「はぁー。雨に濡れると体調を崩すのは変わらずなのよね」
その日、私は体調を崩して学校を休まないとまずい状況になっていた。
昨日は大雨+強風で傘は意味をなさずにずぶ濡れになったのが原因だと思う。でも、なんとか事故は回避することに成功したわけだし、良かったと言えば良かったけど
無理して学校に行こうと思ったけど、ママに見つかって泣く泣く断念。流石に行かせてもらえるとは思ってなかったけど、今日も誰かの身に危険が来るはずと考えれば、家でのんびりしている余裕はない。
だけど、こんな状態で学校に行った結果誰かに庇われて死んでしまう可能性もあるからどうしたものか。でも、家に居てもお見舞いに来た皆がエレベータで死ぬ可能性もあるのよね。
ヨハネ『風邪ひいたから、今日休むわね。風邪をうつしたら悪いから、お見舞いとかはいいからね』
チカ『えー。こういう時はお見舞いが定番でしょ!』
ヨウ『確かにそうだけど、これでうつっちゃえば善子ちゃんが責任を感じちゃうからやめとこ?』
リコ『ご飯はちゃんと食べなよ?そうしないと治る物も治らないから』
カナン『あとは、水分も取らないとね』
ダイヤ『それと睡眠はたくさんとってくださいね』
ヨハネ『了解よ』
みんな私の事を心配してくれているらしく、そんなことが返信されていく。釘を刺しておけば誰かがお見舞いに来ることは無い……はず。
何回も来てるから意味が無い気もするけど、こんな状態で外に出るよりはマシなはず。こっちに来たら階段で帰ってもらえば事故は防げてるし。
皆の気遣いに感謝しながらチャットを見て行けば、どんどん更新されていく。
ルビィ『お大事にね』
マル『早く治して、一緒に練習ずら!』
マリ『マリーたちは待ってるデース』
ヨハネ『こんな風邪一日で治してみせるわ!』
心配はあまりさせたくないからそうやって書いてから、少しは栄養を取ろうとフラフラした足取りでリビングに行く。ママは私を部屋に押し込んでから学校に行ったからもういない。
「うーん。ここは無難にプリンでいっか」
ママがパパッと準備したであろうおかゆの具材を横目に別の段にあったプリンを取り出す。おかゆはお昼の時に食べよっと。
『今日の十二位は獅子座のあなた!』
テレビをつければいつも通り、占いがやっていた。私の順位は七位と中途半端で、だからこそさして気にすることもなくそのまま占いが終わってからもニュースを見ながらプリンを食べる。
「さて、今日はもう誰も来ないからこのまま寝よーと」
食べ終えるとゴミを捨てて、部屋に戻って布団に潜る。明日からまた忙しくなるから、なるべく体調を良くしないとね。
あまり眠くは無いけど、ベッドに潜っていればきっと寝れるはず。
~☆~
ピロンッ
「ん?なんだろ?」
昼過ぎに目を覚まして、朝よりはだいぶ調子がマシになって来ていたから遅めのお昼を食べた。その後にまた寝ようと思って横になったのはいいけど、だいぶ寝たからあまり眠くなくてゲームをしていたら通知が来た。スタートボタンで一時停止させてアプリを起動させる。
チカ『私チカ。今マンションの下にいるの』
「ん?」
チカ『私チカ。今エレベータの中にいるの』
「へ?」
チカ『私チカ。今善子ちゃん家の部屋の前にいるの』
随時更新されていくチャット。千歌は何がしたいの?あと、お見舞いはいいって言ったはずなのに。
千歌がやっているのは『メリーさんの電話』と呼ばれる怖い話に似ている。電話が何度もかかって来て、徐々に近づくメリーさん。家の前まで来てドアを開けるとそこには誰もいなくて、もう一度電話が来て『私メリー。あなたの後ろにいるの』と言われて振り向いたら殺されるというお話だったかしら?オチは色々な種類があるけど。
でも、あれって普通電話でやる物なんじゃ?なんでチャットでやるのやら?
チカ『私チカ。今善子ちゃん家の部屋の前にいるの』
「うーん」
チカ『私チカ。今善子ちゃん家の部屋の前にいるの』
「どうした方がいいのかしら?あれの通りなら、ドアを開けたらアウトよね」
どうしたものかと悩んで特に返信すること無く放置してみる。千歌の筋書きだと私はどういう反応をするのやら?
最終更新から一分が経つ。
その間何も起こらない。家の前にいるのならインターフォンを鳴らせばいいんじゃないのかな?なんで鳴らさないのやら?
チカ『ドア開けてよぉ (´;ω;`)』
すると、千歌がそんなことを言う。
チカ『あれ?善子ちゃんがドアを開けてくれない……もしかして寝てるのかな?』
チカ『うーん。これじゃ、善子ちゃんが起きるまで待ってないとダメなのかなぁ』
チカ『よーしーこちゃん。あーそーぼー』
千歌は私が出てくるまで待つつもりのようだった。となると、いつまでも待たせるのもあれだし、行くかな?このまま帰るようなら帰ってもらおうと思ってたけど。
「あっ、もしかしたら倒れてて返事ができないかも!ドア開けないと!」
ドアの向こうで千歌がそんなことを言っており、
「非常事態だからピッキングして開けないと!」
「怖っ」
私は慌てて鍵を開けてドアを開ける。鍵の音で千歌は一歩引いたようでドアがぶつかることは無かった。
「あっ、善子ちゃん!」
「ピッキングは犯罪よ!」
「あはは。千歌にそんな技術は無いよ」
「で、なにしに来たの?」
ジト目で見れば千歌はハッとした表情をし、
「あっ。私チカ。善子ちゃんのお見舞いに来たの」
満面の笑みでそう言った。いや、だからなんでメリーさんのオマージュをしてる訳?
そんなことを思うけど、それより先に言いたいことがある。
「お見舞いの必要は無いって言ったわよね?」
「うん。でも、心配だったからね。入っていい?」
「どうぞ」
「お邪魔しまーす」
千歌を中に通すと、私の部屋に来てもらう。千歌の格好は制服ではなくて私服で、たぶんいったん家に帰ってから来たようだった。まあ、直で来てれば誰かも一緒だろうし……いや、リリーとかダイヤなら多分止めるか。曜とかルビィ辺りは流されて来かねないけど。
「で、普通来る?来なくていいって先に言ってあったのに」
「あはは。善子ちゃんが強がってるのかなぁって思って。それに、病気の時に一人だと寂しいものだからね」
「はいはい。それで、本当のところは?」
「作詞を急かす梨子ちゃんから逃げて来ました」
「いや、逃げちゃダメでしょ」
私のお見舞いに来たの半分、リリーから逃げて来たの半分という事実に私はツッコむ。流石に作詞作業から逃げるのはまずいんじゃ?
「どうせ思いつかない時にやっても全くできないもーん」
千歌は全く悪びれた様子もなくあっけらかんとした様子だった。これは後でリリーに怒られるオチね。
「それで、善子ちゃんはもしかしてさっきまで寝て……た訳ではなさそうだね」
千歌は部屋を見渡して、テレビの画面を見る。そこには寝るに寝れなくて暇つぶしに始めたゲームが映っている。
たくさんのキャラクターから選んで乱闘するゲーム。つけたらこれが入ってたから始めただけの理由。たぶん、他のが入ってればそれをやったと思う。
「善子ちゃん、チカもやるー」
「お見舞いに来たんじゃないの?」
「思ってたよりも善子ちゃんが元気そうだから安心しちゃった。それに、善子ちゃんだって千歌が来るまでやってたんでしょ?」
「まぁね。でも、長い事居たら千歌にうつしちゃうかも」
千歌にうつすことを心配してそう言うも、千歌はさして気にしていない様子だった。どうして千歌はそんな様子なのか疑問なんだけど。もしかして、千歌って風邪ひいたことが無い人とか?いや、もしそうだったら、千歌がよく自分を普通って言うけど、普通なんかじゃないと思うけど。
「ふっふっふ。チカにはこれがあるのだ!」
「みかん?」
千歌が鞄から取り出したのはみかんで、どうやらみかんを食べているから風邪をひかないとでも言いたいようだった。いや、風邪予防にはいいって言うけど、それで絶対に風邪を引かないって訳ではないと思う。
「みかんの力があればチカは風邪をひかないのだ!」
「そうなの?」
「うんうん。だから、一緒にやろ?こういうのは対戦の方が楽しいよ?」
千歌は首を傾げてそう言う。千歌の言うことはわかるけど、本当にいいのかわからず私は頷けない。しかし、私は千歌の誘いを無下にすることもできない。せっかくお見舞いにここまで来てくれた訳だし。
「わかったわ。でも、マスクは一応して。それが条件よ」
「わかった~。あっ、お見舞いに持って来たからあげるね」
机の上に置いていた予備のマスクを千歌に渡すと交換に鞄から取り出したいくつかの果物が渡される。その中にはちゃっかりみかんも交じっていた。私がみかん嫌いって知ってるわよね?一応、昔から食べてたせいで飽きたから嫌いってだけで食べられはするけど。
「よーし。曜ちゃんたちと時々やってた千歌の力をみせちゃうよぉ」
「はいはい」
やる気満々の千歌を見ながら私たちはキャラを選ぶ。私は天使の人(堕天ver)を選択し、千歌はピンクの悪魔を選択する。NPCはランダムでレベル九にしておく。一人でちょくちょくやってたからNPCは九くらいじゃないと歯ごたえが無いわね。千歌の実力は未知数だけど。
ステージは一番シンプルなステージの終点で、始まると同時に私は速攻でステージの端に寄る。そして、牽制射撃に矢を撃っていく。各々回避かガードをし、千歌はぷよぷよ浮いて近づいて来る。私はそこから矢の射線を動かして撃ち落としにかかるも意外と当たらなかった。
そして、真上に来ると石になって降ってくるのでガードをし、
「ちょっ!溜めないでぇ」
「問答無用!」
攻撃の溜めをする。その際にちゃっかりNPCの一体も溜めを始め、石から戻った直後に私は溜めを解除して攻撃をする。NPCの攻撃が一瞬遅かったことで二体とも攻撃がクリーンヒットして逆側に吹っ飛んで行く。流石にダメージが溜まってなかったからこれで撃破には至れなかった。その後、千歌は空中で攻撃を受けてたけど。
「もう怒った!千歌の本気を見るがいい!」
千歌はそう言って、ぷよぷよ浮くと空からまた石になって降ってきて、NPCに襲い掛かる。その間に私はもう一体を攻撃する。
で、ストック制だったからパパッとNPC二人を片付けた。流石に一機も落とさずには無理で、私も千歌も残り二機にはなっていた。
「さてと、ここからは一対一になったわね」
「ええ。アイテムも無しだから腕次第ね」
私は接近すると同時に二本の剣で攻撃し、千歌はそれを綺麗にガードしてカウンターをする。
曜たちとやっていたのは本当のようで、流石に簡単には押しきれなさそうね。でも、NPCと戦ってきたからにはどうにかなるでしょ。
そう思いながら冷静に対応していき……。
「ふぅ、ギリギリ勝てたわね」
「うぅ。勝てると思ったのに~」
割とギリギリで私は勝利を収めた。たぶん、千歌の強攻撃を喰らってれば私が負けていたかもしれないから、ほんとギリギリだったわね。
とりあえず、勝利に私は安堵すると、千歌はなんでかストーリーモードを開く。ほとんど終わってるからやる必要も無いと思うけど。
「善子ちゃん、ボスのフィギュア化全部できた?」
「ん?いや、一人プレイだとプレートを持ちながら体力を削るのが厳しいから全くしてないわね」
「そっか。じゃぁやろう!」
「ん?どうしたのよ急に」
千歌のイメージだとそういう収集系よりも対戦の方が好きだと思っていたから意外だった。そもそも、そう言う収集系って途中で飽きるからコンプした試しがないのよね。
「いいわよ。じゃぁ、順番にやりましょうか」
「うん」
そう言って始まったボスのフィギュア化。一人だと厳しいからありがたいっちゃありがたい所だけど、どうして急にやりたがったのかはわからないわね。
とりあえず、千歌の使うキャラにシールを付けてプレートを初期装備にしておく。
「じゃぁ、まずはこれからね。私がパパッと体力を削るから、千歌は必殺技とかで削ってちょうだい」
「わかった~。炎撃ってるね~」
最初の敵は籠を持った二足歩行の植物――ボス○ックン。こいつは動きが単調だからそんなに難しくないわね。私はピンクの悪魔、千歌は配管工の人を使う。
ボス戦が始まると同時に接近すると、強攻撃やスマッシュ技等を駆使してガンガン攻撃して体力を減らしていく。千歌は言った通り、攻撃を回避しながら炎を撃って地道に削って行く。
「千歌!」
「よし、きたー」
千歌に合図すると、千歌はプレートを敵の方に投げつける。プレートが敵にぶつかるとそのダメージで敵の体力が零になりフィギュアになる。てっきり何回かやらないとうまくいかないと思ってたけど割とあっさりとできたわね。
「やったね、善子ちゃん」
「ええ。一発でうまくいくとは思わなかったわ」
「あはは、だね。よーし、この調子でどんどん行くよぉ」
そんな感じで、順番にボスをフィギュア化させていく。時々ダメージがうまく残せなくて耐えたり、逆に削りすぎて倒したりすることもあったけど、一人でやるよりは明らかに良いペースだと思った。
「善子ちゃん。最近何か抱えたりしてない?」
マシンの上での大きな鳥――メカ○ドリー戦をしていると、何の脈絡もなしに千歌がそう言った。いきなりのことで何を言っているのか一瞬わからなかったけど、すぐに理解した。
千歌は最近の皆の死の回避のことを言っているのだと。私は常に気を配っていたし、誰かが死ねば絶対に変えてみせようと水晶に願っていた。千歌は普段はあれだけど、こういう人の機微には鋭いところがある。
まぁ、そんな感じだけど、それを千歌に言う気は無い。言えばリリーの二の舞になるだろうし。
「特に無いわよ。どうしたのよ、急に」
「最近、練習の合間とか帰りとかに時々疲れたような顔をしてたり、気を張ったような表情をしてることが多いなぁって思ってね。何か悩みがあるなら、こんな私だけど聞くよ?」
「悩みなんて……別にないわよ」
「あはは。まぁ、言いたくないならそれ以上は聞かないよ」
「千歌……」
「でも、これだけは忘れないでね。このゲームみたいに誰かと一緒ならなんとかなるかもしれない。私なら……ううん。私たちは善子ちゃんの味方だからね」
「そう……と、そろそろかしら?」
千歌の言葉はうれしい。でも、言う訳にはいかない。言えば千歌の身に危険が及ぶ。言わなくても今日の被害者が千歌の可能性が高いけど、だからと言う気も無い。もしかしたら言わなければ千歌の危険を回避できる可能性もあるのだから。
私は画面を見てボスのHPが残りわずかになったからそう言うと、千歌は画面に集中する。話を逸らした形になったけどこれでいい。
ループは私一人でどうにかしてみせる。
~☆~
「ん、んん~……あれ?」
なんだかんだでラスボスまでフィギュア化した後、急に眠くなってその後は……。
「あっ、寝落ちしたのか。ベッドの上ってことは千歌が運んでくれたのかしら?」
ベッドの上から周りを見回すも、千歌の姿はなく何処からかいい香りがする。時計を見れば七時を過ぎており、お腹が空く。私はベッドから立ち上がるとリビングの方に行く。もしかして、千歌がおかゆでも作ってるのかしら?
「あら、善子。起きたのね」
「ママ?あれ、千歌さんは?」
「私が帰って来るまで善子のそばに居て、善子の状態を言って帰ったわよ。なんだかんだで七時過ぎまでいてくれた訳だから、後でお礼の電話でもしなさいよ」
「え?」
「ちょっと、善子?」
ママの言葉を聞いて私は駆け出す。千歌が帰った?ってことは、エレベータが落ちたんじゃ?
そう思いながら玄関を出るも、エレベータは普通に動いていてちょうど稼働していた。
「あれ?エレベータが普通に動いてる」
「善子、そんな状態で外に出ないで大人しくしてなさい」
「あっ、うん」
千歌は何事も無く帰れたみたいで、私は気の抜けた返事をする。よくわからないけど、とりあえず千歌は無事ってことよね?
部屋に戻ってスマホを見れば皆からメッセージが来ていて、その中には千歌の物もあった。千歌は何事も無く家に帰れたみたいで、他の皆も事故とかに遭った様子はない。
「今日は何も無かったってこと?」
私は釈然としない気持ちを持つも、誰も死ななかったことに安堵する。誰も死なないことが一番よ。どうしてこうなのかはわからないけど、必ずしも誰かが死ぬって訳でもなさそうね。
「っと。忘れないうちに日記をつけとこ。夕飯まではまだ時間がありそうだし」