繰り返される堕天   作:猫犬

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11 晴れの日2

千歌が消えたことで、私はいつの間にか皆の方に戻ったのかしら?という疑問を思い、皆の方を見ると、

 

「千歌!」

「千歌ちゃん!」

 

私の目の前を曜と果南が通り過ぎた。何言ってるの?千歌は皆の方に……。

みんなの方を見ると、みな口に手を当てて、信じられないものを見たような表情をし、その中には千歌の姿は無かった。

千歌は屋上の縁にいた私を助けて……あっ!

私は理解した。千歌が何処に消えたのか。

 

「千歌!」

 

私も縁に行くも、縁から下をのぞく二人が全く動かない。

まさか……。

私は信じたくなくて、下をのぞき。

 

「いやぁー」

 

そこに広がる光景に私は悲鳴を上げた。それが伝染して、下の光景を見ていない皆も理解してしまう。

すると、曜と果南はその場から走ってエレベータの方に行く。その際に二人の目には涙が流れていた。みんなも信じたくないのか二人を追いかけ、屋上には私一人だけが残され、私はその場に崩れ落ちた。

 

私のせいで千歌が……。千歌を救うはずなのに、私を助けたせいで千歌が死んだ。なんで、こんなことになっちゃうのよ。私はただ千歌を救いたかっただけなのに。

 

「うぅ、なんで……」

 

私は地面を殴り、自分を責める。私がしっかりしていれば今回は防ぐことができた。それなのに……。

 

「まだよ!絶対にこんなこと」

 

私は走って荷物を置いていた部屋に戻る。皆は千歌のもとに行ったからここも無人で、私は迷いなく自分の鞄を手に取り、中からペンダントを取り出す。

 

千歌との出会いは入学式の日で、最初の印象はとにかく明るく、騒がしそうな人だなって感じだった。千歌自身、どんなことも特にこれといったようなものがなくて、普通怪獣だと言っていたけど、輝きを信じてまっすぐに突き進むことなんて誰にでもできるようなことではなくて、すごいことだと思う。それに、誰に対しても素直に接することが出来るのも、私にはできないことだから、そんな風にすることができて憧れていた。

私はAqoursに入ることができたおかげで毎日が楽しくなって、千歌がスクールアイドルを始めてくれてなかったら、私は毎日こんなに楽しく過ごすことができなかったと思う。何かを始めるには躊躇う気持ちが生まれてしまうはずなのに、千歌は躊躇うこと無く突き進んで、それはもう普通ではないと私は思うんだけど。

千歌は私が堕天使でも、好きな気持ちがあればそれでいいと肯定してくれた。流石に嫌だったら嫌って言うと言われた時は、言うんだと思ったけど、ちゃんと私と向き合ってくれてるから嫌って感じはしなかった。

だから、これからも楽しい日々が続くと信じてきた。この一週間はあれだったけど、もう少しできっと終わる気がしたのに……。

 

「絶対に救ってみせる!これは私が償わなきゃいけないから!」

 

覚悟を決めて願う。

 

もしあの時、私が考え込まずにいればぶつかることも無く避けられた。

もしあの時、さっさか転んでおけば、私が少し打ち付けるだけで千歌が死ぬようなことは無かった。

 

「我願う。我乞う。千歌の居る日常を!」

 

私ははっきりと言葉にすると、五回目の水晶の輝きに包まれたのだった。

 

 

~☆~

 

 

「戻って来た」

 

時計は今朝であり、無事戻ってこられたことに安堵する。今回はいつもよりも回避が楽ではあった。いつも、死を一度回避すればその先何かが起きるという事態は起きていない。だからこそ、私が気を付けさえすれば千歌の死は回避することが出来る。

 

「よし!」

 

私は頬を叩いて、気合を入れる。今日を越えればもう誰かが死ぬ自体は避けられるはずなんだから。

制服に袖を通して私はリビングに行くと、ママが朝ごはんをテーブルに並べていた。

それからは、前回と同じような会話をして過ごし、ママは先に出掛けて行った。

 

「さて、気を付ければいいかもしれないけど、もしかしたらの可能性もあるからね」

 

私は一人呟くと、戸締りの確認をしてから家を出た。

バスに乗って、浦女に向かっていると前回同様皆が順番に乗り込んでくる。

 

「おはよー、みんな」

「おはよう」

 

千歌とリリーが乗り込んでくると、通路を挟んだ向こうの席に二人は座る。私はチカの顔を見るや、あの時の光景がフラッシュバックする。

いつもはこんなことは起きないのに、今回はフラッシュバックするあたり、やっぱり今回は響いてるのかしら?私のせいで引き起こしてしまった訳だし。

フラッシュバックのせいで気分が悪くなり、私は目元を腕で覆い窓に身体を預ける。マリーたちは前の席だし、千歌達は三人で喋っているから少しの間なら気づかないはず。

 

「善子ちゃん、大丈夫?」

 

と思ってたのに、千歌はあっさりと私に声をかけた。よくよく考えれば私たちの方を向いている訳だから気付くわよね。

どう言い訳しようかしら?

 

「んー、ちょっと眠いだけ」

「そう?ならいいんだけど」

「着いたら起こすから、もう少し寝てていいよ」

「お願い」

 

どうやら誤魔化せたようで、私は窓に身体を預けた状態のままでいる。若干、千歌の声音に違和感があり、もしかしたら違うことがばれたかもしれない気がした。千歌は普段はあれだけど、人の機微には鋭い所もあるから。

でも、それ以上踏み込んでくることも無かったから、今回は気づいてないだけなのかしら?

千歌がどっちなのかわからぬまま、私は寝たふりをしていた。目を瞑ればあの時の光景が鮮明に思い出されるけど、千歌の顔を見てても思い出しちゃうわけで……。そう言う訳で、ローブを鞄から取り出して、私は被って窓の方に完全に身体を向けて外の景色を見る。身体の向き的に寝ているようにも見えるから、着くまではたぶん声をかけられることも無いはず。

 

「おはようずら」

「みんな、おはよう」

「みなさん、おはようございます」

 

すると、三人が乗るバス停に着き、乗り込んでくると、各々席に着く。前の方ではまた、マリーがダイヤに硬いと言って詰め寄られていた。

 

「あれ?善子ちゃん寝てるの?」

「なんか眠いんだって」

「うーん、また夜更かしでもしてたのかな?」

「さぁ?でも、してそうよね」

 

なんか、私が夜更かししたから眠くなっているということにされていた。でも、言い返すのも気が乗らないから、何も言わないでおく。

 

「特に返答がない……本当に寝てるんだね」

「まぁ、寝られるときは寝かせておいてあげよ?授業中に寝るわけにもいかないからさ」

「そうだね」

 

勝手に話は進んで行くけど、とりあえず着くまでは私の事は放置しておいてくれるみたいだし、ありがたく私はこのままで居ることにする。

さて、今のうちに改めて考えておかないと。事故が起きるのは放課後。でも、今回のはいつもと違って引き金は私。だから、もしかしたら朝練中に私がやらかせばずれる可能性もある。倉庫の崩壊やエレベータの転落なんて普通は起こらないことが平気で起きた訳だから、屋上の塀が壊れる可能性もある。昨日の柵だっていきなり外れた訳だからないとは言い切れないし。

と言う訳で、今日はそういうものには近づかないでおく。一番いいのはそもそも屋上に近づかないだけど。

 

「よっちゃん、そろそろ着くから起きてー」

「んー」

 

考えているうちに浦女前に着き、リリーに声をかけられて私はローブを取る。さっきよりは幾分かマシになり、意識しない限りは千歌を見てもフラッシュバックしなくなった。

あっ、今意識したから記憶が。

 

「うー、久しぶりに思いっきり体が動かせるね」

「うんうん。早く動かしたいね」

「曜さん、果南さん。少しは落ち着きなさいな」

「そうだよ、屋上は逃げないよ」

「そうだけど、早く動かしたいことにはマリーも賛成よ」

「じゃっ、誰が一番に部室に着くか競争だね」

 

千歌がそう言うといきなり走り出した。朝から元気ね。

 

「千歌ちゃん、ずるいよ!」

「待てー」

「待ちなさーい」

 

曜と果南とマリーも少し遅れて走り出す。それを私たちは走ることは無くゆっくり歩きながら向かう。練習前に体力を消費するのもあれだし、あまり気分が乗らない。

 

「四人とも走って行っちゃったね」

「というか、この時間って昇降口は閉まってるよね?」

「ええ。ですが、鞠莉さんもいますから問題ないでしょう」

 

二人はあきれたような調子でそう言い、ルビィと花丸は苦笑いを浮かべていた。

 

「まぁ、少しは急ぎましょうか。あまり遅いと文句を言われそうですし」

「それもそうね」

「文句を言われるのは納得いかない気もするけど……」

「じゃぁ、早歩きずら」

「そうだね。練習時間は減らしたくないし」

 

そんなわけで、少しだけペースを上げることになり、私たちはペースを上げるのだった。

 

 

~☆~

 

 

「1,2,3,4、1,2,3,4」

 

朝練、授業が何事も無く終わり、私たちは沼津に来て練習をしていた。朝練の時には塀のそばに寄らないようにしてたから無事何事も無く平穏そのものだった。

今は室内だから落ちる心配も無い。流石に床が抜けるなんてことは無いはずだし。

 

「うん、いい感じだね。じゃっ、ちょっと休憩しよっか」

「疲れたずら~」

「はい、水分補給はしてね」

「ありがとう、曜ちゃん」

 

一段落したところで休憩になり、各々水分補給をしたり、次は何をするか話し合ったりしており、私は水を飲みながらそれを眺める。ここからが問題なのよね。この後、千歌が屋上で練習しようって言い出す訳だし。

 

「うーん。久しぶりに身体を思いっきり動かしたから気分がいいね」

「朝思いっきり動かしたじゃない」

「まぁ言いたいことはわかるよね」

「と言う訳で、屋上行かない?今日は晴れてるし、日の光を浴びながらの方が気持ちよさそうじゃない?」

 

そして、私の予想通りまた千歌が提案してしまった。これが通ると、一気に死に近づくわけだから避けたいところなんだけど。

しかし、前回は満場一致で進んでしまった訳で、私が反対意見を出してもそれに足る理由がある訳でもない。流石に、転落事故が起きるからと言っても「どうして?」と返されてしまうだろうし。

 

「私は賛成かな?」

「私も」

 

皆賛成していき、ここで反対意見を出すのに抵抗が生まれ始める。

 

「私は反対かな?」

「善子ちゃん、なんで?」

「いや、なんか外に出た直後雨が降る気がして。最近雨多かったし、私堕天使だし」

 

でも、ここで反対しておかないと危険度が変わる訳だから背に腹は代えられない。理由としてはこれくらいしか思いつかないけど。

 

「確かに、善子ちゃんは不幸体質だから絶対にないとは言い切れないよね」

「でしょ?」

「まぁ、降ったら中に戻ればいいでしょ」

「それもそうですわね」

「あれ?」

「じゃっ、雨がもし降ったら中に戻るってことで。それでいい?」

「あっ、うん」

 

なんでか、屋上に行く流れになってしまった。たぶん、ここで無理にでも止めれば止まるだろうけど、そうすれば絶対に怪しまれるわけで……。そう言う訳で私が引くしかなくなってしまった。

 

「おー、やっぱり外の空気は気持ちいね。それに善子ちゃんの心配してた雨は降らなそうだね」

「ええ。そうね」

「では、この辺りで始めましょうか」

 

そうして、前回同様、少し開いたスペースで練習を始め、私は細心の注意を払う。こうなった以上は私が気を付けるしかない訳だし。

そうして、練習している中、最悪の事態が起こってしまう。

 

「ほっ……うわっ」

 

なんでか曲の合間に入る馬跳びで曜が着地時に滑って、どうにか転ばないようにと数歩前に跳ねて柵を掴んで体勢を保とうとする。しかし、その選択はまずい。

曜の触れた柵はまた外れ、曜は驚きの声を上げる。今回の死は千歌のはずだけど、曜が死ぬ可能性も拭いきれず、私は駆ける。

しかし、私の位置からだと若干離れていることもあり、間に合わない。

曜は柵を離してどうにか落下から逃れようとするも体勢が悪く、このままでは落ちてしまう。

 

「曜ちゃん!」

 

そして、どうしてかいつの間にかそこにいた千歌は曜の手を掴み、あの時のように身体の回転で曜を中側に放って助ける。しかし、その反作用で千歌は外側に倒れ込み、皆の視界から消え、

 

「離さないわよ!」

 

曜を助けようとしていた私はどうにか落下中の千歌の腕を寸での所で掴むことに成功した。しかし、人一人の体重を支えるのは厳しい。というか、腕がちぎれそう……。でも、こんな痛みなんて知らない!千歌がいなくなる痛みに比べたら!

 

「善子ちゃん、離して!このままじゃ善子ちゃんまで落ちちゃう!」

「嫌よ!絶対に!」

「ッ!でも、このままじゃ」

「諦めないわよ!絶対に!」

 

私は腕の痛みに耐えながら、必死に声を出す。そして……

 

「そう言うことだよ!」

「善子ナイスよ!」

 

果南とマリーが私の横から千歌の手を掴み、私たち三人で引き上げる。結果、なんとか千歌を助けることができ、私たちは床に座る。

 

「千歌ちゃん!ごめん!私のせいで!」

「曜ちゃん……チカは大丈夫だから泣かないで」

 

床に座る千歌に曜は駆け寄ると泣きながら抱きしめる。そんな曜の頭を千歌は撫でる。

 

「さて、屋上の柵が落ちたのを伝えて、落ち着いたら中で再開しましょうか?それとも、今日は大事を取って――」

「チカは中で練習したいかな?確かに今のはびっくりだけど、こんなことが連続するとは思えないし」

「そうですか。では、曜さんが落ち着くまでは休憩ということで」

 

このままだとずっと曜が泣いた状態になりそうだと思ったのかダイヤはそう言った。そして、一人一階のエントランスに向かい、私たちは元いた部屋に戻るために追いかけるのだった。

 

「曜、いつまで泣いてるのさ。みんな無事なんだからさ」

「でも……私のせいで千歌ちゃんが……」

「曜ちゃん、チカはこの通り死んでないんだから、泣き止んでよー」

 

私はその光景を見ながら安堵する。誰一人かけていない千歌の死の危機を脱した。これで、誰かの死の危機はもう無いはずなのだから。




次回の投稿は日曜を予定です。何事もなければ。
では、ノシ
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