繰り返される堕天   作:猫犬

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第三部スタートです。
どんどんシリアスになっていく~


ラストデイ
21 できない私は


「ん、ん~。ふわぁ」

 

土曜日。私はいつも通り目を覚ました。

今日はいつも通りに過ごす。それが昨日決めたこと。どうせどうやったって、事故は回避できないだろうし。

ベッドから立ち上がると、制服に袖を通す。今日でこれを着るのも最後ね。

 

「おはよ、ママ」

「おはよう、善子」

 

リビングに行くと、ちょうど朝ごはんを運んでいるママと会い、挨拶を交わすとテレビを点けて椅子に座る。朝ごはんを食べていると、テレビはいつも通り占いコーナーになる。見なくても大体今日の最下位はわかってるけど。

 

『今日の十二位は……蟹座のあなた。予想外のことが立て続けに起こるかも?』

「あら、最下位じゃない。気を付けなさいよ」

「うん。気を付けるわ」

 

ママは占いを見てそう言い、私はそう返す。最下位が私ってことは今日事故が起きることほぼ確定。となると、ママの心配事は当たることになる。心配をかけたくないから、嘘でもそう言っておく。

きっと、ママを悲しませることになると思うけど、それ以外には皆を救うことはできない。そもそも、私が生きて越えられる確証はないし、仮に超えてもその日以降も皆に死の危機が訪れないという確証はない。最悪、ずっと続くかもしれない。

 

「ありがとね」

「ん?どうしたの急に?」

「ううん。なんとなく言いたくなっただけ」

 

だから、せめて気持ちを伝えておく。きっと、私の本当の気持ちは伝わってないけど、これは伝わったら困る。だからこれでいい。

ママは気になるのか首を傾げるもテレビに映った今の時間を見て慌てて残りを食べると、食器を置いて鞄を手に取る。

 

「皿洗いお願い。いってきます」

「はーい。いってらっしゃい」

 

ママは慌てた足取りで出て行き、座りながらそれを見送る。一人になると、テレビの音だけが響く。

そんな空間で残りを食べると食器を運び、ママの分も一緒に洗う。

 

「さて、集合まではまだ時間があるけどどうしよ。ママに手紙は……いっか。それだと遺書にしか見えないし。早いけど、もう学校行こ」

 

特にすることも無いから家を出ることにする。もしかしたら生徒会の仕事とかで誰かしら居るかもだし、手伝えることはしておきたい。

そう言う訳で、鞄の中に飲み物やお弁当を入れるとそれを肩にかける。これは……まぁ、使う気は無いけど持っておこ。

家の鍵をかけると家を出る。エレベータはまだ復旧してないから階段を使わないといけないのは面倒だけど、これしかないからいっか。

階段を降りてバス停に行くと、バスが来るまではまだ少しありそうだった。というか、少し遅れてるみたい。

数分待つとバスがやって来て、乗り込むといつも通り後ろから二個目の座席に座る。いつも出る時間よりも早いからたぶんこのバスに乗る人はいないはず。いや、もしかするかもしれないけど。

 

「あれ?善子ちゃん?」

「ん、おはよ」

「あっ、うん。おはヨーソロー」

 

曜が乗るバス停で止まると曜が乗り込み、私を見て驚いた表情をする。たぶん、私が乗っていると思ってなかったのね。挨拶をすれば、取りあえず挨拶が返って来て私の隣に座る。

 

「善子ちゃん、今日は早いね」

「まぁ、家に居てもすること無かったから。それに、曜だって早いじゃない」

「あはは。私もそんな感じかな?それにしても、次の衣装どうしよっか」

「曲がある程度できないとどうにもならないでしょ。流石に曲のイメージがわからないことにはどうにもならないでしょ」

「だよねー」

 

曜は次の曲のことで悩んでいる様子。でも、何度も言ってる通り(私の場合は何十回もこの問答をしてるけど)曲のイメージが固まらないことにはどうにもならない。

 

「どうせなら、曜がイメージを決めてみるのはどうなの?」

「うーん。それもありかもだけど……」

「船関係になる未来しか見えないか」

「あー、そんなこと言う。確かにそんな気はするけど」

 

提案してみたはいいけど、そんなオチが浮かぶ。この前千歌に聞いたけど、なんでも活動当初に衣装のデザインを曜が考えた中に船員風な衣装があっただとか。だから、そんなことを言えば、曜はなんとも言えない表情をする。

 

 

~☆~

 

 

「チャオ」

「また明日」

「じゃっ」

 

淡島前でマリーと果南はバスを降り、私は別れの挨拶をする。そして、バスが走り出す。曜は千歌の家に寄っているから、これでバスの中には私と数人だけ。その中に浦女の生徒はおらず、それからバス停を数個過ぎた場所で私はバスを降りる。

ここまで来ればいいわよね?

 

今日一日は比較的いつも通りに過ごすことができた。というか、そうなるようにしていた。私の考えを気取られるのは困るし、皆に余計な心配はかけたくない。たぶん、いつも通りに振る舞えていたと思う。誰かに聞かれることも無かったし。

そして、皆との思い出を脳裏に焼き付けた。帰り際にルビィと花丸にお泊り会に誘われたけど、やることがあるから断った。これ以上、みんなを巻き込めないからそれでよかったはず。

 

周囲にはほとんど人は歩いてなくて、車が時々走っているだけ。そんな道の反対側に移動すると、浦女方面行のバスが来るのを待つ。一度帰ったふりをしてから浦女に戻る。これは朝から考えていたこと。最後の景色はあそこと決めている。

たぶん、皆には迷惑がかかるかもしれないけど、これくらいのわがままはいいわよね?

浦女方面行のバスが来たからそれに乗ると、そこからの景色を眺めながら浦女に着くのを待つ。

 

「おや?こんな時間にどうしたんだい?」

 

浦女前に着いて定期券を運転手さんに見せるとそんなことを言われた。

こんな時間に行けば聞かれる気はしていた。だから、どう答えるかはあらかじめ考えてある。

 

「ちょっと、忘れ物しちゃって」

「そうかい。暗くならないうちに帰りなよ」

「ええ。そうしますね」

 

表情を作ってそう言うと、さして気にされるようなことは無くそのまま降りることができた。嘘を付いたような形にはなったけど、これくらいなら平気よね。

坂をのんびりと上りながら景色を目に焼き付けていく。この坂はもう何十、何百と上ってきた。それに、体力をつけるためにこの坂をダッシュもしたし、だいぶ見慣れた景色ね。

 

坂を上り切ると、浦女が見えてくる。学校にはもう誰もいないから校舎の電気は全て消えていて、今更ながら校舎内には入れない気がしてきた。いや、どこかしらに入る方法があるとは思うけど。

校門をよじ登れば敷地内には……

 

「施錠くらいしなさいよ……」

 

なんでか校門の鍵は開いていてすんなり敷地内に入れた。いや、それでいいのか?まっ、いっか。

 

『スクールアイドル部でーす』

『ぴぎゃぁ』

『善子ちゃん?』

『親愛なるお姉ちゃん。ようこそ、Aqoursへ』

 

入学式の日に、どんな生徒がいるのか見ていた、あの時登った木。もう、時期が時期なだけに葉っぱがだいぶ落ちてきている。春になれば綺麗な桜の花を咲かせるけど。

そんな木の前に立てば、あの頃のことを思い出す。あれが花丸との再会だったわね。幼稚園の頃以来なのによく覚えてたわよね。まっ、私も覚えていたし、あの頃はけっこう一緒に居たから覚えてるか。

それと、千歌と曜が勧誘しててルビィが悲鳴を上げてたわね。あの時足痛かった……。

それに、ここでダイヤをAqoursに勧誘して九人になった。

 

続いて校舎の方に歩き出す。

流石に昇降口の扉は閉まっていて入ることはできなかった。当たり前よね。開いてたら学校の物が盗み放題だし。

 

『堕天使ヨハネちゃん。スクールアイドルやりませんか?』

『はい?』

『善子ちゃん、ここはこうした方がいいよ』

『ヨハネ!……ありがと』

 

そうして、体育館の方に行く。中には入れないけど、外から部室を見ることは出来る。

部室では色々なことがあった。千歌に誘われたり、曲作りに追われたり、曜の衣装製作を手伝ったりした。ここには楽しかった思い出がたくさんある。

部室の窓に手を当ててそんな日々を思い出していると、

 

「うわっ!」

 

窓の鍵を閉め忘れていたのか、窓がスライドして危うくこけるところだった。でも、これで中に入れる。入っていいのかしら?まぁ、最後だしいっか。

窓から中に入ると、窓を閉めて奥に進む。

 

『キーラリッ!』

『今しかない瞬間だから――』

『『『輝きたい!』』』

 

千歌達三人が初めてライブをしたステージ。あの時のライブを見て私は心惹かれた。でも、あの時はまさか踊る側に私もなるとは思ってなかった。

体育館の中に入れたことでそのまま校舎の方に行く。まっ、校舎にどうやって入ったものか。どこか開いてないかしら?

 

『最後まで頑張りたい!足掻きたい!』

『奇跡を!』

 

入れる場所を探して歩いていると、校庭にある鉄棒が目に入る。説明会が中止になりかけて、だけど皆諦めきれず足掻こうと誓った。

でも、今回ばかりはどうにもならないわね。いくら足掻いても、どうにもならない。もうこの方法しか皆を救うことはできない。

私は決意を新たに、歩を進める。

そして、事前に鍵を開けておいた空き教室の窓から中に入る。誰もいないからかしーんとしており、私の足音が響く。

 

『堕天使ヨハネと契約してリトルデーモンになってみない?』

『善子ちゃん、次は移動教室だよ』

『落ち着くずら~』

 

私たちの教室に着くと、その時の光景がよみがえる。自己紹介で事故って、登校拒否して、なんだかんだで戻って来た。クラスの皆は私が堕天しても少し困った表情をするくらいで馬鹿にするようなことは無かった。花丸とルビィの二人と一緒に居ることが多かったけど、クラスの皆も優しくて居心地が良かった。

 

『手伝ってもらってありがとうございます』

『まっ、手伝うって言ったからね』

『善子がツンデレしてるわ』

『ヨハネ!』

 

生徒会室には度々来たわね。生徒会の仕事の手伝いで結構駆り出されてたし。ダイヤ以外の生徒会メンバーをそこまで見なかった気がするけど。

 

『よっちゃん、どうしたの?』

『リリーのピアノを聴きに来たの。リリーの弾くピアノ好きよ』

『ありがと』

 

続いて音楽室にやって来た。雨の日とか練習が無い日に時々リリーが弾いているのを聴きに来ていた。リリーのピアノを聴くと落ち着くのよね。

 

『消えない 消えない 消えないのは』

『善子ちゃんはさらに気持ち急いで』

『承知。空間移動使います』

 

最後は練習場所の屋上。雨の日は練習できないけど、部室と同じくらい想い出がある場所。六人の頃に屋上で歌を歌って、多くの人に見てもらった。九人になってからも相変わらずここで練習して、夏場は地獄だったわね。でもそれはそれで楽しかった。

ほんと、この半年は濃密だったわね。

 

「きれい」

 

閉まっていた鍵を開けて屋上に出ると、屋上から望める海と淡島、遠くにそびえ立つ富士山が夕日によってオレンジに染まり、すごくきれいな景色がそこには広がっていた。ここから見える景色はすごく好きだった。

 

「さて。そろそろね」

 

時刻はすでに十八時近く。いつも通りならそろそろ起こるはず。さて、どんなことが起こるのやら。できれば苦しまないのがいいけど、これに関してはどうにもならないか。

 

床に腰を下ろして、塀に背中を預けて時が来るのを待つ。

きっと、皆悲しむんだろうなぁ。みんな優しいから。でも、真実は私の胸の中に秘めて墓にまで持って行ってやる。本当のことを知れば、あんなにやさしいみんなはきっと私を責める。私のせいで皆を何十回も死なせたんだから。

結局ただの自己満足よね。

 

みんなに責められるのが怖いから逃げてるだけ。

せめて、私の中に残っている記憶を優しいみんなにしたいだけ。

 

私と一緒に居れば事故に遭う。言い換えれば私がその場にいなければ事故に遭わずに済む。その日に起きた事故は水晶でやり直して回避すれば、その時は次の日を迎えられたけど、次の日にまた誰かが事故に遭う。そして、土曜日になれば私が事故に遭う。で、月曜に戻されて永遠に繰り返す。

このループを超える術は私がいなくなる以外ない。私がいなければ事故に遭わない訳だから、土曜日を越えたらもう皆にこの死の運命は訪れずに済むはず。

 

「私は堕天使じゃなくて死神だったって訳ね」

 

私は自嘲気味に呟く。みんなに死の運命をもたらすなんて死神以外の何物でもない。誰かに裁いてもらえばその人は一生背負うことになる。そんな辛いことはさせられないし、だったら自然に起こる事故でいなくなるしかない。

 

うっ。

すると、急に胸に激痛が走る。

何これ!?なんで急に!?

 

「はぁ、はぁ……うぅ」

 

私は倒れ込み胸を抑える。意味が分からない。急にこんなことが起こ……ああ、そう言うことか。今回の死は“心臓発作”なんだ。

じゃぁ、もうどうにもならないじゃない。こんなことまで起こるのなら絶対に私が生きて日曜日を迎えることなんて不可能じゃない。家の外で事故に遭い、家に入る直前で爆発に巻き込まれ、終いには場所なんて一切関係ない心臓発作。

やっぱり、これで良かったんだ。

私の取れる未来は二つ。

 

私が生きながらえて、みんなと永遠ともいえる一週間を繰り返す未来。

私がいなくなって、皆にはこの一週間を越えてもらう未来。

 

考えるまでも無い。後者を躊躇うこと無く選べる。みんなにはこんなところで止まってなんていて欲しくない。私のただのわがまま。みんなが聞けばきっと止めようとするだろうけど、私は皆に前に進んでほしい。だから、これでいい。

最後に待ち受けに映るAqours九人で撮った時の写真を見る。

みんなと生きていく未来なんてもうこない。そんな未来を手にすることは私にはできない。

 

「みんな……さよなら」

 

だから、できない私は、死を受け入れる。




次回から数話は他のメンバー視点で進みます。
では、ノシ
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