聖なる夜に君を想う。 作:ふま
「__________その位にしといて下さい・・・!」
「お前・・・・!」
「テンゾウ様・・・・・!」
僕は咄嗟に八香さんの腕を掴んだ。様子を見ていたが、まさかこんな仕掛けがあったとは・・・。
その本人は彼の術の為の負担か、今まだ四つんばいのまま肩で息をしている状態だ。
「私利私欲で動くあなたの為に___彼女の手を汚させる訳には行かない。」
「この・・・恩知らずめが・・・!」
「あなたは火影様の命令に従えなかった。厳重な処罰が待っていると覚悟して下さい・・・!」
此処は嘗て僕が居た所___根の本拠地だった此処も既に廃屋である。
この男は二言目には里の為と言うが、僕はもうそんな事を信じれる程・・・子供じゃない。
ダンゾウを睨み付けながら彼女を立たせると___八香は顔を上げた。
「次は殺す____」
そう云っただけでダンゾウは大きく体を揺るがしている__余程の恐怖だったか。
まだいつもの彼女ではない、これはイタチの憎悪の名残り・・・・。
「___申し訳ありませんが。」
「それはっ・・・。」
紫紺が思わず声を上げる。
先輩から預かっていた、”角大師”のお札だ。僕は躊躇い無く、それを彼女の背に貼ったのだ。
糸が切られたかに全身の力を奪われて身を崩した八香を僕は抱き上げている。
「もしもの時の、制御用に借りていたんだ___さぁ、帰るよ。」
腰を抜かした無様なダンゾウに一瞥くれ、僕らはその場を後にした。
「ご無事で・・・!」
家に戻ると夏風が胸を撫で下ろした笑顔で迎えてくれた。
八香様はお札を剥がされても尚、目を覚まさず直ぐに寝室に運ばれた。
枕元に立った小さな雪羽は布団に噛り付くかにその白い顔を眺めてる。
「その、イタチと云う男___お頭様を見込んで、木の葉に仕向けたのでは・・・。」
「なんとも云えないな・・・僕も彼を良く知らないもんでね・・・。」
あの男に触れられた時点でスイッチが入った様だった。
普段のこのお方なら、悪意を感じた時点で容赦なく袖口にでも発火させている。
「僕にはまだ用事があるので・・・直ぐ、代わりを遣すよ。」
「ええ___」
お頭様が目覚めてもまた、イタチの念を抱えたままなら危ない。
恐らく、私ではお頭様を抑えて置くのも無理だとの判断だろう。
その為、お札を置いたまま彼は部屋を後にした。
「紫紺様、イタチって悪い人?」
「・・・・・どうだろうねぇ___」
それは私が知りたいよ、雪羽。
以前、カカシ殿から聞かされた、私の知らない八香様の事・・・。
左門様が暗殺された現場から____失意のまま、消えたお頭様のその後。
イタチと言う男に・・・何故に心をお許しになったのか・・・。
このお方の判断は良い悪いしか無かった。故に、偏った判断もあったかも知れない。
(まして___正常でなかったと云うなら、尚の事・・・。)
______コンコン!
「___!」
窓を叩く音・・・見慣れた人物が窓の外、手の平を挙げている。
「はたけ殿____!」
「聞いたよ。___まだ・・・目覚めてないか・・・。」
中に招き入れると彼は雪羽の頭をクシャと撫で、ベッドの八香様を覗き込んでいた。
「これでも急いで任務を終えて来たんだが___遅くなって済まなかった。」
「いえ___テンゾウ様が助けて下さったので事無きを得ました。」
「みたいだね。俺もそれを聞いて___ん?」
雪羽がはたけ殿の足をクイクイ引っ張り、八香様を指さした。
お頭様の眉が___ピクリと動いたのである。
「八香______」
「カカシ殿・・・・・・?」
「お頭・・・・っ!」
一旦、目を開けられたものの頭痛を感じたかまた瞼を閉じてしまわれる。
「私は一体_____」
「ダンゾウと云う男に術を掛けられる寸前、テンゾウ様が___」
イタチと言う男に、操られてたと言う事は伏せて置いた方が良い。
その意識さえ、記憶しておいででは無いだろうから・・・。
「もう大丈夫。テンゾウが頑張ってくれたからね・・・!」
「・・・・80両、チャラにする勢いか?紫紺。」
「ええ、まぁ・・・;」
苦笑いしてしまった。その前の事は覚えていらっしゃる。
はたけ殿がその時、私に指で合図なさった。二人きりにさせてくれないかと。
「お頭様もご無事だったんだ。____夏風、夕食の用意をしましょうか。」
「___帰ってみると、クナイで刺された文があって・・・。」
八香はそれを見て・・・下準備をしてから指定場所に急いだそうだ。
彼女は木の葉の忍相手に”殺生をしない”よう___滅多に着ない羽織に袖を通した。
ハンガーに掛けられた、白い絹に紫の紐の通った・・・美しい、陰陽師らしき羽織。
亡き左門が、彼女に送ったものだそうだ。
「左門様は、私に陰陽術を教える事で”殺さない”選択肢もあるのだと諭したのです。
巫女に祀り上げられた12になる迄___お恥ずかしい事に、考えた事も無い事を・・・。」
ベッドの上、顔を俺に傾けて目を細める___笑う事の出来ない、彼女なりの笑顔。
だが裏のお役目の為、結局は武芸に頼る彼女に左門は諦めてしまったのだとか。
しかし一癖も二癖もあるあの男に、最後までその意志を貫けただろうか?
今回はある意味、イタチに助けられたと云っていい。
紫紺に大した危害を加えていなかったのが幸いし、ダンゾウは命拾いしたのだ。
「これからは、もっと俺達を頼りなさい? 全く君は無謀なんだから・・・。」
「申し訳ありません、・・・急いでいたもので。」
本当に腹が立つ位____彼女は人に頼ろうとはしない。
身内の事は身内で解決しようとする姿勢はまだ少女ながらに立派だとは思う。
「次からはそんな言い訳、許さないよ? いいね・・・!?」
だが、その頑固さが危ういのだと・・・今までにない厳しさを持って八香にそう云った。
イタチが、彼女を操る事が出来ると解った今、焦燥感を露にしてしまいそうになる。
事情は云えない。ただ単に大人の立場から言い聞かす事しか出来ないもどかしさ。
たぶん、それだけじゃない___あの時、初めて感じた・・・己の嫉妬心を思い出す。
「俺に謝る事の無い様にして欲しいんだ___心配させないでくれ。」
頬を撫でる俺の手に少し顔を傾け、彼女は頷いた。
もう少し・・・甘える素振りでも見せてくれたのなら俺ももう少し踏み出せそうなんだが。
チラリと羽織に目が行く。八香はまだ、左門を忘れられないのだろう。そんな中、
俺やゲンマの気持ちは受け取るものの、それをどう返して良いのか解らないでいる。
そっちの方も何か手を打たないと、あの男に押し切られてウッカリ、”デキちゃった婚”なんて事も十分あり得る。無神経なガイに「結婚祝いは何にするんだ?」と聞かれたり、煙草を燻らせた男に肩を叩かれ「ドンマイ」と呟かれるとか_____考えただけで、もうフラフラだ。
「ただでさえ君は俺に心配させているんだ、ちょっとは安心させて欲しいもんだね。」
「_____私が、何か他の事で・・・?」
覚えの無い事に少々慌てたか、身を起しカーディガンを寄せようとする。
それを肩に着せてやると傍に座り、小さな頭を手の平で引き寄せた。
「他の男との距離が近過ぎるのが、チョット・・・ね。」
「・・・・・ちょっと・・・?」
「正直、嫌だ。」
溜息を吐きながら俺も僅かながら本音を云った。ストレートに云わねば通じない相手だ。
それをこの間、痛感したばかりなのである。
紅が云うには_____
『バカね・・・! そう云われたらまるで”ソッチとくっ付け”って云ってるのと同じよ?』
誤解されて当然だと、こっぴどく叱られた; 自惚れでなければ___怒ってたんじゃないか?
「時々しか現れない男が・・・我侭を言ってるいるんだ____」
「カ・・・、」
「君は・・・どう思う?少し考えてみてくれ。」
思わず、胸にいる彼女の口元に当てずっぽに指を立てた。目の前のこめかみに唇で熱を感じてる。
今は黙って___君自身の気持ちを見つめて欲しい。
ピク・・・と動く肩。待っている間、俺は暖かい感触を口角から首筋まで滑らせてた。
腕の中で体が震えればついマスクをずらして片手でボタンを外し、鎖骨にまで触れてしまう。
「______!」
ビクン!と大きく揺れたものの、彼女はまだ何も言ってはくれない。
やはり痣のある辺りにトラウマがあるのか___体が強張り出している事に気が着いた。
あの時もそう・・・八香は痣に敏感に反応し、ナカで___俺に甘い苦しみを与えた。
「___許せる? そんな事を言って・・・君に”触れたい”気持ちを抑えられない俺を。」
「・・・・・・。」
「それだけでも聞かせてくんないか・・・?」
「私_____」
コンコンッ! ガチャ!
「お二人共~、食事の用意が・・・、あれ?はたけ殿?何でそんな隅っこに???」
「いや____この本、とても興味深いねぇ・・・。」
「”葉っぱが死ぬ話”にキョウミあんですか・・・そしてお頭様?そんなに寒いのですか?」
「風邪かも____紫紺、体温計を頼む」
俺は本棚にあった八香の本を手に開き壁際に、彼女は布団を被っちゃってる;;
疑ってる目のまま、体温計を取りに行く紫紺に二人ともが安堵の溜息を着く。
「幸せだと____思ってしまうのです・・・だけど・・・」
「・・・・・! だけど・・・?」
「いけない事をしているかにも思えます・・・・。」
戸惑いがちに口を開いた八香がそう云った。どこから来る罪悪感なのだろう。
俺が大人だから・・・? それとも・・・左門の事があっての事か。
「八・・・・、」
「全く___常から薄着し過ぎですよ貴方は・・・!」
「うん、そうだぞ? もっと暖かい格好をしなさい・・・?」
もう戻って来た_____なんとなくでいいから、空気読んでくれ;
紫紺も帰り、夏風も庭に戻り___雪羽もお腹いっぱいで眠ったその夜・・・。
あの嵐の夜以来、初めて・・・カカシ殿は私をお抱きになった。
明日はお休みだと云う事だったが・・・不安もあった。
体から発してしまう、香り。どうしようも無く___溶かされては放ってしまう・・・毒。
だが今回は・・・彼もなんらかの術で対抗策を立ててくれた様だ。
激しさには変わりなかったが・・・コトの最中、解っておいでなのか・・・手を握った。
そして何より、腕の中で休ませてくれる余裕を与えてくれた。
「俺はけしてロリコンじゃない。君を、大人として扱ってるツモリなんだ・・・。」
汗ばみ、冷えてきたお体を___温めるかに私はその胸に寄り添う。
私とて、このお方が愛おしい・・・だが、彼も控えている言葉を私が囁く訳に行かず___
黙ってただ___頷いた。手を握って下さっていたのはそれを悟らせる為だと思うから・・・。
カカシ殿も恐れておられるのだ____自身に、弱みが出来る事を。
サスケと云う少年にも、だから・・・嘘をおつきになった。
「我慢できなかった俺を許してくれ・・・君を____俺は____」
「・・・・。」
そっと、彼の口に・・・私も指を立てた。見つめて下さる__その視線だけで十分だった。
私を拾って下さり、愛情を注いで下さった___優し過ぎた、木の葉の忍・・・。
「私は、この上無い___果報者で御座いますよ・・・。」
殺戮者であったと知りながら___こうも、愛しんで貰える。
左門様亡き後・・・この様な御仁に求められるなど___もう、無い事であろう。
私の事は少し、愛して下さるだけで良い・・・贅沢で、十分過ぎるのだ・・・・・。
「カカシ殿___もう眠りませんか」
「あぁ__そうしようか。明日また・・・。」
「ええ」
長引いた任務で本当はお疲れなのだ。なのに、こんな時間まで; 休んで頂きたい__。
その夜___俺は夢を見た。
八香が、俺の手を取り・・・ふんわり、笑ったんだ。
夢にまで見た、彼女の初めての笑顔に心ときめいた。なのに、君は。
『カカシ殿___どうか、お幸せに・・・。』
何を云うんだ・・・・?
それは一体___どう云う事・・・・!?
「・・・・・・っ!」
俺が目覚めた、朝方の4時______ハッとなる。
さっきまで腕に抱いていた彼女の温もりは無く・・・・!
「八香ッ・・・・・・・・!?」