「曜!」
「……良かった、善子ちゃんが、無事で」
事故に遭った曜は自動車と建物の間で挟まれており、私は急いで救急車を呼ぶと周囲の大人たちは曜が挟まれていることに気付き、なんとか隙間から出そうと動き始める。
自動車の運転手はエアバッグで生きていたが、気を失っており、その為大人数人がかりで無理やり自動車を押して退かした。隙間から出された曜の身体はボロボロで血にまみれており、私が声をかけると曜は薄っすら目を開けると、そんな状態なのに私が無事だったことに対して安堵の表情をする。
そんな曜に私は涙を流して問う。
「なんで、私をかばったりなんか!」
「あはは。気づいたら、体が勝手に、動いちゃってて」
「待ってて、もうすぐ救急車が来るから」
「あー、ちょっと、厳しい、かも。身体の、感覚が、全くないや」
曜は身体の感覚が無いようで、さらに意識が朦朧としているのか焦点が定まっておらず、言葉も途切れ途切れだった。そんな状態で話すのはまずいと思う反面、曜の意識が途切れたらもう手遅れになる気がして、私は話しかけ続けて、曜の意識を繋ぎ続けた。それは救急車が来てからも続き、曜が手術室に運び込まれるまで続けた。
そして、曜が手術室に運ばれて、私は外で待たされ、千歌に電話をした。
『もしもし?どうかしたの?善子ちゃん』
「曜が……曜が……」
『曜ちゃんがどうしたの!?』
「私をかばって轢かれちゃって……」
『え!?嘘……曜ちゃんは何処なの!?』
私は泣きながら曜が事故に遭ったことを伝えると、千歌は驚きの声を漏らし、慌てた様子で私に問う。私は泣きながら駅の近くにある病院に運ばれたことを伝えると、すぐに行くと伝えて電話が切られた。
私はその後もメンバーに電話をしていき、私は手術室前のベンチに座って、曜の手術が成功することを祈った。
千歌に電話をしてから三十分後には全員が走ってきた。電話をしてからバスに乗ったにしてはやたらと早いと思うも、そばには千歌のお姉さんがいたから車を出してもらったのだとすぐわかった。そして、千歌が伝えたようで曜のお母さんもやって来ると、
「善子ちゃん!あの子の容体は!?」
「死んでないのが奇跡の状態で、危険な状態って……私をかばったばかりに」
私に対して聞いたから、事故があった当初のこと、救急車内で言われたことを伝える。ギリギリ生きているような状態で、いつ死んでもおかしくない状態で予断を許さない状況だと。
「そんな……どうしてあの子が……」
「ごめんなさい。私のせいで」
「ううん。あなたのせいではないわ」
私はただ謝ることしかできないのに、曜のお母さんはその謝罪に対して否定する。
そして、全員曜の手術が成功することを祈った。それから時間が経ち、手術室のライトが消えると中から一人の医師が出てくる。私たちはその医師のそばに寄る。
「先生、あの子は?曜は!?」
曜のお母さんは医師にそう問う。問われた医師は表情が暗く、申し訳なさそうな顔をする。その瞬間私は理解してしまった。だからこれ以上は聞きたくなかった。
しかし、皆はそれでももしかしたらという希望を持ち、医師の言葉を待ち、
「残念ながら、渡辺曜さんはお亡くなりになりました。申し訳ありません。我々の力が足りなかったばかりに」
「そんな……」
医師の言葉を聞き、曜のお母さんは崩れ落ちて涙を流す。私たちも曜の死に対して声を上げて泣いた。特に曜の幼馴染の千歌と果南のショックは大きかった。
そんな中、私は……
「私のせいだ……私が曜を殺したんだ。私が曜に庇われたから曜が……」
ただただ自分を責めた。あの時、すぐに自動車に気付いて動いていれば。夢で見た光景と同じなのだとすぐに気付き、ただの夢だと思わずに何かしら行動を起こしていれば。
そうすれば、曜が死ぬなんてことは無かったはずなのに……。
「そうよ。私が死んでいれば――」
「だめ!」
私があの時死んでいれば、曜が死ぬことは無かったんだ。
私が言葉を口にした直後、千歌は私の口に手を当てて言葉を止めた。千歌は涙を流しながらも、私の目を見て首を横に振る。
「善子ちゃんはそんなに自分を責めちゃダメ!自分が死んでいればなんて言わないで!そんなことを言ったら、善子ちゃんをかばった曜ちゃんがかわいそうだよ!」
「でも……」
「曜の気持ちを無駄にしないで!曜に救ってもらったんだから、そんなに自分を責めたらだめだよ!」
「千歌……果南……」
曜の死に対して深く傷ついたはずなのに、二人は自分を責める私に対して言葉を口にした。どうして、二人はそんなに強いの?どうして誰も私を責めないの?どうして……。
~☆~
私たちはその後家に帰された。これ以上病院に居てもただ苦しいだけで、家に帰って気持ちを落ち着かせる必要があるからだという判断の為だった。
曜を轢いた自動車の運転手は、あの事故の直前に発作で意識を失い、その結果曜が轢かれたらしく、運転手も同様に手術を受けているらしかった。でも、そんなことはどうでもよかった。曜はもう帰ってこないのだから。
曜の葬儀は明後日には行われることになった。
私はどうやって帰って来たのか覚えていないが、自分の部屋のベッドの上で横になっていた。
曜との出会いは入学式の日で。あの時はやたらと明るい人だなという感想だった。それから曜は飛び込みで入賞する実力を持っていることを知り、コミュニケーション能力が高く、誰に対しても分け隔てなく接することができるからと、自分とは正反対の人なのだと思っていた。だから、私と関わることもないと思っていた。
そして、私がAqoursに入って以降は沼津の方に家があるという理由からバスの中で一緒の時間が増え、その過程で色々知った。飛び込みも裁縫も料理も最初は普通であり、努力して何度も練習していったことで今に至っていることで、特にすごい才能があるとか思っていないと思っていること。人付き合いも、ただみんなと一緒に居ると楽しいから自然とそうなっているだけのことで特別なことなんて一つもないこと。
だからこそ、皆が思っているようになんでもできて人付き合いもよい完璧超人な特別な人間では無く、何処にでもいる普通の女子高生なのだと。それからは、私は曜のことを特別視せず、普通に一人の先輩として、Aqoursの仲間として接していった。
曜は最初、私の堕天使モードを見た時は驚いて、若干引いていたような感じだったけど、それで距離を開けるようなことはせず、次第に堕天使としての私も肯定してくれた。
だからこそ、私は私として見てくれる曜のことが好きだった。きっと、これからも変なことを言っても、笑顔で受け止めてくれて楽しい日々が続くのだと信じていた。
それなのに、そんな日々もこれからはもう訪れない。私のせいで壊れてしまったから。私は曜と過ごした日々を思い出すと、夢の内容を思い出す。
あの時最後私は願った。結果がどうなったのかはわからないけど、神にもすがる気持ちで。
だから、私はふらーと立ち上がると、おぼつかない足取りでいつも使っている魔法陣の描かれた布を手に取って広げ、机の上に置いていた黒い水晶の付いたペンダントを手に取る。
「堕天使ヨハネが命じます……リトルデーモンよ、私に力を……時よ戻れ!
そして、その上で詠唱してみたけど、何も起こらなかった。やっぱりそうよね。私にそんな力なんてない。ただの非力な一人の少女。あれはただの夢だったんだから。
「……って、こんなことで戻る訳もないわね……曜」
たかが数か月の付き合いなのに、そんな私をかばって死んじゃうなんて……。誰に対しても分け隔てなく接することが出来る優しい人で、あんなにいい人が死んでしまうのなんて耐えられない!
もしあの時、もっと早くに車に気付いていたら曜はこんなことにはならなかった。
もしあの時、もう少し雑貨屋でのんびりしていれば轢かれることは無かった。
でも、私にはどうする術もない。時を戻すなんてことは私にはできないのだから
「曜……帰って来てよ……」
だから、私はただ願った。
曜がいる今までの日常を。曜が轢かれる前のただただ普通のありふれた日常に戻りたいと。そして、
「我願う。故に我乞う。曜の居る日常を!」
夢の最後に口にしていた言葉と願いを口にした。
直後、握っていたペンダントの水晶からまばゆい光が放たれ、私は光に包まれた。
~☆~
「ん、ん~」
目を覚ますと、私は自分の部屋のベッドの上で寝ていた。
たしか私は、曜の居る日常に戻りたいと願って……。
それで……直後曜が轢かれる光景を思い出して飛び起きる。
今はいつなの?曜は?
私は目覚まし時計として使っている電波時計の画面を見た。
「え!?」
私はそれを見て驚きの声を漏らした。
時計に表示された日付と時間は、曜が轢かれるあの日の朝を示していたのだった。
何事もなければまた明日~
では、ノシ