『政宗家』が存在する世界は、精霊術とクリスタルによって文化が発達したファンタジーと現実世界が混じり合っている。
しかし、そこで暮らす人々の中には表と裏があるように、罪を犯す者を存在していた。
『九尾のキツネ』…通称「キツネ」は数年前から世間を騒がせている怪盗であり義賊。
貧しい人々からは何も盗まず、利益を得ている者を狙いながらも決して殺さずに金銭や財産のみを盗んでは貧しい者に分け与える。
煙幕や高速移動などの幻術染みた精霊術で警察の捜査から逃れており、名前も被っている面と宿った精霊…狐から取られている。
その活躍ぶりから人々への人気も高いのだが、ある時を切っ掛けに殺人や強盗を繰り返すようになっていた。
警察も躍起になってキツネを逮捕しようとするも、精霊術師だけで対処するには荷が重すぎたのだ。
そこで、少なからず因縁のある『政宗元臣』とその関係者に協力を要請したのだが……。
「ウォリャアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!」
「ひでぶうううううううううううううううっっ!!?」
肝心の元臣はキャバクラで遊んでおり、それを見た協力者の一人である青年『小野寺ユウスケ』に鋭い飛び蹴りを叩き込まれていたのであった。
「『ハードボイルドの語源を知っているか?それは固ゆで卵。どうして固ゆで卵がハードボイルドを指すようになったのかは…ふっ、それは君たちにはまだ早いか。ただ、どうしてかこんな月が良く見える夜には、無性に酒が欲しくなる』」
自分で洒落たモノローグを口にしながら手に持ったグラスを傾ける元臣、それによって生じた氷の音を耳に彼は正面にいる男性に注文する。
「マスター、カミュの追加…」
「はい、焼酎」
「焼酎じゃなくカミュだ、マスター」
「マスターじゃなくてオヤジだろ、旦那?」
初老の男性とそんなアホのような会話をしているのはピアノによるジャズ演奏が響くバー……などではなくそこら辺の道端にあるような屋台。
カッコつけて会話している元臣を見ながら首に二眼レフカメラを下げた青年『門矢士』は自身の伴侶『門矢美緒』に耳打ちする。
「おい、何があったんだあいつ…」
「何でも、翔太郎さんから借りた小説が面白くてハマったらしいですよ…御覧の通りぐっだぐだですけど」
「「おでん御代わり」」
「俺にもお願いします」
ハードボイルド気取っているバカと耳打ちをする二人をスルーしておでんを平らげたのはスーツを着崩した青年『
現段階で集まっているのはと仮面ライダーアギトと仮面ライダーファイズ、そして仮面ライダーブレイドと仮面ライダー電王を除くリ・イマジネーションライダー。
そして美緒と栗色の神を長く伸ばした女性『政宗愛奈』である。
四人が不在なのは色々と忙しいらしいので一先ずはこのメンバーがキツネを捉えるメンバーである。
「ふっ…『良いことがあろうと、悪いことがあろうと、それを肴にカミュを傾ける…そう、それが男の…』」
「もう良い、しつけーよハードボイルド」
「…て、しつこいハードボイルドって!仕方ないだろっ!?ハードボイルドなんだからっ!!」
ハードボイルド調で語ろうとしたその言葉を断ち切った士に対し、素に戻った元臣が文句を零す。
「そんなねっ、ハードボイルドで頭一杯なら、ハードボイルドなんてやめなさいっ!!このおバカッ!!」
「お母さん!?」
「確かに、その方がお義父さんにとってもハードボイルドにとっても幸せかもしれないな」
母親のような口調で父親を叱り飛ばす愛奈と、それに賛同するソウジ…しかし、それに納得していないのは他ならぬ本人である。
「んーんーっ!出来るもんっ!ハードボイルドしながらだって両立出来るもんっ!!」
「いや、もう既に出来ていませんよ」
子どものように駄々をこねる彼に対して、ワタルが若干引いたように窘める。
すると、そこで口を開く存在がいた。
「旦那、その辺にしとかにゃ…また奥さんにどやされますぜ」
屋台の店主である親父だ…温厚そうな顔立ちと落ち着いた口調に元臣もハードボイルド調に戻る。
「『まったくこのマスターには敵わない、何でも私のことはお見通し。思えば十年来の付き合いカミュ』」
「カミュって言った!語尾に付けて無理やりハードボイルドにしたよっ!!」
もはや「カミュ」と言いたいだけになっている元臣のモノローグに対してユウスケがツッコミを入れるも、彼の言葉は続く。
「『もう本当の親父のようなものだな…向こうも恐らくそう思っているはず』」
「いや、別に思ってねぇよ」
「『くたばれ爺カミュ』」
「もうハードボイルドの欠片もないわね」
ぐだぐだなやり取りに愛奈が呆れながら焼酎を飲んでいると、思い出したかのように話題を振る。
「そういや、キツネが現れたのも十年ほど前。旦那も物好きなお人だ、警察でもないのに熱心なことで…もてはやされた時代もありましたが、今じゃコロシに押し込みの凶賊に成り果てちまった」
手に持ったキセルを吹かしながら、笑みを漏らす彼は紫煙をくゆらせながら話を続ける。
「まあ、元々盗人なんて碌な奴じゃなかったんでしょうが…」
「…あいつは違う」
親父の言葉に反論したのは他でもない、元臣…。
全員の視線が集まっていることに気にせず彼は言葉を続ける。
「悪人か善人か知らないが…私の知ってるキツネは自分の『流儀』を持ち合わせていた。盗み入った屋敷に食いかけのお揚げと書置きを残すような、茶目っ気のある何処か粋な奴だった。そんな奴が人に手を掛けるなんて…」
友人との思い出を語るように笑みを作る。
しかし、スマホからの着信が入ったため相手と通話を始める。
「私だ…何っ、キツネがっ!?ふざけた真似を…!!」
しばらくやり取りをしていたがやがて怒りを露にするように電話を切ると、駆け出そうとする。
それに「待った」を掛けたのが美緒だ。
「待ってください、お父さん。どうして敵の汚名をわざわざ晴らそうと?」
「…そんなんじゃない。ただ、私にも私の『流儀』があるだけさ……腐った卵は私の手で潰す。それが私の見つけた、ハードボイル道だ!!」
「旦那、会計まだです」
指を鳴らす元臣に対して、冷静に親父は勘定を催促する。
「あ、すまん」
「今一決まらないな。しかも全部小銭だし」
そんな彼に代金分の小銭を渡す元臣に対してユウスケが真っ当な言葉を口にする中、「酔った翔太郎君みたいだな」とソウジが場違いな考えをする。
「ああ、それからもうここに来ないかもしれないんで、今までのツケの分も」
「親父が一番ハードボイルドなんだけど、乾いてるよ!?」
そう語る親父の言葉に戦慄する士。
「Good night.マスター」
「だから、マスターじゃねぇ…」
金を払い終えると、ハードボイルドっぽく決めた元臣は親父の注意も聞かずにそのまま現場に赴く。
「……それじゃあ、この金はそのままお嬢さんたちに」
「何の真似、親父さん?」
「一体何を…?」
小首を傾げる愛奈とアスムに対して親父は笑いながら説明を始める。
「ちょいと一個人としての依頼料です。あっしはあの旦那からもう何年も前から四六時中愚痴聞かされる身でしてね。やれ狐だ狸だってね…」
店の親父が言うには、「もううんざり」・「だったらさっさと終わらせろ」とのことだ。
まるで出来損ないの息子を見るような口調でそう語った彼は、一歩引くと士たちに対してその頭を下げた。
「どうか…元臣の旦那のこと、宜しくお願いしやす…!」
「ハードボイルドオオオオオオオオオオッ!!半端じゃねーよ、とんでもないハードボイルドの化身だよ!」
「マスターが一番ハードボイルドだよっ!!」
あまりの乾いた渋さに士とシンジが声を揃えてツッコミを入れる。
その際、親父の別の名前で呼んだが…。
「マスターじゃない、オヤジですよ…」
「ハードボイルドオオオオオ!!あれ?何かハードボイルド多すぎてよく分かんなくなってきた…!」
『ハードボイルドーーーッッ!!』
屋台で全員が一つの単語をシャウトするという、極めてシュールな光景がそんなこんなで全員もキツネの捜査に乗り込むのであった。
今士たちがいるのはキツネが盗みに入ると予告した博物館。
そこには様々な金属で作られた『合金の油揚げ像』があり、如何にもキツネが欲しそうな宝である。
その博物館の周囲にある茂みの中に士たちはいた。
少なくとも、警察の中には元臣たち(部外者)のことを快く思っていない者もいるというのもある。
実際、警察の動きはキツネに見破られている…彼らと行動を共にするよりは独断で動いた方が効率が良いと判断し、こうして隠れているのだ。
「んー。流石にキツネが予告しただけあって、かなり警備が厳重ですね」
「外でこれなら、内部も相当だろう」
「おい、静かにしろ。見つかったらどうするんだ」
アスムとソウジの会話に注意をしたのは元臣だ。
アスムの愛機『凱火』のシートに座ってエンジンを吹かしながらだ。
「「「お前がどうすんだああああああああああああっっ!!」」」
そんな彼の頭を思い切りはたいたのは士とシンジ、愛奈の三人だ。
場違いにも程がある格好に思わず殴ってしまったが仕方がないだろう。
「こんな時ぐらいハードボイルド脱ぎ捨ててこいっ!!」
「バカなの、本当にバカなのっ!?我が父親ながら恥ずかしいわっ!!」
「バカ者っ!『あぶ○い刑事』でも、タカが良く落ちてるバイクを拾って敵を追跡しただろ!彼も中々にハードボイルドだからな」
「今のあんたは『あぶないから近寄るな刑事』だからっ!!」
士と愛奈の言葉に元臣が反論をするが、ユウスケのツッコミを受けたことで渋々ながら納得する。
そしてバイクから降りるとその姿が露になる…何処から取り出したか分からないワインの入ったグラスと、バスローブ姿だ。
「…いや、もうツッコムのも面倒臭いわっ!」
その姿を見たユウスケが渾身のシャウトをすると、無論それに続くように士も文句を言い始める。
「何でハードボイルドに拘るんだよっ!それもう一仕事終えた時のハードボイルドだろっ!!」
「タカが、仕事場行く時もバスローブって…」
「お父さん、ちょっとタカに憧れてるじゃないですか」
理由を説明しようとする元臣に対して、美緒が的を射た発言をする。
ちなみにアスムは自身の愛機を弄っており、ソウジもキャッツアイを口ずさみながらカブトエクステンダーの調子を確認しているが気づかず士たちはやり取りを続ける。
「良いからそれ脱げ、何か腹立つから…全身タイツに着替えろ」
「えっ、それはちょっと…もっこりしちゃうし」
「良いんだよ。不死身のコ○ラだって着てただろーが、ハードボイルドだろーが」
「でも、だって…ハードボイルドがそんな子どもみたいに…///」
頬を赤く染めて思春期のようにもじもじする元臣に対して士と愛奈が血管を浮かべた瞬間だった。
ブゥゥゥーーーーン……!!!
「「「ッ!!?」」」
突如鳴り響いたバイクのエンジン音に士たちがが振り返る。
「「あーれー!!」」
「アスムッ!?ソウジさんんんんんんんっっ!!」
素っ頓狂な叫び声をあげながら、アスムとソウジが博物館の正面へと突っ込んでいく様子にワタルは思わず叫ぶ。
突如現れたバイクに「侵入者だっ!」と警備員たちが叫ぶ中、その喧騒をしばらく見つめていた士が一言呟く。
「…陽動作戦成功だな、美緒」
「そうですね、全て計画通りです」
「「「嘘つくなっ!!」」」
二人の見え透いた嘘にユウスケとシンジ、愛奈がツッコミを入れるが好都合である。
警備員たちが動揺している隙に士たちは内部へと侵入するのであった。