聖なる夜に君を想う。 作:ふま
「_____ほう」
女は、凄惨な殺人現場の写真を見せられても顔色一つ変えなかった。
それどころか、マジマジと細部まで見ている様子なのだ。
取調室に来た女の中でも彼女はまだ若く、記録係が思わず二度見する器量をしている。
燐と、堂々としており・・・普通の男なら少し近寄り難い雰囲気を持っていた。
「どう見ても___人の所業とは思えない。」
「___火影様なら・・・見解も違うやもしれませぬな。」
「何・・・・?」
「ともあれ・・・イビキ殿。私の所業でもない。」
そう云った女に俺は言い返す事が出来なかった。
記録を読んだが___この女にはそう云った過去がある。しかし、
極秘に行われた禁術で抜き取られた部分がある為にヘタな事は言うなとのお達しである。
詳しい事は聞かされていない、此処へ呼んで差し障りない程度調書を取って待っている所だ。
八香と言うこの少女___白か黒か、俺には今の所見当もつかない・・・。
その時、やっと五代目が到着され、ドアが開いた。
「____お早う御座います。何故に私が此処へ?」
「___これから説明する」
八香がサラリと5代目にそう云い、見据える。その後から山中いのいちが入ってきた。
彼女を見て頷く辺り、彼は女を信じている様だ。そりゃ・・・頭の中を覗いた仲だからな。
「お前が呼ばれたのは__以前、飲み屋街で絡んだ、3人が犠牲になったからだよ。」
「あの3人が・・・。」
机の上に置いてあったままの写真に目を落としたが、それをいのいちが裏に返してしまう。
見上げる彼女から視線を逸らし、彼は眼光鋭く俺に向き直ると口を開いた。
「死亡推定時刻は朝の4~5時と聞いたが?」
「ええ。」
「八香さん、済まないが読ませて貰う事になる。」
「お任せ致しましょう。」
何の躊躇いも無く、女はいのいちに身を預けた。疚しい事は無いと云うのか。
瞼を閉じ____深呼吸してる。
「えッ!?____そんな事が__!?」
「アッ」
「 「 ??? 」 」
突然の素っ頓狂な声に此方が驚く。無表情だった女の・・・口元だけが尖り出す。
彼女の額に手を当てた彼が相当慌てて、いや、両者、赤くなるとは一体___?
「いのいち様・・・! ソレはプライベートな事、心配要りませぬ故;」
「いや、いくら何でもちょっとソレは早過ぎやしないか?御国の殿様にも相談がいるだろ?」
「そのバカ殿が唆したので御座いますよ、でなければソレなど有り得ませぬ。」
「それにアイツまで・・・! ヤツにもソレ云われたのか? ん!?」
「え______いや、ソレは・・・・まだ・・・・。」
「オイ___さっきから何だ!ソレって気になるだろ!いいから早く肝心な事を!」
「コホン__申し訳ありません・・・イビキ、調書はとってあるんだな?」
「はい。」
何だ今のは;まるで自分の娘の恋愛事情を知ったかの慌てっぷりだったな・・・。
ウズウズを押さえた五代目は目を細め、机に頬杖のまま呆れていのいちに注意を促してる。
彼は気を取り直し深く、深く入り込めば女ももう言葉を発せなくなっていた。
「___4時に起きて朝のサービスの準備、若い娘と一緒に支度をしてる。
時計を見ながら5時過ぎ、果物を剥きつつ・・・カウンターを拭きながら踊る娘に
「ホコリが立つから踊るな」と注意をして__用意した全ての小鉢の数を確認。
落ち着いた6時、二人でお茶を啜って・・・最初の客はコテツだな。鍵を渡してる。」
「その時、コテツは何と?」
「ゲンマの着替えを頼んでる様だ。___どうだ?」
「白の様ですな・・・。」
今朝取った調書の通り___何一つ嘘は無い。誰が踊ってたかは聞いて無かったが。
五代目にも目を通して貰い、「問題ない様だ」と返答を貰った。が。
「云わない事ではない___やはり災いの火種となったか。」
「______!」
「何しに来た。」
ダンゾウだ・・・。今や根は解体され、前ほどの地位は無いとは云え威厳は存在か。
いのいちに彼女を連れ出す様、綱手様は目配せされる。
ドアを閉めた俺はその場に残り、五代目である彼女の後ろに立つ。
「里外での八香暗殺に失敗し、三代目の命により、一切の接触を禁じられた筈だ。」
「三代目亡き後、無効だろうと思っておったが?」
「なら__五代目のアタシの名を持って”継続”とする__いいな!?」
「全く甘い事だ__殺め方を見れば一目瞭然であろうに。」
「もう一度失脚したいか___?現場で火薬の微量な臭いを犬塚が確認してる。それにだ
八香はもう、その”殺め方”もろとも記憶していない・・・知らなかったんだろ・・・?」
「_____________!」
ニヤリと笑う五代目・・・まさか、最初からこの男を疑っていたのか・・・。
八香の記録には禁術を受けた事はもちろん記載されていない。
失脚してからはすっかり蚊帳の外だったと云う事を思い知っただろう。
「無駄な事・・・綿に着いた火を摘んで捨てたに過ぎん・・・。」
悔し紛れにそう云い残し、ダンゾウは帰って行った。
彼女はドアを一瞥した後立ち上がり、写真を表に向け眉を顰めてる。
「3人も犠牲を払って八香を陥れる事が”木の葉の為”だと云うのか?馬鹿め・・・!!」
取調室の机が一つ___廃材と化したのは云うまでも無く・・・・。
「なるほど____そうか・・・・。」
俺が見てしまったのは、八香が見られては困る二つの場面であった。
家まで送って行く途中、悩みを打ち明けられた俺もどうしていいやら・・・。
「私にはまだいろいろ早いと思うのです。自分の感情もまだ理解もできておりませんし・・・。」
「そうだな・・・年齢的にもどうかと思うぞ?」
自の国ではそうかもしれないし・・・此処でもまぁ行かなくない歳ではないだろうが。
両者ともいい男なのは解りきっているが___もし俺が親なら・・・ゲンマを推すかもしれん。
カカシは・・・確かに慎重ではあるがその反面、無謀な事をする事も多い。
娘が悲しみで不幸になるのは避けたいと云う親心だ。
それに何となくだが・・・話を聞いた雰囲気じゃ、カカシには彼女を取り合う気も無さそうだから
案外スルっと身を引いて、ゲンマに譲るんじゃなかろうか???
「不謹慎だとも思えるのです・・・左門様がお亡くなりになって一年と三ヶ月。
浮いた話になってしまって良いものかと・・・後ろめたさを感じずにはおられぬのですよ。」
まるで若くして、未亡人の様な事を言う。それだけは確実に”愛”であったと自覚があるのだろう。
なのに___と言葉が続いた。
「”後追い”しようとした私を___この世に引き戻して下さったカカシ殿の、変わらずな優しさに
触れる度、まるで指先の小さな火傷がヒリヒリする様な些細な痛みを何処かで感じておるのです」
「これは”進歩”したと云う事でしょうか?」と・・・真面目に聞いてくる。
思わず頭を抱えたくなる___これはカカシの方が一歩優勢か。しかも彼女は解っていない。
その、些細な痛みが”仄かな恋心”だと云う事に。経歴はどうあれ___まだ少女。
その感情の正体が解らぬまま、ゲンマとのソレを無責任に推してしまう訳にはいかんなぁ;
「此処だけの話、理由はどうあれ一度は断ったんだ。今の所、正解だったと思うぞ?」
「ええ。それより、いのいち様。今日は助けて頂いて本当に有難うございました。」
「いやいや。また何かあったら云ってくれ。じゃ・・・・!」
格子戸前にて腰を折り、見送ってくれる彼女に手をあげる。
肩こりを覚えて首を回したりしてみた。慣れない乙女の悩みなんて聞くからだ;
(ウチの子も___いずれそんな悩みを俺に打ち明ける様になるのか・・・?)
イヤイヤイヤ、まだ早い!早過ぎるッ!___思わずブルブル顔を振ってしまうのであった。
(お頭様は今頃戻っておいでだろうな、急がねば___)
火影様に聞いた所、無罪放免で直ぐに釈放されたとか。どうやら行き違いになった様だ。
まぁ出たついでとばかり、夕食の買い物しちゃったのは不味かったな;
でもシャンプーの調合を済まして置いといたからご機嫌は損ねないハズ・・・。たぶん。
「スミマセン、私___まだ用事が・・・・。」
「え~;いつも急いでるじゃな~い?あの先生はちょっとコキ使い過ぎじゃないのぉ?」
「はは・・・、いや特にそうでも・・・。」
困った・・・苦手な乾物屋のオネーサンに腕を取られた;
急いでるフリするのは貴方が怖いからですよ。と、云えたらどんなに楽か。
「あら、紫紺くぅんw 今日はお使いなの?」
「ウチにも寄ってきなさいよ~。先生好みのお茶が入ったんだからぁ~w」
(魔のバミューダ商店街一角・・・・!)
和菓子屋の若女将に、お茶屋の未亡人・・・!
1人として年相応な人がいない、この海域で腕を捕まれて、めっちゃ引っ張られてる・・・!
「あ、いたいた!お兄さん、ご注文のお花、もう見繕って出来てますよ!」
「え?え?」
ぱ!と手を取り、熟女の渦から強引に引っ張り出してくれた少女___誰?
オネーサマ方が思わず手を放したあたり、この子を知っているのだろうか?
「あの・・・君?」
通りを抜けた所で少女は立ち止まり、くるりと振り向いた。ペロッと舌を出して。
「ふふッ、お兄さん困って脂汗かいてたから!」
「あぁ・・・そゆこと・・・。でも助かったよ。有難うね。」
「私はそこの花屋の娘よ___じゃーねーw」
そう云ってバイバイすると花屋さんの方に走り去って行った。
良い子だなぁ・・・・、きっと親御さんの育て方が良いんだろうなぁ。
見知らぬ私を助けてくれるなんて・・・名前聞いて置けば良かったな・・・、?
(暗部・・・?)
「_____何か御用で?」
屋根の上、数人の面の者らが私を見下ろしている。参ったな・・・殺気か。
侵入された時以外は手を出すなと云われているんだよなぁ・・・。
この時まで誤解していた。面を被った連中は全て暗部の者なのだと。
「返事が無いなら帰らせて頂きますよ、急ぐのでね___」
逃げるが勝ち___云い終わるか終わらないウチに私はその場から立ち去った。
追いかけて来ない訳はないと思ってたが人気ないとこに出るとクナイまで投げるとは。
「なんだ・・・!?」
自の国特産のしなる網鎖で出来たムチを一気にスティックから引き伸ばし、クナイを叩き落とす。
お頭様の暗器は私の仕事___職人である私が使いこなし、初めて人に渡し使い方を教える。
私とて元”裏方の衆”の一人、舐めて貰っては困ります・・・。振り向き様ブン!と首を狙う。
この網鎖で首の骨をへし折るのも実は容易く、殺さない程度と言う方が難しいと云うね・・・;
「____そこまで」
「!? お頭様ッ___?」
「お前に取って大事な主であろう___武器を捨てるんだな。」
顔に包帯を巻いた不気味な男が__八香様の背を取り・・・喉元にクナイを突き着けていた。
まさかの光景に油断した・・・瞬時に鳩尾に一発叩き込まれ、ご丁寧に後ろ首までまた一撃。
「変化だったか____でしょうねェ・・・。」
そこで初めてただの暗部ではないと感じた。自ら作った品を手放す事に。
意識を手放す途中、床ペロならぬ草ペロするとは・・・私もまだまだだなぁ・・・と思う。
屈辱に耐える___お頭様のストレスを身を持って知る事になろうとは___
____コツン・・・響く音に気がつけば一室でイスに括り付けられていた。
杖の音だったか、さっきと同じ面々がおり、中でもブキミな男はイライラしてる様に見えた。
「今___何時だ」
「1時過ぎです」
「人質がいると言うのに遅刻とは____」
ガチャン!!!
ガラスを割る音に男の言葉が遮られる___窓ガラスを割って入って来たの鷲?あれ越後屋!?
お頭様の伝達か?口に咥えていたものを唖然とする彼らの足元に落とし、またガチャン!と
大きな穴を開けて飛び去って行ったではないか;;流石、飼い主に似てやる事が酷いのである。
「____これは・・・。」
「・・・・・・! 舐めた事を・・・!」
文を広げて私の足元へと投げ付ける。「1時」と書いてある所に大きなバツ印の下に。
『2時に変更願いたく候』______________オイ。
エェ・・・罠に嵌って捕まった私より、まさかの予約の患者優先!?
んま____あのお方らしいっちゃ、らしいが・・・。それにしても雨が降りそうだってのに
あの窓どうすんだろ、風が木の葉を取り込んでは中に入って来てる____ん?
(柊の・・・葉!)
「なんだ!?」
「うわっ!?」
茶色い枯葉に混じって緑の艶やかな葉に気がついた刹那、室内に竜巻が発生した!?
いや、吹雪だ____それも、猛烈な。その風圧に私まで見込まれそうで足を踏ん張ってる。
・・・・シーンとなる場に目をそっと開ける。珍しい格好をしておいでのお頭様が目の前に。
「___お似合いですよ、その白い羽織。陰陽師っぽい人に見える。」
「寒くなるだろうと思うてな___雪羽、偉いぞ。」
またそんな冗談を・・・まだ、大事に取っておられたんだな。左門さまから貰ったその羽織を。
さらさらと雪と葉っぱが混ぜ合わさり幼女と成す。八香様が指を差した私の縄は一気に解けた。
見れば部屋の全てのものが凍り着いている___これが”式”となった冬の化生、雪羽の力か。
だが何故・・・、あの男だけ、凍らせなかったのだ?
「貴殿が___ダンゾウと申すか。何故かの・・・その名、どこか記憶するのだが・・・!」
「お頭様!?」
「甘かったな・・・! お前に話す事は何もない。大蛇丸に引き渡す前に少々甚振ってやろう。
その小生意気で無礼な態度を反省する様に______!?」
瞬身で現れ、八香様の小さな顔面を片手で鷲掴みしたブキミ男も私もギョっとした。
額より上の辺り___・・・掴んでる男の指の間から___光が!?
「____________その目・・・!!」
何らかの封印術が開放された・・・!? 女の頭に浮かぶこの術式・・・あれは、うちはの___
そう思った矢先である。呪印が暴れたか痛みに耐えた女がカッと目を開けば赤い万華鏡写輪眼が。
指の間からジロリと見上げる、女の異様な視線に思わず手を引いてしまう。
『_____ダンゾウ、久しぶりだな。』
「その声____イタチか・・・・!?」
「お頭様・・・・・・!?」
女の口から、何故か男・・・イタチの声色で話をし出したではないか・・・。
「聞こえているのか___?」
『勿論、見えてもいる・・・この女の目を通してな。今の所、余計な事はしてない様だ。』
「一体・・・何故・・・・!」
『この女に手を出して貰っては困るからだ、お前が本当に里を想うならな。』
「何・・・・!?」
『間違っても___大蛇丸にだけは渡すな。予告して置くが___里は滅亡を免れないぞ?』
「_________!」
『保険としてお前相手にだけ、彼女の力を解除する・・・頭を吹っ飛ばされない様にな。クククッ…』
「や、やめろ・・・!」
『コイツは”式を”使う___遠隔でも人を殺めるだろう・・・気を付けろ?』
「イタチ・・・・!貴様・・・!」
『俺はいつでも見張っている、コイツの目、そして四方八方からな・・・。約束は守って貰う。』
サァ・・・と、女の目が元の薄紫に戻る。ガクリと膝を崩し床に落ちたが____
うな垂れたまま、バ!と片手の平を此方に向けおった・・・・!?
「よ、止せ!!!」
サラリとした髪から、鋭い眼光____殺気に纏わり憑かれ足を取られた。
動けぬ・・・!このワシが・・・!?
「!?」
ブクリ!首からの血管がブクリ!ブクリ!上に向かって浮き出すのが解る間の恐怖・・・!
顔がどんどん腫れて行く・・・! このまま・・・・!!!