聖なる夜に君を想う。   作:ふま

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3、キスの温度

 

「ずっと自問自答しておりました。のうのうと生き長らえた末、

墓参りの帰り途___どこぞのくノ一から、烙印を押されても答えは出ず・・・。」

 

____ヒルゼン様を慕っていた者となればそれも致し方無し・・・と彼女は呟いた。

肩甲骨内側には大きなガーゼが張り付けてある___火遁を食らったと云うのか・・・。

一体誰が___イラっとして・・・つい八香の腕を掴む。

 

「お前の家で診させて貰うとしよう__」

「動けておるので何ら心配は要りませぬよ?」

「馬鹿者!!! 嫁入り前の娘がソレ以上の痣を増やしてどうする!!」

 

厄介な”感絞め”だ___けして痛むとは云わない。

ヌケヌケと、動けば良いだと!? 何処の戦士だお前は; もうイチ市民だろ。

アタシが怒鳴った所で目を丸くしてはいるがこの女、動じてもおらん。

 

「今晩は____おや、はたけ殿、これは一体・・・?」

「やぁ・・・紫紺、悪いんだけど診療室をヒトツ貸して貰えない?」

「それは構いませんが___もしかして、お頭様を?」

 

家に到着して呼び鈴を押せば、格子戸の向こうに現れた身長およそ178のヤセ型の美少年。

細いというだけではなく細マッチョな印象の、少しクセっ毛なショート・ダークブロンド。

年齢の割りに、その姿と飄々とした話し方がシズネをギャップ萌えさせるするのか・・・。

「キャラがカワイイんですよねェ~」と、言わせる通り、焦げ茶の作務衣がイヤにカッコ良い。

イルカも馴染みらしく、初対面のアタシには丁寧な会釈をした。カカシが少年と交渉し、中に通して貰う。

診療室に2人だけにして貰い、八香の傷を確認する___ガーゼを剥がしたアタシは思わず鼻から息を抜く。プンと香る、何らかの薬草の匂い・・・自の国の、ハーブ療法だろう。

 

「痛みは取れてるかも知れんが・・・このままじゃケロイド状になるとこだぞ・・・。」

「痣など1つ付くも2つ付くも、同じで御座いますよ。」

「そう云う問題ではない!大体・・・、そっちの痣とは別物だ!」

「これは意外な事。ふふ、しかしこれで無傷となれば___犯人探しも必要ありますまい?」

「お前・・・!」

 

この、人を食う迄の穏やかさは何だ・・・目を細め、伏せた瞼。

この女___三代目は日記に記していた。

『彼の地の忍達より、遥かな数の人を殺めてきた』と。

カカシが持っていた古い写真、

冷えた視線で相手を射抜く雲水がそれであり、今、その名残は微塵もない。

 

「八香。お前が気を病む事は無い。三代目がお前を亡命させたのだ。誰にも文句は言わせん。

アタシはその意思を継ぐさ。だから、今後またこんな事があればだが・・・厳重に処罰する。」

 

「済まなかった」と、心底そう云った。

親のいない戦争孤児達の為・・・、八香が自宅で、朝食を格安で提供しているのも知っている。

カカシが云うには、その力を持って地元の農家の手助けをしているお陰で百姓からの信頼は厚く、

余った野菜などを無償で提供して貰い、彼女はそう云う方法で孤児らを支援しようと考えたとか。

本来なら、我々がそう云う事をしてやらねばならんと云うのにな。

全ては___三代目から受けた恩義に報いる為、そして木の葉の・・・若い芽を育てる為・・・。

 

「今はまだ辛い時期かもしれないが・・・火影として、尽力させて貰う。」

「考え過ぎかも知れませぬが___何やら云い知れぬ不安も覚えております。

私どもも、木の葉の優秀な忍と対峙などと___出来れば避けて通りたい所・・・。」

 

寒気がした__治療中だと云うのに背後のアタシに刃の様な殺気を刹那、言葉に盛って来るとは。

”抑えているのだ”____八香の言葉にその含みをアタシは感じ取っていた。

男装の尼御前《アマゴゼ》___退いたと云え、そこはやはり”裏方の衆”の初代・頭なのだ。

それに加え、神仏に仕えてきた厄介なこの女を怒らせては大損あれど得は何もない。

仮に一年中、雨でも降らされて見ろ。それこそ嘗ての自の国の二の舞だ。

と云うより___まだ少女、力がある云々より、放っておける存在ではない・・・。

 

「アタシを信じてくれと云う他ない___変えて行かなきゃならん、色々とな・・・。」

 

猿飛先生亡き後___彼女は自分でも気付かない鬱を抱え込んでしまっている様に思う。

就任したてでアタシもそこまで行き届かなかったせいでもあるが、責任から逃れる心算は無い。

敵に渡れれば危うい存在を保護するべく亡命させた、木の葉では初めての特例である。

よそ者だと___

一部の古い考えの者らによる迫害で、”薬を毒に”変えてしまう様な里であってはならんのだ。

 

「かなり遅れたが明日、此処の開院祝いを届けさせる__ちゃんと飾って置く様に・・・!」

 

治療を終えた帰り際、そう云って小さな肩を叩いておいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「で____カカシ殿がコレを・・・?」

「人使いが荒いのよ、あのヒトは; ま、君んとこだから俺も直ぐ届けに来た訳だけど。」

 

俺が持たされたのは、綱手様直筆の看板である。

太く、力強い筆で『火影及び上忍立寄り場』だと書いてある。

単純だが、コレを入口に飾っておけば色んな効果が期待されるであろう。

表の格子戸近くにソレを釘で打ち付けて置けば俺はその任務を終えた事になる。

 

「良い火影様ですね」

 

お茶でも、と云う彼女に着いて行けばカウンターに入る前にそう呟いた。

俺はそれに比べてダメな男だ・・・八香が本当に苦しんでいる時に傍に居ないんだものな。

今は彼女をそっとしておこうだなんて・・・云い訳にしてたんじゃないのかと考えてしまう。

 

「どうぞ」

 

彼女はカウンターに座る俺にコーヒーを淹れて出した、余計な事は何も云いはしない

今日の天気がどうだとか、この後の俺の予定だとか。

どこからか、幼い少女の声と紫紺の声が聞こえる・・・何となく気まずい、朝のひと時。

 

「____あれは・・・?」

 

ふと見たカウンター後ろの、格子戸から見える庭に・・・ハッキリとした紫の花が咲いていた。

良く見れば、小菊の群生もあるではないか。

 

「竜胆で御座いますか? 」

「___やはり、君だったか・・・有難う。俺のチームまで供えてくれて。でも何故?」

「___カカシ殿の匂いがそこに在ったので。」

「俺の匂い___?」

「匂いと云うか・・・非常に強い念が、その墓の土に染みついておりました。」

 

君には何も隠せそうにない・・・俺はあの場所に心を置き過ぎているのだ。

彼女はあの写真立てを思い出し___持って来た花を、4等分にしたんだそうだ。

 

「カカシ殿にも謝らなければなりません。心配や迷惑ばかり掛けてしまって・・・。」

「何を言うかと思えば・・・。心配するのは当然でしょ。」

 

迷惑とはこれっぽっちも思ってない、逆に謝らなきゃいけないのは俺達の方だ。

 

「それに___亡命した身でありながら、陰陽師の真似事まで・・・。」

「いや・・・それについては君がいなきゃ、どうなっていたかって事だよ?」

 

化生の者を野放しにしたかも知れない、九尾事件とまでは行かないだろうけど

何かあってからでは遅いのだ。機転を利かし、それを未然に防いでくれた。

俺はコーヒーを最後の一滴まで飲み干し、ソーサーに静かに置く。

 

「イルカの云う通り、君はもう此処の住人だ。堂々としていればいい。」

 

彼女は俺に、心配は掛けまいと昨日の偶然があるまで黙ってるつもりだったんだろう。

ただ、紫紺もいる。彼女は自分一人なら我慢できた筈だった。

三代目が居なくなった後___暗部には”それ見た事か”とせせら笑う者もいる。

そして彼女らへの迫害が始まった・・・噂を流したのも嘆わしいがその者らだろう。

 

「困った時ぐらい頼って欲しいもんだ___俺も意外と役に立つかもよ?」

「・・・ええ。」

 

君はそう返事をするけど何故だか__ゼンゼン信用できないな;

左手を伸ばし、カウンター後ろの棚に置いてある皿を取ろうと背伸びをしてる。

伸ばした指先がぷるぷる・・・届きそうで、届かない。

 

「まず___こういう身近なトコロからだねぇ;;」

 

その後ろからヒョイと皿を取ってあげて、カウンターに置くと彼女は一文字に口を結んでる。

 

「申し訳ない____・・・カカシ殿?」

 

長い溜息をフーと吐き出しながら彼女の肩を囲み抱く。八香の、柑橘系の髪の匂いを感じていた。

 

「俺も今、いろいろあって君の傍にいてあげる事がなかなかできないで居る。

八香は物分りが良過ぎて、俺も甘え過ぎちゃうとこなんだけどさ。だけど、居る時ぐらいはね?」

「私の事はお気になさらず___カカシ殿はいつだってお忙しい。」

「あのね?そう云うトコを云ってるんだよなぁー・・・もー;」

 

___最近、嘘ついてさ。俺には大事な人は居ないって・・・。

君の存在だけは・・・バレちゃ困るから___此処に来るのも少し避けてたんだよね。

だけど今日ばかりは避けられなくて・・・でもちょっと嬉しくもあったり・・・。

 

「八香」

 

名を呼ぶと自然と少し離れ、小さな顔が上向きになる。綺麗な目に飲み込まれそうになりつつ

俺はマスクをずらして屈むと___思い出してる、自来也様の言葉を。

唇だけでそれを伝え、手を握る・・・君はもう読んでいるだろ・・・? 俺の、気持ちなんか。

 

「ふぁ・・・! 」

「 「 ・・・・・・! 」 」

 

バ!!と慌てて俺達は離れた。え!? 誰? 

 

「申し訳御座いませぬぅ・・・! ”治療中”で御座いましたか?」

「_______子供? あ・・・。」

 

小さな子が____自分の手で両目を隠し、俺たちの後ろでパタパタと・・・パニック?

右往左往した挙句"アッ”と発し、段差で蹴躓いてバタリとコケ、すっかり両腕が伸びてる;

彼女が思わず、あぁ;;と言い俺から放れて、ベッタリ寝そべってる幼女を抱き起こした。

 

「雪羽___あれは、治療室での事・・・此方は気にせずとも良いのだ。」

「ぁい・・・・;」

「____?」

 

治療室で誰と、ナニがあったんだ・・・? どうやら、この少女が例の化生の子か。

鼻を打ったか真っ赤な鼻先を俺に向け、ジーと見てる。

 

「や、やぁ____」

「このお方はの? はたけカカシ様とおっしゃる__私の恩人だ。仲良くしておくれ」

「このお方は怖いお人ではありませぬな?」

「____?」

「だって、壁に押し付け、モガ!」

「雪羽。良いから紫紺のお手伝いを。」

 

八香に口を塞がれた幼女は頷くと放たれて、テテテとキッチンを去って行った。

そして「申し訳ありません」と、くるりと体を背ける八香。俺は思わずその腕を取った。

 

「キスが”治療中”___?

もしかしてその”怖い人”って・・・昨日みたいな奴らが此処にも来てるんじゃないのか?」

「いえ___此処にはそんな・・・。」

「じゃぁ、なんの事だい。隠さずに話してくれ。」

「_____雪羽が申しておったのはゲンマの事でしょう・・・。

私の身を案じて、”名を不知火に変える気はないか”と申し出があり・・・。」

「_______!?」

 

頭を殴られた気分だ____それって・・・プロポーズじゃないの!??

待て待て・・・、八香は16だぞ? イヤに思い切った事をしてくれるじゃないか・・・!

 

「ただ___私は、子は産めぬ故、断ったので御座いますが・・・。」

「・・・・・・・。」

 

ほっとすると同時に、産まない覚悟をしている彼女が気の毒になる。

俺には薄々解っていた。あの時の、紫紺の言葉である。

 

『__私は出来る限り、耳を塞いでいます。なので・・・行為中は出来るだけ御頭様に呼びかけて頂きたい。あと・・・脈を取り続ける事をお忘れ無く。それと、もうヒトツ・・・・。』

 

そう___種を植えるなって事だ。彼も八香のそんな覚悟を知っていて、そう云ったに違いない。

辛い選択だな・・・子供が好きだと知っているだけに余計、心が痛む。

 

「けど・・・君から産まれた子が同じ力を持っているとは限らないだろ?」

「カカシ殿・・・この痣は活きている。遺伝は免れますまい___」

「一度、綱手様に相談してはどうだろう。まだ諦めるのは早過ぎるんじゃないか?」

「・・・・・・・・・・・・・・。」

「八香・・・?」

 

ふい、と離れてまた、掛けてあった割烹着に袖を通し始めた。

アレ___どうした? 急に・・・。

 

「もうお断り致しました、諦める云々の話では御座いませんよ___ご心配無く」

 

最後の仕上げか、小鉢に和え物を詰めてトレイを一枚一枚拭いている。

何か怒らせた・・・俺? いつもあんな表情なのだが、体にヒヤリとした空気を纏ってた。

 

「八、」

「八香様、ノックが聞こえまする。鍵を開けて参りまするぞ?」

 

俺の言葉を遮り、また戻って来た舌足らずの雪羽がそう云うと裏戸へと走って行く。

「ふぃぃいい!」小さな悲鳴に二人ともが顔を上げて其方を見遣る。何て間の悪い・・・。

 

「いらっしゃいませ、”怖いヒト”」

「ムッ 朝から俺に喧嘩を売るとはイイ度胸だ・・・___ほぅれ!」

「ヒーッ!!」

 

怖いヒトに徹したゲンマは突然に雪羽を担ぎ上げ、飛行機ごっこし始めた;

その様子を八香は何も言わず、少し寂しそうに眺めている。

 

「どーだ!怖いか!」

「こわいこわいこわい!」

「そろそろ、俺の名前を思い出したんじゃねェか?」

「ゲンマ様ぁー!!」

 

「ヨーシ」と云って降ろされた雪羽はふらふらとコッチへ戻って来る___

その足取りを目で追って、やっと俺に気づいた様だ。

 

「君、大人ゲないよ___ゲンマ・・・;」

「珍しいですね。こんな朝早くから___カカシさんも朝飯を?」

 

目がまだ、@@になってる雪羽を膝の上で介抱しながら俺は「いや」と答えた。

カウンター席で俺からひとつ間を空け、八香の近い方へと腰掛けてる。

この男の事____まだ諦めてはいないだろうな。

 

「じゃ____用事も済んだし、俺は帰るよ。コーヒーご馳走様。」

「有難う御座いました___火影様にも宜しくお伝え下さいまし。」

 

落ち着いた幼女を降ろすと頭を一撫で、席を立つ。後ろ手を挙げ、裏戸から出て行った。

後味の悪さを感じる・・・思わず唇に指をやった。彼女は怒ってなんかいないと信じたい。

キスの温度を手繰り寄せ、俺は一抹の不安を払い除けようとしてる・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(いかんな____何やら、乱れておる・・・。)

 

予約も無くなった、午後4時頃。

いつもの河で夕釣りに出ていた。独りになりたい、いい気分転換だと思うたが。

成果が上がらず___只今、5匹釣れた所だ。これでは到底、数が足らぬ。

岩場で糸を垂らしながら溜息を付く。朝の事が私の気を乱れさせておるのか・・・。

 

(私が悪いのだ___あれでは”子が産めぬから断った”と、理由はそれだけに聞こえる)

 

だからカカシ殿は”まだ諦めるのは早過ぎるんじゃないか”などと仰られた訳で。

けしてそうでは無い・・・だがアレじゃ私は、誰とでも接吻を交わす、淫らな女の様だ。

ふと____唇に触れる。まだ熱が、残っている錯覚が虚しい。

 

(誤解___されたであろうな・・・・、!?)

 

誰だ・・・酷い殺気である。背後から刺す様な視線と向けられてる。

この間の女か・・・? いや、女子の匂いではない___囁く風が、少年だと・・・?

 

「___________!」

 

カカカッ! 竿を手にしたまま体をずらせば、足元に力強く刺さるクナイ。

頭上に影・・・確かに少年らしい。川面に西日で反射するのは額あて__此処の忍か。

アオザイの腰に片手を入れる、大針を数本抜き瞬時に投げ放つ。

 

「ちッ・・・・!」

 

一本がかすった様だ。負けじとまた数本投げ返してくるも風が渦を巻き効力を失わせる。

スピードを殺されたクナイはボチャポチャと河へと落ちて行った。

流石に動揺を見せ、呼吸が僅かに乱れておる___

 

「!?」

「何用じゃ___少年」

 

視界180度の隅に着地した、黒髪の少年。私はまだ顔も向けないで問うた。

まだやるか・・・サッとクナイを片手に構えておる。

 

「恨むならカカシを恨め____貴様を殺す・・・!」

「ほう___木の葉の忍が、釣りの真っ最中の女子を殺すか・・・良かろう。やってみぃ。」

「ほざいたな・・・後悔するなよ・・・!」

 

しかし、この少年____何処かで見た様な・・・・?

いや・・・誰かに似ておる・・・一体誰だ_____?

 

 

 

 

 

 

 

 

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