逃げる人を避けながら声のする方向に走る。さっき聞いた時より声が小さくなり、僅かに聞き取れるぐらいだ。悲鳴がさっきの場所より大きからってのもあるけど。
「すいません!そこのお兄さん!」
声が後ろから聞こえた。通り過ぎてしまったようで後ろを振り返ると車の下敷きになっている女性とそれを助けようとする子供がいた。
下敷きでも足だけでなおかつ端の部分だったらまだワンチャンがあると思うけど、胴体に乗ってしまっている。これは助けても・・・助からないよね・・・。
「お兄さん。この子を助けては頂けないでしょうか?なにかを差し上げるということもできませんが」
「諦めないで下さい、奥さん。何か方法が・・・」
「もう無理ですよ。もし方法があってももう足に感覚がないんです。逃げることなんて出来ません。だから」
それはボクのような素人目でも理解出来た。けどせめて・・・。
「ミミカ。このお兄さんに付いて行けば大丈夫じゃけえね。私のことは心配しないでええからな」
「ママァ!!うち!うち!」
家族と別れるのは辛い。その気持ちは痛いほどわかる。けどボクは一人でも助ける為にここにいるんだ。悪いけど、奥さんの言う通りだ。
覚悟を決めて子供を担ぐ。BOWが思ったよりも早くこの場所に集まってきてるみたいだ。食い物になる餌が手に入りやすそうなのが、分かったからかもしれない。
「あああああああぁぁぁ!!!!!」
背中を叩かれる。当然だよね・・・目の前で親が食われているところを見て何も思わない訳がないもんね・・・。
唇を噛み締めながら一般的な原付並みの速さで店長の会社へ向かう。歩道や車道では事故に巻き込まれる可能性がある。ボクならワンチャンっと言ったところだけど、今は子供を背負ってる。轢かれればゲームオーバーだ。運良く住宅街なので、屋根を忍者のように走っていくが、その後ろをBOWたちが追いかけてくる。そこまでして一般の人を襲いたいのか・・・?ボクにはそんな感情はないのに。
「ボクもいつかはああなるのかな・・・」
そうだとしても頼まれたからには、自分の意思でやりたいと言ったのだからやりきる覚悟はあるつもりだ。
「あぁぁぁあぁぁぁ・・・」
背中が濡れる。多分失禁だろう。こんな状況でそういうことを起こさないでいられる人は多分経験者だけだろうさ。ボクもいろんな意味で悟りを開いちゃってるんだと思うし。
前からもBOWが数体飛んできたので、屋根から車道に降りてそこから更に走る。だけど向こうのほうがほんの少しだけ速い。背負っていなければ多分逃げ切れるだろうが、自分から言いだしたのだから責任はしっかりと果たさないと。
何か武器になるものは・・・・・・左右を見渡すと、殉死された自衛隊隊員さんが壁に横たわっていた。追い払う程度には使えると信じたい。素早くそれに近づき弾が入っているか確認する。入っているが、多分数発は消費されてるよね。
弾倉を入れ替えて準備万端な突撃銃をBOWたちの足元にばら撒く。ついでに数個の弾倉とナイフを頂戴し、その場を離れてもう一度屋根を走る。
ただばら撒いただけの弾ではあまり効果が無かったようで、すぐに後を追ってくる。逆に武器を持つのが悪手だったか。いや分かってた筈なんだ。
もう一度化け物になるのが怖いからデメリットの大きい行動をしてしまったんだ・・・!
あと少しで店長の会社へ行けるっていうのに!チクショー!
「このおおおお!!!!!」
肩や腰、腹に胸と、普通なら衝撃で動きが止まるようなものでも止まらない。後数センチで子供に当たる。ステップが足りない・・・・・・!
ドッガゥ!!!!!
聞き覚えのない音とほぼ同時にBOWがバラバラに吹き飛び熱いお湯のような血を浴びる。何があったんだ?爆弾が身体の中にあったのか?
「リオン!!!!!さっさとその子を連れてこっちに来い!来りゃあゲームクリアだ!」
ピライ君だ。助けにきてくれたのか?
「ごめん!助かった!」
「感謝は後でいいから急げ!シャッターが閉まっちまう!」
BOWが吹き飛んだ衝撃でボクは倒れてしまったが、すぐに立ち上がって全速力でピライ君と合流する。それまで待っていてくれたようで、すぐにシャッターが閉まった。