繰り返される堕天   作:猫犬

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半日投稿中。その為話数注意です。

今回は花丸ちゃん視点です。


25 理解したくない現実

善子ちゃんを探して体育館に来たマルたちは、そこに誰もいないことを確認すると、みんなが入ったという空き教室の窓から校舎の中に入る。

廊下に出るとちょうど二人が歩いていたから合流するも、善子ちゃんは見つかっていないとのことだった。

だったら上の階にいるかもと言うことで上に上がると、二回を探していた三人と合流する。結果はやっぱりいなかった。

 

「あとは三階だけね」

「忘れ物をしたのならいる訳がありませんけど」

「でも、本当に忘れ物を取りに戻って来たのかもわからないけどね」

「一応見てみましょうか」

 

僅かな希望として三階にも行ってみるけど、どの教室にも善子ちゃんの姿は無かった。そうなると、まだ見ていない場所は屋上だけになる。

 

「もしかしたら、屋上に忘れ物をしたから取りに来たのかも」

「うん。そうかもね」

 

一応見てみようということで、屋上に上がると夕日に染まっていて善子ちゃんの姿は無かった。だから、善子ちゃんはもう帰ったのだと思った。それで、なんとなしに横を見ると善子ちゃんが壁に背を預ける形で眠っていた。

 

「えっ!?」

 

こんなところで眠っていることに驚いて声を上げると、みんなはマルの声で善子ちゃんに気付く。なんでこんなところで寝てるんだろ?と思ったけど、すぐに違和感に気付いた。眠っていたら息をする際に胸が動くはずなのに一切動いておらず、寝息すらも聞こえない。まるで、息をしていないかのように。

 

「善子ちゃん!?」

「よっちゃん!?」

 

マルはある結論に至り、声を出しながら善子ちゃんに駆け寄る。梨子ちゃんも何かに気付いたのか駆け寄る。

善子ちゃんの身体に触れると、温かいけど息をしていなかった。

 

「善子ちゃん。どうしてこんなところで眠っているの?」

 

マルは事実を受け入れたくなくて、善子ちゃんの身体を揺する。いつもみたいに悪戯なんでしょ?ほら、早く起きてよ。こんな笑えない悪戯はダメだよ。

 

「善子ちゃん、早く起きてよ」

 

なかなか起きない善子ちゃん。もう、善子ちゃんは寝坊助さんだなぁ。でも、こんなところで寝てたら風邪ひいちゃうよ?

 

「嘘……」

 

マルが善子ちゃんの身体を揺すっている隣で梨子ちゃんも善子ちゃんの身体に触れ、腕を掴む。すると、梨子ちゃんは手を放して口を押えて驚愕の表情を浮かべる。それだけで皆にも善子ちゃんの状態が伝わる。

ダメだよ。口にしちゃったら受け入れなくちゃいけなくなっちゃう。

 

「死んでるの?」

「そんな、わけない、ずら」

「でも、脈は止まっているし、息もしてないんだよ」

「なんで……」

「いやぁー」

「よしこちゃぁん……うっ、うわぁん」

 

マルは信じたくなかったけど、目の前の現実に限界を迎えて善子ちゃんに抱きついて涙を流した。なんで死んじゃったの?何があったの?

みんなからも嗚咽や泣いている声が聞こえてきて、余計にこれが現実なのだと実感させられる。

鞠莉ちゃんは涙を拭うと救急車を呼ぶ。いつまでも善子ちゃんをこんなところで寝かせておくわけにもいかない。

マルも涙を拭うと、気づいた。

善子ちゃんの手にスマホが握られていることに。

 

「もしかしたら」

 

もしかしたら、スマホに善子ちゃんがこうなった原因が残っているかもしれない。誰かに襲われたのなら写真が残されているかも。

でも、ロックの解除の番号がわからない。無難に誕生日を入力してみるけど、パスワードが違うと返される。みんなもマルがしようとしていることに気付くと近づいて来る。

それから、みんなの誕生日や善子ちゃんが好きそうな数字などを入れてみたけど、全て違った。一体、どうやったらロックが開くんだろ?

 

「……もしかしたら。花丸ちゃん貸して」

「うん」

 

梨子ちゃんは呟くようにそう言うと、スマホを渡して番号を押していく。それは善子ちゃんがAqoursに正式に加わった、沼津追いかけっこをした日の日付。梨子ちゃんが決定を押すと、ロックが解除される。

ロックのパスワード、あの日にしてくれたんだ。

幾つかのアプリと今の時刻、そしてマルたち九人が映った待ち受けが表示される。その中のカメラのアプリに触れてからフォルダーを開く。

 

「何かありましたか?」

 

ダイヤさんがすがるような声でそう聞く。

 

「……ううん。あるのは普通の写真だけ」

「そんな……」

 

Aqoursの活動時の写真や普通の日常の一コマを撮った写真だけ。善子ちゃんがこうなった原因を示唆するものは一切無かった。

梨子ちゃんの手からスマホが離れて地面に落ちる。せっかくあると思った希望もついえた。もう、どうしようもないの?

 

「救急車を呼んだから、病院に行けば、もっとわかるはずよ」

「うん」

 

鞠莉ちゃんは涙をこらえて言葉を途切れさせながらそう言う。でも、原因を知ったところで善子ちゃんが戻ってくるわけじゃない。

善子ちゃんの身に何があったの?どうして、そんな穏やかな表情をしてるの?

そう思いながら善子ちゃんの身体に触れる。本来なら現場検証とかあるだろうから触らない方がいいのだろうけど、今は許してほしいずら。善子ちゃんを感じていたい……。

 

「「あっ……」」

 

善子ちゃんの首元に何かあるのに気づいて声を出したマルと、善子ちゃんのスマホを拾ってスマホの中を見ていた曜ちゃんの声が重なる。

マルは善子ちゃんの首元にあるチェーンを引っ張ると、それは黒い水晶のついたペンダントだった。それには見覚えがあり、夢で善子ちゃんが握っていてモノと一緒だった。

善子ちゃんが別のペンダントをしている、或いは別の人がこのペンダントをしているのならそこまで気にはならなかったかもしれないけど、善子ちゃんがこのペンダントをしているとただの偶然だとは思えなくなる。

もしかして、あの夢って……。

 

「曜ちゃん、どうしたの?」

「うん。ここ最近、善子ちゃんがよくスマホを見てたから、何かあるんじゃないのかなって思って見てたんだけど……」

「日記だね?……あれ?……え?」

「どうかしましたの?」

「これ……」

 

曜ちゃんと千歌ちゃんが何か話してたからそっちを見ると、なんだか難しい顔をしていた。それで、ダイヤさんにスマホを渡すとダイヤさんは画面に目を走らせる。

 

「なんですの?これは……」

「どうしたの?ダイヤ?」

 

ダイヤさんがそう呟くと鞠莉ちゃんが声をかけ、ダイヤさんは目を離して目を瞑って気持ちを落ち着ける。

そして、目を開くと何かを決意した目をしていた。

 

「全部はまだ見ていませんが、覚悟してください」

「どういうこと?」

 

ダイヤさんがそう前置きすると、スマホを見ていない私たちは首を傾げ、見た曜ちゃんと千歌ちゃんは暗い顔をしていた。

 

「途中までですが、内容が内容ですので。一つ一つが長いので掻い摘んで書かれていることを読みます……月曜日。曜が私の目の前で車に轢かれた」

「……」

「火曜日。曜の死を回避できたのに、次はルビィと花丸がバスの横転した際に頭を打ち付けて出血死した」

「どういうことずら?」

「ルビィたちそんなこと起きてないよ?」

「水曜日。二人の死を覆したのに、お見舞いに来たリリーとマリーがエレベータの落下で転落死した」

「私たちそんな目に遭ってないよ!」

「確かにエレベータはあの後落下したらしいけど……」

「木曜日。せっかく二人を死から逸らしたのに、ダイヤと果南が倉庫の整理中に崩落に巻き込まれて死んだ」

「私たち外に出てたよね?」

「金曜日。どうにか倉庫の崩落から脱したのに、落下しかけた私を助けて千歌が屋上から落ちて転落死した」

「……」

 

ダイヤさんはそこで一度話すのを止める。どういうこと?今週中にみんな死んだってこと?でも、みんな生きてるよね?それに、死を回避したって。

 

「よくわかりませんが、善子さんの日記の一部はこのようなことが書いてありました」

「どういうことなの?それに、一部って……」

「続きを読みます。土曜日。建設中のビルを横切ったら、鉄骨が降ってきて、私は死を予感した」

「今日、そんな事故が起きたなんて聞いてないよ?」

「ええ。そうですね。しかし、これでまだ日記の冒頭部です。月曜日。どういう訳か月曜日に戻ってた。曜とマリーと一緒に沼津に行ったその帰りにマリーが車に轢かれた。どういうこと?月曜日は曜が事故に遭うんじゃなかったの?」

「どういうこと?また、月曜日って。それに鞠莉が事故に遭ったって。それに、最後の部分って」

「見た限り、このような内容が延々と続いています」

 

善子ちゃんの日記の内容で、みんな困惑を隠せない。どうして、みんなが死んだことが、自分が死にかけたことが書かれてるの?

 

「そして、わたくしは死んでいませんが、木曜日に自分が死ぬ夢を見ました。ルビィと花丸さんも見ていたらしいのですが……」

「あっ、チカ達も見た……」

「私と果南もさっきそんな話をしたわ」

 

全員、最初に日記に書かれた自分の死んだらしい日の朝に見たらしい。

やっぱり、さっきマルが思ったことが起きたってことなの?

 

「……タイムリープ」

 

マルは呟くようにその言葉を口にした。もし仮に、そこに書かれていることが真実なのだとしたら、あの夢と合わせて浮かぶのがそれだけ。あの夢が終わる直前に善子ちゃんが願ったことで過去に飛んでいるのなら、一応つじつまは合う。過去に飛んで皆の死を無かったことにしていた。でも、タイムリープなんて本の世界、フィクションの世界での話であって、現実ではあり得ない。

 

「現実的とは言えませんが、そう考えるとこの日記にもつじつまが合います。所々、前の部分のことがほのめかされている場所がありますわ」

「でも、それだとよっちゃんがここで倒れている理由が分からないよ!」

 

梨子ちゃんが大声でそう言うと、辺りがシーンと静まり返る。確かに、善子ちゃんがここに倒れている理由が分からない。タイムリープすることができるのなら、ここに倒れる前に過去に飛んでいるはず。

 

「梨子さん、落ち着いてください」

「落ち着いてなんてできないよ!」

「梨子、動揺するのはわかるけど、少しは落ち着いて。私たちだって同じ気持ちだから」

「……うん。そうだね」

 

二人に言われて、梨子ちゃんが落ち着きを取り戻す。でも、取り乱すのもわかる。

目の前に起きている善子ちゃんの死。私たちが死んだことが書かれている日記。タイムリープをしているかもしれないこと。

わからないことが多すぎる。

どうして善子ちゃんは一人で抱え込んだの?相談してくれなかったの?どうして善子ちゃんはタイムリープできるの?どうして善子ちゃんは今回タイムリープしなかったの?それともできなかったの?

 

「マルたちはどうすればいいんだろ?」

「それは……」

 

これからどうすればいいのかわからず言葉にするけど、誰もマルの言葉に対する答えはわからない。

善子ちゃんがいなくなった今、Aqoursはこれからどうなるんだろ?

そんな気持ちでダイヤさんが持っている善子ちゃんのスマホの日記を読む。

善子ちゃんがどうして日記を付けたのか。これからどうすればいいのか分かる気がしたから。

 

いくら見ても、誰かが死んだ日のことが書かれていた。最初から二、三週分は内容が薄かったけど、それ以降はびっしり書かれていた。その日の天気、朝の星座占いの結果、善子ちゃんが家を出た時間、朝練でやった練習内容、授業中に不審な点が無かったか、放課後の練習内容、起こった事故の内容などなど。たぶん、ノートで書いてたら何冊、いや何十冊にもなりかねない量だった。本をよく読んでいるおかげで読む速度は速くて、重要な場所だけ見て行く。

その結果……

 

「こんなに繰り返してたら、心が壊れちゃうよ……」

 

すごく悲しい気持ちになった。こんなに人の死を見ていたら、おかしくなっちゃう。きっと、全員が生きる道を探し続けたんだと思う。

それと、どうして相談してくれなかったのかもわかった。一度善子ちゃんは梨子ちゃんに聞かれて話していたらしい。どんなことを話したのかは書いてなかったけど。でも、その後に梨子ちゃんが怪我をしたから、話したらダメだったのだと考えたみたい。確かにそれなら話さなかった。ううん、話せなかった事にも納得がいく。

それから何周も繰り返し、今に至っていること。でも、どうして善子ちゃんが死んじゃったのかについてはわからなかった。

 

「千歌ちゃん?」

 

すると、千歌ちゃんがおぼつかない足取りでフラフラしながら善子ちゃんに近づき、曜ちゃんが声をかける。

千歌ちゃんは善子ちゃんの前でしゃがむと首にかかっているペンダントに触れる。

 

「これで過去に飛べないかな?」

「千歌ちゃん。それは……」

 

千歌ちゃんから出たその言葉は、きっと藁にも縋る気持ちの末に出た僅かな希望だと思う。善子ちゃんが今まで何十、何百と繰り返してきたのなら可能性はある。

 

「確か……我願う。故に我乞う。だよね?」

「うん。その後は誰かの名前を言ってた」

「じゃぁ、やってみるね。我願う。故に我乞う。善子ちゃんの居る日常を!」

 

千歌ちゃんの言った可能性に全員かけて、千歌ちゃんが口にする。でも、あの夢みたいに水晶が輝くことは無かった。

 

「どうして!?なんで、過去に飛べないの?やっぱり、あれは夢なの?あの日記はなんなの!?それとも、千歌じゃできないの!?」

 

何も起きないことで、千歌ちゃんは叫ぶ。マルたちも何が何やらで動けない。そんな中、曜ちゃんが千歌ちゃんのそばに寄って、後ろから抱きしめる。

 

「千歌ちゃん。落ち着いて」

「……うん。ありがとう、曜ちゃん」

 

曜ちゃんのおかげで千歌ちゃんは落ち着く。でも、何も解決はしていない。

すると、梨子ちゃんも千歌ちゃんのそばに寄る。

 

「千歌ちゃん。諦めないんでしょ?まだ何かが足りないんだよ」

「うん。私の見た夢だとね。最初は水晶が輝いてなかった。でも、もう一回やったら水晶が輝いてた」

「そうなの?」

「うん。その時はわからなかったけど、今なら、一回目と二回目で何が違ったのか分かる気がする。きっと、気持ちの問題だよ」

「気持ちの問題?」

「たぶん、会いたい気持ち。取り戻したいって願い。そういうものだと思う」

「でも、チカは願ったよ?善子ちゃんともう一回会いたいって」

「うん。だからね。次はみんなで願お?」

「みんなで?」

 

マルは立ち上がって千歌ちゃんのそばに寄る。みんなも一緒で千歌ちゃんのそばに寄っていた。

 

「善子ちゃんにまた会いたいのは千歌だけじゃないよ」

「まだ分からないことばかりで、どうしたらいいのかわからないけど」

「でも、越えられない壁はありませんわ」

「うゅ。壁は乗り越えられるよ」

「或いは壊しちゃいましょ?」

「マルたちなら絶対になんとかなるよ」

「だから……もう一回願お?」

「……うん。そうだね。みんなでなら!」

 

善子ちゃんの水晶の上で皆の手を重ねる。善子ちゃんともう一度会うために。

 

「どうせなら、私たちらしく行きましょ?」

「だね。我なんて私たちには似合わないよ」

「うん。じゃぁ、行くよ」

「うん」

 

「「「「「「「「私たちは願う。私たちは乞う。善子ちゃんの居る日常を!」」」」」」」」

 

そして、水晶はマルたちの願いに呼応して眩い輝きを放ち、マルたちはその輝きに包まれた。


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