視界が歪む。何があったんだろう・・・?
歪んでいるからそう見えるのか、見えるものが横向きになったように見える。
何か音が聞こえる。・・・・・・聞き取れない。黒いもじゃもじゃを前後に動かしながらボクの身体が揺れる。
耳鳴りが段々と弱くなって来てくると、やっとそこで黒いもじゃもじゃが何か理解出来た。ピライ君だ。多分ボクの意識を早く戻そうと身体を揺らしていたんだろう。
「ぴ・・・・・・ピライ君・・・・・・」
「おおぉ・・・!戻ったか?痛みはないか?痛むなら背負うぞ?」
ピライ君が頭にガラスが刺さっていた所から推測して、多分別の車と衝突したんだろう。ピライ君はちゃんとシートベルトを付けていたから意識が早く戻ったみたいだけど、ボクは付けていなかった。それが、差になったんだろう。ボクはBOWなんだけどね・・・。
車から引っ張り出されて立ち上がると、至る所から火が轟々と吹いていた。ボクらのように事故を起こしてそれが火種になっているものもある。
「あんま周りは見ない方と思けえ、このままおやっさんの所行くんじゃ」
ん?なんかピライ君の口調が変だぞ?訛りかな?でも今まで聞いたことがないぞ?でも、気にすることでもないし、無視だ無視。
逃げ惑う人々と共に、BOWがいないところに逃げる。更にそこに暴走した車が来て何人もの人が轢かれて血を飛ばす。
「・・・・・・・・・」
無言で走り続ける。どれがどれがBOWなのか分からない。校舎にいた奴や、僕の方がいた場所にいたBOWはまだ判別し易かった。だけど、街の中にいるのは僅かに変化しただけだから、止まっているのならまだしも、動いているのは分からない。だから逃げることしかできない。怪我したり動けなくなったら、無視してBOWの撒き餌に使う。それが一番自分の身を守ることになる。非情だけど、それしかいま取れる最高の行動だ。最低の行動でもあるけれど。
「だれか・・・だれか・・・・・・!」
声が微かに聞こえる。女性の声だ。悲鳴ではなくちゃんとした言葉だ。ピライ君に聞こえたかどうか視線をピライ君に向けると、首が横に振られる。
———辞めとけ———
そういう意味で振ったんだろう。自分の命さえ守れるかどうか分からないこの状況で、人を助けるなんてその助けた人も自分も死ぬ原因になるから辞めといた方が、後悔だけで済む。という意味もあると思う。
だけど、ピライ君は忘れてるのかな?ボクがBOWだってことをさ。使われているものが多少違ったとしても、抵抗はただの人間よりは強いはずだ。それを利用する。さっきまで考察したのは、一般の人はっていう前提だ。ボクには当てはまらない。
「ごめんピライ君、先に逃げといて!後から追うから!」
「辞めろ!BOWの罠かもしれないんだぞ!」
「だとしても見逃せない!ボクならワンチャン同士だと思ってくれる!」
「ワンチャンもあるか馬鹿野郎!」
ピライ君が正しいのは分かってる。けど、もう見捨てるのは嫌なんだ。僕と約束したのは友達を守るって事だから。ボクが別方向に行くことで、向こうも何体かこっちに分散される。そうすれば、あんな大型のBOWと一人で戦ってたピライ君なら逃げるのは容易なはずだ。それを信じる。
実際のところはただ満足したいだけ・・・なのかもしれない。
「頼むよ、ピライ君。行かせてくれないかい?」
「・・・・・・・・・・・・
口調がいつものに戻ってる。冷静に物事を考えられてるってことだよね。なら大丈夫。
「問題ないよ。逆に君より早く店長の所に行ってあげてもいいよ?」
「けっ!言ってくれるぜ!それじゃあ競争な。早くついた方の勝ちって事で」
諦めたんだろう。だからちょっと遊びを混ぜたボクの提案に乗ってくれたんだと思う。
一度、ピライ君と別れてボクは声のする方向に足を進める。目の前には何体ものBOWがいた。もうダメだと心の奥底では思っていたけれど、念のために確認に行く。死んでいれば、ボクだけでも弔ってあげたいしね。