『千歌!離して!このままじゃ千歌まで!』
『離さないよ!絶対に!』
『千歌!』
『千歌ちゃん!』
『いやぁー』
晴れたある日。沼津の練習場所の屋上で落ちそうになった善子ちゃんを助けた代わりに私が落下した。あの高さから落ちれば助かる訳がない。曜ちゃんと果南ちゃんが下をのぞき込むも、そこに広がる光景に言葉を失い、遅れて覗き込んだ善子ちゃんが悲鳴を上げた。チカはそれを見ているだけ。……ってチカ死んじゃったよ!どういうこと!?あと、なんでチカは死んじゃったチカが見えてるの?もしかして、幽霊!?
すると曜ちゃんたちは信じたくないかのように走り出して私のもとに向かう。その場に残されたのは崩れ落ちた善子ちゃんだけ。
善子ちゃんは泣きながら地面を殴って自分を責める。
『まだよ!絶対にこんなこと』
すると、いきなりそう言って立ち上がり走り出す。階段を駆け降り、チカたちが普段使っている部屋に入ると鞄から黒い水晶の付いたペンダントを取り出す。善子ちゃんはそれを握ると目を瞑る。善子ちゃんが何しているのかわからず見守っていると、
『絶対に救ってみせる!これは私が償わなきゃいけないから!』
善子ちゃんは何かを決意したかのようにそう言う。そして、
『我願う。故に我乞う。千歌の居る日常を!』
「うわっ!」
呪文みたいなことを口にすると手にしていた水晶が輝いて、善子ちゃんとチカを光が包み込んだ。チカはあまりの眩しさに目を瞑ったけど。
~~
「うわっ!」
ベッドから転げ落ちて目を覚ました。良かった、夢だったんだ。そうだよね。チカが死んじゃうなんてそうそうないよね?
ふぅ、夢だとわかったら安心しちゃったや。もう一回寝よーっと。
「バカ千歌!二度寝すんな!」
「うわぁ!」
二度寝しようとしたら美渡姉が部屋に入って来た。びっくりしたー。時計を見たらそろそろ起きないといけない時間だった。危うく二度寝しちゃって遅れるところだった。
「おはよう、美渡姉」
「おはよ、千歌。じゃ、起きたし戻るか」
美渡姉はそう言って部屋を出て行った。美渡姉が起こしてくれるなんて珍しいかも。そんなことを考えながら、のんびりしてたらまずいから着替える。
階段を降りると、朝ごはんが置いてあった。
「おはよう、千歌ちゃん」
「おはよう、志満姉」
「今日は朝練があるんでしょ?さっさか食べちゃいなさい」
「はーい」
美渡姉の向かい側に座ると、挨拶をして食べ始める。結局、あの夢なんだったんだろ?夢だから安心しちゃったけど、よくよく考えると不吉すぎるよ。
「そう言えば、なんか声上げてたけど、あれってベッドから落ちたとかか?」
「まぁ、そうだけど」
声を上げたのはあの夢で起きたからなのだけど、それと同時にベッドから落ちてる訳でそう言うことにしておく。チカが死ぬ夢なんて縁起が悪すぎるし、美渡姉に馬鹿にされそうだし。
「ふーん。まぁ、気を付けなよ。ベッドから落ちて怪我でもしたら皆に迷惑がかかるだろうし」
「うん、これからは気を付けるよー」
味噌汁を飲みながら返答すると、なんだかんだで食べ終える。
『今日の十二位は獅子座のあなた』
「うわっ、最下位だし」
「いきなり不運だな。でも、たかが朝の占いだし気にすること無いだろ」
「いや、こういうのは意外と当たるわよ」
二人は反対のことを言っていて、どっちの言葉を信じた方がいいんだろ?
~~
「どんだけ食べるのよ……と、手洗いに行って来るわ」
「いってらしゃーい」
朝練と授業が終わってチカ達は沼津の練習場所に来て練習をしていた。今は休憩中で、善子ちゃんはお手洗いの為に部屋を出て行った。
結局朝の占いでの不幸なことは今のところ起きて……るかも。お弁当のおかずを落したりしたし。
「ちょっと、外の空気吸って来るね。千歌ちゃんも行こ?」
「あっ、うん」
そんなことを考えながら、飲み物を飲んでいると曜ちゃんに声をかけられて頷く。果南ちゃんと鞠莉ちゃんも外の空気を吸うと言って四人で屋上に行く。
屋上には他に誰もいなくて、心地いい風が吹き抜ける。ふぅ、外の空気を吸ったら気分がよくなったかも。でも、なんだかここに居ると少し嫌な感じもする。あっ、今日の朝の夢だ!あれもここだったし、正夢になったら怖いからフェンスに近づかないでおこうっと。
「千歌ちゃん、ここからの景色綺麗だよ」
「うん。でも、よく見てるから今日はいいかな?」
「そう?」
曜ちゃんがフェンス越しに外の景色を眺め、チカはフェンスから少し離れた位置で止まる。流石にここからなら落ちたりしないよね?
「さて、そろそろ戻ろっか。あんまりゆっくりしてたらダイヤに文句言われそうだし」
「それもそうね。ダイヤにグチグチ言われるのは嫌だし」
「二人とも、あんまりそういうことは言わない方がいいよ……わっ」
果南ちゃんに言われて曜ちゃんが離れると、いきなり強い風が吹いた。曜ちゃんは声を上げ、なんとか風を耐える。その結果、風をもろに受けたフェンスの一つが落ちた。
「あら。危ないわね」
「はぁはぁ」
鞠莉ちゃんは少し驚くとポケットからスマホを出して写真を撮る。
すると、入り口から善子ちゃんが息を切らしてやってきた。どうして息を切らしてるんだろ?もしかして、善子ちゃんがどうしたいか聞かなかったから追いかけてきたのかな?
~~
「善子ちゃんと連絡が繋がらないよ」
「みんなは知らないかな?」
「連絡してみる」
土曜日の放課後。チカ達は曲作りを進めていた。その途中で三人とも自分が死んじゃう夢を見ていたことがわかって、それから美渡姉に善子ちゃんが浦女の方に行ったのを見たと聞いた。
いつもなら忘れ物を取りに行ってるのかもと思うけど、今日はなんだか嫌な感じがした。三人とも変な夢を見たせいかもしれないけど。
だから、善子ちゃんに電話をしてみたけど、電源が入ってないのか一向に繋がらない。だから曜ちゃんがみんなにチャットで連絡を取る。もしかしたら、ダイヤさんか花丸ちゃんの家に行ってるだけかもしれないし、果南ちゃんたちが何か知っている可能性に賭けて。
「ダメ。みんな善子ちゃんと一緒に居ないし、どこにいるか知らないみたい」
「うーん。どこ行っちゃったんだろ?ただ忘れ物を取りに行ってるのならいいんだけど」
「じゃぁ、行ってみる?」
心配そうな表情をしていたら梨子ちゃんがそう提案してくれた。でも、これはただの心配なだけで、本当に何も無いだけなら無駄になっちゃう。
「私も気になるから」
「これで何も無ければ何もないで良かったってことで」
「うん、じゃぁ行ってみよう」
二人に背を押されて三人で家を出る。心配が杞憂に終わってくれればいいけど。家を出ると、ちょうど大瀬崎行きのバスが来たからそれに乗る。
ダイヤさんたちの乗るバス停に着くと、三人が乗ってきた。
「あれ?三人ともどうしたの?」
「どうしたのって、あなたたちが聞いたのでしょう?わたくしたちは嫌な予感がして出て来ましたの」
「私たちが死んで善子ちゃんが祈るって言う、変な夢を三人とも見てたから」
「え?花丸ちゃんたちも見たの?」
「もしかして、千歌ちゃんたちも見たの?」
「なんか、ますます偶然とは思えなくなってきたね」
三人も似た夢を見ていたってことは余計に怖くなってきた。そうして、善子ちゃんの無事を祈りながら、浦女前のバス停に着く。
「あれ?みんな?」
「果南ちゃんと鞠莉ちゃん?」
「もしかして、二人も変な夢を見た?」
「その反応ってことは、みんなも見たのね」
浦女前のバス停で降りると、果南ちゃんと鞠莉ちゃんがそこにいた。海の上には果南ちゃんのマリンバイクが浮いているから、淡島からまっすぐここに来たみたい。鞠莉ちゃんの言葉は肯定であり、これで八人全員が似た夢を見たことになる。もう偶然なんかじゃないよね。何か意味があるとしか思えない。もしかして、善子ちゃんも似た夢を見たのかな?
~ダイヤ~
「校門は閉まってるわね」
「でも鍵は開いてるから入れなくもないね」
「一応入ってみよっか」
わたくしたち八人は坂を上って校門前にいた。善子さんがここにいればいいのですが。それにしても、何故チャットに反応してくれないのでしょうか?
わたくしの家にも千歌さんの家にもいないということは、こっちの方だとあとはここくらいしか思いつかない。もしかしたらルビィたち以外の友達がこっちの方に居て遊びに行ったとも考えられるけど、それなら一度バスに乗って沼津の方まで行った理由が分からない。だったら忘れ物をしたことに気付いて戻ったと考えた方が可能性は高い。だから、中にいる可能性に賭けて校門を開けて中に入る。
「校舎の中って閉まってるから入れないよね?」
「でも、チカ達って夏休みに入れてたような?」
「まっ、中に入れないのなら外のどこかにいるかもだし、とりあえず外を探してみよっか」
「うん。そうだね」
とりあえず、昇降口前に来ましたが鍵はすでに閉まっているので校舎の中は入れないはずだから外を探すことになりました。忘れ物をしたのなら中に入れないことで諦めて家に帰ったかもしれませんが、一度通り過ぎた沼津行きのバスの中に善子さんの姿が見えませんでしたし、歩いたところをはち合わせてもいないのでその考えは捨てる。同じくバス停にもいなかったのでまだここに居る可能性が高い。もしかしたら校舎内に侵入できる場所が無いか探している可能性も。
「チカは部室の方に行ってみるね」
「じゃっ、私はこっちの方から校舎に侵入できる場所が無いか探してみるわ」
「なら私は校庭の方に行ってみるね」
八人で固まっているのは効率が悪いから二、三人ずつに分かれて探し始める。千歌さんたちは部室の方に行き、鞠莉さんたちは中庭の方へ、わたくしたちは校庭の方から捜索を始める。
果南さんと一緒に校庭の方を歩くも、善子さんの姿は見えない。万に一つの可能性として校庭の真ん中で魔法陣のようなものを描いている可能性も考えてましたが、それはありませんでしたね。
「いないね。となると、やっぱり何処かから中に入ったのかな?」
「そう考えるのが自然ですね。しかし、中に入ることなんてできるのでしょうか?先生方が戸締りの確認はしていると思いますけど」
善子さんが中に入った可能性を考えるも、どうやって中に入れるのかがわからない。その様な状態で校舎に沿って歩いていると、中庭の方に行っていた鞠莉さん、梨子さん、曜さんとはち合わせる。三人は校舎の一室の窓を見ていた。
「何を見ていますの?」
「ん、どうやら善子は見つかっていないようね。ここの窓鍵が開いてるのよ」
「あっ、ほんとだ」
鞠莉さんに言われそこを見ると、確かに窓の鍵がかかっていない。これなら入ろうと思えば入ることが出来る。
ピロンッ
すると、同時に全員のスマホから通知音が響き、梨子さんがスマホを取り出して通知を見る。
「あっ、千歌ちゃんからだ。部室にはいないけど部室の窓が開いてたから入ってみるって」
「はぁー。なんで部室の窓が開いてるんですか?」
「あはは。閉め忘れかな?」
「私たちは校舎内を探そっか」
「そうね。善子ならこういうのを見たら利用しそうなタイプだし」
部室の窓の鍵まで閉まっていなかったことでため息が出る。こういう不用心が後々の問題になるからしっかりして欲しい物ですね。
曜さんの提案で窓から中に入る。窓から入るのはどうかと思いますが、まぁいいでしょう。わざわざ昇降口まで戻るのも手間ですし。
梨子さんが千歌さんたちに空き教室の窓から校舎内に入ったことを伝えると、廊下に出る。さっきの組み合わせで、とりあえず一階と二階に分かれて探し始める。善子さんが忘れ物をしてここへ来たのなら部室か一年生の教室にいるはずですけど、部室にいないとなるとここに……
「いませんね」
「だね。体育館にもいないって」
一年生の教室にはおらず、体育館にいる三人からもいないという連絡が来たことで完全に手詰まりに。やはり、どこかで入れ違いになったのでしょうか?
一応一階の他の教室も回ってみましたが結果は不発。階段のところで千歌さんたちと合流して二階に上ると、鞠莉さんたちも待っていました。
「あとは三階だけね」
「忘れ物をしたのならいる訳がありませんけど」
「でも、本当に忘れ物を取りに戻って来たのかもわからないけどね」
「一応見てみましょうか」
念のために三階に上り、教室を全て見て行く。結果はやはりどこにも姿が見えない。
浦女で残っているのはあと一か所。そこにいなければ本当に行方がわからなくなる。
屋上に上がり、閉まっているドアを開ける。
この時にはわたくしはすでに予感がありました。帰りにわたくしは鍵をかけた覚えがありましたから。それなのに鍵が開いていた。
屋上に出てみるとそこには誰もおらず、どうやらただの杞憂のようでしたね。
「えっ!?」
しかし、出てすぐに横を見ていた花丸さんが驚いた声を上げたことで、花丸さんの見た方を見る。
そこには壁に背を預けて、まるで眠っているように穏やかな表情の善子さんの姿がありました。
「善子ちゃん!?」
「よっちゃん!?」
明日というか今日から半日投稿です。
書き終えてるならのんびり投稿する必要ないですしね。