聖なる夜に君を想う。 作:ふま
この5人の視点にて進みます。
(コイツ___俺よりちょっと年上ってだけだろ、何でこんなに落ち着いてやがる___!)
舐められたもんだ・・・まだ釣りに興じるツモリか、姿勢を変えはしない。
自の国の、元・巫女だと聞いている___あの時、カカシが追っていた女・・・。
なのに何だ・・・!? 印も組まず、風を使い、俺の投げ放ったクナイを封じた。
俺は考える途中に印を組み出す、見てろ・・・カカシめ・・・!
「火遁・・・!豪火球の術・・・・!!」
「____!」
俺が火を吹き、業火が女を取り込んだ___僅かに動きがあった様だ。
火は、対象物に当たるといつもより大きく膨らみ視界を遮った、悲鳴も上げないとは・・・。
「・・・・・・・・・・・!」
炎が消えた後、岩の上に座っている______ガイコツ!!!?
そう云えば、無抵抗の人間を焼いたのは初めてなので呆然としていた。
近づいて恐る恐る観察してみた、大きさ的にはこんなものだったか?
そして周りに気配は無く、河のせせらぎだけが静けさを際立たせた。
やはりコレは、あの女の成れの果ての姿___怒りで、炎の温度が上がった・・・・?
いや、待て。何故に手の竿だけは焼けていないのだ?
_____カクカクカク!
「うわ!」
髑髏が歯を鳴らしたと同時に首がクルリ!と此方に向いたではないか!
あまりの驚きで尻もちを着いた。これはまさか・・・幻術!?
「_____カカシ殿を恨めと?・・・片腹痛い。」
しゃ・・・、喋った!? それだけで十分慄く。
カク____カクン・・・と、ユラリ立ち上がって俺に歩み寄ろうとするのに後退りする他無い。
漆黒を映す両目の穴が俺に向けられた刹那、ギクリ!と体が反応してしまった。
「お前___一体何者だ・・・!」
「少年___弱い者から切り崩すそうなどとゲスな考えは起こさぬ事じゃ・・・。
覚えておけ・・・カカシ殿に手を出せば、この私が___貴様を解体してくれようぞ・・・?」
「____!!?」
「忠告が聞けぬなら心せよ・・・いつでも取殺すのは造作無い事___」
骸骨女が冷えた声でそう云い放ち、白い骨の指を差した。総毛立つ、感じた事の無い激しい悪寒。
酷い胸の圧迫感、呼吸が出来なくなりそうだ____心臓発作を疑えば恐怖が沸き起こった。
魍魎が、一斉に俺を取り囲んだかの黒いざわめき、いよいよ竿が大鎌に見えてくる。
俺は・・・動けなかった、金縛りにあった様に。今、何が起こってるんだ・・・?
カクンカクンとぎこちない動きで骸骨は突然両手を合わせ、急に念仏を唱え始めたではないか。
「くっ・・・殺すツモリか?」
「殺そうとした者の云うセリフではないな」
確かに滑稽である。弱い者だと、俺は自分がやられる事を全く想定はしていなかった。
思わず口に出てしまったが、これは暗殺者としては恥ずべき事である。
それにしても、死者を弔う経を良く元・巫女だという女が知っていたもんだ。
「彼に感謝するが良い____お陰で”殺されなんだ”とな。」
それが止むとまた竿を肩に掛け、背骨を見せた。立ち去ると云うのか___?
”このまま有無言わさず殺される”と、危険信号を発してた俺の汗が体を冷やし始めてる。
「そして___出直せ、私は今忙しい。
あと、間違っても家には来るな。手加減する様な者はおらぬ___」
「ッ!」
やっとビシャリと投げ捨てて行った殺気で___俺の金縛りが解けるとは。
絶句する___まだ、心臓の鼓動が耳にまで届きそうなのだ、悔しいと思う余裕さえ無く。
死神が鎌を、寸でで止めたのだ。忍ではない相手に此処まで恐怖で畳み込まれるなんて。
ドサリと背を川べり預ければ、やっと・・・悔しさが込み上げてきた・・・。
「耳の早いこと____;」
「僕は現役の暗部ですから___サスケ君とやりやった様で。お怪我は無い様ですね。」
「やれやれ・・・これでは私がチクったも同然になる____」
「言葉が悪いな;;」
家のキッチンに辿り着けば、テンゾウ殿が雪羽を隣にテーブル席に座っておった。
スケッチブックに絵を描かせて見てやっている傍ら、私に目をやっている。
その横では夏風が頬を染めつつ、カウンターで皿を拭きながら彼をチラチラと見てる。
この男、”お涼”と云い、何故か”樹木の精”にはモッテモテだな。何となく___不憫だ。
「あれはどう云う仕掛けだったんです?」
むぅ・・・流石は暗部のエリート、日々精進しているのか気配にも気付かなんだ。
迂闊に手の内を見せてしまった様だが、あんなもの実は幻術でも何でもない。
私が立ち上がらず釣りを続けたせいで少年は調子を狂わせ、多少の間があったお陰の仕掛けだ。
「炎は風で上へと逃がし、あの河の底に眠る者の力を借りた__土を通じて・・・な。」
見える者には見える、夥しい数の戦死者の残骸。その皮と霊気を借りたと云って良い。
代わりと云っては何だが、ちゃんと成仏させると言う条件で。
無駄に争う事も無い___まだ少年、ビビらすくらいで丁度良いのだ。
「どちらかと言えば苦手分野、陰陽術では落第生だった私のする事だ、大層なものじゃない。」
「お涼さんの願いを聞いた貴方でも落第ですって?ずいぶん厳しいんだなぁ;」
「左門様に、”やはり君は武道の方が向いている”と云われた位だからな。」
「匙を投げられましたか___余ほど落ちコボ・・・ところで、良い匂いだなぁ。」
今、それ、誤魔化したツモリなのだろうか?
否定はしないが・・・ならば私もハッキリ云える。だからお主は人間の女にモテないのだと。
(ズケズケな物言い、空気も読めぬ。”一生独身で居られる”様に、日々祈っておこう。)
コンロの土鍋のフタを開けて見れば紫紺が作ったか、ギッシリとおでんが詰まってた。
ヤツの事だ、偶然来た彼にオモリをさせ、夕食で礼をするつもりなのだろう。
そして自分は奥に引き篭もり、シズネ殿からの依頼である暗器を作っているのだ。
手に取る様に解る___人知れず溜息を吐きながら、釣って来た魚を処理し始めた。
「しかし彼奴は___何故あんな事を?」
「それについては僕も把握していません。それはまた先輩にでも訊ねて下さい。」
「恨んでおった様だ___何やらな・・・。」
私如きに敵わなかったのだから、またカカシ殿に挑むほど馬鹿ではないだろう。
ただ、気になる___何処の、誰と、サスケと云う少年が似ておると記憶するのか。
おかしい・・・全く、覚えが無いと云うのに、ぼんやりと男の影が思い浮かぶのだ。
「あぁ、お帰りでしたか___お帰りなさい。」
「手伝え。小皿を5人分だ。あと、彼の分はお主の給料から80両、天引な。」
「 「 えええええ!? 」 」
キュ~と、雪羽の腹の音が鳴っておる・・・。ようやく出てきた紫紺に夕餉の用意をさせた。
「そう云う事でしたか・・・・。」
「あぁ・・・。しかしまぁ、落第生とか言ってる割に結構な使い手なんだねェ・・・。」
「ええ。しかし___少し様子が・・・。」
「___え?」
僕は火影様に報告を終えた後、カカシ先輩の家を訪ねていた。
明日、振る舞う魚をさばきながら___彼女は何かずっと考え込んでいた様だ。
「イタチの事を思い出したんじゃないかと、ヒヤヒヤしてたんですがね。」
「___それは思い出せない筈だ。いのいちさんの仕事を信じるしかない。ただ・・・。」
先輩は顎を抱えながら不安を露にしてる。彼にしては珍しい目の色だ。
「前から思っていた事だが、八香には、手に触れると何か感じ取る力を持ってる様だ。」
「つまり___これ以上、サスケに接触は危険だと云う事ですね?」
「剥がし取った記憶の事で彼女が混乱するのを避けなきゃならない____」
僕らはあの日の事を思い出していた。
彼女が___己の正体を知り、保護されてたこの里を飛び出した日の事を。
先輩の判断と、三代目の決断で・・・八香は2度目の禁術にて記憶の一部を取り除かれた。
いのいちさんのその術後___我々はイタチと彼女の間に何があったかを知る事になる。
「本当に、世間は狭い___」
「・・・どう云うツモリで・・・奴は八香の記憶を封印したのか___」
先輩は当時から心配していた。抜け忍である彼が此処に戻って来る事を___
その悪い予感は当たり、彼は他の上忍と共にイタチと対峙___幻術に敗れた。
影分身を、八香宅近くに忍ばせる辺りは流石だが、彼自身は入院を余儀なくされた。
もちろんその一件は彼女には知らされる事はなかった。
「___案外早く潜入がバレた事で、そんな暇が無くなったんだろうな。
兎も角ヤツの、彼女への接触は無かった。当分は大丈夫だろうとは思う・・・。」
「ええ・・・。」
「テンゾウ、俺はこれから任務にでなきゃならない。くれぐれも八香を頼むよ。」
「任しといて下さい。」
僕は頷くと彼らと今おでんを食べている影分身からの様子を訊ねてる。
変わりない事を確認。サスケの所在が解らないので一応の警戒をしているのである。
「では___僕はこれで」
そのまま先輩の家を後にして、また捜索に戻らなければならなかった。
あの家にそう易々とは侵入できないだろうから安心はしている。
(サスケを簡単にいなせた筈だろうに___苦手とする方法で場を凌ぐなんて・・・。)
あの人は、ここの忍にずいぶん遠慮している。確かに元は、揉め事を好まない穏やかな人だ。
剣聖・左門の一番弟子であり。侍の生きた国々で___”戦場の静御前”と謳われた幼い女傑。
どんな忍であろうと・・・木の葉の忍には自らの手を下さない意向なんだろう。
そんな八香さんが本気になる時を・・・一度見て見たいと思う僕は不謹慎なんだろうな・・・。
「ゲンマさん、鍵とコレを預かりました。」
「____? これを持って来た女はどうした?」
「さぁ____入り口で、私にコレを渡してくれと頼んで帰ったようですが。」
「・・・・・・そうかい。」
俺の病室にノックして入って来た、若いナースがそう云って俺に荷物を渡した。
俺は入院していた。少し長い任務の、帰りの途で・・・音忍と遣り合っちまって・・・。
コテツに頼んで八香に鍵を渡し、着替えを持ってきて貰うハズだったんだが。
そして嘘も吐かせた。盲腸だと云っておけと。彼女に最小限の心配しか掛けられない。
それに報せでは・・・既に新人たちがサスケと奴らを追ってると聞いた。
無謀だと____訴えては見たが、俺達には今どうしょうも出来ない現状だ。
五代目からも「安静に」と云われ、早く回復する他ない・・・。
(何だアイツめ・・・らしくねェな。あんな事で動じるお前じゃないだろ・・・。)
ほんの少しの寂しさと後悔が、そんな行動を取った彼女に怒りを起させなかったのだ。
八香は___”心”が戻った今でも、自分の感情を理解できないでいる。
俺や、カカシ、テンゾウへの気持ちを事細かに分類できないのだ。
それを知っていて俺は強引気味に求婚した___多少、卑怯ではあるとは思ってるけどな。
「なんだ・・・置いて帰っちまったのか?あの子。」
「ああ・・・そうみたいだな。・・・ライドウ、食うか?」
「お・・・いいのか?」
袋のひとつに、みかん、リンゴ、バナナに、カキ、キウイ。タッパーに詰め込まれていた。
食べやすい大きさにカットしてくれてある___丁寧におしぼり、フォークまで入っている。
「平日だしな。アイツも朝のサービスで忙しいんだろう。」
「あー・・・そうか。あのモーニングな。好評だそうだな、あれ。」
「あぁ・・・、特に隠れメニューの、薬膳粥が美味いぞ・・・胃袋を捕まれんぜ?」
俺も朝食を食べない派だったが、彼女の作ったそれなら・・・スルスル入るんだからな。
コッチに来て、それをフォークで口に入れたライドウもやっと笑って「美味いな」と言う。
「これ、たぶんアイツの主食だ。」
「え?」
「急な事で、こんだけフルーツが常備してあるウチってそうそうないだろ?」
「む___そうだな、まだどこの店も開いてる時間じゃないし。」
「あいつ___果物ばっか食べてて前に叱ったが、治りやしねぇ様だ・・・。」
困ったベジタリアン___最近、魚は食べる様になったと言うが疑わしい;
まぁ、ヴィーガンでは無い様だ。シルクを身に着け、にしんソバが好物らしいから。
「____ホレてんだな。」
「______わかるか、」
「・・・お前がそんな風に女の事を云う事の方が珍しい。」
「そうだっけか・・・・・・?」
「いい子だと思うぞ。コレの手間を見たら俺だってホロリとするよ。」
彼がフォークに刺したソレは、「何時に起きたんだ?」と思わせる、
薄皮もスジも超キレイに剥かれてるミカンである。手間が掛けてある___たかがミカンに。
そうだな・・・俺には長らく、金で買える女以外にそんな色気のある話が無かった。
パクリとそれを口にすれば、糖度の高さに思わず心が和んだ。
「アイツを守らなきゃなんねェ___こんな所にいつまでも居る訳には・・・な。」
「おや___早かったですね。ゲンマ様は如何でした?」
「うむ、病室まで行ったんだが・・・面会謝絶と云われてな・・・。」
「え!? たかが盲腸で?」
「あぁ______」
朝のサービス中。カウンターで夏風と、私は思わず顔を見合わせていた。
お頭様も負に落ちない様子であったが、ナースにそう云われれば従うしか無かったんだろう。
私には、この里で余所者潰し・・・いや、”八香潰し”が行われてる様な気がしてならない;
私だけの疑心暗鬼か・・・農家の人たちはこの方の力を頼りているお陰かとても親切だし、
商店街や飲み屋横丁の一部の人たちからも時々、往診依頼も来るあたり信頼もされている。
(幼少時に受けた”感絞め”教育のお陰で___お頭様はどうにも誤解されやすい。)
今、このお方は黙り、朝食を食べに来た子供たちをカウンター内で立ったまま見守っている。
嘗ての我々___拾い集められた子供らを見つめていた同じ眼差しで・・・。
寺で初めて出会った時___一つ年下の綺麗な少女は他の年上の坊主から「八香殿」と呼ばれ
まるで大人の扱いを受けている事に驚かされたものだ。
寺の住職であった下弦自らが稽古を着けた、特別な僧兵。利発な上に戦闘センスが群を抜いてた。
我々が迂闊に近づく事も許されぬ、近くて遠い、謎多き人であった。
八香様の事を知る事となったのはほぼ___御館様に引き取られた後になってからである。
何故、お体に紅く美しい痣を持つのか、何故・・・笑えなくなってしまったのか。
(左門様が居なければ、我々だってこのお方を誤解したままだったに違いない___)
「なぁ、八香のねーちゃん!ねーちゃんの髪って、なんか秘密があるのか?」
「秘密_____?」
「モエギもそんなサラサラな髪になりたいなぁ~。」
「アカデミーでは女子たちの噂なんですよ!」
子供の声にはっと我に帰る。
三代目のお孫さん達が首を傾げるお頭様をジーッと見てそう云った。
肩に流れる、素直で艶のある甘栗色の髪はお手製のシャンプーを使っていた筈だ。
「秘密はないぞ? ただ、ミカンの皮から作ったシャンプーを使っておる。」
「 「 「 ミカン!? 」 」 」
「そう、昔はの? 尼さんなどはミカンの皮で頭の艶を出してた位、頭皮や髪に良い。」
徐に立ち上がると調剤室のドアを開けに行き、小瓶を二つ手に戻って来た。
「あまり沢山はないが」とフタを開けて三人に爽やかな香りを嗅がせている。
「これで良ければモエギ殿に差し上げよう。」
「え~~~~!? 良いんですかぁ!?」
「構わぬよ? 気に入れば良いのだが。」
「今晩、早速使っちゃお~!ありがとう、八香さんっ!」
大喜びの少女に目を細める八香様・・・アカデミーで噂にまでなっているとは。
なんだかんだ、この人は人目に着くのだ___黙っていれば美しい人だし、ねッ。
「 「「 行ってきまーす! 」」 」
三人が元気良く、裏戸から出て行った____途端だった。
おかしいと私とお頭はチラリと目を合わす。裏戸がノックされるが開きはしない。
”開けられない”のは、多少なりとも悪意を持つ者のみ・・・。
夏風が意を汲んで、そっとドア向こうを覗きに行く。
「小田原八香に用がある___取次ぎを。」
其処に立っていたのは____面を被った、数人の暗部たちだった。