「ふぅ。この体温なら問題なさそうね。頭痛もないし」
翌朝、熱を測ると平熱に戻っていて怠さも頭痛もなく、学校に行けそうだった。残念ながら外は雨が降っているけど。制服に着替えるとリビングに行く。ママはちょうど家を出るところだったみたいで鞄を持っていた。
「おはよう、善子。ちゃんと治ったようね」
「おはよ、ママ。治ったから今日から学校に行っていいよね?」
「ええ。治ったのならね。前までは登校拒否してたのに学校に行きたがるなんて」
「いいでしょ!」
「マスクはちゃんとしておきなさいよ。じゃ、私は行くわね」
「いってらしゃーい」
ママを見送ると、机に置かれた朝ごはんを食べ始める。というか、私が治っているのを見ずにわかってたのかな?朝ごはんが普通に用意されてるし。
『今日の十二位は山羊座のあなた。頭上に注意です』
朝の占いの最下位は山羊座で、ダイヤの星座。いつも通りなら今日はダイヤの身に危険が迫るはず。ここ三日間は誰にも危険が迫ったりしなかったけど。あった変化は一日早く私が体調を崩したことくらい。
果たして今日はどうなることやら?まぁ、事故が起こるのなら回避するだけだけど。
朝ごはんを食べ終えると食器を片付けて鞄を取りに部屋に戻る。昨日のうちに教科書類は鞄の中に入れてあるから、それを持つと机の上に置いておいたペンダントを手に取り首にかけると家を出た。
昨日事故が起きてないとあの時は思ってたけど、なんでも一階にいた人がボタンを押したらいきなりエレベータが落下してきただとか。怪我した人はいなかったから救急車も来なかっただとか。そう言う訳で、エレベータが使えないから階段で一階に降りると、少し歩いてちょうど来たバスに乗る。
少し揺られると曜が普段使うバス停で止まり曜が乗り込んでくる。曜に挨拶をすると、たわいのない話をして過ごした。
「おはよ。曜、善子ちゃん」
「果南ちゃん、おはヨーソロー」
「おはよ」
その後もバスに揺られていると、淡島前で果南が乗り、私たちは普段から後ろの方に座ってるから迷いなく私たちの方にやって来って挨拶する。このバス停はマリーも使ってるはずだけど、マリーはいなかった。
「あれ?鞠莉ちゃんは?」
「理事長の仕事で先行くってさ」
「そうなの?私の風邪をうつしたって訳じゃないならいいけど」
マリーの姿が見えないから、もしかしてうつしたかもと思ったけどどうやら違うらしい。よくよく考えればループ中で誰かが病気になったことは無かったから、その心配はいらないのかもしれないけど。
~☆~
「よっちゃん、この書類を“片付けてね☆BOX”に入れておいて」
「ん、了解」
「それにしても、結構書類多いね」
「まぁ、廃校の危機が迫ってるからね」
放課後、私は生徒会室でリリーとルビィ、花丸と一緒に作業をしていた。本来なら練習するはずだったけど、外は雨だし生徒会の仕事もけっこう残っているから手伝うことになった。ダイヤ、果南、千歌、曜の四人は色々な物がしまわれている倉庫の整理に行っている。マリーはあいかわらず理事長の仕事で理事長室に行っている。
ずっと前の時は、私は倉庫整理だったし、千歌はいなかった気がするけど、完全に同じとは限らないからこういうこともあるはず。ダイヤの身に危険が迫るかもしれないから倉庫の整理の方に行きたかったけど、病み上がりだからか書類整理の方をやることになった。さて、どうしよう。予想だと倉庫の崩落が起こる気がする。今回のループは最初の時と同じような事が起きている。誰かが死ぬ自体は今のところ起きてないけど、事故の原因となることは度々起きていたし。車の衝突、木の横転、エレベータの転落の三つ。
だから、あのループの木曜日と同じなら今日は倉庫が崩落するはず。で、ダイヤがそれに巻き込まれる。
予想の域を出ないけど、一番可能性が高いと思う。
「こっちに四人も必要なさそうだし、私もやっぱりあっち行った方が良くないかしら?」
「でも、お姉ちゃんは四人で十分って言ってたし」
「こっちもけっこうな量だし早く終わったら手伝いに行こ?」
できるだけダイヤの近くにいた方がいい気がしてそう言うも、三人はこのままでいいと考えているようで四人で作業を継続することになってしまった。うまくいかないわね。こうしているうちにもダイヤの身に危険が迫りつつあるって言うのに。
こうなると取れる手段は書類整理をさっさか終らせて、倉庫の方に手伝いに行くしかないか。自分の仕事はちゃんとこなしておかないと後でダイヤに文句を言われそうだし。
~☆~
「こんなところかしら?」
「だいぶ綺麗になったね。書類の量がすごいけど」
「そうだね。流石にサインはできないから後はお姉ちゃんに任せることになっちゃったね」
「仕方ないずら。マルたちじゃダメだろうし。みんなの方に手伝いに行こ?」
「うゅ」
「そうだね――」
ドンガラガッシャーン!
「わっ!何の音!?」
「まさか……」
書類整理がなんだかんだで終わり、一息ついていざ四人の居る倉庫の方に行こうとすると、何処からか大きな音が響く。三人はその音に反応して不安がる。私は音の正体が崩落音なのだと察し、急いで倉庫の方に走る。三人は私が走ったから少し遅れてではあるけど追いかけてくる。
「これって」
倉庫の前に着くと、倉庫は完全に壊れていて悲惨な有様だった。倉庫の天井は地面に落ちて砕け、壁も倒れていて倉庫内に人がいれば重症か死んでいるはず。間に合わなかった……やっぱり、途中でもこっちに来て危険かもと言って止めておけばよかった……。
音を聞きつけて校舎内にいた生徒やリリーたちもやって来ると、その光景に言葉を失う。
「待って、千歌ちゃんたちここで作業してたよね?」
「もしかして……」
ここで作業していたことを知っている三人も同じことに至ったのかそう漏らす。
私は信じたくなくてのろのろとした足取りで倉庫の残骸の方に踏み出し、
「わー。倉庫がぺちゃんこだ」
「すんごい音だったね」
「まぁ、結構ギシギシ言ってたしね」
「はぁー。整理したのが無駄になりましたね」
後ろから聞こえてきた聞き覚えのありすぎる声に足を止めた。声のした方を見れば、崩落に巻き込まれたものだと思っていた四人がそこにいた。
「良かった。無事だったんだ」
「ええ。関係ない物がたくさんあったので四人で運んでいました」
「まっ、二人ずつに分かれて別の倉庫に運んでたんだけどね」
四人が無事だったのはそういう訳だった。そう言えば、あの時も曜は運びに行ってて事故に遭わなかったんだっけ。
夜。結局その後は特に事故が起こるようなことは無く普通に時間が経った。マリーは面倒ごとが増えてげんなりしてたけど。
てっきり、今回こそ水晶の力を使う事態だと思ったけど、使わずに済んだ。それはいいんだけど、本当にどうなってるんだろ?これで四日連続死傷者なし。普通に考えればいいことだけど、今までのを考えると素直に喜べない。もしかしたら明日全員に危険が迫る可能性も。いわゆる嵐の前の静けさ的な奴かも。
「それか……」
あるいは昨日から考えている“ある可能性”を思案する。もしそうなら……。
~☆~
「1,2,3,4、1,2,3,4……うん、いい感じ。じゃっ、休憩しよっか」
翌日。朝練、授業を終え、私たちは沼津で練習をしていた。朝見た占いは最下位が獅子座だったから、千歌の身に危険が迫ると見ていいはず。この四日間で一週目の時の事故の原因となることは起きてたから、今日起こる事故は屋上からの転落のはず。つまるところ、屋上にさえ行かなければ事故は起こりえない。
そういうわけだから、屋上に誰かがいこうとしてもそれを止めればいいはず。平気よね?急に不安になってきたんだけど。
鞄から飲み物を取り出すと、皆も同様に飲み物を飲んだり、この後どうするか話したりし始める。
「千歌ちゃん!練習終わったら千歌ちゃん家に泊まって歌詞詰め込むからね!」
「やったー、梨子ちゃんとお泊りだー。あっ、曜ちゃんも来ない?」
「ちょっと、待ってね。ママに確認するから」
「千歌ちゃん!遊ぶわけじゃないよ!」
「この後はどうしましょうか?」
「新曲はまだだし、今は次の説明会でやる他の曲の練習すべきでしょ?」
「それか、基礎体力を上げるかかな?」
「どっちかしかありませんか」
「ふぅ、(もぐもぐ)疲れたずら~」
「花丸ちゃん。何処からのっぽパン出したの?」
「持ってきてたんだよ」
「どんだけ食べるのよ……と、手洗いに行って来るわ」
「いってらしゃーい」
そんな話をそれぞれしていて、私はそう言って部屋を出る。
「さて、どうしたものかしら」
手洗いを済ませて、ハンカチで手を拭いてからスマホの日記を見る。ページは一週目の時。あの頃はまだ日記を付けてなくて、覚えてる範囲で後から書いたこともあってか、日記をつけ始めて以降の時と比べると情報がやっぱり少ないわね。
誰かが屋上に行こうって言い出したのは覚えてるけど、誰だったかしら?たぶん、曜か千歌辺りだった気がするけど。ここの屋上からの転落も何度もあったせいで、一回目の頃のがどんなだったか思い出せないわね。まっ、誰が提案しても止めれば済むからそこまで重要じゃないけど。
悩んでたこともあって少し時間が経ち過ぎたわね。とりあえず、戻ってからも継続して行くか。
「遅くなったわ……よ?」
部屋に戻ると、千歌と曜、果南、鞠莉の四人の姿が見えなかった。どこ行ったのかしら?手洗いなら途中で会ってるだろうからないとすれば、思い浮かぶのは飲み物を買いに行ったってとこかしら?でも、四人とも飲み物を持っていたような。
「四人は?」
「ちょっと外の空気吸って来るって、屋上行ったよ」
「え?」
なんで、よりによって私が離れた時に屋上に行くのよ!しかも、千歌も一緒とか嫌な予感しかしないじゃない。
「ちょっ、よっちゃん!?」
「善子さん、もう――」
私は大急ぎで部屋を出る。なんか言ってたけど、聞きに戻っている時間は無い。今ならまだ間に合うかもしれない。
エレベータの前に着くも一回で止まっている。待ってるの時間も惜しいから階段を駆け上がる。
そして、
「はぁはぁ」
「あれ?善子ちゃん?」
「どうかしたの?そんなに慌てて」
「もしかして、善子ちゃんも外の空気を吸いに来たの?」
「そう言う訳じゃないけど……って、マリーはあそこで何してる訳?」
三人は何故か屋上の出入り口近くにいて、ちょうど戻るところだったみたいだった。で、マリーは少し離れた位置でスマホをいじっていた。
とりあえず、千歌の無事が確認できたからよかった。
「ん、ちょっとね。着くなり風でフェンスの一つが外れて落下したから、ここの職員の人に伝えるために写真を撮ってたのよ。その方が手っ取り早く伝わるしね」
「あっ、ほんとだ。一か所無くなってる」
マリーに言われてそっちを見ればフェンスの一つが無くなっていた。あれ?千歌が落下する事態にはなってなかったけど、フェンスは落ちてるってことは間に合ってなかった?
運よく落下せずに済んだだけで。
それとも、やっぱり?
「まぁ、戻りましょ。さっさか、伝えておかないとだし。だから、私は一階に行って伝えてから行くわ」
「私たちも一緒に行こっか?」
「いいわ。私一人で十分だから」
「わかった。じゃぁ、先に戻ってるね」
考えているうちにマリーは一階に、私たちは練習部屋に戻ることになった。私は特に何も言わずについて行く。やっぱり、あれが一番可能性は高い……と言うか、確定よね。
「そう言えば、善子ちゃんはなんで息切らしてたの?」
「ん?ああ、ちょっとね」
「ふーん。まっ、いっか」
はっきりとは言わずに答えると、なんとなく話は流れた。たぶんたいした理由は無いと思ったんだと思う。そうしているうちにエレベータは練習部屋のある階に止まり、私たちはそこで降り、マリーはそのまま一階まで降りて行くのだった。
~☆~
『駅前の信号を渡った先で私の目の前で曜が轢かれた』
『お見舞いに来たリリーとマリーが帰り際に私の目の前でエレベータが落下し、転落・圧死』
『沼津で練習中に屋上から落下しかけた私を助けて千歌が落下し転落死』
『大雨の中バスに乗っていたところ、トンネルを抜けた直後土砂が流れて来てバスが海に転落。その後、大荒れの中どうにか陸に上がるも花丸が溺死』
『大雨の翌日。帰りに歩いていたところ、前日の雨による影響で地盤が緩み電柱が倒れ、危険に気付いた果南に押される形で助けられるも果南が潰され打ち所悪く出血死』
『倉庫の掃除中に倉庫が崩落。中で一緒に作業していたダイヤとルビィが崩落に巻き込まれ圧死』
『お見舞いに来た千歌が私の寝ている間に帰った。何故か千歌が死ぬようなことはその日は無かった。どうしてだろ?』
『月曜。疲労が溜まっていたか、私は校内で倒れた。目を覚ますとすでに放課後で、マリーと千歌以外はすでに帰っていた。その日、曜が事故に遭うと思われたが事故に遭わなかった』
『水曜。お見舞いにリリーとマリーが来た。そして、いつの間にか私は眠ってしまい、目を覚ますと二人は帰っていた。エレベータは落下したけど、二人とも落下には巻き込まれること無くその日が終わった』
「そして、今日は千歌が転落すると思ってたけど、フェンスが落ちただけで千歌は無事だった。その時私はいなかったっと」
家に帰った私は日記を見返し、今日の日記もつけた。今までの誰かの死を伴った日、どう言う訳か誰かが死ぬ自体が起きなかった日。この二つを見比べ、私は一昨日から浮かんでいたある可能性に結論が出た。
「はぁー。今までの苦労もすべて無駄だったわね」
その結論は今までのすべてを否定するもので、私はため息をつく。それくらい、後味の悪い結論。
「私がいたせいでみんなが死んでたなんてね。なら、皆の死を回避してこのループを抜けるのも簡単ね――
私がいなければいいんだから」
という訳で第二部終了です。中途半端なところな気もしますが、この辺りが無難そうなので。
次の投稿は近々を予定しています。
では、ノシ