そのころ、博物館のモニター室では正面ドアを突き破って現れた二人の侵入者を捉えていた。
監視員の一人が仲間に呼び掛ける。
「し、侵入者です!!」
「キツネか?」
「いや、何かバイクです」
「えっ、バイク!?バイクナンデッ!?」
その報告内容に思わず変わった口調になってしまうが、至極当然の反応である。
モニターを監視しながら報告を続ける。
「何か叫んでます。『俺たちの勢いは止められねーぜ!』的なことを叫んでます。富士山に向かっているのかもしれませんっ!!」
「何その推測っ!?」
「こう見えても俺、昔アウトローだったんですよ」
監視役一人がは寂しげに呟く中、監視主任が呆れように腕を組んで指示を下す。
「アウトローでも中トロでも何でも良い。厳重警戒モードをONにしろ」
「はい。警戒モード作動」
一際大きいスイッチが押され、博物館には警報が鳴り響く。
「ついに年貢の納め時だ、キャッツアイ!!」
「いえ、キツネです!」
監視主任は何が起こっているのか未だ混乱したままだったが、とにかく役割を果たすべく彼らはモニターの監視を続けるのであった。
「警備を固めろっ!」
「ネズミ…いやアリの子一匹、特別展示室に入れるな!」
警備員たちの殺気立っている様子を物陰で伺う士たち…。
そして。
「『例え平和主義を掲げていようと結局は危険を愛してしまう。それが漢と言う名の血に飢えた獣……』」
窓際で夜空に浮かぶ月を見ながらワインを飲む元臣…。
それに対して「隠れろ、バカ!」と愛奈が注意しているが、気にしている様子がない。
「お義父さん、もうやめてください…てか、何でワイン?」
「ワインじゃない、カミュだ。『どうやら俺の中の獣も暴れたがってるようだ。さっきから震えが止まらな』オロロロロロロロッ!!」
窓の外に向かって突然嘔吐を始めた彼に対して、ユウスケがドン引きしながらもツッコミを入れる。
「完全に緊張してるよ、、吐くほどビビってるよ」
「バカだろ。好い加減ワインで紛らわすのやめろ」
「ワインじゃない、カミュだブエエエエエエエエエ」
「何でも良いからってオボボボボボ!!」
背中を擦っていた士だったが、近づいてしまったためか吐き気を催してしまいリバースしてしまう。
その光景に流石のユウスケも驚くことしか出来ない。
「うえっ!?何してんだ士ロロロロロロロロッ!!」
「ユウスケ、もらいゲロしてるベエエエエエエエエッッ!!!」
釣られてリバースしているユウスケたちにツッコミを入れようとしたワタルも最終的に三人の仲間入りを果たしてしまい、愛奈が鼻をつまみながら気づかれないよう叫ぶ。
「あんたたち何しに来たんだ…ちょ、酸っぱ臭っ!」
「おい、誰だそこにいるのは?」
『っ!』
やはり気づかれてしまった。
慌てて愛奈と美緒が警備員の前に即座に現れる。
「…って、あなたは元臣様のご子息の愛奈様と美緒様ではございませんか!なぜこちらの…!?」
「それは…」
「こんばんは、実は父と一緒に独自にキツネの調査を始めたのですが途中ではぐれてしまって」
口から三寸の出まかせとはったりで警備員たちに事情を説明する美緒。
少しだけ訝しんでいたが、彼女の言葉に一先ず納得した彼らは展示物がある方向へと向かう。
そこには、咄嗟に隠れるために紺・赤・緑・白の甲冑を着込んだ士・ユウスケ・ワタル・シンジが息を殺して微動だにせずに座っている。
「…異常なし、と」
甲冑を装着していた四人を人形だと誤認した彼らは、そのままこの場を通り過ぎようとする。
((((ふー、助かっ…))))
ようやく安堵の息を吐いた三人だったが次の瞬間、自分たちの目を疑った。
とある武将の像の背後に立ってライフルの銃口を突きつけている元臣がいたのだ。
「おい、こんな像あったか?」
「あれ?この像って確か武将の石ぞ…」
流石に場違いにも程がある造形に警備員たちも不審の目で睨む。
すると、アナウンスが鳴り響いた。
「『ピンポンパンポン。こちらは、かつて名将と謳われた武将の背後を取った殺し屋のハードボイル像』…」
『あるかあああああああああっ!そんな像ーーーーーーーっっ!!!』
反射的に四人同時のライダーキックが炸裂する。
するとどうなるか。
「元臣様ああああああああっっ!!あんた良い歳して、何娘婿連れ回してんだあああああああああああああっっ!!!」
当然彼らは警備員たちに追われる羽目になり、士たちは纏っていた甲冑を脱ぎ捨てる作業に入る。
「ちっ、しくじったか…だが望むところだ。みんな、一端バーに戻って態勢を整えるぞ」
「全然望んでないだろ、むしろ逃げ腰じゃねーかっ!!」
「大体何ですか、一端バーって!あそこしみったれた屋台でしょーがっ!!」
「あれがバーだ。お洒落なバーは緊張しちゃって入れない」
「あんた本当にハードボイルドの欠片もないなっ!!」
甲冑を脱ぎ捨てながら、元臣の発言に文句を零すリマジライダー。
しかし、この鬼ごっこに早い終わりが訪れる。
「っ!士さんっ!!」
「…何っ!?」
美緒の言葉に振り替えると士たち、見れば警備員たちが倒れており気を失っている状態だ。
そしてその場に現れたのは全身白い衣装に身を包んだ狐面の男。
「キツネッ!?」
「……」
愛奈の驚きの声に気にする素振りも見せず、彼は通路の奥へと向かう。
少しだけ戸惑いながらも、全員は慌ててキツネの後を追うのであった。
「『…だが結局奴を捕まえること敵わず、一端バーに戻って態勢を立て直すのであった』」
「話勝手に進めんなっ!!どんだけバーに行きたいのっ!一々バーを挟まないと次のアクションに移行出来ないのっ!?」
「『あるいはビリヤードを嗜みながら、態勢を整えることにした』」
「ビリヤードも駄目っ!さっさと行きますよボケッ!!」
間髪入れずにボケる元臣のモノローグに対して、愛奈とユウスケは辛辣なツッコミを入れるのであった。
だからこそ、気づけなかった。
モニター室でキツネに化かされた人間が犠牲となっていることに……。
追い掛けること数十分。
パルクールや壁蹴りなどを駆使して縦横無尽に建物内部を駆け回るキツネを追い回す士一行、すると彼は少し離れたところで徐に尻をこちらにむけると、お尻ペンペンして挑発をする。
「あの狐野郎、完全におちょくってやがるっ」
「良い度胸ですね…!!」
ワタルと美緒の負けず嫌いな一面が見え隠れすると、二人は先を行くようにキツネを捕らえようと走る。
しかし、走れど走れどキツネとの距離は縮まるばかりか離される一方だ。
「何で!?」とユウスケが息を切らしながら足を動かしていると、不意に元臣が口を開く。
「自分ではどんなに前へ進んでいるつもりでも、いつのまにか後ろへ下がっている時がある。そうさ、結局人生なんて、死ぬ時一歩でも前進出来れば良いのかもしれない」
「うっぜえええええっ!!疲れてる時にそれやられると非常に腹立つな!死ねよくそ爺っ!!」
「落ち着けユウスケ、奴のペースに惑わされるな!」
究極の闇に負けずとも劣らない殺意でとうとう本音をぶちまけた彼に対して士が落ち着かせるが、流石に前に進んでいないことに疑問を抱く。
そして、不意に下を見ると…。
「ちょっと待て!何で床がベルトコンベアーッ!?」
「ふざけんなっ!俺たちの労力を返せっ!!」
士とシンジがベルトコンベアー状に高速で移動する床に文句を零す中、後ろから巨大な針が何本も設置された壁が迫ってくる。
一番後ろにいたユウスケが前にいるメンバーに声を掛ける。
「ぎゃああああっ!?ちょ、早く進んでくれええええええええっっ!!」
「無茶言うなっ!!もう足が生まれたてのバ○ビ状態なんだぞっ!?」
士がツッコミを入れるが、前にいたキツネは壁蹴りを駆使して床に触れないように移動している。
まるでバン○のように跳ねている様子に士はディケイドライバーを装備する。
「変身っ!
【KAMEN RIDE…DECADE!!】
「天よ、我に力をおおおおおっっ!!」
変身したディケイドは壁蹴りを実践しようとするが、パワーが強くて足が壁にめり込んでしまう。
つまり、進路方向を邪魔するオブジェも同然。
「痛たたたっ!股裂ける、股裂ける!!」
「何やってるんですか士さんっ!」
美緒が焦りの色を見せる中、ワタルとユウスケ、シンジが変身してどうにか引っこ抜こうとする。
それに対して行動を見せたのは元臣だ。
「四十八の通信教育の一つ、銭縄っ!」
高密度の魔力で形成した糸が結んである小銭を投げてを天井に下っている装飾物に絡ませる。
「みんな、私に掴まれっ!」
「お父さん、やっぱりやれば出来…」
「あぁ、絡まったあああああっ!」
「掴まれるかああああああっ!!」
なぜか空中で亀甲縛りになっている彼に愛奈は先ほど上がった尊敬値が下がる。
おまけに鉄球が転がってくるが、足を引っこ抜けたディケイドがライドブッカーで打ち砕く。
「このまま壁も」と思うが下手に破壊したらそれこそ被害は悪化する一方である。
「士さんっ、私もう…それにお父さんも…」
「でも、ちょっと良いかも///」
「もう知らねーよ、お前のところのバカ親父はっ!!」
ディケイドと美緒がそんなやり取りをしていると、何かが流れてくる。
流れてきたのは布団で眠る老婆。
「何だお婆さんか。特に気にする必要もありませんね」
「…てか、何で婆さんだっ!何のための婆さんだっ!誰が流してんだっ!?」
少なくともトラップではないことに安堵する一同。
しかし、このまま行けば老婆は壁の刺に…。
「ちっくしょおおおおおおおっっ!!何で見知らぬお婆さんを俺たちは担いでるんだっ!?」
慌てて布団ごと老婆を上げて走る一同。
すると今度は爺さんが流れてきたので、慌ててキバはディケイドに呼びかける。
「ちょっとおおおおおっ!!今度はお爺さん流れてきたっ!つ、士さんっ!?」
「いや、もう老人オーバー…」
「婆さんさようなら…愛してるよ」
『さよならなんてさせるかあああああああああっっ!!!』
「隣です!お婆さんなら隣にいるから!もう一度、さっきの言葉言ってあげてええええええっ!!」
布団の上に爺さんを抱えて走りながら、全員でシャウトすると愛奈が必死に爺さんに呼び掛ける。
ちなみに元臣は新たな扉を開拓中である。
「おい何だよこれっ!もうちょっとした家族だぞ!お年寄りはもっと大事にしろよ、ダボがあああああっ!!」
龍騎が疲れを誤魔化すように心からのシャウトを曝け出していると、今度は三十代辺りの男性が流れてくる。
その瞬間、ディケイドは一目で見抜いた。
「あっ、お前息子だろ。両親ぐらいきちんと見てろよっ!!」
「良く分かったな士っ!」
「目元とか似てるだろ!?」
意外と鋭いディケイドの観察眼にユウスケと美緒が納得していると、男性もとい息子が口を開いた。
「父さん、母さん。遺産の話だが…全部僕が貰い受けることになったよ。まあ、あいつらも色々言ってたけどね…」
「遺産の話っ!?父さんと母さんこんな状況なのにっ!」
「王の判決を言い渡す、串刺し決定だっ!自分で遺産を作れ、バカ野郎っ!!」
愛奈がドン引きにする中、キバはかなりドライな声で宣告するが目元が酷似している赤ん坊が流れてくる。
当然……。
「三世代揃って眼尻いいいいいっ!!生きろ!どんな悪人でもな、子供には親が必要なんだよっ!」
「すまない。父さん、母さん…この子を一人で育てるために僕は、心にもないことを……」
「反省してる!自分の動機を語り始めたぞ息子っ!!」
「家族が再生してるじゃねーかあああああああっっ!!一家の命は、俺たちが守るううううううっっ!!!」
とうとう家族四人分を抱えてしまったディケイドたちだが無情にも刺の壁は迫ってくる。。
力が分散されてはいるが、流石に四人分の重さによる負担は大き。
キバが被害を関係なしにキャッスルドランを呼ぼうとした瞬間…聞き覚えのある二つの声が壁の向こうから聞こえてくる。
それはやがて大きくなると、エンジンの音も聞こえてくるようになる。
「「アーーーーーレーーー!!ダビットソンンンンンンンッッ!!!」」
変身をしていた響鬼とカブトが駆る凱火とカブトエクステンダーが壁を破壊したことによって、事なきを得たのであった。
博物館の奥に存在する広い展示室には、一人の白装束がいた。
恐れることもなく、警戒することもなく彼はただ道を歩く。
「『狐』という生き物は、神社や祠で神様と崇められていながら人を惑わす妖怪だとも言われておりやす…」
調合金の油揚げ像に続く階段を登り、キツネ首に巻いた布を尻尾のように靡かせる。
「はてさて、あっしは…どちらでござんしょう?」
「黙れ下郎。お前は神でも妖怪でもない、ただの盗人だ。長きに渡る因縁、ここで決着をつけようじゃないか」
元臣は指差しながらそう断言する。
後ろにいるディケイドたちも闘志を漲らせている。
一流の精霊術師は、平均的な怪人よりも手強いため変身を解かないのは妥当だろう。
緊迫した場面の中、キツネは変わらず飄々とした口調で言う。
「元臣の旦那、あんたも懲りないね。何度撒いても、すぐに追ってきやがる」
「お前が牢屋に入れば終わることだ…だが、どうして外道に堕ちた?」
「盗人に言うことじゃないよ旦那。あっしらは端から堕ちた薄汚い連中ですよ」
まるで気の置ける友人のような、敵同士のやり取りが続く。
そして不意に美緒が後ろを振り向いた。
「…ずっと、気にはなっていました。義賊としてのキツネと、盗賊としてのキツネの犯行順序に矛盾があることが…確証がなかったので黙っていましたが、そういうことですか」
そこにいたのは、キツネと同じ格好をした八人の白装束たち。
目の前にいたキツネとそっくりの姿をした彼らに、元臣は驚く。
「我らは盗賊団『九つの尾』」
「っ!それって、昔暗躍していた、伝説の強盗団っ!?」
八人の内、一人が名乗ったのキーワードに愛奈が驚きながらもクナイを構える。
他の面々も武器を構えるが、気にすることもなく彼らは目の前のキツネに視線を向ける。
「しかし、まさかお前が義賊と呼ばれるようになろうとはな…『小尾丸』」
「腕こそ立つが、子供一人始末出来なかった貴様が…」
「虚栄を崩し、犯行予告をすれば必ず顔を出すと思っていたわ」
その言葉に、ほとんどのメンバーも確信することが出来た。
今までの強盗事件は全て、この八匹の腕の立つ強盗団だということに。
「旧き同胞よ…裏切りの罪、ここで清算させてもらおう」
「裏切るも何も、あっしはお前らのこと…仲間なんて思ったことは一度もない』
『ほざけ下郎があああああああああああああっっ!!!』
強盗団は武器を持ち出すと、一斉に精霊術を行使して襲い掛かろうとする。
しかし、キツネは銅像を乗せてる台の隠しスイッチを足で押すと床からガスと同時に火炎が放射される。
驚く一同に彼は慌てて次の仕掛けが動くことを告げる。
それを聞いた元臣たちも必死に上に上がろうとするが……。
天井から、油が降り注いだ。
『ぎゃああああああああああああああっっ!!?』
床が滑り階段が坂になったことで下の火炎に落ちないよう必死に走る。落ちたら最期、火炎地獄である。
だがその火炎地獄から数人の強盗団のメンバーが現れる。
「げっ!?生き残りがいたのかっ!!だったら…超変身っ!!」
クウガは慌ててドラゴンフォームにチェンジすると、坂と油の地形を活かして再度強盗団の一人を床に叩きつける。
そこに不意打ちをするように龍騎がストンピングを行い、意識を奪う。
その攻撃をカブトが片手で受け止めるとカウンターで放たれた一撃で地面に倒れる。
『バッシャーマグナム!!』
【FORM RIDE…BRADE! JACK!!】
バッシャーフォーム変身したキバは的確な狙撃を、ジャックフォームに変身したディケイドブレイドは空を飛んで残りを一掃する。
その様子を愛奈と美緒と共にキツネは、感心したように眺めていた。
噂に聞いていたヒーロー…まるで童心に戻ったような錯覚さえ覚える。
しかし、それを見逃さない存在がいた。
「消えろおおおおおおおおっ!!」
「っ!?」
短刀を構えて突撃する強盗団のリーダー…しかし、その攻撃はあっさりと受け止められてしまう。
他ならぬ、元臣によって。
「なっ?」
「ふんっ!!」
唖然としている彼の頭部を面ごと殴り飛ばすと、砕け散った面の破片と共にリーダーも意識を失う。
その様子にキツネは大きな拍手をした。
「流石は旦那だ。あっしも鼻が高いものさ」
「ほざけ狐擬き。ついでお前も御用だ」
「勘弁してくだせぇ。こちとら御勤めから手を引いてのんびり隠居生活を送ってるってのに…敵さんの愚痴を聞くのもうんざりでさぁ」
「っ!?やはり、お前は…!!」
元臣が何かに気づくよりも先に、キツネはゆっくりと階段の方へと向かう。
そして、軽く手をひらひらさせると、未だ火が渦巻いている下へと飛び降りたのであった。
その翌日…。
「『九つの尾を捕まえることは出来たが、博物館の至るところを捜索しても火に飛び込んだキツネ…小尾丸の亡骸は見つからなかった。燃え尽きてしまったのか、あるいは生きているのか…真相は既に闇の中だ。しかしながら、こんな謎めいたハードボイルドな夜には、無性に酒が欲しくなる……』」
そうして、彼はバーの席に座る。
「マスター。カミュを、ロックで頼む」
「へい、焼酎」
『いつもの店』で、『いつも飲む酒』が彼の目の前に置かれる。
そんな慣れ親しんだような声とセリフに、自然と口元が綻でしまう。
「焼酎じゃねえ、カミュだマスター」
「マスターじゃねえ、オヤジと呼べ旦那」
そして、今日も元臣は一日を謳歌する。