<初出社>
出社していきなり、困った。
男子更衣室が見当たらないのだ。
僕は仕方なく、男子トイレの個室で着替える。
個室の外で他の社員とすれ違う。
一瞬驚いたような顔をして、彼は立ち止まった。
「おはようございまーす」
僕は、軽く挨拶してトイレの外に出る。
「天川 操夫(あまかわ みさお)と申します。よろしくお願いします。」
僕は、当たり障りにない挨拶をして席につく。
配属された営業五課は、課長も含め全員女性で少し不安だったけど、その中に高校時代の後輩だった星野 龍子(ほしの りゅうこ)がいて、少し安心した。
やっぱり、知り合いがいると心強い。
僕の教育係は、入社2年目の一般職の女性で、松田 綾乃(まつだ あやの)さん。
優しいお姉さんってタイプかな。でも、ホントに彼女の教え方って丁寧でとても分かり易い。
お昼は、同期の一般職の女子社員と一緒に食べる。
彼女は、同じフロアの営業三課の大城 麻里(おおしろ まり)さん。
研修中の飲み会で仲良くなった女子の一人だ。
別フロアの休憩室で仲良くお弁当を広げる。
一般職の給料は安い。少しでも節約するんだ。
まあ、まだ給料は一度も貰ってないんだけどね。
「ちょっと、タバコ」
食べ終わって暫くすると、彼女は部屋の隅の喫煙室へ向かって行った。
『えー、彼女タバコなんて吸うんだ。幻滅だなぁ』
研修所の娯楽室で飲み会をした時は吸っていなかったけど、研修所内は禁煙だったもんな。
最近のOLさんってタバコを吸う人が結構いるっていうけど、喫煙室の中は女性だらけで、男性は数人の年配の社員だけのようだ。
女性がタバコなんてみっともないし、下品だと思う。
第一、女がタバコなんて生意気だろ。
<歓迎会>
午後3時に、綾乃先輩がお茶を淹れてくれた。
僕は仕事の手を止めてティータイム。
一緒に配ってくれたお菓子を食べながら、綾乃先輩と世間話。
この時間帯は、総合職の社員はほぼ全員出払ってる。
束の間の、まったりとした時間。
今日は水曜日。
毎週水曜日は早帰り日だそうだ。
まだ。実質入社3日目の僕には、その感覚が分からないが、今日は何だか、みんな活き活きとしてるような気がする。
定時の5時で業務終了、だけど今日は課内で僕の歓迎会だ。
休憩室で時間を潰してから、お店に向かう。
開始時間になったけど、席に着いたのは綾乃先輩と僕の二人だけ。
早帰り日と言っても、実際にはなかなかそうは行かないらしい。総合職って大変なんだなぁ。
30分ほど待ってようやく全員集合。
ふう、待ちくたびれた。これで、やっとビールが飲める。
「「カンパーイ」」
予想していたとおり、今日は僕への質問責めだ。
たっちゃん、いや、星野主任と高校時代に、先輩後輩の関係だったことは、既に全員が知っている。
当然、質問はそこに集中するわけで、当時どんな関係だったのか、執拗に聞かれまくる。
僕は誤魔化すために、飲みまくった。
もっとも、高校時代の僕が彼女のことが好きだったことは、白状させられてしまったけど。
「うーん」
見慣れない部屋で、僕は目を覚ます。
二次会に行ったことまでは覚えてる。
うんっ?
「あっ、起きたの?」
彼女がコーヒーを僕に手渡しながら、そう言った。
えっ!僕、やっちゃったのか?