる。
(『伯爵』…遥か西方の地で、熱々のソーセージで尻を叩かれ続けた…『ケツ毛伯爵』だとでも言うのかあああああああああっっ!!!)
ここまで来るといくら歴戦練磨の仮面ライダーでも慌ててしまうのは当然のことで……。
(え…どうすんのこれ…拭くの?拭く感じになってんのっ?)
(無理無理無理無理…無理だってこれ!バンジーでもスカイダイビングでもしますからこれだけは…!や、やっぱバンジー無理!!)
カズマと一文字はこの空気に乗るべきかどうか迷ってしまい、動揺してしまう。
まぁ、実際の二人は壁や床を擦っているだけなのだが見えない彼らに分かる筈もない。
(拭かなければ、やられる!)
(勝つためには…あの人のために勝つためには…!)
最大の決断に苦悩しながらも、二人は覚悟を決めようとする。
(京香、杏…俺はお前たちに笑ってもらうためにこの戦いに挑んだ、そのためなら…)
(立花のおやっさん…俺はこの戦いに勝つためなら…何だろうとする覚悟があるぜ)
カズマは愛する妻と超絶可愛い愛娘が笑顔で写っている写真を、一文字は恩人である人物の写真を取り出す。
それをしばらく眺めていたが、二人は写真を見てある事に気づいた。
((これ、紙じゃねーかっ!!))
そう写真=紙だったのだ。
だが当然と言うべきか必然と言うべきか、二人は写真を握り締めて激しく葛藤する。
(いやいや落ち着け俺!お前は妻と娘の顔で尻を拭くというのか!?そんなこと…いや、ある種興奮するけども/// …出来ないっ!やすりも出来ない!)
(おやっさん。俺は人間の自由のためなら、顔面で受け止めることは出来る…けど、恩人であるおやっさんの顔で…出来ない、というより気持ち悪いっ!やすりも出来ない!)
そして、二人の葛藤は、二択となって彼らの頭を回り始める。
(京香たち…やすり…)
(おやっさん…やすり…)
葛藤はさらに増幅し、加速し、そして回り始める。
そして彼らは…覚悟を決めた。
((……っ!))
水を流す音がした後、トイレのドアが勢い良く開かれた。
「「変身っっ!!」」
【TURN UP!!】
カズマはスペードとカブトムシをモチーフとした仮面ライダーブレイドに変身し、すぐさま専用武器である『ブレイラウザー』を構えるとカテゴリー5・6・9のラウズカードをラウズする。
一文字も仮面ライダー2号へと変身すると、互いに向かい合い…。
【LIGHTNING SONIC!!】
「ウェエエエエエエエエエエエエイッッ!!!」
「ライダー…パーーーーーンチッッ!!!」
二人の必殺技が激しい衝突音と光と共に交差した。
長くも感じる一瞬の静寂が場を支配する。
やがて、口を開いたのは2号だった。
「…はは、結局俺も…まだまだ、か……やっぱ、やすりは…無、理……」
変身が解除され一文字はそのまま前のめりに倒れる。
だが、ブレイドも変身が解除されてしまい…。
「京香、杏…すまない。お前たちの笑顔を見ようと参加をしたけど…俺はここまでのようだ…」
尻から大量の血が飛び散ちると、カズマもまた前のめりに倒れる。
「俺って奴は…本当に…バ、カ…」
そう呟くと同時に写真がゆっくりと落ちてきたのだった……。
これは……不器用で真っ直ぐで、バカな男たちの戦いの記録。
こんなネタが開始一番なのをお許しください。