無銘
森の中で1人うつ伏せになっていた。胸が何かにぶつけた様でじんじんと脈打つように痛む。木の根にでも足を引っ掛けたのだろうか?
立ち上がれるようになるには少し時間がかかりそうなので、息のしやすさも考えて仰向けに体を捻る。腕もぶつけたようで痛みが走る。
痛みを耐えながら仰向けになると周りの状態や景色が見えるようになった。
そこは森の中のようで草や土が腐ったのような匂いがして少し気分が悪くなる。あまり山に行ってないのもあるのか、それを強く感じる。
さらに周りを見ていくと、テントがいくつも張られており、ここで寝泊まりをしているのが分かる。距離があるので中に人がいるかどうかまでは分からないが、テントを放置して場を去るということはないだろう。
テントに近づいて入り口を開けると、中には誰もいない。このテントの持ち主は別の場所にいるようだ。
他のテントも同じように確認をしてみたが、やはり誰もいない。熱のこもり具合からすると、これらのテントを設置してからそれほど時間は経っていない、または使う度に干したりしているのだろうか?
バキバキと木の枝が折れた音が聞こえた。何か動物がきたのか?いや、テントがある。動物が自分から危険な所に来るのは考えずらい。十中八九このテントの持ち主だ。
知り合いかどうかは見てみないと分からない。一度テントの裏に隠れよう。
「あれ・・・?誰かいるように見えたんだけどなぁ」
「山の出口を探しに行ったけど結局見つかんなかったから帰ってきたんだろう。あれだけ大口叩いたんだ。そう簡単にはみんなの前には顔は出せない」
「そういうもんかねぇ」
「久し振りにコケ以外の食い物探すぞ。俺はストレスでまともに喉が通らないからそういう物でもいいが、
「あなたが冷静にいてくれるから俺も冷静にいられるんだ。感謝してるよほんと」
2人は自分たちが使っていたのだろうテントの中を確認すると、また森の中に入って行った。何が目的で一度戻って来たのだろうか?やはり誰かの姿が見えたからかもしれない。
テントは他にもある。ということは他にも同じように食料を探している人がいるはずだ。先ほどの2人の行った方向とは違う方向に行ってみよう。
そう思い足を動かしたその瞬間、足元の土が金属製の床に変わっていた。いきなり別の場所に飛ばされたのかと思ったが、テントはすぐ側にある。つまりは・・・・・・先ほどのまでいた場所は実際は森の中ではなく、建物の中ということか・・・?
ならば彼らはなぜ壁にぶつからずに移動出来たのだろうか?2人が進んだ方向は確かに壁しかない。ということは彼らは壁を突き破ったことになる。そのあと壁が修復されたと言うことか?
「おい!メルト!走れ!このままじゃ追いつかれるぞ!」
「かっ、はぁはぁはぁはぁ・・・待・・・って、くれ・・・!
「——————っつ!なら俺が殿をする。お前はそのまま走れ!それならいけるだろっ!」
目の前に人がいるにもかかわらずそれに見向きもせずに走っていく。こちらが避けたから問題にはならなかったが、もし反応が遅れていたら激突し、あちらを追いかけている何かにこちらも巻き込まれていただろう。
メルトが走って行った方向とは別方向・・・つまり
白銀もメルトと同じようにこちらを見向きもせずに追跡してきている何かを待っている。
白銀の右の壁が砕けて飛び散る。それが白銀が待っていた物なのだろうか?だか、こうも壁を壊して追跡してくるのならば、適当な撃退では意味がない。完全に破壊するつもりなのだろう。
そんな何か分からない物を見て手が震える。怖い。どうしてかは分からないが触れられて攻撃されたらもう終わりだと感じてしまう。
なんなんだ?
白銀は化け物がこちらを見つめたその一瞬の隙を見逃さなかった。化け物の首元を掴み壁に叩きつける。
化け物の首は壁にぶつかった時に折れたようで普通なら曲がる筈のない程に曲がってしまっている。
・・・・・・何も感じないのか?化け物とはいえ生き物だぞ?無邪気な子供じゃあるまいし、殺したら普通何か思うところがあるだろう。それとも、そう思っている時間がないほど切羽詰まっている状況なのか・・・・・・。
白銀はメルトの後を追いかける。こちらも追いかけようとするが足を引っ掛けてこけてしまう。何があったんだと足元を見ると、腕に掴まれていた。白銀はもう別の場所にいる上こちらを掴む理由もない。もし掴むとしても、肩を掴めばいい。つまりは・・・・・・。
その先、腕の先をずらすように見ていくと、こちらの足を掴んでいたのは、首が折れて息を止めた筈の化け物だった。
首は未だに曲がったままだが、どうやって動いている——————ゴキッィ!——————足が、膝が潰れた。声にならない音で悲鳴をあげる。
こちらがもうこの場から離れないと見たのか、化け物は身体を這っていく。そして頭と頭が出会う所で動きを止めると、右腕を大きくあげる。勝利を表したいのだろうか。
腕を天高くまで上げるとそこでこちらの景色は後頭部に衝撃を感じながら黒に塗り潰された