強個性だよ! ガタノさん!   作:嫌いじゃない人

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 思い付きで書き始めると後でツライことが分かってるのに、楽しい。やっぱり作品を書き始めるタイミングは大事にしたい。


No.2 多感で微妙なお年頃

 早朝の住宅街。真潟ノゾミは最寄りのバス停に向かって走っていた。

 丁度その時、軒先で落ち葉を掻いていた近所の主婦と目が合う。

 

「あらお早う、マガタさん」

 

「おはようございまーす」

 

 個性により人々の外観がトンデモなく多種多様になったこの社会でも、ノゾミの巨大な巻貝はかなり目立つ部類に入る。家のご近所さんでは幼い頃からそこそこの有名人なのだ。

 

 そして頭部のバランスを取りながら走るノゾミは急に止まれない。挨拶をしながらスピードを緩められず駆け抜けていく彼女。それもこの辺りでは珍しくない光景であった。

 

 やがてバス停に到着する。バスはまだ来ていない。そして停留所では、いつもの友人二人がお喋りに興じていた。

 

 やっぱり急いで(うち)を出て正解だったと、ノゾミはホッとする。

 

 

「あ! おーいガタノちゃん!」

 

 気付いた友人が手を振る。ノゾミは逸る気持ちを抑えつつ、少しずつ減速しながら近寄った。そして無事、転倒することなく友人の元に到着する。

 

「おっ……と。お待たせしました!」

 

「ガタノんも急いできたのか? つーことは今朝のニュース見たな」

 

「怖いよねぇ酔っ払い。他の人に抑えられない個性なら飲み過ぎちゃいけないって、厳しく言われてるのに無くならないよねぇ」

 

「あーいうの見ると二十歳(はたち)過ぎても酒控えようって思うよなぁ」

 

「……ヨッチーの実家、酒屋じゃなかったけ?」

 

「そーなんだよなー。だから酔っ払いが事件起こすと微妙に売り上げ減るっつーか、メッチャ迷惑(メーワク)なんだよ。……おっバスが来たぜ。止まんなくて僥倖僥倖」

 

 三人は一本遅れて、それで(かえ)って定刻通りに到着したバスに乗り込む。

 バスの扉は流石に狭く、ノゾミは体を横にしなければ乗り込むことが出来ない。カニ歩きで乗車口のタラップに足を踏み入れると、体重でバスのスプリングが縮み、車体が大きく左側に沈み込んだ。

 

 しかしそんなことには慣れっこな彼女たち。この時間帯のこの路線のバスは空いているので、一番の後部座席に陣取る。この場所が一番ノゾミの殻が他の乗客の迷惑になりにくいのだ。

 

 バスの発車と共に、三人のお喋りは元の話題に立ち返った。公共の交通機関の中なので、声は抑えめだ。

 

「……でもさでもさぁ。やっぱりヒーロー、格好良いよねぇ」

 

「そりゃあたりめーだろー。寧ろカッコよくなかったらヒーローじゃねーっての」

 

「あ。わたしカワイイ系のヒーローも好きです」

 

「うんうん。それ分かるぅ。最近の女の人のヒーローってお色気路線が多いから、カワイイ系のヒーローって貴重だよねぇ」

 

「あー確かに可愛さも大事だな。カッコカワイイ系っつーのか? 実際オレらでヒーロー目指そうっつったらソッチ路線が手堅いだろうしな」

 

「あれぇ? ヨッちゃんヒーロー志望だっけ」

 

「たりめーだろ。つーオレらの年代、進路とかほぼ『ヒーロー科』一択じゃねーか。指導教諭がボヤいてたぜ……。っとガタノは違うんだっけか?」

 

「うん……」

 

「ふーん。まあ深くは突っ込まねーけどな。でも先輩が言ってたぜ? 普通に勉強して就職しても、色んなところで何でヒーロー科を目指さなかったの聞かれまくるって。そんな深く考えずに流行だと思って進むのも……。あーやっぱなんでもねーや。今の無し。忘れてくれ。な?」

 

「大丈夫。平気です。気にしてないですから」

 

「ゴメンねぇ。ヨッちゃん、こないだの模試の成績が良くなかったから荒れてる……うん? ほら、ガタノん『雄英』狙える成績だから妬いてるの」

 

()ッ……! 成績のことは言いっこ無しだろ。それに妬いてるんじゃなくて友人としてのアドバイス! 折角、頭悪くねーんなら使わねーと損だろ?」

 

 

 

 そんな進路だとか成績だとか、とりとめのない話。それでも仲の良い友人とだったらそれなりに楽しかったりしたりしなかったり。

 バスが市街地の中心に近づき段々と混んでくるまで、三人のお喋りは仲良く続いていた。

 

 

 そして無事、学校に到着。

 ノゾミが校舎の玄関口に現れると他の生徒が一斉に動く。ある人は邪魔にならないよう親切心で、ある人は巨大な殻にぶつかって痛い目を見ないよう用心して。感情や目的は違えど、皆一様にノゾミから距離を取る、その一点は変わらない。

 廊下を歩いていてもそうだ。階段を上り下りするときはもっと顕著だ。万が一でも転倒した彼女に潰されては堪らないと、皆大慌てで左右に避ける。まるで海を二つに割った宗教書の偉人の様。

 

 

 

 ノゾミはその諸々が嫌だった。自分の個性が他人(ひと)に迷惑を掛けているという事実。気を遣わせているという現実も、非難するように向けられる視線も、体質だからと寄せられる同情も全部まとめて嫌いだった。

 だから登校する生徒たちで込み合う時間帯を避けて動くのも、自分の迷惑を自覚していると周囲に言い訳しているような気がして憂鬱だった。

 しかしそれ以外どうしようもない以上、自分はそこそこ明るく振る舞うしかない。悩みを抱えているのは皆一緒。笑っているときはちゃんと本心から笑えてるし、楽しい時は楽しい。

 

 だからそう。これは別段深刻な悩みではないのだ。

 

 

 

 ノゾミは一緒に登校した友人と教室の前で分かれる。彼女たちはクラスが変わる前からの付き合いであり、別のクラスになった今でも良い友人で居続けてくれている。

 そして逆に……と、言うべきかは分からないが、今のクラスにはあまり友人らしい友人はいない。精々が孤立していないという程度だった。

 

 ノゾミの席は教室の窓際の列の一番後ろ。椅子の後ろに殻を乗せるための台座を付けた特別席。席替えをしても変わらない不動の位置付けである。

 そして席に着き友人から借りた流行りの恋愛小説を読み進めていると、段々と教室に人が増え、騒がしくなってくる。

 

「おはようガタノ~。今日も貝殻が立派ね。(ヘビ)ーズたちも元気?」

 

 こんな風に、時折話しかけてくれる女子もいる。

 

「ありがとうございます。蛇たち元気です。でもわたし、貝じゃありません」

 

「あはは、メンゴメンゴ」

 

 そんな風にしてノゾミも喧騒の中に混ざる。しかしその中心には寄れない。座席を含めた諸々のポジションが、中途半端に遠い。

 

 

 

「ホイお前ら席に付けよぉ。ホームルーム始めるぞ」

 

 やがて担任教師が顔を出し、朝のショートホームルームが始まる。

 

「まぁアレだ。お前ら今朝のニュースで見た奴もいると思うけどな、近所で個性使って暴れまわった奴がいる。当然解ってると思うが、ああいう褒められない大人にならないよう皆気を引き締めていけっていう……。まぁナンだ。そういう説教をしろって職員室で言われたってのが一点。それともう一点、こっちの方が本題なんだがな。ああいう(やから)に絡まれそうになったらとにかく逃げろ。んで叫べ。最近はヒーローが何処にでもいて人気稼ぎのために事件血眼で探してるから、まず間違いなくスッ飛んで来る」

 

 要するに、昔からよくある『近所で事件が起きたから皆さん注意しましょう』という有り難いお話である。

 昔と違うのは、この年代の学生たちはもう殆どが個性持ち。つまり多少の事件程度なら如何(どう)にか出来てしまうという点。しかしそこがある意味で落とし穴だったりする。

 

「間違っても"個性"で対抗しようとするな。本当にヤバイってときは別だけどな、それでも今は人生で大事な時期だ。俺ぁお前たちにそんな下らないことに巻き込まれたせいで、後悔して欲しくないんだよ。学校の評判も下がっちまうしな……。えっとそれと後アレだな。進路希望のプリントまだ出してない奴……。浅打、蜘蛛蟹、それと真潟、提出期限は明日の朝のホームルームだからな。忘れんなよ……」

 

 

 

 

(進路、どうしよ……)

 

 担任が教室を出て一限目の教師が来るまでの、束の間の学生の時間。再びざわめきを取り戻しつつある教室の中、ノゾミは何度目かのまとまらない思案に暮れていた。

 

 特にやりたいことがあるわけじゃない。強いて挙げるなら、親孝行。自分の個性のせいで色々と迷惑を掛けてしまった母親に喜んでもらいたい。でも世の中には『親が喜ぶ』進路なんて具体的な物があるわけじゃなくて、多分それなりに稼げて安定している仕事を選ぶこと。そんでもって親に安心してもらうことが一番の近道だけど、それが自分の人生だとして、果たして何か違う気がする。

 

 だからここは敢えての学歴重視。とりあえず親も安心するし、将来に向けての選択肢も増える。

 

(受けるとして『雄英』……。『普通科』かな……)

 

 『雄英高校』。自宅から通える距離にある国立高校であり、国内屈指の進学校。その中でも特に有名なのが『ヒーロー科』である。近年では有名高校の殆どがヒーローを目指すための学科を設けているが、雄英のヒーロー科はそこらの高校と一味も二味も違う、幾人ものトップヒーローを輩出した由緒ある門戸。『雄英』と言えば『ヒーロー科』と誰もが連想するくらいである。

 

 だがノゾミはヒーローになりたいとは思わなかった。日常生活でも不便でしかない個性。人に迷惑を掛けるだけの個性。()()()()()を抱えて生きてきてヒーローになりたいとは思えない。

 別に自分の身体が嫌いということじゃない。怪我もしないし風邪もひかない。蛇たちとのお喋りも楽しい。

 でも自分は個性(それ)だけの存在じゃないんだってことを知って欲しかった。特定の誰かに、という訳じゃなくて、こんなハンディを背負っていてもちゃんと生きていけること。人に迷惑を掛ける以上に、個性じゃない本当の自分の能力で人の役に立てるということを、誰かに証明したい。そんな気持ち。照れくさくて子供っぽいのを自覚してて、でも自分にとっては意外と譲れない気持ち。

 

 だからノゾミはヒーローにならない。

 

 そしてそこまで決まってて進路希望のプリントを出さないのは、『雄英高校 普通科』と書いて提出したくないから。

 提出したらまず間違いなく『ナゼ雄英高校でヒーロー科を志望しないんだ!!』と、真っ向全否定の姿勢で追及される。職員室での吊し上げ。お世話になった先生を不安にさせる申し訳なさと、自分の人生に口を出される腹立たしさがごっちゃになって、でも自分はその理由を説明できない。

 そんな光景がありありと目に浮かんでしまい、どうしても躊躇してしまう。

 

 

 そんなことを考えている間に一限目の数学教師が来ていた。ノゾミは慌てて教科書とノートを取り出そうとして、既に机に並んでいることに気付いた。蛇さんたちがやってくれたようだ。でもこれは英語の教科書。残念ながら違うので取り換える。

 

 授業を聞きながらも、考えるのは気が重い進路の事。

 皆がやりたいこと(ヒーロー)が、自分にとってはそうではないという、自分にとっては初めての出来事。自分が特別な人間だとは思っていなくって、でも皆とは違う道をハッキリ選ばなきゃいけないことに対する実感の無さ。そういった整理しきれてない感情が、建設的な思考を要所要所で邪魔をする。

 

(『雄英』……。キリエちゃんも雄英だっけ。それもヒーロー科)

 

 なんとなくノゾミが視線を向けたのは右斜め前方、教室のほぼ中心の席。ノゾミの位置からはフードを目深に被った、小柄な少女の背中が見える。

 彼女の名前は『炎魔(エンマ) 限恵(キリエ)』。ノゾミの幼なじみ。幼稚園の頃はよく一緒に遊んでいたが、互いの個性発現と共に疎遠になっていき、今では碌に言葉も交わさない間柄。昔はすぐノゾミの後ろに隠れてしまう引っ込み思案な園児だった筈が、しばらく見ない間にすっかり不良になってしまった。今では孤高の一匹狼である。

 そんな不良ポーズなキリエだが成績は非常に優秀。雄英も模試でA判定を叩き出している。クラスでも独りでいることが多いが、スクールカーストにおいては圧倒的頂点。教師であっても彼女には強く出られないきらいがあり、現に服飾違反のパーカーや不真面目とも取れる授業態度を見逃されている。まあ特に問題は起こしていないし成績的には申し分ないしで、学校としては特に指導する理由が無いというかある意味諦めたのだろう。

 

(変わったなぁ。キリエちゃん)

 

 小さい頃はいつも一緒にいたのに、気が付けばこんなにも遠い。同じ教室、ほんの数メートル先にいるのに、なにもかもが正反対で、埋めようのない差で隔たれている。

 

 

 

 その日の授業は、ちょっと身が入らなかった。悩める思春期の少女である。




 『炎魔 キリエ』。主人公に比べるとちょっと安直すぎるネーミングかなと自分でも思いましたが、正直これ以上の物は思い付かなかったというか、しっくりきちゃった感じです。

 ガタノさんは個性こそトンデモですが、中身は割と普通の女子中学生をイメージしてます。……が、作者は女子中学生という生物については詳しくないので、もう色々妄想で補った完全にイメージ。ちゃんと書けているのか全く分かりません。詳しい人がいたら教えてプリーズ。
 ちなみに『中身が普通』という部分については、一応アニメ『怪獣娘』の要素を取り入れてリスペクトしているつもりです。
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