少し時間は巻き戻って、
「贇?誰か向こうにいなかったか?」
「いんや。極端な恐怖が生み出したただの被害妄想的な奴だったみたい。それに向こうは行き止まりだったから、逆の方見に行こうか」
「了解だ。なあ贇。オレさ人殺したの初めてなんだよ」
「それ、普通じゃない?僕や
「怖くないのか?」
「怖いよ。でもやらなきゃ自分がやられる。だから割り切ってたんだ」
贇と真野の2人は角から覗きながら周りを見ていく。避けられるものは避けて必要のあるものだけ殺していく。弾丸は極力使わずにナイフで首を切り倒れ込んだBOWの頭を踏み潰す。贇の脚力が特殊なのもあるが、それを躊躇うことなくやっている。
「ふう・・・・・・これで周りの奴はやれたかな?一度休みに戻ろっか」
「あ、ああ・・・」
「付き合わせてごめんね。戻ったら休憩しようね」
「オレがただ付いてきただけだし謝らなくていいだろ。問題は上から脱出出来そうにないから下に降りた訳だけど、出口が見つからないのはな・・・。ピライが一人で———」
「ピライの件はみんなで追い出したんだから、真野が責任持つ事ないよ」
手に持ったナイフの血を拭き取りながら店長たちの元へと足を進める。
もしもの事がないように警戒しつつ集合場所に戻ると、店長以外の人間は横になって眠っていた。
「パトロールご苦労さん。俺が起きとくからお前らも休んでろ」
「んじゃオレはお言葉に甘えて寝させてもらいますわ」
真野は大きくあくびをしながら両腕を上げると、余った座席を倒してそれに横になって眠りにつく。
贇はポットと紙コップに手を付けてインスタントコーヒーを口にする。
「贇は休まないのか?」
コーヒーの温度が高く、あちっと舌を出しながら店長の質問に答える。
「一人で起きてるの辛いでしょうが。僕はとっても良いやつだから一緒に起きといてあげるよ」
ふうふう・・・コーヒーに吹きかけて冷やしながら口を付ける。
「さっき脱出ルート探してたんだけどさ、思うようには見つかんなかったよ。店長は何か知らない?」
「知ってても方向音痴で分からん」
「それ知ってるって言わなくない?」
「まっ時間かけて探せばいいだろ」
こんな極限状態で平常心を保てると店長は本気で思っているんだろうか?贇は経験があるから問題ないのであって、初めてである他のみんなは長時間耐えられるとは思えない。そんなに悠長にはしていられない。
「この3日間のこと忘れたとか言わないでよ?そのおかげでピライを1人にする羽目になったんだから」
「そう言うつもりで言ったわけじゃないんだか・・・」
「僕が言ってるのは、時間をかければかけるほどストレスによる疑心暗鬼が起きる。あの時はピライが責任を全て背負ったからバラバラにならなくて済んだけど、もうこの手段は使えない。無理すれば使えないこともないけど、その場合は店長。君と僕がその矛先を向けられなきゃいけないんだ。時間なんてかけられない」
「それならなぜ贇はここで休みに来たんだ?見つかるまで探せばいいのにさ」
贇は肩が数センチ動くレベルでため息をついた。それを口にするわけにはいかないでしょ。と視線で送るがまあ気づくはずもなく、店長もコーヒーに手を付ける。ちなみにコーヒーは贇とは違い、砂糖入りだ。
「ねえ店長ただ起きてるって言うのもつまんないからさ。ここに降りるときについでに持って来たカードゲームしない?」
「危ない状況なのになんでそんな無駄なもん持ってきてんだよ・・・やるわ」
部屋の角に置かれたリュックから携帯食料と共にカードデッキを2つ取り出し空いた机に置く。
「久しぶりだよねーこれやるの。あっ、カットお願い」
「誰がやるか分かんないのに持ってきてたのか?贇。それじゃ俺のも頼む」
お互いに相手のデッキを混ぜて右側に置く。
「先行貰うよ」
「どうぞ」
時々コーヒーに手を付けたり追加したりしながら他の誰かが起きるまで時間を潰す。
「そんじゃこいつでダイレクト」
「ライフで受ける・・・3戦3敗か。なあんで最近やってない人に負けるんですかねぇ・・・」
「やってないとは言ったが、カードプールとか効果確認をしていないとは言ってないだろ?」
「ただやる人がいなかったから、1人でデッキ回しとかしてたんじゃじゃないの?」
「そんな暇が俺にあると?特にここ最近は忙しかったんだからさ」
何かを思い出すように悲しい表情を浮かべ右肩を摩ると冷めたコーヒーを一気に飲み干す。思い出したくない何かを消すためだろうか?
贇は気にせず終わったカードを集めてもう一度混ぜる。その何かには意識を向けないのか。
もう一度お互いのデッキを混ぜていると、贇の隣で寝ていた池上が目を覚ました。
「んん・・・・・・今何時・・・・・・?」
「僕の時計の時間が間違ってなかったら18時45分だね。そしておはよ池上。なかなかいい時間寝てたんじゃない?みんなが寝る前に僕と真野は外に出てたし」
池上の伸ばした腕を避けながら時間を見て伝える。
「起きたらみんなに伝えるつもりだけど、とりあえず池上には先に伝えとくよ。ここの周りのBOWは可能な限り排除しておいたんだけど、脱出ルートの確保はまだ出来てない。あと数回の調査が必要だね」
「贇だけに任せる訳にもいかないし、俺も誰かが起きたら行くつもりだ。それでちょうど池上が起きた訳だな」
「私が残ればおk?」
「贇はまだ休んだほうがいいだろうし、できたら池上は俺について来てほしい。BOWの対処は全て俺がやる。ただ周りを見ていてくれるだけでいいからな」
「どちらにせよ一度は外に出ないといけないのだから、一度や二度増えたぐらいで怖がっていられない。それにみんなで来たのに2人に押し付けるのは友達じゃない」
ソファから立ち上がりながら身体を伸ばし、コーヒーを入れて飲むが、苦くて顔が歪む。
「苦いんなら砂糖こっちにあるぞ」
「すまない」
店長が渡した砂糖を入れて飲むと、苦みが消えたようで顔が歪まずに全て飲み干した。
「よし!目は覚めた。私はいつでも行けるぞ店長」
「そうか。贇、1人だからって寝るなよ?」
「カードしながら寝たからだいじょうぶいってやつだよ」
贇の返しにそうかそうかと頷きながら、店長と池上は拳銃に手をつけて弾と拳銃の状態を確認して腰のホルスターに入れる。
「そんじゃ行ってくら」
「ほーい」
2人は部屋を出てパトロール兼脱出ルートを確保に向かった。