土曜日。本来なら授業もないからのんびりとできる日。それに、この一週間はずっとバタバタしていた訳だからできれば休みたい。
最初は曜が車に轢かれ、続いてルビィと花丸がバスの横転で頭を強打し、マリーとリリーがエレベータで転落し、果南とダイヤが倉庫の崩落に巻き込まれ、昨日は千歌が転落した。
普通に考えてもあり得ないことの連続だった。まぁ、一番ありえないのは過去に飛べちゃったことかもしれないけど。
そう言う訳で、今日はゆっくりしたいところだけど、第二回説明会の準備に追われているわけだから、休みなんてない。
まだ、新曲が完成してない訳だし。
「とりあえず、準備しようかしら?」
私は一人呟くと、ハンガーに掛けてある制服に袖を通す。今日は練習だけだから練習着で行きたいところだけど、制服着用が義務付けられている。この際だから、マリーに休日の部活の場合は制服を着なくていいように提案してみようかしら?
そんなことを考えながらリビングに行くとすでにママは学校に行っているようでいなかった。教師って休日でも学校に行かないといけない辺り大変よね。
私はトーストを焼いて、牛乳を注いでと支度を進めて、出来上がった朝ごはんを机に置く。そして、いつも通りテレビを付ける。時間が時間なだけに、いつもの番組は終わっていて別の番組だったけど。
『一位は獅子座のあなた。ふとした幸運があるかも?ラッキーアイテムは緑の髪飾りです』
ちょうど占いが終わったところで、私の順位が地味に気になった。でも、あんまり気にしないでおくことにする。わからないのなら今日は引きずられずにいられるだろうし、流石に最下位はないだろうし。
『続いて天気予報です。今日は一日中晴れる模様で、傘を持つ必要は無さそうです』
雨は降らなさそうだから私は安堵する。せっかくすべてが終わったのに雨降って練習に支障が出るのは嫌だし。それにしても、この前の大荒れはなんだったのやら?
そうして朝ごはんを食べ終えて、学校に行く準備をする。
その際に、机に置いたペンダントが目に入る。
「結構これには助けられたわよね。これが無かったら皆の死をやり直して回避できなかったわけだし」
ペンダントを手に取ってそこにはめられた水晶を眺めながら、一人呟く。もし、これが無ければ今の日常がないわけで、本当に感謝している。
そして、私は今更ながら疑問が。
「ところで、このペンダントってどうしたんだっけ?いつ手に入れたんだっけ?」
このペンダントの入手経緯が思い出せない。こんな能力のあるペンダントを手に入れた日が思い出せないなんて、どうしてかしら?うーん。
私は頑張って思い出そうとするも、どうも思い出せない。そして、部屋を見回し……
「あっ、時間が!」
時計の時間が目に入り、私は慌てた。
そろそろ出ないとバスが来てしまう。疑問はあるけど、考え事をしているせいで遅れたなんて言い訳は許されないだろうし。
ペンダントを鞄のポケットに入れると鞄を持って私は外に出たのだった。
~☆~
「善子ちゃん、ルビィちゃん。どれがいいと思う?」
「うーん。これかしら?」
「ルビィはこれかな?」
「千歌ちゃん、今日こそ歌詞を書き終えてもらうよ!」
「あー、うん。頑張るね」
「マルも手伝うずら」
私たち六人は部室に集まっていた。
三年三人は微妙にある生徒会の仕事を片付けに行っている。微妙な量であり、全員でやる必要も無いとかで、私たちは私たちにできることをしている状況ではあるけど。
「衣装の案があるのはいいけど、これって曲が決まんないことには製作には至れないわよね」
「まぁ、そうなるけど。ある程度デザインができてればすぐに材料を買って作り始められるでしょ?」
「それに、早い段階で共有できていた方が動きやすいし」
「それもそうね。後は……」
「うーん」
私たち三人は隣でうなっている千歌の方を見る。リリーに急かされている状態であり、なんというか。とりあえず、難航していることは分かるんだけど。
「どうして前は一日で書き上げられたのに、今回はこんなに難航してる訳?」
「あはは。なにというか、一回目の時よりもいい曲にしないとって思っちゃって。だから、いいのが浮かんでもすぐにこれじゃない!ってなっちゃって」
「そんな感じなのよね。まぁ、もっと入学希望者を集めなきゃいけないから、そうなっちゃうのはわかるけど」
「ふぅ。世の中難しいずら~」
花丸はそんな感じで、なんでか達観したような表情をしてお茶を飲んでいた。いやいや、なんで今そんな表情するのよ。あと何処からお茶を出した?
そんな感じで、どうにも新曲が進まない状態が続いていた。
「シャイニー!」
「鞠莉さん、昨日も言いましたよね?」
「調子はどう?」
すると、生徒会の仕事が片付いたのか三人が戻って来る。マリーが入って来るなり大声を出したことでダイヤが注意して、一気に部室の雰囲気が変わった。
「戻ってきたことだし、曲作りは一旦中断して練習しよっか」
「うーん。こっちもそろそろ完成させないと間に合わなくなりそうよね」
「じゃぁ、今日千歌ちゃんの部屋に集まって一気に進めよっか」
そして、三人が戻ってきたことで今やってる作業を中断して練習することになった。どうせ、行き詰ってたからこのままやってても意味無さそうだったしね。
「じゃっ、屋上に行こー」
「そうだね。善は急げだね」
「二人とも、廊下は走らないの!」
千歌と曜は部室を飛び出していった。そんなに練習がしたかったの?あっ、ただ単にずっと椅子に座ってたから身体を動かしたかっただけか。
「さて、先に行った二人を追いかけましょうか」
「新曲の調子はどうなの?」
「あまり進んでないかな?」
「だから、今日は三人で千歌ちゃん家に泊まり込んで一気に進めるんだって」
「そっか。私も参加しようかしら?」
「鞠莉さんは倉庫の修繕の手続きで明日早いのでしょう?」
「あっ、忘れていたわ」
「忘れてたって……」
なんかマリーは大変そうで、手伝えることがあればいいんだけど、流石に理事長の仕事を手伝うのは厳しそうよね。
私は特にできることがないわけで歯痒い気持ちになる。
そんな気持ちになりながらも、屋上に向かった二人を追いかけて部室を出る。
「善子ちゃん、考え事?」
「うーん。なんかマリーたち大変そうだなぁって思って」
「マルもそう思う。でも、マルたちじゃ特に手伝えないんだよね」
後ろの方でゆっくり歩いていると、隣を歩いていた花丸が私を気にする。
今回の悩みは別に口にしても問題ないから口にすると、花丸も同じことを思っていたようだった。
「そうよね。やっぱり私たちに出来る範囲でできることをするしか」
「ふふっ」
「何?急に笑って」
「善子ちゃんってなんだかんだ言って優しいなぁって」
「なっ!そんなんじゃないわよ。リトルデーモンを導くのは主の務めなんだから」
私は優しいんじゃなくてそう言うことよ!変な勘違いはやめてよね。
私が言えば花丸は「そっか」と言う。どうせ、心の中では「そんなことを言うけど、結局のところ優しいってことだよね」とか思ってそうだけど。
「そうなの?でも、結局リトルデーモン?の為に何かしてあげるってところが優しいってことだけど」
「つまり、善子ちゃんは優しい?」
「だからヨハネよ!あと、別に優しいなんてこと」
「でも、優しいよね?」
花丸と会話をしていると、ルビィとリリーが混ざって来る。というか、先に行った二人が一向に見えないのは、ずっと走っていたってことのなのかしら?
そうして、屋上に着くと、
「あっ、やっと皆来た」
「ヨーソロー!」
二人はわたしたちを待っていた。いや、先に二人が行ったわけだからそこにいるのは当たり前なんだけど。
~☆~
「じゃね、善子ちゃん」
「じゃっ」
マリーは明日の準備だとかで浦女に残っていて、淡島前で果南一人が降りていき、バスは再び走り出す。バスには数人の乗客が乗っているけどほとんど閑散としていて、特にすることもないから外の景色を眺める。
いつもなら曜が隣に座り直して話すけど、今日はバスに乗っていない。練習の時に言っていた通り、千歌の家に泊まるらしく、服も千歌のを借りるとかで家に戻らずにそのまま千歌とリリーと一緒に降りていった。だからすることが無い。こんなことなら私も泊まればよかったかな?でも誘われてないし、ママの許可が下りるのかもわからないけど。
私が降りるバス停に着くと私は鞄に入れていた定期券を取り出し、
「おっと」
その際に一緒に入れていたペンダントに引っかかって落としかけたのを空中でキャッチする。
そして、左手にペンダントを持ち換えて、右手に定期券を持ち運転手に見せてバスを降りる。
「そう言えば、朝考えてことをすっかり忘れてたわ」
駅の方に行くバスを見ながら一人呟くと、ペンダントを眺める。ペンダントに着いた水晶が夕日を反射して輝いていて綺麗で……ってそんなことはどうでもよくて、何処でだったかしら?貰い物?それとも買った物?……はないか。お店とかだと絶対に高そうだし。
どうも、靄がかかったように思い出すことができない。どうして思い出せないのか悩みながら歩いていると、信号が赤くなり立ち止る。そう言えば、この先で曜の事故があったのよね。回避したから曜の事故は起こってないけど。
うーん。タイムリープの能力がある時点で一般流通ではないだろうし。何処で手に入れたのやら?
「うーん。宝石店?露店……ドールハウス……本屋……あっ」
視界に入るお店を眺めながら、何か思い出せないかと呟いていると、本屋で重大なことを思い出した。
そう言えば今日はいつも買ってる漫画の新刊が出る日だった。どうも思い出せないし、そのうち思い出すでしょ?そんなノリで、私はペンダントを首にかけると、この後特にすることもないから本屋に足を向ける。別に今日じゃなくてもいい気もするけど、もしかしたら明日から忙しくなる可能性もあるから今日買って読んじゃおうかしら?
本屋に着くと新刊のコーナーに積まれてあり、レジに通すと本屋を後にする。
「さて、前回はちょうどいい所で終わったから続きが気になってたのよね」
内容がどうなっているのか気になりながら、早足に家に向かう。大人とかだと喫茶店に寄って読むとかする人もいるけど、生憎私は喫茶店によるほどお金に余裕もないし、家に帰ればインスタントではあるけどコーヒーとかもあるしね。
本のことを考えながら、歩いていると……
ガコッ!
何処からか不吉な音が響き、私は立ち止って辺りを見回す。でも、特にこれといったことは無く、気のせいだろうと思うと歩き出し、私の身体に影が差す。
そして、上を向き……
「嘘……」
ちょうど工事中だったビルの吊るされた鉄骨の一本が私の真上から落ちてきていた。もし、今までの私なら身体が硬直していたと思うけど、この一週間で色々なことがあり過ぎて、私は考えるよりも先に身体が動くようになっていた。
私は即座に地を蹴り、どうにか鉄骨の直撃だけは避けようとする。
ガッシャーン!
そして、鉄骨は地面に激突した。
私は間一髪のところで前に跳躍して倒れ込む形で回避に成功した。ギリギリのところだったわ。
私は安堵すると、身体を起こそうとし……
「……嘘でしょ」
私は空を見て絶望した。
そもそもすぐに気付くべきだった。鉄骨の落下が一本だけで済むわけがないことに。
空には無数の鉄パイプが落下してきており、私はなんとか回避しようと試みる。
ガッシャンシャーン!!
そして、無数の鉄パイプが地面に激突し、
「うっ」
私はその内の一本に足を潰され苦悶の声を上げる。足に当たってるのが鉄パイプだったおかげで足がペチャンコという訳ではないけど、骨折はしたようで激痛が走る。
そして、三度目の落下が起こる。
足を骨折していることで完全に動くこともできず、降ってくるものも全て鉄パイプではなくて、一回目に降ってきたような鉄骨だった。
回避もできず、間違いなく死が目の前に迫っていた。そもそも数的に助かる保証が何処にもなかった。
そっか。私は死ぬのね。
そして、走馬灯のように今までのことを思い出し、気づいた。この一週間でAqoursの皆が死んだ。でも、まだ残っていたじゃない。
……私が。
今日が、私が死ぬ日だったのね。なんで、気づかなかったんだろ?少し考えればわかったはずなのに。せっかく皆の死を回避できたのに、ここで私が死んじゃうなんて嫌!
私は神に祈るように胸に手を当て、首にかけていたペンダントに触れる。
もし、まだ希望があるのなら……
「我願う。故に我乞う。みんなとの日常を!」
今まで同様、過去に戻ってやり直したい。誰も死んでいないから輝かないかもしれない。
でも、そんなの嫌!皆と……
生きたい!
~☆~
「はっ!」
気が付くと、私はベッドの上に寝ていた。
もしかして、奇跡的に助かった?でも、見覚えのある部屋……。
「って、私の部屋ね」
そこは、私の部屋だった。ということは、あれは夢?なんて訳ないわよね。きっと、水晶が輝いて過去に戻ってこれたってことかしら?
とりあえず、足に痛みもないし、変な方向に曲がっている訳でもないから助かったのよね?となると、また今日を乗り越えられるように頑張らないと。いつも通りに。
そして、今更ながら今の時間が何時なんだろうと時計を見て……
「えっ?」
私は時計の表示を見て声を漏らした。
時計は、曜が事故に遭った“あの日”の日付を表示していたから。
という訳で、第一部ファーストループは終了です。この先どうなることやら。
次回の投稿は一週間後を予定しています。全く先の話が書けてませんけども。
では、ノシ