扉の先にあったのは。どこかの広い部屋だった。
「あっ・・・・・・ここは・・・・・・」
そうか・・・夢から覚めたのか・・・。
夢だと自覚したのに続くように身体の疲労や痛みが全身に行き渡る。特に右腕は蟹のBOWにやられたせいか痛みが一段と強い。
「あの後俺は死んだんだよな・・・」
修也は走馬灯では見ることなかった先を思い出す。そして今自分が何をしなくてはいけないのか。それを僅かに機能している脳で考える。
「蟹はいないのか・・・天長たちのところに行ったのか?」
発車した電車を追って行ったようで、他には誰もいなかった。
追いかけなくてはと足に力を入れるが、まともに機能しない。
「あれを使うしかないか・・・」
店長と争った時に奪い取った注射器を僅かに動き左手でポケットから取り出す。
「俺はいい加減いなくならないとな・・・生まれた命を奪って俺がい続けるのはこの身体の持ち主に悪い。記憶は引き継ぐ事になるが、君は修也なんだ。俺とは違う修也なんだ。同じ人物だけど違う別の・・・。聞こえもしないかもしれないが、それでも言う。これを射った瞬間から君は膨大な力を手に入れる。それをどう使うかは君自身に任せる。取り敢えず俺はもう疲れた。それじゃあおやすみだ」
注射器を右肩に射し込むと、一度蛇が穴から抜け出すように皮のない筋肉が作られると、剛と燃え盛る炎が右腕のみならず顔の右半分までを飲み込んでいた。
冷たさも暑さも感じない。空気が触れて痛みが感じるわけでもない。表面がただそうなっているというだけだろう。
修也はその腕を使って立ち上がる。見掛け倒しなハリボテではなく本物の腕であることは使って自覚出来た。
右腕以外は何も変わらないが、動けないことはない。痛みも腕が生えてきたことで落ち着いたのだろう。思考速度も戻り、店長たちが向かったであろう出口に向かうため、近くの電車に乗り込む。
電車の連結器を取り外し先頭部のみにし走り出す。何も持たない電車は速度を上げて後を追う。
「あのカニヤロー完全にこっち狙いじゃねえか!行きてるやつは皆殺しってか!?」
先に逃げた店長たちを追う蟹型のBOW。電車よりも移動が早く、このままでは確実に捕まってしまう。
「いいから全力で走れ!電車内にいくつか武器があるからそれ使って迎撃する!」
連結部を取り外してBOWの動きを遅らせるが、すぐに向こうは対応してきた。
トンネルの屋根に爪のような足を突き刺して荷台を簡単に乗り越える。
「こんのっ!」
対物ライフルを荷台の手すりに固定して蟹へと弾を撃ち込む。人であれば簡単にバラバラになるだろうが、蟹だ。一般的なサイズの蟹でさえそうそう踏み潰せるものではないが、それが人以上に巨大なのだ。装甲を貫くのは難しい。
「他にないか!使えそうなのは!」
振り向く余裕などなく蟹に撃ち込む事に意識を半数を割かなければ近づかれて掠れただけで死ぬかもしれない。
弾が切れたと同時にその場を離れて余った弾丸で連結部を撃ち抜いて壁にする。
同じ手が通じるはずもなく、まともに足止めにはならずに爪のような腕で
位置からして中にいるのは明白だ。死体はなかったが死んだのは目に見えている。確認するまでもなかった。
「あ“あ”あ“あ“あ”あ“!!!!!
奈々は叫ぶ。目の前でそれをみていたのだ。荷台越しとはいえ位置的に見える場所だ。
「あ、あ“あ”あ“あううう・・・・・・」
店長ではどうにもできなかった相手だ。銃なんてまともに持ったことのない彼らに対処できるわけがない。その思い込みが戦意を奪ってしまった。
店長のいた荷台を簡単に引きちぎると次は奈々の番となった。恐怖で体が震えて動けない。ああもうダメだと諦めたその時、BOWの後ろが明るく光っていた。なにかが追いかけてきているのは分かった。だが誰が・・・・・・。
それとほぼ同時に荷台の上から物音が聞こえた。BOWの増援だろうか?
「修也だ!声が聞こえるのなら、さっさと次の荷台へ移れ!そちらに意識を割く余裕はない!」
奈々からの位置からでは見えなかったが、先頭車両にいる真野からは見ることができた。それは・・・・・・燃え盛る腕を蟹のBOWへ向ける修也だった。