聖なる夜に君を想う。 作:ふま
迷路の様な廊下を走り抜ける、明かり取りの窓からは真夜中であるかの様な満月が微かに見えた。
時差を感じる___俺達の時計はまだ8時だってのに___
それにこのブキミなまでの警備の手薄さ、神殿前に人が集まっていると言うせいなのか?
我々は雪舞う表に飛び出し、その様子を伺う事にした。
幾つもの篝火が並び立てられいる広場に、数十人の陰陽師らの姿が見える。
神殿から4人の神官の様な姿をした者たちが現れると一斉に静まり返った。
「今宵、めでたく___我が当主・冬馬様と新生・ハルオリ様との婚約の儀が成された・・・!」
「「 「「「 ・・・・・!? 」」」 」」
大歓声を上げる彼らをヨソに、パックンは重たい瞼を閉じ、ギリリと歯を食いしばっている。
その様子に俺だけではない___ゲンマ、ネジでさえも嫌な予想を立てていた。
「間に合わなんだかも知れん____」
「何を云っている! 間に合わない事なんてあるか!!」
ガイがそう云い___俺に同意を求める。
その眼の奥には・・・「お前の愛はその程度じゃないだろ!?」と問うている____
「そうだ・・・、彼女が生きているだけで十分だ・・・!」
俺は___彼女を失う事を何よりも恐れている。
聞かなきゃいけない事だってあるんだ___八香、あの夢の言葉は本心じゃないだろ?
君が居なくて、俺が「お幸せに」なれる訳ないじゃないか・・・?
「皆の者___祝うが良い・・・!夜が明けるまでに祝言じゃ・・・!」
「認めない・・・!」
俺は声を上げた。ザワつき、奴らが一斉に屋根を見上げる。
「_____!?」
「「 「「「 認めない・・・!!! 」」」 」」
続いて、皆が声を上げたと同時に一斉に下へと降り立った・・・!
「これより、八香を奪還する・・・・・!!」
「渡しゃしませんって・・・!」
「邪魔するヤツはオレが成敗してくれる・・・!」
「八香さんは木の葉の人です!渡しませんよ・・・・!!」
「そうよ___渡すもんですか!」
「あの人を・・・必ず、連れて帰る・・・!」
「面倒クセェなんて云ってらんネェ・・・!木の葉の忍の名に掛けて、な・・・!」
「絶対、八香さんを奪い返すんだから・・・!!」
其処に居た、8人の想いが重なった。
八香___君の想いが通じているんだ。木の葉の里に、君の存在がこうも浸透している。
木の葉の上忍や、若い芽達を影ながら手助けてしてきた君の存在が____
俺は誇らしいよ・・・知らぬ間に、君がこんなにも皆に慕われてたなんてさ・・・!
「パックン!」
「うむ____こっちだ!」
「カカシ、此処は俺達に任せろ!先へ急げ!」
「行ってくる・・・!」
俺は頷くと、道を塞ごうとする者らを雷切を纏う手で切り開いて行く___
何人にも彼女を渡さない・・・!! 渡してたまるか・・・!
「騒がしくなってきたな__スガシロ、時間に間に合うか?」
「もう少し・・・月が真上に昇りませんと・・・。」
意識を失った春織を運ばせ湯浴みをさせている間、祝言の用意がなされる。
衣冠束帯を着せるスガシロが当帯をこれでもか!という位にキツク締め上げる。
「それより___如何で御座いましたか。ハルオリは・・・・。」
「ふふ___初対面の気丈さは何処へ行ったやら・・・始終良い声で啼いておったわ。」
「それならば可愛がり様も御座いますな___めでたき事・・・。」
「祝言が終わったら離れに移るぞ。それまでにあの忍どもを始末せい。」
「心配御無用___若はせっせと子作りの続きをなさいませ。」
「それこそ心配無用___おお・・・・・。」
最初に着せた衣装で髪をセットし、化粧を済ませた春織が連れて来られた。
夢の様だ・・・名高い、元・自の国の巫女がちょっとエロい花嫁衣裳で目の前にいる。
かつて噂で自の国が”降魔祭”で鎖国を解くと聞いた時は居ても立っても居られなかった。
全国の巫女オヲクを魅了する・・・カリスマ的存在を我が物のしたのだ__誉であろう。
「首の輪をお外しになっては?花嫁がまるで奴隷の様では___」
「構わぬ、暫くはこのままだ。」
もう抵抗しても遅い事ぐらい解っておるだろう。しかし油断は出来ぬ。
「それに___見てみろ、少しも美しさを損なってはおらぬ。」
「・・・・・さいで御座いますか。」
寧ろ、背徳的で良い。ふふ・・・強運なのは静馬ではない___私の方だな。
春織の生れ変りのこの女が冬の化生を背負って手中に入ったのだからな・・・!
祝言を挙げたとて、この国の気候は変わるとはハナから信じては居ない。
この女と__その力さえあれば、領土を拡大する事はけして難しくは無いのだ。
(この土地がダメなら___地図を書き換えようぞ・・・二人でな・・・。)
「そろそろですぞ___」
面倒な儀式は省きたい所だが重臣やスガシロへの建前上そうも行かぬ。
何も言わぬ春織の綿帽子の代わりのヴェールを被り直させると手を引いた。
_______ようやく婚儀が終わった。
離れに移動する為、裏に駕籠を二つ用意させた。そして空を見上げるまでも無いが__
止みそうもない雪。・・・真夜中の月は今にも吹雪で押し流されそうだ。
後、数時間も経てばわしの絶望は本物になるだろうて・・・。
「さぁ、早く駕籠を出すのじゃ。うっ?」
バウン!と冷気に混じる煙_____表れおったか・・・。
咳き込む駕籠かきが若の駕籠を思わず落とした、当然、何事かと中から飛び出して来る。
「スガシロ!まだ始末できて無かったのか? あっ・・・・春織!」
現れた男の片腕には既にハルオリが居た。あの眼____写輪眼だと?
「土遁・口寄せ・追牙の術・・・・!」
「なにッ・・・!?」
ギャンギャン・・・!ワワン!とわしに犬どもが噛み付いた。これでは九字も切れぬな。
この男なかなかの手足れ___あの印の結ぶ速さときたら・・・、
「う、うわァッッ!!!」
「若!?」
そう思った途端、後ろでガラガラと激しい音がし只ならぬ悲鳴が聞こえた。
後ろにもう1人居ただと?駕籠かきどもは腰を抜かしながら逃げておる。
「土遁・心中斬首の術・・・!___お婆さん、あまり忍を舐めてもらっちゃ困るな。」
「おのれ_____影分身か・・・年寄りは大事にしろと言うに。」
「な~に、たまの刺激も長寿の秘訣・・・ところで___本物の彼女は何処に?」
「は!? 何? それはどう云う事だ、スガシロ・・・・!!」
あの眼で偽者だと見破ったか・・・どこまでツイてないのやら・・・。
「・・・・そう云うことで御座いますよ。天の国の跡目の嫁は___処女でなければ困る。
そしてお世継ぎに”鬼”の血は要りませぬ。全てはこの国の為、民の為・・・。」
「スガシロ・・・!貴様、私に内緒で生き傀儡の術を・・・!」
「・・・・おい、若いの。あの男、少し黙らせてはくれんか。」
「________え?」
「早うせい。___案内してやる、着いて来い。」
妙なバァさんだ___術を解き、油断せずに忍犬達を傍に着かせて前を歩かせた。
男は火遁で少しばかり炙って置いたので大丈夫だ。
「この分だと___太陽は諦める他あるまい。このままあの娘を置いて居ても無意味。
残念だが、民らにも諦めてもらう他無いようじゃ・・・。」
文献に載っていた伝説か___すると八香はやはり、ハルオリの生れ変り・・・?
どうやら、あの男の野望だけで彼女を召喚したのではないらしい。
「___静馬様は初見で気付いておられた。ハルオリの生れ変りだとな・・・。
それはそうと、木の葉の忍よ。案内はしてやるが___あの娘が還る保障はせぬぞ。」
「何?・・・・どう云うことだ。」
「”生き傀儡”になるにはその者の”絶望”を餌にせねばならん。あの娘の中には
木の葉の全ての民に対する不信感が募っておった。よって術にも掛かりやすかったのだ。」
「_______」
結果が後に着いて来ていた事をまだ・・・彼女は知らない。
「ここだ______」
元の神殿に通路に戻って来る。その大きなドアは、何処かの洞窟に扉をつけただけの物だった。
バァさんが手をパン!と一叩きすれば通路の松明に明かりが燈る。
「此処の地下にハルオリの墓ある。最後の”天儀《アマギ》の民”として奉られておるのだ。」
「・・・・神話?」
「この事が本に載る訳が無かろう。この壁画の通りだ____見るがいい。」
壁に掛けてあった提灯を手に遠のいてから壁を照らす。
天儀の民が残したものだと云い、この国の歴史が絵巻の様に描かれていた。
この絵を見てはっとなる。太古の昔、まだ無知だった人々に知恵を授けたと言うのは。
「まさか、流浪の民とはつまり____」
バァさんが人差し指を上に差し向ける。
「我が国の陰陽師にとっては神であった。」
なんだか奇想天外な話になってきた;まぁ、八香が天儀の民だという事ではないのだが。
静馬の事もテンゾウから聞いた話とは少し違っていた。
八香と静馬が初めて会ったのは、何処かの大名が開いた陰陽術の大会。
「自の国の左門と言えば、両術共に秀でた天才。静馬様は・・・彼の才能と運に嫉妬さえすると
おっしゃっていた。あの美貌、剣術。そして何より・・・八香を手にしていたからな・・・・。」
神足静馬からの、興奮した様な文面の文を貰ったと云う。
『美と聡明さは左門譲り、その霊力だけで彼をも凌ぐ稀代の陰陽師に成るだろうに・・・』
そう残念がっていたと言う。そして云った。
「心の準備は良いか___先に言っておくが、彼女は生きておる・・・おっと。」
「待たせたな!カカシ・・・・!むっ!!」
「まぁ待て・・・、ワシから説明しよう。」
駆けつけたガイやゲンマと生徒達。バァさんを見て一斉に警戒し出したが
間に入ったパックンが彼らに事の流れを説明してる。
「子供達にはいささか刺激が強い___入室は控える様に。」
「____だそうだ。いいかお前達。此処で待機だ。」
ガイがそう云うと全員が残念そうに下がり眉になった。俺はネジの肩を軽く叩いておく。
ギィ・・・と、辿り着いた部屋のドアを開ければ__幾つかの、水槽が目に飛び込んでくる。
嫌な光景だ___嘗て、大蛇丸が捨てて行った実験室を思い出す。
「「 「_______________!! 」 」」
「ハルオリの絶命した洞窟に沸く”失意の泉”の水じゃ。息はできておるから安心せい。」
衝撃的な光景だった。縦長の大きな巨大な水槽、蒼く染められた様な水に揺らめく肢体___
その水槽に彼女が居た。一糸纏わぬ姿、あの長く柔らかな髪だけが生きている様に漂う・・・。
美しく・・・恐ろしい光景に二人共が言葉を失う中、俺は分厚いガラスに手を伸ばした。
「八香_____・・・!」
「待っていろ・・・こんなガラス如き____!」
「これこそが負の水槽____貴様たちの派手な忍術で壊そうとすれば維持しておる燃料で
この里ごと吹っ飛ぶからお薦めはしない。蓋はタイマー式じゃ。後5時間待てば・・・。」
「っと、危な~いッ___; もっと早く言え!! だいたい、そんなに待てるか!」
「オイ、バァさん・・・なんでタイマー式なんだよ。他に何か方法があるだろ。」
俺は何時間でも待てるが___出来るだけ早く出してやりたい。
あの深く閉じた瞼、その物悲しい表情を見ていると今、彼女がどんな負の念に支配されているのか怖くなる。君を守れなかった俺を恨んでるかもしれない。
君を想う気持ちを言葉にしない俺に失望したかもしれない。
「イヤ…、あんなコトもしちゃったし・・・、もしかしたら屈辱を覚えてるかも___ブツブツ」
「お前が負の念に取り憑かれてどうする!?」
「伝染してンじゃないですかソレ。カカシさん、取り合えず水槽から手を放しましょうか;」
「____手は無くはないが・・・。」
バァさんが指を立て唱えると彼女にはめられていた首輪がパキンと弾けて落ちて行く。
更に水槽に手を当て目を瞑れば___鼻にシワを寄せている。
「これは___掛けた張本人が云うのも何だが・・・かなり拙い・・・!」