繰り返される堕天   作:猫犬

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15 壊れた感情

「ルビィ……」

「……」

 

私は目の前に倒れるルビィを見て声を出す。

倒れているルビィは傷口から血が流れ、このまま流れ続ければ間に合わなくなりそうな勢いだった。

 

 

~☆~

 

 

「今何回目だっけ?」

 

その日の朝目を覚ました私はベッドに寝転がりながら口にする。すでにあの一週間をもう十回は繰り返していた。

もう数えるだけでその時の情景がフラッシュバックし始め、だいぶ疲れてきた。時を繰り返しているから身体は回復して元気でも、精神的疲労は回復することは無く積み重なっていく。死を回避した日は、また明日誰かが死ぬのだと思い、目を閉じれば誰かの死の光景が浮かんでくる。だから、最近は睡魔によって寝落ちをするように眠っていた。

 

いくら繰り返しても私の死は回避できない状況が続いている。マンションに車が突っ込んでくる、エレベータを避けて階段を使えば階段が崩落。ひどいものならサファリパークから逃げ出したライオンに襲われる事態まで起きた。毎回死因が変わるせいで対応策を立てることもできない。

 

だから、同じ轍を踏まない為に日記をスマホ内で書いていた。

どうやら、過去に飛ぶ際に持っていた物も過去のそれに上書きされるらしい。偶然鞄を持った状態で過去に飛んだことでノートにその日の授業で取った内容が書かれていたから判明した。最初はノートに書くことも考えたけど、ノートを常に持っているとは限らない。でも、スマホなら大体制服のポケットに入れていることが多いからスマホにした。日記にはその日の天気やあった出来事、そして誰がどんな死を遂げたかを書いた。スマホに書いている理由は、他の誰かに見られる恐れが無いのもあったわね。ノート系に書くと誰かに見られる恐れもあったし、見られれば絶対に言及される。言ったところで、信じてもらえないのは目に見えてるし。

 

『今日の十二位は……乙女座のあなたです!』

「はぁ、誰に危険が迫るのやら?まっ、これがあるから何度でもやり直して回避するだけだけど」

 

誰の身に危険が迫るかわからない。

でも、私にはペンダントがある。

私は首にかけていたペンダントを見てそう呟くと、朝ご飯を食べ終えて家を出た。

 

 

今日は普通に練習をして、部室でルビィの忘れ物を一緒に取りに戻って、家に帰るところだった。果南と千歌は家の仕事で終わるなり急いで帰り、マリーは理事長の仕事のようにそれぞれやることがあってこの場にはいない。他の皆ももう帰っている。皆は待とうとしていたけど、誰かを巻き込みかねないから先に帰ってもらった。ルビィが事故に遭う確証はないけど、そこは勘で。いつも少数の方で事故が起きているから。それに、どうせ過去に飛べばどうとでもなるし。

 

「善子ちゃんと二人きりは珍しいね」

「そうね。いつもなら花丸もいることが多いし」

 

忘れ物を回収すると、取り留めのない会話をしながら通学路を歩く。

 

「そう言えば、善子ちゃんって堕天使って言う割に真面目に授業は受けてるよね」

「ちゃんとやるわよ。一学期の半分近くを休んでたから、それを挽回するためにも真面目にやんないと留年になりかねないし」

「あはは。というか、それは善子ちゃんの自業自得だよね?」

 

実際、入学早々不登校になって出席数が若干危ないのよね。まだ、余裕はあるにはあるけど、不運な私にいつ何が起きるかわからないから油断を許さない訳だし。それで進級できなくて留年なんて最悪よね。

 

「善子ちゃん!」

 

すると、ルビィの声と同時にいきなり突き飛ばされて、私はバランスを崩してみかん畑に突っ込む。いきなりすぎて受け身が取れなかったけどみかんの木のおかげで怪我をすることは無かった。

いきなり突き飛ばされてルビィに文句を言ってやろうとみかん畑から出て来て道に戻ると、文句を言うつもりだったのに文句を言うことはできなかった。

 

「ルビィ?」

「……」

 

私は目の前に倒れるルビィを見て声を出す。

ルビィの上には根元が折れた電柱が倒れており、ルビィの頭を直撃したのか頭からは血が流れていた。

打ち所が悪かったのか意識が無いようで返答はなく、私は学校内で付けてるとダイヤに怒られるから鞄に入れていたペンダントを取り出す。見た感じこのままならルビィは死ぬ。

でも、これさえあればルビィの死を無かったことにできる。どうやってでもこの運命を変えてみせる。

 

「我願う。故に我乞う。ルビィの居る日常を!」

 

私はいつも通り言葉を口にする。しかし、どういう訳か水晶が輝かなかった。

 

「あれ?我願う。故に我乞う。ルビィの居る日常を!」

 

何かの間違いかと思って、もう一度言ってみるもやはり水晶は輝かない。

なんで?いつもなら光が溢れて今朝に飛ぶはずなのに……。

何故か過去に飛べないことで私は困惑する。これじゃ、ルビィの死を回避できないじゃない!

 

「光れ!光りなさいよ!」

 

私は叫んだ。でも、叫んだところで何も起こらない。そして、

 

「よっちゃん?」

 

倒れるルビィと私の前にリリーが現れる。どうしてリリーがここに?

 

「リリー?」

「よっちゃん?……ルビィちゃん!?何があったの?」

 

リリーは倒れているルビィが血を流していることに気付くと、駆け寄って来てルビィを見る。

 

「よっちゃん、救急車は?」

「まだ、呼んでない……」

「なんで!?」

 

リリーは大声を出すと、スマホを出して救急車を呼ぶ。私は呆然とそれを見ていることしかできなかった。

どうして、こんなことになったの?どうして、過去に飛べないの?

 

 

どうして?

 

 

~☆~

 

 

「残念ながら打ち所が悪く、手の施しようがありませんでした」

「そんな……」

「ルビィ……嘘でしょ?」

 

病院に着いた時にはすでに手遅れだった。救急車の中でも必死の手当てが行われていたけど、打ち所が悪かったらしい。

連絡を受けて駆け付けた皆は信じられないといった表情をしながら涙を流す。

私も悲しいはずなのに、どうしてか涙は一滴たりとも出ることは無かった。どうして出ないのかはわからない。

でも……

 

「ちょっと、お手洗い行って来る」

「……よっちゃん?」

 

私はルビィの死を受け入れる気は無く、もう一度願いに行く。

皆には手洗いに行くと言ったけど、私はそのまま通り過ぎて屋上への階段を上り、屋上に上がると私は外の景色を眺める。

 

「きっとうまくいく。さっきはまだ生きてたから光らなかっただけ」

 

さっき失敗した理由を考えれば、そうとしか思えない。だから、もう一度やればうまく行くはず。毎回、私が願う時は私一人だったから、一人になったけどもう慣れたわね。いつも私の目の前でみんな死んでいく。そして、私はその度に願った。

だから、私はペンダントを握ると再び願う。

 

「我願う。故に我乞う。ルビィの居る日常を!」

 

しかし、水晶が輝くことは無かった。

なんで?いつもなら、誰かが死ねば輝いて過去に飛べたのに。どうしてこんなことに?私はただやり直したかっただけなのに。

 

「よっちゃん?」

 

名前を呼ばれて振り向けば、そこにはリリーがいた。

たぶん、私の態度がいつもと違うから気になって付けてきたようだった。

 

「リリー?」

「よっちゃん、こんなところで何してるの?」

「気分転換にね」

「嘘でしょ?よっちゃん、私たちに何か隠してるよね?」

「……何も無いわよ」

 

私は誤魔化す。

でも、リリーは私が隠していることを見抜いているようだった。

 

「嘘。よっちゃんは嘘ついてる。普通じゃないんでしょ?」

「嘘なんてついてないわよ。普通よ……」

「じゃぁ、なんでそんな顔してるのよ!後ろめたそうな」

「え?」

 

私は言われてハッとする。水晶に反射する私の顔は、ひどくやつれていた。リリーは泣いたことで目元が赤いのに、私は泣いていないから一切赤くなっていない。

 

「それに、ルビィちゃんが倒れてたのに救急車も呼ばない。ルビィちゃんが死んだって聞いても泣かない。それのどこが普通なのよ!私の知ってるよっちゃんは、誰かを思える優しさがある。悲しいことがあれば涙を流せる子だよ」

「……」

「ねぇ、話して?私はよっちゃんの言葉を聞きたい。だから、お願い」

「リリー。でも、話したところで……」

 

リリーに話していいのかな?でも、それでリリーに幻滅されたくない。もしかしたら、私を責めるかもしれない。ルビィが死んだのは私をかばったから。過去の皆だって、多くは私をかばったせいで死んでいった。

きっと話せば責められる。軽蔑される。

 

「話して!私はよっちゃんの言葉を信じたい!だから、私を信じて!」

「きっと、話せばリリーは私から離れる。きっと嫌いになる」

「ならないよ!絶対に」

 

私の言葉をリリーは否定する。

怖い。今の関係を壊すことが。

でも、話さなくてもきっともうリリーとは前みたいな関係には戻れない。どちらを選んでもリリーに嫌われることは変わりないわね。

だったら、リリーに責められた方がきっと。

 

「リリー、実は――」

 

だから、私たちは屋上にあった椅子に座ると話し始める。

曜が月曜日に車に轢かれて死んだこと。

水晶に願うと過去に飛べること。

それから連日誰かが死んだこと。

私の死だけはどうやっても回避できず、水晶の力でこの一週間を何度も繰り返していること。

そして……急に水晶の力が発動し無くなったこと。

 

リリーは静かに私の話を聞いてくれて、時々驚愕のような声を上げていた。

 

「って、感じなの」

「……」

「……はぁー……という夢を見たのよ」

 

リリーはまるで信じられないかのような表情をしていて、きっと嘘かなんかだと思っている気がした。だから、私は最大限明るい声でそんな夢を見たことにする。いまなら、まだ間に合うから。

 

「そっか。にわかに信じられない話だね」

「だから、そんな夢を見たのよ」

「でも、夢なんかじゃなくて、本当の話なんだね」

「え?」

 

リリーにそう言われて驚いた。こんな話、普通は信じるはずがない。きっと、私に気を使って。リリーは優しいから。

 

「よっちゃんがそんな作り話をするとは思えないし、そう考えればルビィちゃんが目の前で倒れていたのに救急車をすぐに呼ばなかったのも納得がいく。過去に飛んでやり直そうとしてたんだから」

「どうして、信じられるの?」

「ん?さっきも言ったでしょ?よっちゃんは優しいから。そんなひどい嘘を、ましてや作り話をする訳無いでしょ?」

「リリー……」

 

こんな話を信じてくれることにうれしさが込み上げる。結局、信じてもらえないのかと思いこんでいた私がバカみたい。

すると、リリーは急にムスッとする。

 

「でも、私はよっちゃんに怒ってます!一人でこんなことを抱え込んで、それに私を信じてくれなくて。私はよっちゃんのリトルデーモンのリリーなんでしょ?だったら……信じて欲しかったよ」

「それは……わっ!」

 

リリーに怒られて顔を伏せると、唐突にリリーに抱きしめられる。

 

「でも、それ以上に私は私に怒ってる。よっちゃんが辛そうにしてたのに、全く気付けなくて。一人でこんな重い物を背負わせちゃって」

「そんなこと……私が勝手に信じられなくなって自分一人だけで抱え込んだだけ」

「そっか。頑張ったね、よっちゃん」

 

リリーに優しい声をかけられて、私は涙が込み上げてくる。

 

「どうして?ルビィが死んだって聞いた時は涙が溢れてこなかったのに」

「きっと、よっちゃんは疲れてたんだよ。だから、精神も疲れてて感情がぐちゃぐちゃになってたんだよ」

 

リリーの言葉を聞くと、胸にストンと落ちた。確かに、最近はずっと張り詰めてて感情をあまり表に出してなかったかも。水晶があればやり直せるってみんなの死から目を逸らしていた。きっと、そんなことを考えていたから水晶が応えてくれなかったのね。

私は袖で目元を拭うと立ち上がり、頬を一回叩いて気合を入れる。

 

「そうよ!私は絶対に諦めない!」

「うん。そうだよ。だから、皆にも相談してみよ?もしかしたらまた水晶が輝く方法が見つかるかも」

「それは……」

「大丈夫。私も皆にちゃんと伝えるから。ちゃんと向き合えばきっと伝わるよ」

「そうね。主を救うとはさすが私のリトルデーモンね」

「ふふっ、やっぱり、よっちゃんはそうじゃないと。ふぅ、七時を過ぎるとだいぶ肌寒いね。皆のところに戻ろ?」

「うん」

 

リリーは笑みを浮かべるとそう言い、私たちはエレベータの方に行く。登りに階段を使ったのは、待ってる時に誰かに見られるのが嫌だったからだけど、もうエレベータで降りても問題ないわよね。今日はもう事故が起きたからきっともう起きないだろうし。

 

「そうだ。実は、一つ疑問が……よっちゃん!」

 

急にリリーが叫び声を上げると、私たちの真上に給水タンクが降って来た。

てっきり事故はもう起きないと思ってたのに、いきなりこんなことが起きるなんて。

私は中に飛び込むように飛び、リリーは逆方向に飛んで回避を試みる。タンクは屋上の床に激突して穴が開いて周囲に水が飛び散る。

 

「危なかった……って、リリー!?」

 

とりあえず自分の無事に安堵するも、すぐにリリーの状態が気になり振り返る。後ろの方に回避してたから、きっと無事なはず。

しかし、振り返った私の目には床に倒れているリリーの姿と、その下の水が赤く染まり始めているという光景が広がっていた。

 

「リリー!?」

 

慌てて駆け寄るも、反応はない。

まさか、私がリリーに話したせいで、こんなことに?やっぱり、話しちゃいけなかったんだ。

私はリリーの身体を揺する。でも、反応が無い。

 

「リリー、嘘でしょ?起きてよ」

「……」

「お願い!起きてよ!」

 

私は涙をこぼしながら泣き叫ぶ。

これから一緒に過去に飛ぶ方法を考えようって言ってたのにこんなの……。ルビィを失い、リリーも失うなんて嫌!

 

「起きてよ……」

「ん、んん」

 

リリーに抱きついて懇願するように声をかけ続けていると、リリーが目を覚ました。ずっと、こういうことが起きたら死んでしまっていたから、てっきりタンクに直撃したのかと思ってたから生きててよかった。

 

「リリー、大丈夫?」

「うん……あっ、よっちゃんは?」

「大丈夫。リリーが声をかけてくれたおかげで助かったわ」

「よかった」

「良かったって。気を失っていたリリーの方が重体だったでしょ」

 

自分のことより私の事を心配する当たり、ほんとお人好しよね。安堵の息を漏らすと、リリーの身体を起こす。あれ?そう言えば、じゃぁ床の血はいったい?

そんなことを考えていると、リリーの足から血がにじんでいることに気付いた。

 

「あっ、たぶんタンクの破片に当たったのかな?」

「病院だから手当てしないと」

「あはは。ありがとね」

「これくらい普通よ」

 

私は足を怪我がしているリリーに肩を貸すと、お礼を言われる。これくらい普通よ。

 

「ううん。それじゃなくて、意識を失っている私にずっと声をかけ続けてくれたでしょ?意識は無かったけど、よっちゃんの声は聞こえてたよ。だから、私はここに戻ってこられたと思うの。よっちゃんが声をかけ続けてくれなかったら起きられなかった。だから、ありがとう」

「そう……」

「あっ。それで、もしかしたらなんだけど」

「どうしたの?」

「たぶん、今のよっちゃんなら過去に飛べる気がするの」

「え?」

 

リリーの言ってることがわからない。いや、正確にはどうしてそう思ったのかがわからないんだけど。

 

「話を聞いた限り、よっちゃんはルビィちゃんの死に向き合ってなかったと思うの。水晶があれば何度でも救えるからって。皆の死を見てからやり直して回避すればいいやって、命をないがしろにしてたと思う」

 

さっき私が思ったことをリリーも口にする。やっぱりそうなのかしら?

 

「でも、今なら大丈夫。私が死んだんだと思って泣いてくれた今のよっちゃんなら」

「そんなことあるのかな?」

「大丈夫!よっちゃんが私たちのことを心の底から願ってくれれば、きっと」

 

リリーは私の手を握ると、肩から離れて一人で歩き出す。

 

「よっちゃんの話だとずっと一人の時に飛んでたって言ってたから、私は先に戻ってるね」

「……リリー」

「ほら。そんな顔しないの。ルビィちゃんのこと絶対に救ってね」

「ありがと。リリーに話して気持ちが軽くなったわ。だから……絶対にルビィを救ってみせるわ!」

「うん!」

 

リリーは笑みを浮かべて、エレベータに乗ると降りて行く。

屋上に残されたのは私一人だけ。リリーにはそう言われけど、本当に過去に飛べるのかな?

ううん。絶対に変えてみせる。私はルビィを救いたいんだから。

 

「我願う。故に我乞う。ルビィの居るあの日常を!」

 

私は祈るように両手でペンダントを包み込んで握ると願った。ルビィの居るあの日常に戻りたいと心の底から。

そして、水晶は輝き、私を包み込んだ。

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