道中では誰もいなかった。店長はみんなに対してどこで戦闘が、ましてやどこで池上が死んだのか。何体いたのか。その詳しい場所などは伝えていなかった。
敵がいる。それだけならばまだいい警戒すればいい話だからだ。だが、今回は疲労の溜まった身体と、武器を持っていない人間もいる。前者はここにいる間常に受けている状態なので気にするほどのものではないが後者は大きな問題になる。彼らを優先させれば流石に守りきれない。だから守る側に標的が向くように火力に差を付けた。
エレベーターの前に着き、それに殿である修也を除いた7人が乗り込もうとした時、地面が揺れた。
最初は大きくなかったがだんだんと大きくなってくる。これはもしかして何かがこちらに来ているのだろうか?上にいた豚か?だが振動は横から来ているように感じる。穴から追いかけて来たとするなら不思議ではないので、急いで上に行こうと焦って乗り込む。
修也も走ったが振動は非常に強くなり足を踏み外してしまう。助けに来ようとした芹とそれを止めようとした贇がエレベーターから降りた時、エレベーターの右側5メートル先に穴が空き破片が飛び散る。
「芹・・・・・・!」
修也は壁のおかげで擦り程度で済んだが、近くに壁がなかった芹と贇はそれに直撃してしまった。
「・・・ぐっ!——————贇!芹!」
壁を盾に2人に声をかける。だが返事がない。まさか・・・そんな簡単に・・・?
店長たちもそれを信じれずにエレベーターを降りようとしたが、そこでエレベーターが自動で閉まり上に上がってしまった。
それから少し経つと、穴から蟹のような化け物が出て来た。見ただけで勝ち目がないと直感した。
「あ・・・・・・ああああああ———あ“あ”あ“あ“あ”あ“あ“あ”あ“!」
修也は叫んだ。意味もなく。ただ叫んだ。
この状況で悪気があったにしろなかったにしろ、事実上店長たちに見捨てた。しかしそんなことはどうでもよかった。
ただ修也は守りたい人を守れなかった。ただそれに対して自分の不甲斐なさを恨んでの叫びだった。
直感で無理なのは感じていたが、怒りをどこかにぶつけないと気が済まない。右手に銃を持ち左手にナイフを逆手に構える。
蟹のような姿をしているところから、多分離れたところからではあまり効果がないと思われる。だから近づいた。
蟹も敵意を感じたようで攻撃の回避するために爪で薙ぎ払う。
修也はそれを膝で滑りながら避けて、芹と贇の元に転がる。声をかけている時間はない。引きずってなんとか壁のところまで戻る。
「蟹だったのが幸いだった。縦移動が出来ないなら逃げる方法は結構ある。芹、贇、意識はあるか?」
あれだけ大きな瓦礫に直撃したのだ即死でも不思議じゃない。
2人の身体を揺らしてなんとか意識の回復を待つ。だが、蟹も悠長に時間を割いてはくれない。今の形態が無理ならと脚部の関節をガキガキと音を立てて可動範囲を広げていった。
修也の位置からでは前からしか見えない。だがそれでも想像はつく。前の脚と後ろの脚が横向きから縦向きとなり。中の脚を除けばまるで馬の脚の様になっていた。
「・・・・・・!」
このままでは全滅だ。だが放置するわけにも・・・・・・という板挟みに挟まれる修也を嘲笑うかのように、爪を上げる。
蟹の後ろから銃声とそれが弾かれる音がした。位置的に贇が撃てる位置じゃない。たとえ意識が戻っていたとしてもだ。なら誰かが来たのか?
「修也!さっさとこい!2人を助けるのは無理だ。とりあえず今はここを離れる!あとで迎えに行こう」
店長の声がした。他の人の声は聞こえないところからすると、真野たちは上に置いてきたって事だろうか?
「けど・・・・・・」
「優先順位は自分の命だ!それにあんな瓦礫如きで2人が死ぬわけないだろ!」
それでもやっぱり見捨てるなんて事は出来ない。2人を見直す。せめて意識だけでもと贇と芹にもう一度声をかけると、贇はゆっくりと目を開けてうるさいと言いながら修也の肩を掴み腰を上半身を上げる。
「大体の状況は君の見た目で大体分かった。修也、君は芹を連れて店長のところに行くんだ。僕がこいつを足止めする。あの装甲だ。ただの弾じゃ届かないだろうからね。こいつを使う」
胸裏ポケットから丸い野球の球のようなものを取り出した。手榴弾だ。
「エレベーターが往復するぐらいしかやらないから心配しないで先に行きなよ。てか修也が頭揺らしたおかげで吐きうゔっ・・・」
「言ったそばから吐くな!」
「そういう事で君たちが汚れないように後から行くって事で。さあ行くんだ」
修也の肩を支えにして立ち上がると右手の小機関銃を適当にばら撒きながら修也と芹の進行ルートを作り出す。
その思いを無駄にしない為にも、修也は店長の待つエレベーターへと向かい、上へと向かった。