「困ったわね……せめて千歌の身に何が起きるのか先に分かっていればいいんだけど」
翌朝。今日は朝練をやるだとかで朝練に間に合う時間に起きた私は制服に袖を通しながら呟く。残念ながらあの時の夢の内容は思い出せず、でも千歌が死んでいたことだけは覚えている状態だった。だからこそ、思い出そうとするも、思い出せない。せめて、死因か場所が分かればそこからいくらか考えることもできるんだけど。毎回、ことが起きてからその光景を見て思い出す現状なだけに、後手に回らざるを得ない。
「そして、こんな気分なのに私の気分とは逆に空は澄み渡ってるわね……。まぁ、雨よりはいいけど」
カーテンを開けて外を見れば、雲がほぼ無い快晴で、とりあえずは雨による弊害は無さそうだからいっかと思う。でも、雨が降って練習が無くなれば事故の確率も……いや、雨でも起きたから関係ないか。
「善子、おはよう」
「おはよう、ママ」
制服に着替え終えたから、リビングに行くとちょうどママは朝ごはんを食べようと運んでいるところで、机の上には私の分も置かれていた。
「今日は出るの遅いの?」
「そうね。といっても、善子が出るのと同じくらいだろうけどね」
「そっか。いただきます」
「いただきます」
私たちは椅子に座ると食べ始めた。
「善子、最近学校はどう?」
「ん?普通だけど」
「そう……」
「どうしたの、急に?」
食べていると唐突に聞かれたから、どうしてこんなこと聞くんだろうと気になった。いや、母親が子供に学校のことを聞くのは普通のことなんだけど。
「いやね。最近、善子が時々思いつめたような顔をしてるから気になっちゃって。いじめとか遭ってない?」
「遭ってないわよ。遭ってたら学校に行くわけないじゃない」
「それもそうなんだけど……じゃぁ、何か悩みとかない?」
「……特に無いわよ」
ママは本当に心配しているような様子だった。流石に皆が一度死んで、何度もやり直しているなんて話をする訳にもいかないから特に何もないことにする。どうせ言ったところで何言ってるの?みたいな顔をされるだろうし。
ママは私の言葉に「そっか」と呟くとそれ以上は聞いてこなかった。私の言葉をそのまま受け取ったのか、聞いても答えないと察しただけなのかは私にはわからなかった。でも、私としてはどっちでもよかった。これは私がどうにかするしかないこと。それに、今日を越えればすべて終わるはずなんだから。
『まずは十二位の発表です。十二位は蟹座のあなた。今日は水難かも?水に気を付けましょう。ラッキーアイテムはみかんです』
「はぁ、また最下位……」
「どうしたの急に?善子ってこういう占い信じる方だったかしら?」
「割と信じる方よ」
「そう言えば、生放送で占いしてたわね」
「ちょっと待って!どうして生放送のこと知ってるの?」
ママがまさかの生放送のことを知っていることに驚きを隠せない。生放送をしていることを知っているのはいいとして、なんで占いしてることまで知ってる訳?
「娘がそういうことしてるのだから、問題ないか確認するのは当然でしょ?タイムシフトであとから毎回確認してたわよ」
「嘘でしょ……」
まさか、全部見られてたなんて……。ああ、終わった。これで今後は生放送できなくなるのね……って、あれ?
「あれを知って、止めさせようって思わないの?」
「どうして?ただ視聴者さんのコメントを拾って話して、占っているだけでしょ?別に悪い事しているわけでもないから、何も言わなかったのよ」
「でも、普通ああいうことしてたら止めたくなるんじゃないの?」
「まぁ、普通ならそうかもしれないけどね。でも、生放送をしている時楽しそうにしてるじゃない。娘がしたいことをやらせてあげるのが親ってものでしょ?さすがに悪い事とかしようとしたら止めるけど」
まさか、ママがそこまで思ってくれてるとは思っていなかった。でも、今にして思えば登校拒否してた時も、学校に行けと言いつつも断固拒否を貫いてたらあっさり引いてくれたっけ?たぶん、あれも無理に行かせるのは辛いだろうって思ってくれてたってことよね。
「ありがと、ママ」
「ふふっ、どういたしまして」
ママは笑みを浮かべると、それから学校のこととかを話しながら食べ進めた。
~☆~
「おはヨーソロー、善子ちゃん」
「おはよ」
バスに揺られていると、久しぶりに朝のバスが同じで乗り込んできた曜が私のもとにまっすぐ来ていつも通り私の隣に座った。
ここ最近は時間が会わなかったり、私が風邪で寝込んでいたりしたせいか久しぶりに感じる。
「なんだか、朝のバスで一緒になるのが久しぶりな気がするね」
「そうね。そう言えば、あんなことがあった後なのに朝練やって本当に問題ないわけ?」
「鞠莉ちゃんもダイヤさんも問題ないって言ってたから平気じゃないの?」
「そうなのかしらね?」
私はこの朝練が心配だった。ただでさえ昨日の倉庫の崩壊があった訳だから、この朝練中に千歌の身に何かが起きるのではないかと。
でも、ただ危なそうだからと言っても、どうしてと問われて、上手く説明できない訳だから、朝練を中止にさせることもできない。昨日も結局練習ができなかったわけだし。
「うーん。危なそうならすぐやめるでしょ?」
「それならいいんだけど」
「そんなに心配なの?あっ、善子ちゃん不幸体質だから、水たまりに突っ込みそうとか、へこみに足を取られてこけそうだとかあるのか」
曜は私の心配を少し違った意味で受け取っているけど、そこは訂正しないでおく。どうせ言っても信じなさそうだし。
「まぁ、気を付けるとして、次の衣装どうしよ。曲のイメージを固まらないことには衣装が作れない訳だし」
「でも、あと一週間くらいだし、そろそろ製作を始めないと間に合わなくなりそうよね」
「うーん。でも、こればっかりはどうにもならないよね。曲作りは私たちには向いてないからあまり手伝えないし」
「はぁー。どうしたものかしらね」
私たちじゃどうしようもないわけで、曲の案が浮かぶまでは手詰まりだった。
そうして悩んでいると淡島前に着きバスが停車する。
「おはよ、二人とも」
「シャイニー!」
すると、珍しく果南とマリーの二人が一緒にバスに乗り込んできた。いつもは理事長の仕事でもう一本早いのに乗っているから珍しかった。
二人は私たちの座る前の座席に座る。
「鞠莉ちゃんが一緒って珍しいね。いつもは早いのに乗ってるのに」
「まぁね。でも、朝練の日だし、昨日の事故の後処理とかは昨日のうちに済ましたから」
「マリーも大変ね」
「手伝えればいいんだけど……」
「ダメよ!重要書類とかもあるんだから」
「って感じだしね」
果南的には少しでもマリーの仕事を手伝って楽させてあげたいみたいだけど、マリーは引かない訳でそんな感じだった。私としても果南と同じ考えなんだけど。
そうしてバスに揺られていくと、千歌とリリーがバスに乗り、その後にはダイヤとルビィと花丸の三人もバスに乗り、珍しく九人全員が同じバスとなった。
「おはようございます、皆さん」
「シャイニー!って、ダイヤはあいかわらず挨拶が硬いわね。もっと砕けていいのよ」
「日本人たるもの、挨拶はきちんといたしませんと。鞠莉さんが砕けすぎですわ!果南さんも言ってあげてください」
「あはは。私としては気持ちがこもってれば形は気にしないけど?」
「果南さんもですか!」
なんでか来て早々ダイヤはマリーに詰め寄り、果南が巻き込まれていた。まぁ、いつも通りの光景よね。
「みんな、おはよう」
「おはようずら」
だからか、そんな三人を放って二人は私たちの後ろの席に座る。あれをスルーしていいのかは疑問ではあるけど、無理に関わると面倒そう。私は果南の意見に賛成だし。まぁ、流石に曜が時々使う「おは善子」と「よーしこー」はどうにかしてほしいけども。
「おはよ、二人とも」
「そうだ、曜ちゃん。衣装作りの手伝い必要になったら言ってね」
「うん、ありがと。でも……」
「そうだ!千歌ちゃん!歌詞は?」
「あー、あはは」
「まぁまぁ、落ち着いて梨子ちゃん」
詰め寄るリリーに、苦笑いを浮かべる千歌。それをなだめる曜といつもの光景だった。というか、あの反応はまだできてなさそうね。間に合うのかしら?
そんな疑問を持ちながら、私たちはそれぞれの学年で固まって喋ってるのだった。ダイヤはいつまで鞠莉に詰め寄るのやら?
~☆~
「1,2,3,4、1,2,3,4……うん、いい感じ。じゃっ、休憩しよっか」
なんだかんだで朝練を終えて、授業を終え、私たちは沼津の練習場所に来ていた。そして、屋内で今までの曲のステップ確認をしていた。新曲はまだだけど、説明会では今までの曲も何曲かやろうということで、ステップ練習をしていた。
「ふぅ、だいぶ勘は取り戻してきたね」
「でも、安心はまだできないよ。新曲は一から覚える必要があるんだから」
「千歌ちゃん!練習終わったら千歌ちゃん家に泊まって歌詞詰め込むからね!」
「やったー、梨子ちゃんとお泊りだー。あっ、曜ちゃんも来ない?」
「ちょっと、待ってね。ママに確認するから」
「千歌ちゃん!遊ぶわけじゃないわよ!」
二年生三人はそんな話をしていて、曜はスマホで家に連絡を取り始める。完全に千歌は遊び気分よね。すると、連絡し終えた曜が二人の元に戻る。見た感じ表情からして許可が下りたみたいね。
「これで、曲は一気に進みそうだね」
「ええ」
「どうしたずら?善子ちゃん」
「なんでもないわ」
三人が笑顔で喋っていて、そんな様子に二人は言うけど、私は別のことを考えていた。今日千歌の身に何かが起きるはずだから本当に何事も無く進むのか。それとも、泊まってる時に何か起きたりしないのか。そんな考えが巡っていた。
「あのさ、ち――」
「はいはい、練習再開しますわよ」
「はーい。善子ちゃん、呼んだ?」
「ううん。なんでもないわ」
私も「千歌の家に泊まる」と言おうとしたけど、タイミング悪くダイヤの声と重なってしまったから、なんとなくタイミングを逃してしまった。だから、なんとなく言い辛くなって私はなんでもないと誤魔化した。
「そうだ!ちょっと屋上行ってみない?」
「どうしたの急に」
「うん。外でやった方がなんとなく大きく動ける気がして。ここでも大きくは動けるんだけど」
「なるほど?」
「いいんじゃないの?私としては外の空気を吸いながらの方が気分的にいいし」
「それに、今日は快晴で気持ち良さそうずら」
千歌の案に特に反対意見は出ず、屋上に行くとあいかわらずの澄み渡った空で、太陽の光が心地よかった。
皆もそんな感じで、晴れやかな表情をしている。
「よし!じゃっ、再開しよっか」
「うん!」
「はい!」
私たちは広いスペースで立ち位置に着くとまた果南の手拍子でステップを踏み始める。そうして、いくらかステップを踏み、私の視線はちょくちょく千歌の方を向いていた。千歌の身に何かあればすぐに私が助けられるように。
流石にずっと見てると注意されそうだから、ちらちらと見ながらではあるけど、ここで事故が起きるとは思えなかった。千歌は大体真ん中のポジションにいることが多いから、屋上から落ちることは無いし、というか柵があるから落ちるわけないし。流石に、いきなり屋上の床が抜けて落ちるなんてことは無さそうだし。
「きゃっ!」
「わっ!」
すると、ちょと考え込んで周りを見ていなかったことで花丸とぶつかってしまう。ぶつかってしまった花丸は転びかけ、神経質になっていた私は、もしかしたらまた花丸が?と思い、転倒しかけている花丸の腕を掴み、地面を踏み込みつつ後ろ方向に引っ張ってどうにか転倒を途中で止める。
その結果、踏み込んだ場所には水たまりがあり、なんでか泥が溜まっていたことで私は足を取られて後ろ方向に力を込めていたこともあって後ろの方に倒れ込み、花丸を巻き込んではと花丸の手を放す。花丸はなんとかバランスを取り戻して転倒する事態は無くなり、ここで私はこけたらと、二、三歩跳ねてどうにか転ぶのを避けようとし、そばにあった柵に手をつき……
バコッ!
「え!?」
柵がいきなり外れて私を支える物がいきなり失われたことで、そのまま屋上の外に放り出され――
「よっ!」
そうになるも、いつの間にか来ていた千歌が私の腕を掴む。でも、私の足は屋上の床ギリギリの位置であり、もう少しで落ちる状態。そして、
ガッシャーン!
落ちていった柵は地面にぶつかって大破し、もし私も落ちれば死ぬという今更ながら自身の死を感じる。
千歌は私の手を引っ張るけど、体勢や柵のそばは若干湿っていることで無理に踏み込むと滑りそうという悪条件で、上手く力が入らない状態。このままだと、千歌まで落ちてしまう。
「千歌!離して!このままじゃ千歌まで!」
「離さないよ!絶対に!」
千歌はそう言って、一気に力を籠めて身体を回すようにして私を引っ張ったことで私は屋上の中側に戻される。その際に手を放されて私はバランスを崩して転倒する。流石に助かった訳だから文句は言わないけど。
「千歌、ありが」
私はお礼を言おうと振り返り、しかしそこに千歌の姿は無かった。