「はぁ。やっとここまで来た……」
私は部屋で一人呟く。マリーの死によって私は過去に飛び、車が突っ込んでくる前にあの場を離れたことで事故を未然に防ぐことができた。
その翌日には、千歌と曜と一緒にバスに乗っていたところで、大雨の影響で土砂が崩れて来てバスが横転し、そのまま海に落下した。私たちはどうにかバスから脱出するも、雨のせいで海が大荒れで、私たちは波に流されてうまく陸に上がることができなかった。そして、私は意識を失い、次に目を覚ました時には浜辺に倒れていた。私の手を千歌と曜が握った状態で倒れていて、二人とも亡くなっていた。原因は溺死だった。二人とも泳ぎは得意な方だったから、意識を失った私を無理して陸に連れて行こうとしたのが原因だったようだった。私が陸に居たことからそうだと理解した。
私は二人に救われた。でも、言い換えれば私が二人を殺した。私のせいで……。だから、私は願い過去に飛んだ。そして、どうにか土砂崩れが起きた便よりも一本早いのに乗ったことで回避できた。
その翌日には、また熱を出した私のお見舞いに来たダイヤとルビィがエレベータの落下に巻き込まれ死んだ。願うことでその日の朝に飛び、前と同様階段から降りてもらうことで回避した。どういう訳か、二回目ではエレベータが落下しなかったのは謎だけど。
その翌日。花丸と果南が死んだ。その日は外が雨で体育館も使えず、できる作業を進めていた。千歌達は千歌の家に行き、ダイヤとルビィとマリーは家の用事で早めに帰り、手持ちぶさな私と果南は花丸の図書当番の作業を手伝っていた。そして、三人で一緒に帰り、そこで事故が起きた。土砂の撤去をしていた重機の横を通った瞬間、重機の下の地面が雨でぬかるんでいたことで傾き倒れてきた。私たちはどうにか回避を試みるも、間に合わず重機の横転に巻き込まれた。私は運よく重機の隙間に入ったことで無事だったけど、二人は重機に潰されてしまった。その結果、傷口から血が溢れて死んでしまった。だから私は過去に戻り、重機を避けるようにして帰ることで回避した。
そして、昨日。沼津での練習を終えた後にリリーと駅前の本屋に行って本を買い、リリーはバスに乗るからとバス停に向かう途中、それは落ちてきた。あの時同様、工事中の鉄パイプや鉄骨が。私はあの時の光景を思い出して身体が硬直してしまい、気づいた時にはリリーに突き飛ばされていた。そして、降って来た鉄骨がリリーの周囲に落ち、砂煙が晴れるとそこにはリリーが倒れており、そのうちの一本がリリーの身体を貫いていた。どこからどう見ても手遅れで、私は自分を責めた。私が硬直しなければリリーが死ぬことは無かったから。そして、こんなことは認めなく無くて願った。過去に飛んだ後は工事現場に近づかないようにしたことでリリーが死ぬ自体は回避された。話によると、鉄骨落下は起きたらしく、でも幸いその時人が通らなかったから死傷者は出なかったとか。
そして、気づけば土曜日を迎えた。
前回と同じできっと今日は私の身に危険が迫るはず。だから、今日一日は細心の注意を払うことを心に決める。
「よし!今日を乗り越えて、絶対に平和な日々を取り戻してみせる!」
頬を叩いて気合を入れると、制服に着替えてリビングに行く。今日もママは先に出たようでおらず、キッチンに置かれていた朝ごはんをレンジで温めると、テレビを付けてから食べ始める。
『今日の十二位は蟹座のあなた。予想外の事態が起きるかも?』
「はぁ。やっぱり、占いはこうなるのね。今回は最下位がバラバラだったから、もしかしたらって思ったのに」
占いの結果にため息をつくと、どうしたものかと悩む。前回の世界じゃ、今日は私が死にかける、というかあのままなら間違いなく死んでたわけだし。一応占いのことも考えてどんな事態にでも対応できるようにしておこうかしら。雨は降ってないから流石に土砂崩れに巻き込まれるなんてことは無いと思うけど。それに、今回はみんな死因が変化してたから他の原因が来るはず。昨日鉄骨が落下したわけだしね。
朝ごはんを食べ終えると食器を洗い、荷物を纏めると鞄を持って家を出た。
~☆~
「うぅー。思いつかないよぉ」
「はいはい。でも、早く完成させないと練習も衣装作りもできないんだから、早く完成させないと!」
「それはそうだけどぉ」
部室にはあの時同様六人で机を囲んでいた。三年生はやっぱり生徒会と理事長の仕事で今はいない。パパッと片付けて戻って来るとは言ってたけど。
「梨子ちゃん、あんまり急かすと出る物も出ないんじゃないの?」
「曜ちゃん、それはダメだよ。千歌ちゃんを甘やかしちゃ。時には厳しくしないと」
「うぅ。梨子ちゃん、何時も厳しいよぉ」
「曜ちゃんが甘やかすから、私はその分厳しくしないとだから。さっ、歌詞書いて」
リリーは笑顔で千歌に言い、なんというかいつも通りの光景だった。曜が千歌を甘やかすのも含めて。
「でも、そんなに作詞って難しいの?いつもはなんだかんだで書けてるじゃない」
「そうなんだけど……」
「善子ちゃん。作詞って難しいんだよ。それに、今回の新曲を説明会でやる予定だから、この新曲で入学希望者が増えるかどうか変わると思う」
「あっ、だから難しく考えちゃうずらね」
「うん。たぶん」
私たちは千歌の顔を見ると、ルビィが言った通りのことを考えていたようで、苦笑いを浮かべて頷く。
「書かなきゃって思っても、どうもうまくいかないんだよね。でも、なんとか書いてみるよ」
「千歌ちゃん……」
「千歌……」
千歌の顔を見れば、明らかに無理をしてでもそう言った感じだった。たぶん、自分のせいで皆に迷惑をかけているからと溜め込んでいるような。
「じゃぁ――」
「シャイニー!」
せめて私たちにできることは無いかと聞こうとするも、タイミング悪く仕事を終えたマリーの声によってかき消された。
「鞠莉さん。静かに入れないのですか?」
「ダイヤ。鞠莉がそんなこと気にすると思う?」
「無理ですね」
「ちょっ。果南、ダイヤ、どういうこと?」
「よし!とりあえず、三人が戻って来たから練習しよっか」
三年が戻ってきたことで部室の雰囲気が変わり、千歌はさっきまでの会話を打ち切って練習を提案する。今は先に歌詞のことを固めないとまずい気がするのに、千歌は「せっかく九人がそろったんだから練習しよう」と言って聞かず、作詞は練習終わりに頑張るとかで無理やり進めてしまう。
「歌詞って思いつく時は思いつくけど、思いつかない時はほんと思いつかないよね」
「でしょ?だから、身体を動かせば思いつく気がするんだ」
「まぁ、三人の時に作詞を担当した果南ちゃんが言うのなら……」
果南の一言で、皆も練習をする案に賛成の色を示し、結果としてさっさか練習を始めることになった。うーん。本当に大丈夫なのかしら?
っと、屋上で練習をするなら落下しないように気を付けないといけないか。
「で、初っ端から、走り込みなのね……」
ストレッチをした後、私たちは裏女前のあの急坂を何周もしていた。てっきり屋上でダンス練習だと思ってたのに、まさか走り込みをするとは。確かに体力は必要だけど。
屋上じゃないから落下の心配はないけど、正直持久力はまだまだだから辛い。それに、一応道路だから車が通る恐れもあるし、この途中で轢かれるなんてことは無いわよね?
「ほらほら。泣き言言わずに走れー。体力は付けておかないと!」
「そうそう。体力がないと連続で数曲できないよ!」
「なんで、二人とも、息切れて、ないのよ……」
走っているといつの間にか前にいたはずの果南と曜がやって来てそう言う。二人の言ってることは分かるけど、これは結構きついわよ。それに、なんで二人とも全く息の切れないで平気な顔してるのよ!
「うゅ。ルビィ、もう無理かも」
「ずら~」
二人も相当息があがっていてきつそう。私もだから人の心配をしている余裕はないけど。
「これこそ、体力の差かな?体力が付けばどうにかなるんじゃないかな?」
「じゃぁ、明日からは一緒にランニングする?」
「えーと……今の練習で、手いっぱいだから」
果南と一緒にランニングすれば、確かに体力は着くだろうけど、毎日朝早くからやる元気はない。果南が走ってる時間って、陽が昇ってすぐだったわけだし、あの時と同じような時間なら日が昇ってるか怪しいわよね。
そういう訳だから、朝のランニングは遠慮しておく。果南は「そっか。気が向いたら走ろうね」と言ってまた前に戻って行き、皆にも声をかけていく。
「曜は、追いかけなくて、いい訳?」
「さすがに果南ちゃんほど持久力はないから私のペースでね。だから、追いかけなくてもいいかな?」
「そう。それで、何か私に言いたいことがあるの?」
「ん?ううん、特に無いよ。どうして?」
「いや、私の隣を走ってるから。いつもなら千歌の隣か果南の隣走ってるじゃない」
「そういうことね。まぁ、後で果南ちゃんを追い抜くから、今は猛ダッシュの為に体力温存かな?」
「……結局、果南を追い抜く気なのね」
曜はいつも通り、最後の最後に猛ダッシュで果南を追い抜いて一番乗りするつもりでいるらしい。なんで、こうも競争したがるのやら?
「ほどほどにしておきなさいよ」
「ヨーソロー!」
曜は敬礼すると、前の方を走るリリーの方にペースを上げて行く。体力を温存する気があるのかないのか分からないわね。
車は来ないし、とりあえずまだ平気みたいね。
「はぁはぁ。結局果南ちゃんを追い抜けなかった」
「まだまだ。曜に負ける気は無いよ!」
で、走り込みが終わって校門前に着くと、どうやら果南が一番に着いたみたいだった。なんとなくそんな気はしていたから、さして驚きはないけど。
「はいはい。休憩したら屋上でダンス練習しますわよ」
「はーい」
~☆~
「善子ちゃん、またねー」
「ヨハネ!じゃっ、また明日」
練習が終わり、曜がいつものバス停で降りていくのを見送ると、私はもうしばらくバスに揺られる。結局、私の身に何かが起きるようなことは無かった。また屋上で練習している時にフェンスが外れて落ちかけるかもと気を付けたり、車が突っ込んでくるかもと思い帰り道を警戒し続けるもそんなことは起きなかった。
もしかしたら、いつの間にか迫っていた危険を回避していた可能性もあるけど、まだ今日は終わらないから気は抜くわけにはいかないか。
私は定期券を運転手に見せるとバスを降りる。今日はいつも読んでる本の発売日だけど、下手な寄り道をした結果危険な目に遭うのは避けたいから、寄り道せずに家に向かう。新刊は明日買えばいいでしょ。
「うーん。何も起こらずに家に着いちゃった」
そして、特に車に轢かれるようなことも起こらずに、マンションの一階までたどり着いた。
やっぱり、いつの間にか危険を回避できてたのかしら?
私はそんなことを考えながらエレベータに乗ると、上に上昇し始める。うーん。結局今日一日の警戒というか心配は杞憂だったわね。
ウィィィン……ガシャンッ!
「ん!?」
すると、十階のところで変な音を立ててエレベータが止まる。普段ならこんな音など立てずに普通に止まって開くはずなのに一向に開く様子がない。そんな状態が十秒ほど経つと、唐突に電気が消える。私はこんな時に停電が起きたことで、嫌な予感が頭を過ぎる。
前回は水曜にエレベータが落ちた。でも、今回はまだエレベータは落ちていない。つまるところ、今回起きることは……
「まさか、落下!?」
ガシャンッ
私が口にした直後、エレベータは再び謎の音を立てて、浮遊感が私の 身を包む。
ワイヤーやらエレベータの外装が壁に擦れたことによる摩擦で若干速度が落ちるも、それはただの気休めで、このままならあと数秒のうちに地面に落下するのは明らかだった。
その瞬間、私はこのままなら死んでしまうのだと理解した。二階や三階なら運良く死なずに済むかもしれない、でも、十階からだと助かる見込みはない。マリーもリリーもあの時即死だったから。
皆の死をまた回避することに成功したのに、また私の死が阻む。でも、私は諦めたくない。死にたくない。だから、首にかけていたペンダントを握り願う。
一度できたのならきっと……
「我願う。故に我乞う。みんなとの日常――」
ガッシャーン!!
という訳で、ダイジェストにして、一気に土曜日スタートです。加速なのかはなんとも言えないけども。
では、ノシ