金属の支配者 作:眼咤琉
海賊が全員倒れても、自警団は涼しい顔をしていた。
けして海賊に同情するつもりはないが、ここまで大差を付けられて敗北したとあっては可哀想になってくる。
ストレッチをしつつ、自警団の人たちが引き揚げる。今日は歯応えがあった、と言わんばかりの充実した表情をしていた。
死した海賊どもの骸の向こうの波打ち際に、宝箱の体裁をとった横倒しの小箱。
なんだろう、と好奇心を昂らせ、そこに小走りで駆け寄った。拾って蓋を開けてみる。頑丈で重要な物が入っていそうなのに、鍵は開いていた。
中には鈍色でレーズンを大きくした形の果実。皮には唐草模様のようなぐるぐるが覆っている。
悪魔の実だと、直感で悟った。
『メタメタの実』体を金属に変化させることが出来る能力を秘めた悪魔の実だと。
それを摘まんで、一口かじる。
激烈な不味さが襲う。形容し難い、とても不愉快な味。
それが俺の味覚を蹂躙した。どろりとした舌ざわりとともに飲み込む。
壊滅的な後味を流すような飲み物が欲しくなる。辺りを見回しても液体といえば海水だけ。能力者となった以上は、海水を飲む気になれない。味覚をリセットするのも早々に諦めて能力のチェックに入る。
まずは右腕を鉄に変化させてみた。
にわかに右腕が重くなる感覚がして、右腕に力を込めて支える。
鉄から生身に戻して、次は水銀へ。
溶けるようにして、腕が水銀に変化した。
液体金属に変化したのかを確かめるべく、左腕を突っ込んでみる。
ドポンと音を立てて通り抜けた。一回引き抜いて、なぜか使えた覇気を纏ってもう一度突っ込む。
今度は硬質な音がして、水銀が拳の侵入を拒んだ。
おお、と感嘆の声をあげてしまう。
覇気も使える。使えるという自覚はあった。それでも今の今まで使った事はなかった。使う機会がなかったから。特典で要求しておいてよかったと心底思う。やはり神から貰った転生特典は伊達じゃない。
特典に感謝しつつ、金から銀へ。銅に変えてから、鉛に。そしてプラチナへ次々と切り換える。
特に変化のタイムラグはない。この調子なら死なずにこの世界を謳歌できそうだ。
どこかも知らぬ、朽ちた海賊船の甲板で。
一人の男は不気味に微笑んだ。
男の外見はボロボロのコートを纏い、ところどころ千切れた海賊帽を被る。その下から窺える顔は髭が伸び放
題で隙っ歯で、目は濁っている。
「あの島を。あの島さえ征服出来れば」
微笑みが昂り哄笑と化す。
邪な風が吹き荒れる。飛びそうになる海賊帽を男が押さえて、頭上ではためく海賊旗に目を向けた。
それはひび割れたドクロに折れた骨が重なった模様。
彼の象徴であり、その模様が彼の手段のすべてを指し示す。
三日後。
かなり能力に慣れてきた。全身を変化させたり、ピンポイントだけ変化させたり。
それと、変化させた金属を成形することが出来るようになった。
武器にさせた場合は攻撃力は劣るが、鍵にして解錠したり、道具にしたりと色々と重宝しそうな能力だ。
そういえば、立て続けに海賊が襲ってきた。
この島を攻めると負けるとか、そういう噂は立っていないのか、と疑問に思う。
アースより弱かったらしいから、殺すか、鉱山を掘らてる奴隷にするかでボコボコにしたようだ。
ただ、自警団も疲れて来ているようで。次の襲撃が最近のあったら、多少なりとも被害は免れないと予想されている。
自衛するだけだったら子供でも出来るが、被害があるかも知れないという事で不穏な空気が流れている。
それで絶えず見張りが立っていて、海沿いの町ではピリピリとした空気が張り詰めている。
「遠方に海賊船を発見! 自警団は準備を!」
あのサイレンとともに住民が慌ただしく駆け出す。
先一昨日の余裕はどこかへ吹き飛んで、自宅に籠った。
私は焦っていた。
自警団長マサムネとして、島民を安心させねばならない。
どのような状態であろうとも、この島を守り抜く。それが我々の義務だ。
一堂に会した自警団員に士気の上昇を兼ねた演説を行う。
「我々はタルム島自警団! なにがあってもこの島を守り抜く! 島民の安寧と発展のために!」
力強い雄叫びが返ってくる。それを聞いて安心した。
腰に差した刀を抜くと、陽光に反射させる。
キラリと反射した光が輝いた。
海岸に出て、迎撃体勢を整える。
確認出来る船はたった一隻。それも見るからにボロボロ。
帆は破れ、進行速度は歩く亀のようだ。
団員は安堵の息を吐くが、私には嫌な予感がしてたまらない。
「油断するな!」
私は叱咤の声を掛ける。それを聞いて団員は背筋をシャキッと伸ばした。
そうだ。それでいい。いかなる相手にも隙を晒すな。
隙を晒せば即死だ。
どれだけの時間が流れたか。私にはそれが永遠にも続くようにも思える。額の汗を拭い、刀を構える。
徐々に近付く海賊船に気味悪さを覚えた。
なにが目的だ。なんの為にここに来る。
疑問は晴れる事を知らないが、とにかく今は警戒をするしか道はない。
ノロノロと進む海賊船もやがて接近してくる。
錨を下ろし、男が一人だけ降りてきた。
着用しているコートには穴が開き、被った海賊帽はツバの部分が千切れている。
武器も持たずにヨタヨタと歩み寄ってくる男は最も近い団員にすがりつく。刹那、その団員が粒子になって崩壊した。一瞬、誰しもが息を呑み、呆気に取られた。
その瞬間を男は見逃さない。
瞬く間に数人の団員を塵にして、俊敏な動きで襲い掛かる。
男を両断せんと振るわれた刀は錆び付いて崩れ、掌底を喰らえばに塵になる。
能力者か、と把握すると包囲するように命じた。
この状況では徒に攻めたところで返り討ちになるだけだ。
ただ、このままではジリ貧になっていずれ敗北する以外にない。
どうするか、と必死に頭を回す。
海水なら。海水ならば奴を制圧することが可能だ。
幸いにして、タルム島の自警団には能力者は存在しない。
海に追い込み、殺すしか算段がない。
隣の団員に耳打ち。それを伝言ゲームの如く繋いだ。
全員に伝達したところで、ハンドサインで作戦の開始を伝える。
奴を囲む円が動き、海辺へ追い詰める。
あと一歩、という所で、奴が動いた。
私を除く全員を塵にさせた後、私に向かう。
「ボハハハハハ!!!」
奴の哄笑が轟いた。
全てを塵にする破壊力。攻撃を無効にする守備力。
どれをとっても私がこれまで体験したことのない相手。
知らない内に、膝が笑っていた。
怖い? 怖いのか?
奴が怖いのか。否、怖くなんかない。もしここで恐れたら、散った同胞に顔向けが出来ない。そしてなによりもこの島を守れない。
だから。
すべてをひれ伏させる烈帛の剣気。それを放っても、奴は身じろぎひとつしない。敵わない。いや、そんなはずはない。
海水を蹴って奴に掛ける。
少し奴が怯んだ。その隙に切り掛かる。
切り下ろし、横薙ぎ、切り上げ、袈裟切り。
ありとあらゆる斬撃を喰らわせた。体をずらされて致命傷には至らなかったが、大分ダメージを与えられた。
これなら倒せる。微かな希望が芽生える。
もう一度海水を蹴り、奴に浴びせようとする。
「同じ手は喰わねェよ」
しかし、バックステップで避けられた。随分と恰幅の良い体をしているが、動きは速い。
追撃するために疾駆する。
速度を上乗せした、最大の一撃を。
雄叫びをあげて全身の力、そのすべてを刀に乗せる。
「オォォォ!!」
奴は手のひらを突きだし、私を塵にしようとする。
ここで、左足を軸にして回転。右足で海水を蹴りつつ、硬化の剣気で切りつける。
「見付けた! お前の弱点!」
「ボハハ! オレの弱点? 言ってみろ!」
奴を切り刻みながら、私は言い放つ。
「お前の塵にする能力は二ヶ所同時に使用できない!」
明らかに奴の動きが硬直した。
図星だと判断した私は、腰に差してある脇差を抜いて、二刀流に構える。
奴の懐に詰め寄り、左の脇差で横に切り裂く。
左の腕を伸ばして、奴が刀を塵にしようとする。
その隙にがら空きの右を太刀で薙ぎ払った。
すんでの所でかわされたが、効果はある。
反撃の準備は整った。ここからは反撃だ。
左の脇差で首を狙い、右の太刀で脚を切り落とす。
案の定、左の脇差は破壊され、紙一重で避けられて、右の太刀はかすっただけ。
壊された左の脇差の代わりに近くにあった太刀を拾って、左で切り下ろし、右で横一文字に切り払う。
十字に刃の軌跡を描く。それが交錯する一点に全力を込めた。
「ボハハハハハ!! ありがとよ。お陰で俺は新たなるステージに進める!」
「なに!?」
「
と、言いつつも外見に一切の変化は見られない。
「ハッタリに走るか!」
叫んで奴に切り掛かる。奴に接近して、奴の体を断ち斬らんと両の太刀を同時にふりかぶり、勢いを存分に活かして攻撃。
だが、散ったのは私の刀。
何が起こったのか理解できない。
「冥土の土産にひとつ教えてやる」
「黙れ!」
硬化の剣気を纏った拳撃。剣気じゃないとも思ったが、なりふり構ってはいられない。
「
拳撃した拳が風に吹かれてサアアと散り、無くなった右腕。左腕、右足、左足。攻めた部位が砂浜と融合し、もう身動きできない。
奴がゆっくりと近付いて、俺に手をかざす。
「すぐには殺さん。俺は今から島民を皆殺しにする。黙って見てろ」
私を掴んで、奴が街へ向かう。
「やめろ!やめろ!」
私の懇願を無視して、ずんずんと歩む。
今にでも腕を咬み千切ってやりたいが、塵になるのが恐ろしくて実行に移せない。
今になっても自衛するしかできない私が情けなく、悔しい。
とめどなく涙が溢れた。
次回予告!
街を壊していく不気味な男。
リュウにも魔の手が迫る!
次回!
リュウが死す!? ……かもしれない。